アナザーワールドSRS・リプレイ・ワンアンドアナザー
■ 番外編『友情編』 4ページ ■
2005年(仮想リプレイ公開2020年3月21日)




 ●クライマックスフェイズ

P-27/では、クライマックスフェイズのAF判定を始めます。

『AF判定:機関へ行く』
 ・使用能力値:【体力】【幸運】
 ・難易度:15

※「機関に行き、航と会って話をするクライマックスフェイズを作る」演出に成功すること。
 成功した場合、クライマックス戦闘へ移行できる。


 郊外に設置された研究所。
 全方位に囲いがされており、一般住民はまず近寄ることのない施設には当然のように警備員が配置されている。
 警備員のいる区域を突破したところで、指定のカードキーが無ければ入出もできないだろう。
 しかしサクラの手にはカードキーがあった。……まずは人目につかないように動かなければ。

P-27/≪空間知識≫で施設の全体を把握します。どこに警備員が配置され、どこに研究員が行き来しているかを完全に察知します。
鉄/夜でも研究員は仕事してるのか……。
サクラ/日本人は勤勉だからな。労働時間の制限なんてあってないようなものだ。
マリアベル/航もいつも目の下にクマを作っているしね〜(笑)
P-27/先生のいる所を……≪未来視≫で、「数分後にこの区画に現れる」ことを察知します。まずはそちらまで向かいましょう。≪ターニングセット≫でワープします。……全員を≪一心同体≫、自分の身体と同じものだと認識させて、全員で瞬間移動。
鉄/そんなことが簡単にできたら警備員がいる意味が無いな。
P-27/もちろん異能研究の警備ですから、このようなワープを察知できるシステムだと思います。ですがそれでも穴をついて、完璧な隠密状態で侵入するのです。クリティカルのワープを可能にした≪未来の吐息≫です。……これで『現在難易度:7』になりましたので、【幸運】判定をします。(ころころ)達成値13で成功。

 P-27の瞬間移動のもと、警備の穴を抜けていく。ワープしてきた先は、『研究棟 第七区画』という場所だった。
 今のところ誰か居る様子は無い。そのうち航が来るという≪未来視≫のおかげで先回りして来たからだ。

 航の研究室。白を基調にした部屋に、パソコンや書類やよく判らない物体がいくつも並んでいる。
 他に目立った物は何かあるか。
 テーブル、椅子、棚、仮眠ベッド、冷蔵庫、それと……?

GM/スキルウェポンがいくつか置いてある。
P-27/スキルウェポンが?
GM/サクラとマリアベルなら分かる。エルスはスキルウェポン開発をしていて、その技術を機関にも提供していた。長くここで研究員をしている航の部屋に≪凶々しき武器≫や≪血と骨の武器≫があるということは、そういった武器開発を航もしていたのだなと予想できる。
サクラ/[処刑人]が研究職っぽいのは納得だから、その2つのスキルウェポンがあるのも納得。
マリアベル/私もサクラも、みんな[処刑人]だしね。
GM/作りたての新作武器があったり、新薬があったりする研究室だけど特に監視カメラや警報装置などは無いようだ。無事に航に会える手筈を整えてくれたのでこのままシーンをしていきたい……が。ここで少し『予定に無かったシーン』をしたい。
鉄/予定に無かったシーン?
GM/前半戦のセッションを終えて、追加したいと思ったシーンだ。航との会話シーンはこの後にしっかりやるのでご安心を。……【幸運】判定で難易度11に成功したPCのみが登場できる。全員判定をしてくれ。
鉄/(ころころ)成功。
P-27&マリアベル&サクラ/(ころころ)失敗。
GM/おお……まさかの鉄だけのシーンか。ではP-27の≪未来視≫によると「この研究室で待っていれば航が一人で訪れるだろう、少し待とう」となったとき、他の3人を残して鉄だけが別の部屋に行くことができる。
サクラ/凄く不注意だな(笑)
GM/うん、GMもそう思う(笑) でも3人から遠退いてくれると突発的イベントの都合が良いので、協力してほしい。【HP】が減るような危険なシーンはしないから。
鉄/……あっちから警備員が来ないか、少し様子を見てくる。そう言って、警戒しながら廊下を出よう。
P-27/マスター、お気をつけて。いざとなったらお呼びください、≪ターニングセット≫で駆けつけましょう。
鉄/そんなに気にするな。……何か気になることがあって、外へ向かう。
GM/『研究棟 第七区画』……ある一室に航が来ると読んだPC達は待機していたが、その部屋以外にもいくつか研究室が並んでいる。夜間ということもあり、人の気配は無い気がする……が、ある場所から声が聞こえた。
鉄/……人の気配が無いとか言っておきながら、居るじゃねえか。
GM/『資材倉庫』からだ。夜間、ライトも点けられてない倉庫から声がするのはおかしくないかと思う。少しだけ中の様子を伺うことならできるだろう。
鉄/……気配を殺しながら、中を見る。
GM/名美とよく似た男児がいる。資材の段ボールと段ボールに紛れて隠れていた。そういや名美は弟がいると言っていたぞ。
鉄/こいつも逃げ出したのか!
マリアベル/よくもまあ名美ちゃんといい、逃げ出せるね……?(笑)
GM/これは警備が緩いのではなく、『彼女達一家の魔力が機関の警備結界を上回っているため一時的に脱出できてしまう』と思える。普通の一般人なら絶対に抜けられない包囲網を、人外のP-27やエルフ族の大人達はやってしまう。抑えつけておきたい側としては脅威な能力だ。
サクラ/あー……「一時的になら誰にも負けない爆発力がある」とか「クリティカルが出やすい」とかかな?(笑)
GM/かと言って、一時的に穴から抜け出して脱出したところで継続的な力も知識もない子供が逃げ切ることはできないのだが。
鉄/…………。そーっと近づいて、声を掛ける。
GM/そうすると子供は驚いて……。
鉄/お前の姉の名美から「家族を助けてくれ」と頼まれきたんだ。名美は無事だ。お前を助けにきた。声を出して暴れるな、また捕まるぞ! ……用件を明確に伝えて、理解させる。
GM/凄く巧いやり方だが……それをしっかり子供が受けとめられるか判定してみようか?(笑) フレーバー判定なので、【理知】で難易度8で。
鉄/(ころころ)出目が良い。達成値13で成功。
GM/名美の弟だと思われる子供は、助けに来てくれた鉄を信頼して近づく。だがこの子供がイベントの主役ではない。……音も無く、鉄に近寄る第三者。
鉄/……誰も居ないんじゃなかったのかよ。
GM/気配は無い気がする、だけだから。目を向けると、そこには久方ぶりに会うGP-01の姿。
鉄/…………。お前……。
GM/「そのエルフを渡せ」 逃亡した子供を探していたらしいGP-01は、再会に掛ける言葉も一切無く、鉄へ率直に言い放つ。
鉄/久々だな、GP-01。まずは挨拶ぐらいさせろ。
GM/「渡してください。その後に侵入者に然るべき対処をします」 表情は変わらず、変わらず同じ厳しい声を向ける。
鉄/子供を背で庇う。お前がここで警備員をしている理由を聞かせてもらいたいところだが、まずは……生きていてくれて何よりだ、嬉しいぞ。
GM/その言葉にピクリと反応する。「……何をしに来た」 子供を渡さないので、逃げた子供を確保したいGP-01はその手に武器の刀を握り締める。
鉄/お前に説明したら見逃してくれるのならいくらでも話してやる。この子を、助けに来たんだ。
GM/やはりその言葉には反応する。
サクラ/……何か、引っかかりでもあるのか?
マリアベル/すぐに襲い掛かってこないし、GMも「【HP】が減るイベントじゃない」って明言してるし……しっかり話せばボーナスをくれるんじゃない? 例えば、「他の家族が居るところを教えてくれる」とか手助けしてくれるとか……。
鉄/そうだと信じてキャラロールをしよう。……こいつは数日前まで、普通に人間として生きてきた子供だ。それが誘拐された。俺の予想だと、こいつと……その家族は兵器にされる。サクラが見た実験が、こいつらを犠牲にしている実験だったんだ。
GM/GP-01は黙って聞いている。
P-27/……脈あり、ですかね?
鉄/俺はこいつの姉を偶然助けた。姉は家族を心配して「助けて」と言ってきた。だから助けにきた。家族を救出することが目的だ。
GM/GP-01は黙って聞いていた。そして、「……捕らわれた奴を、機関から連れ出そうと?」と鉄に尋ねる。
鉄/そうだ。
GM/「かつてホムンクルスにしたように?」
鉄/……そうだ。
GM/「どうして」
鉄/助けたいから助ける。それだけだ。助けてほしそうにしてる奴を放っておく性分じゃないから助けにきた。……正直に答える。
GM/「…………」
鉄/…………。襲い掛かってこないのか?
GM/武器は持っているが、戦闘はしない。武器を捨てようもしないけど。
鉄/……戦闘を仕掛けてこないということは、そういうことなんだな。ほっとする。……ありがとう。俺はこいつらを助けてすぐに出ていく。それだけだ。お前をどうこうしたい訳じゃない。
GM/その言葉に、反応、する。
鉄/……どうした?
GM/…………。

 ……それから彼は、何も言わなくなった。
 俯き、言葉を発しない。武器を握り締めたままだが、鉄やエルフの子供に向けてくることはない。
 何も教えてはくれないが、俺達を助けてくれるということか――そう察した鉄は、子供を抱き上げるなりその場から駆け出した。

GM/……………………。
鉄/GM? どうした? 凄く迷っている顔をしてるけど……。
GM/えーと……ごめん、そういうキャラロールになったってことで。
マァサ/(←セッションを見学していたサブGM)あ〜、あああ〜。シナリオの内容が分かるからこの状況を説明したいけど、言えない〜。
ユーキ/(←セッションを見学していたサブGM)……突然だけど、ちょっとしたNPCロールをしていいかな?
GM/そうか、NPC同士で会話で……この「どうしたらいいんだ!?」を解消することにしよう……!
マリアベル/あっ、乱入者だ(笑) どうぞ〜。

 鉄と子供が去って行った後の倉庫に、GP-01は一人取り残される。
 一人で立ち尽くしていた、にも関わらず、その影はいつの間にか二つ。
 彼の隣に、女が寄り添っていた。

 「ピンチのときに駆けつけてくれるヒーローは、あのような姿をしているのね。
 助けてを求めている人のもとに現れるヒーローは、あのような人のことを言うのね。
 とても素敵ね。格好良いわね。……貴方には関係無い話だけど!」

 金髪の妖艶な女性が、楽しそうに楽しそうに笑いながら、彼の身体を抱き寄せていた。

サクラ/あ……オープニングの、金髪の女。
マリアベル/いたなぁ。ここで出てくる人だったの……で、誰?

 鉄は、名美の弟を連れて、マリアベル達が息を潜めている研究室に戻って来る。
 弟の名前は、名央(なお)。名美とは1つ年下の4歳。
 牢屋に捕らわれていた家族が隙を見計らって逃がしてくれたようだが、それきりで、どうしたらいいか分からず倉庫に隠れていたという。
 牢屋がある場所からはさほど離れていないということから、近くに家族が捕らわれていることが分かる。
 そして、GP-01が子供を探しつつも、他に捜索している警備員がいないことからまだ施設は騒動になっていないことも分かる。

GM/そろそろ航がやって来るシーンをしよう。……研究室の扉が開く。入って来るのは、航ただ一人。周囲に他の人の影は無い。
P-27/本当に来てくれましたね。
GM/GMの指定は「航に会って話をする」でそれに成功してくれたから。(航になって)「……そこに居るのは……鉄?」
鉄/よう。
GM/「サクラにマリー? それにP-27……」
マリアベル/あ、名央くんは隠れていることにします。航から見えないところでかくれんぼしてます!
GM/夜間の研究室に現れてビックリする航。だが大騒ぎするでもなく、「……どうしたんだい? 勝手に入ってこられる施設ではない筈だけど」と尋ねます。
サクラ/運が良くてな。勝手に入ってこられたのだよ。
GM/「勝手に入ってしまったら怒られるよ」
サクラ/私達以上に怒られることをたくさんお前達はしてるんじゃないのか?
マリアベル/まずは色々と誤魔化されそうだから、先に私から話をするわ。……キャシーが居なくなったの、貴方は知ってる? 私は貴方がキャシーを消したんじゃないかと考えているんだけど。
GM/「随分……唐突だね。どうして僕がキャシーを消したと?」
マリアベル/キャシーが消えたことに関しては驚きは無い? さっさと話した方がいいだろうから言うわ。機関がしている『人外狩り』、エルフの里を襲ったこと、数日前に名美ちゃんのような家族を誘拐したこと、私達は知っているわ。キャシーはそのことを私達より先に知っていた。貴方が口封じをしたんじゃないの?
GM/「…………」 ポリポリと頭を掻く。
マリアベル/もし話せるなら、キャシーは今どうしているか教えてほしい。生きているのか、死んでいるのか。事情を知らないというならハッキリそう言って。
GM/「僕が全部知っていて、とぼけて話をうやむやにする……とは考えないのかな?」
鉄/そういう手段もありえるだろう。でも、とりあえずは航を友人として信用して話したいんだ。俺達にどこまで話せるか、暴露できるか、後悔はあるのか何も感じてないのか。もし何にも関わってなくて無関係なら……。
GM/「無関係なら?」
鉄/助けてやる。

 航に対峙した鉄達は、率直過ぎる言葉を投げかける。
 機関が、航が人外狩りというエルフへの虐殺行為をしていること……それはキャシーの涙ながらの記録から明らかになっている。
 悪逆非道が過去のものではなく、つい数日前も行なわれていたこと……それは隠れている名央がここに居ることから明らかになっている。
 ただ、「キャシーを消したのは航」ということまでは、予想でしかない。
 キャシーは友である航を悪い噂から助けてやろうと真実を知ったが、それが自分にはできないと判断し、逃げた。
 同じように航も友であるキャシーに対して何か善意を抱いて逃げているというのなら。
 ……まだ決別しないで済む。その可能性を祈りながら、追及する。

GM/…………。君達がそんなに優しい人達だとは思わなかったよ。
P-27/それは、先生の台詞ですか?
GM/いやGMの感想。……でも、航の心の台詞でもあるな。航は話すよ。全部。

 「キャシーをみんなの前から消したのは僕だよ」
 暫くの沈黙の中、航は口を開く。
 判りやすく批難や罵詈雑言を予想していた。だが鉄達はそうはしなかった。
 だからいつものように、穏やかに……共に語らっていたときのような調子で、全てを話し始める。言わなくてもいいようなことまで、全部包み隠さず。

 「機関の狩り……ギガースの核にする人外種族の狩り、その様子を何者かが目撃していた者の痕跡があって、誰なのか調査をすることになったのは作戦責任者の僕。
 邪魔者がいないように警戒してたのにね。まさか身内に全て読まれていたとは。……友人だからって信頼しすぎて能力を全部明かしていたのも、考えものだな。
 まあ、キャシーが見ていたと気付いたのも僕一人なんだけど。
 はぁ……それで、キャシーは記憶にロックを掛けていたから僕の魔術で解いてやって、そしたらあっさり認めてさ。
 『ごめんなさい』ってまずは謝ってきて。
 『航に黙って追跡したのは良くないことだと思ったけど』って自らの悪行を認めてさ……。
 『でも航、自首しよう! 航はいっぱい殺害を命じた、やってきたことは取り戻せない、でも、このことを世間にバラしてこれ以上の被害を出すのを止めれば……航の罪も軽くなるから!』とか言ってきて……」

マリアベル/……言ってきて、それで?
GM/「『罪って何だ?』と思った」

 謝罪するのはキャシーの方なのに、どうしてキャシーは責めてくるのか。
 キャシーは分かっていない。知識がある物があの新兵器を見たらどう思うか。
 ――素晴らしい発明だった。とんでもない傑作だった。
 ――見たら誰もが絶賛する『魔道具の新世界』が広がっていた。それほど素晴らしい物が出来たと、皆が感激するほどの超技術。
 それにようやく到達したのは、他ならぬ自分。
 実験の中で悲しい事故もあった。途轍もない苦労もした。大勢の犠牲を払って、上層部にも認められた逸品。
 ……かつては出来損ない、失敗作のホムンクルスしか開発できなかった。
 それを乗り越えて、ようやく、誰もが拍手するほどの領域まで辿り着いた。

 それのどこが罪なんだ。
 皆が感動して凄い凄いと言っているのに、なんでやめなきゃいけないんだ、なんで罪だと言うんだ。
 ……キャシーとは、もう話が通じない。僕が何を言っても彼女は、「航、正気に戻って!」と言う。……彼女は狂気に陥ってしまったのか。

鉄/……それで、いさかいを起こして……どうした。
GM/「ふぅ。……友人でも、喧嘩はするよね。鉄とも喧嘩したし、大人げなくサクラとも時にはマリーともしたことはある。キャシーとしたっておかしくない。……でも、『カッとなったから殺した』なんてことはできなかった」
マリアベル/できなかった、のね……殺せなかったのね。
GM/「うん。サスペンスドラマだと喧嘩の末に殺しちゃうシーンがあるし。けど、僕は大切な友達を殺すなんてことはできない。だから……殺してないよ。ちょっと余計なことをしないように、表に出られないようにしていた」
サクラ/監禁しているということでいいのか。
GM/「それとは違うかな。……君達は、キャシーの居場所を聞いたら何もせずに帰ってくれるかな?」
鉄/……数日前。志塚家という一家が襲われて、車に乗せられて誘拐された。そいつらがこの施設に居るだろう。この部屋に近くにある筈だ。そいつらを解放しろ。
GM/「理由は」
鉄/その家族の一人に「助けてほしい」と頼まれたからだ。
GM/「じゃあ……君達は、その家族の居場所を聞いたら何もせずに帰ってくれるかな?」
サクラ/また同じことを聞くんだな。
鉄/……キャシーの居場所、家族の居場所まで教えてくれるのなら、何もせずに帰ってやっていい。
GM/「なら教えるよ。キャシーもエルフの一家も、そこにいる」
P-27/どこですか。
GM/「そこに並んでいるよ」

 航が指差した先。そこにあったのは、霊力を纏った特殊な武器。≪凶々しき武器≫と≪血と骨の武器≫だった。

鉄/……航。なんだよ、その冗談は。
GM/「その≪血と骨の武器≫がキャシーだよ」
マリアベル/……どんな武器。
GM/何かの骨を重ねて作った鋭利な槍のような物体。「で、こっちの杖っぽい物がエルフの一家。母親、祖父母、姉、4人分の魔力を吸い取って込めたから、通常の4倍の魔力を……」
サクラ/ははは。そういう球で投げてきたか。……航、お前は数分前に「殺せなかった」と言わなかったか?
GM/言った。
サクラ/それでも、これがキャシーで、これが名美の一家だと?
GM/「この武器にはキャシーの力がこもってる。キャシーがいるからこその姿だ。キャシーにはもう話をしてほしくなかったし、誰にも喋ってほしくないことを知っていたから世の中から消えてもらいたかった。でも殺せなかった。だから生まれ変わらせた。この姿で、役に立ってもらおうと」
マリアベル/……ねえ。それは、「殺した」と何が違うの……?
GM/「この骨はキャシーだよ。この部分もキャシーだ。そして纏ってる魔力もキャシーだ。だから、全部キャシーじゃないか。これはキャシーだ。キャシーは死んでない」

 「あああああああああ!?!?!?」
 子供の悲鳴が上がる。……隠れていた子供が、全ての話を聞き、耐えきれなくなって泣き始めた。
 たった4歳の名央に全てが理解できたか分からない。けれど人より倍の魔力を帯びるエルフは、言動が幼くても会話の意味を理解できてしまったのかもしれない。
 杖に向かって名央は叫んでいる。お母さん、おばあちゃんおばあちゃん、お姉ちゃんと。
 彼しか分からない波動があったのか。その杖が一家の成れの果てだと思い知らせた。

GM/航は叫び声を上げている子供を見る。

 「……あれ? 『それ』は檻に入れていた筈の。魔力があまりに小さいから使い物にならなかったやつ。処分しておけって言ったのに、なんでこの部屋に?」
 その目は、幼い子供を見ているものではない。
 動物を見るような? いや、動物相手でもない。……機械のパーツを見るような、使えないからと捨てたゴミを見るかのような、何の悲哀も感じさせない目だった。
 子供へスッと近づき、腕を上げる。
 魔力の鎖を出現させ、その鎖で子供の首を締め上げて叫び声を奪ってから捩じ切って黙らせ……。

鉄/航ッ! 止める! ……殺させない!

 召喚された鎖に向けて、鉄は剣で両断した。
 名生を狙って鎖は粉々に消え、首は守られる。
 泣き叫ぶ子の前に立った鉄は、武器を……驚いて目を見開く航へと向けた。

GM/「鉄? キャシーと一家の居場所を教えたら何もしないで帰ってくれると言っただろ?」
鉄/本気で言っているのか。ここで殺しかけておいて……キャシーを殺しておいて、それで終わりにできると思ってるのか!
GM/「キャシーはそこにいる」
鉄/その姿にされたキャシーは生きてない! お前がそれを造ったというなら、お前が殺したんだ! ……目の前で子供を殺そうとするお前を、許しておけるものか。
GM/「子供? そんな……そいつ、人間じゃないよ?」
鉄/人間じゃないから何だ? 人と共に生きていた人だぞ!
GM/「何を言ってるんだ? 人間じゃないよ? 君がずっと狩っていた、僕と一緒に狩りにいっていた人外と同じものだよ? ……どうしたんだ鉄!? なんで、なんで僕に武器を向けるんだ!?」
マリアベル/……本気で混乱してるのね、航。
サクラ/お前が……そういう危うい男であると予想はしていたが、本気でそう思っていた奴だったとはな。……そしてこの機関に居る連中は、総じて航と同じものばかりのようだ。平然と武器が安置されているぐらいだし、そういうことなんだろう。

 「鉄……マリー、サクラ……待ってくれ。落ち着いてくれ、武器を置いてくれ。
 君達はどうしたんだ? まさか……そのエルフに妙な幻覚を見せられているんじゃないのか!?
 キャシーも僕の研究を見て変だ変だと言った、変なのはキャシーだったのに、理解してくれなくて僕を拒んで……。

 ……落ち着いて。僕の話を聞いてくれ。僕の力で、正気に戻してあげるから。
 大切な友を、元通りにしてあげよう。……もう知ってしまった以上、外にはみんなを出せないけど……。
 キャシーといっしょに、生まれ変わっていっしょに居よう」

GM/クライマックス戦闘を始める。……部屋に、入って来る影がある。
サクラ/警備員か!?
GM/まだ騒ぎになってないせいか、警備員がドタドタと入ってくることはない。だからPC達がいる研究室に入室してくるのは一人。……GP-01。
鉄/……お前……見逃してくれるんじゃないのか。
GM/さっきのシーンでは襲ってこなかっただけだ。……無言で入ってきた彼は、鉄達を見渡す。

 「手伝ってくれ! 鉄達は錯乱している! おそらくそこのエルフが原因だ……だから全員を無力化するぞ!」
 航がGP-01に命じている。頷くこともしない彼は、静かに武器を握り締め……殺気は無いが敵意に満ちた目を鉄達に向けた。

GM/……戦闘を始める前に、弁解させてほしい。当初のシナリオの進行では、ここは「航とPC達の対決」だけで、GP-01が敵として参戦することはなかった。GP-01は離反する予定だったんだ。だけどサブGMと相談して、やはりGP-01も敵として配置することにした。
P-27/シナリオ分岐があったんですね? 了解です。敵は2体で戦いましょう。

【戦闘マップ】
 エンゲージ1:鉄、P-27、マリアベル、サクラ
  (↑10メートル離れている↓)
 エンゲージ2:GP-01
  (↑5メートル離れている↓)
 エンゲージ3:航

【行動値】
 GP-01:24
 鉄:18
 航:17
 サクラ:15
 P-27:13
 マリアベル:13


GM/第1ラウンド、セットアッププロセス。GP-01が≪聖剣の加護:魂装支援≫+≪機能維持≫を使用。このシーンの間、クリティカル値を−2し、ダイスロール+2する。
鉄/クリティカル特化系か。
GM/航はセットアッププロセスで≪真の遣い手≫を使用。自身の全判定クリティカル値を8にする。
サクラ/げっ、これ……なかなか戦闘が終わらなくなるやつだぞ!? サクラはセットアッププロセスで≪本能の拐引≫を使用! 全員ダメージアップだ。
P-27/≪空間知識≫で味方を守る準備をします。
マリアベル/初っ端から全力を出しましょう。鉄に≪大地の使徒≫を使用してダメージアップ。イニシアチブプロセスになったら≪血のいざない≫でモブを作成するわ!
GM/では初手はGP-01から。マイナーアクションで移動。≪合成:巨大武器+血と骨の武器≫で、マリアベルの作ったモブに攻撃。
マリアベル/えっ。壁役のそっちをまず攻撃?
GM/(ころころ)……出目が5と5。クリティカル値が10のため、命中クリティカル。
P-27/スタートから飛ばしてきますね。
マリアベル/(ころころ)クリティカルは出ない。ホムンクルスが命中します。
GM/(ころころ)ダメージはもちろん5点以上入ったのでモブは戦闘不能。このタイミングで≪修羅≫を使用。即座に再行動する。
鉄/……しまった!?
GM/マイナーとメジャーが復活したため、エンゲージ1にいるPC全員に≪EP:範囲攻撃≫+≪惨劇≫+≪戦場の華≫+≪合成:巨大武器+血と骨の武器≫+≪征圧術≫で攻撃。……いや、その前にイニシアチブプロセスでGP-01も≪血のいざない≫を使用。同じエンゲージ1にモブを設置。
P-27/彼もモブ使いですか。
GM/PCと、作ったモブを含めた全員に範囲攻撃。
マリアベル/あっ……私はこのタイミングで≪籠抜け≫を使用! エンゲージを離脱する!
GM/逃げたか。では3人に(ころころ)出目が4と6! 命中クリティカル!
マリアベル/ええええ!?
P-27/全員クリティカル回避しないと、避けられません!
鉄/……≪英雄の宣言≫を使用! ダメージロール直後のタイミング特技だが、命中対象を俺1体にすることを宣言しておく!
GM/……PC全員を庇うで、いいか?
マリアベル/え、うん……。
鉄/……モブも庇う! モブを殺されたら、また≪修羅≫が発動する! 無限攻撃は厄介だ!
サクラ/げっ!? そういう手もあるのか……!
GM/それでもいい、ダメージロール。(ころころ)物理ダメージ70点。
マリアベル/≪大地の守護者≫でそのダメージを0に!
GM/ノーダメージになった。……次のターンをどうぞ。
鉄/強いな、お前……! あれからこんなに強くなったのか!
GM/彼は、何も喋らない。……武器の刀を構え直し、鉄の攻撃を待つ。
鉄/同じエンゲージに来たならありがたい! GP-01に≪シヴァ≫+≪軍神の知恵≫+≪両手武器≫+≪インドラ≫で攻撃!(ころころ)命中は、17……。
GM/≪恐怖の友≫を使用でクリティカル化。このシーンにはサクラ、マリアベル、GP-01で[処刑人]が3人いるため、ダイスロールしないで回避をクリティカルにする。
鉄/なにっ!?
GM/マリアベルとサクラがキャラメするときに「[処刑人]がPCで2人いる構成なら、3人目出たとき文句を言うなよ〜」とGMは言ったぞ(笑) 容赦なく鉄の攻撃をクリティカルで避ける。
鉄/≪軍神の知恵≫と≪大地の使徒≫ができなかったのはキツイな……。
GM/回避判定成功時に≪カウンター≫発動。攻撃してきた鉄に対してGP-01が攻撃を行なう。
鉄/待て待て!?
GM/マイナーとメジャーの宣言はできないが、さっき宣言した「ラウンド間〜」という効果は残っている。まずは命中判定だ。(ころころ)……クリティカルは出ない。命中22。
鉄/クリティカルでなくても回避22は早々出ないぞ……。(ころころ)おっ、回避20!
サクラ/命中達成値に≪異端審問≫を使用! 命中20に減少させて、鉄に同値回避させる!
鉄/助かった!
GM/「チッ」と舌打ちをして、鉄から距離を保つ。
鉄/……さらに強くなった、というレベルじゃねえな……生まれ変わったみたいじゃないか。
GM/後ろから航が言う。「鉄が言ったんだ。なんとしてでもそいつを生かせって。だから僕は、生かしたよ」
鉄/……言葉通りだけじゃなく、前の体力だけがある戦士じゃない別人に生まれ変わらせたのかよ。
GM/「凄く強くなって、とてもじゃないが簡単に死なない戦士になったよ」 自慢げに航は言う。そんな航は、≪革命の旗≫+≪神霊の一撃≫+≪合成:思念の刃+蒼の衝撃≫でエンゲージ1にいるPC全員に攻撃だ。(ころころ)む、クリティカルが出なかった。命中21。
鉄/(ころころ)回避成功!
一同/(ころころ)回避失敗。
鉄/……鉄だけが当たった。でも≪神霊の一撃≫が乗った攻撃を当てる訳にはいかない。≪英雄の宣言≫を使用する!
GM/そんなにどんどん使っていいかな。鉄1体にダメージロールだ。(ころころ)物理ダメージ85点だ。
鉄/なんだそのダメージは。しかも物理なのか。
P-27/……マスター。そのまま倒れてください。もう敵のターンが終わりましたので、僕のターンになったら≪リバース≫します。
GM/あ、なるほど。他にコストを使わないやり方だな。……霊力で編んだ鎖を部屋中に巻き付かせて、全員の首や締めたり腕を縛りつけたりするが。
鉄/俺が全部斬り落とす。……そのときに、鎖に叩きつけられる! 【HP】0で、戦闘不能だ!

 「手加減はするよ、鉄ッ!」
 そう航は叫ぶが、鎖に巻かれて宙を浮かされた鉄は勢い良く壁に叩きつけられ、意識を手放した。

サクラ/……こんな至近に居たらまた被害に遭う! 私は距離を離すぞ! エンゲージ離脱をする!
GM/GP-01と【行動値】対決をするぞ。こっちは【行動値】24で2D6+24で算出だ。
サクラ/……私の【行動値】は15。勝てる気がしない。ならここで攻撃する! ……航を狙う!
GM/今回の戦闘は2体とも倒さないと終わらないが、それでも航を狙う?
サクラ/GP-01に当たる気がしない。それなら同じ後衛職の航の方が目があ……って、私は至近の≪魔法剣≫使いだった! しまったー!
マリアベル/魔王戦で使ってたのに、忘れたの?(笑)
サクラ/最近偉くなってずっと内職してたから、戦闘久々なんだ!(笑) 仕方ない……≪タナトスの足枷≫+≪闇の勇姿≫+≪魔法剣≫で、転倒付きの装甲無視攻撃!(ころころ)【MP】を4点消費して、命中22!
GM/(ころころ)回避17で命中。
サクラ/あ、当たった……!(ころころ)ダメージロールは素通し22点……出目が良くない!
GM/だが防御貫通は痛い。一気にこそげた。……クリティカル特化ということは、他のパラメータは総じて低いということだ。
P-27/当たれば減りは早いのですね。≪興奮剤≫で(ころころ)全員の【HP】を6点回復しつつ、僕はマスターを≪リバース≫で回復します。【HP】1点で復活してください。
マリアベル/≪鏡像≫を使って≪大地の使徒≫から未行動になって、PC全員に≪生命の叫び≫で【HP】を回復するわ。(ころころ)14点回復して。
鉄/……まだいける。
GM/……イニシアチブプロセスに≪ハヤテの爪先≫を使用。GP-01が未行動化する。
鉄/このタイミングで!?
サクラ/さっきまでしなかったのに!?
GM/≪リバース≫他、回復特技で【MP】を消耗した後に使うつもりだった。……というか、ちょっと使用をGMが忘れてた(笑) なのでもう一度全体攻撃をする。(ころころ)出目が10! 命中クリティカル!
サクラ/また全員クリティカル回避しなくちゃ避けられない!(一同ころころ)無理だ!
鉄/……最後の≪英雄の宣言≫を、使用……。
P-27/マスターが庇ったとしても、もう助けられませんよ!?
鉄/だからって4人全員倒れる訳にもいかないだろ! 俺だけにダメージを寄越せ!
GM/無言で、刀を振るう。(ころころ)……ダメージ、67点。
P-27/≪念動障壁≫の準備をしても……全く役に立ちません!
鉄/……なら【MP】を残しておいてくれ。また全員を庇って、戦闘不能になる。

 P-27の治療のおかげで再び立ち上がった鉄だったが、終わらない総攻撃にまたも膝をつく。
 第2ラウンドセットアップに移行。GP-01は≪上級処刑術≫を使用し、このラウンドもダメージアップ。
 サクラとP-27は変わらず≪本能の拐引≫と≪空間知識≫を、マリアベルは今度はサクラに≪大地の使徒≫を使用。直後にマリアベルとGP-01は≪血のいざない≫でモブを配置した。

【戦闘マップ】
 エンゲージ1:鉄、P-27、サクラ、GP-01
 エンゲージ2:マリアベル、モブ
  (↑15メートル離れている↓)
 エンゲージ3:航


GM/GP-01の番だ。……さっきと同じコンボで、エンゲージ1にいる全員……戦闘不能じゃないサクラとP-27とモブに全体攻撃だ。(ころころ)クリティカルはしない、命中24!
鉄/クリティカルしなければ、避けるかもしれない!
サクラ/(ころころ)くっ、18で失敗。出目は良いんだが!
P-27/(ころころ)こちらも18で失敗です。オートアクションで≪未来の吐息≫を使用! 自分はクリティカル回避します!
GM/ダメージロール。(ころころ)……物理ダメージ49点!
P-27/≪念動障壁≫……!(ころころ)よし、最大値で12点軽減です。
サクラ/ありがたい、【HP】3点で生き残ってるぞ。
GM/モブは戦闘不能になったので、≪修羅≫が発動。もう一度範囲攻撃をP-27とサクラにする。
サクラ/……そうなるよなー!?
GM/とはいえ、ずっとこのコンボができる訳ではない。前線戦士なので【MP】コストはもう切れ気味だが……まだいける。2人に命中……(ころころ)23! クリティカルではない!
P-27/(ころころ)16、回避失敗!
サクラ/(ころころ)12、失敗! 当たる! ……≪リバース≫があればまだ生き返られる、サクラがP-27を庇う!
GM/サクラがダメージを肩代わりしたため、P-27はノーダメージだ。(ころころ)サクラだけに58点のダメージ。
サクラ/くそっ……痛すぎる。戦闘不能。ガクッ。
P-27/すみません、すぐに、修復させます……!
GM/最後の≪修羅≫発動。
マリアベル/まだ使えるの!?
GM/……最後の、なので、これで打ち止めだ。これ以上はダメージアップ特技も使えない。だが攻撃はできる。(ころころ)命中……25! クリティカル無し!
P-27/……追い詰められていますね。(ころころ)18、回避は不可……。
GM/ダメージロール。……特技が全然無い状態なので、コスト無しでも使える特技を使用。≪失われた日々≫でダイスを3D6追加。(ころころ)P-27に、30点のダメージ。
P-27/……≪念動障壁≫。(ころころ)10点を軽減……現在【HP】9点で生き残っています。
GM/追い詰めたのに、倒しきれなかったか。……≪失われた日々≫のキャラロールをする。

 「………………なんで、お前は……」
 鉄を二度も倒し、サクラを打ちのめし、P-27を壁際まで追い込んで刀を突きつけながら……彼は呟いた。
 P-27に対して話し掛けたのではなく、ただの独り言だった。
 「……俺を、ここから、連れて行ってくれなかったのに、なんでお前は、お前だけ……!」

P-27/……え……。
GM/「…………」 戦闘は、続く。航は≪合成:思念の刃+蒼の衝撃≫でP-27を攻撃する。前のラウンドのような大ダメージではないが、虫の息のP-27ぐらいなら落とせる火力だ。(ころころ)なかなかこいつもクリティカルしないな。命中23。
P-27/(ころころ)……12で、失敗です。
GM/(ころころ)ダメージは、物理28点。

 「……令呪だッ! 命じる! 『ルージィル、ここから逃げろ』!!!」
 倒れていた鉄が、最後の一撃を受ける前のP-27に命令する。
 本来、意識を失っている筈の鉄には不可能な話だが……。

GM/……鉄が【幸運】判定で難易度10に成功したら、虫の息でもP-27に令呪を使っていいことにする。ただし、P-27はシーンから除外されるので≪リバース≫や≪念動障壁≫が使えなくなるぞ。
鉄/戦闘不能になったらどっちにしろ使えない! なら逃げろ!(ころころ)達成値11で成功!

 「マスター!? そんなっ、自分だけ逃げるなんて……!?」
 P-27が、いやルージィルが静止する声も届かず、霊力の波動はルージィルの身体を瞬間移動させる。
 施設から遠く離れた場所に転移させられたルージィルの破片は、もうこの研究室にはどこにもなく。
 ……残されたのは倒れる2人と、非戦闘員のマリアベルのみ。

マリアベル/……私もスキルウェポンは持っているわ。≪鋼神の鉄槌≫を使えはするのよ。
GM/(航になって)「使うのかい、でも君は……≪大地の使徒≫という大きな技を使っているせいで、行動ができないね」
マリアベル/ええ、そうなのよね……だから……。

 行動できるキャラクターがいないため、第2ラウンドが終了。
 そうして第3ラウンドが開始。最も早く動くのは、もちろん……。

GM/GP-01が、マイナーアクションでマリアベルのいるエンゲージ2に接近。メジャーアクションで攻撃をする。(ころころ)命中、クリティカル。
マリアベル/貴方……容赦がないわね。(ころころ)回避11で失敗よ。
GM/(ころころ)ダメージロールが物理31点だが、どうだ?
マリアベル/私の【防御点】は5点。26点のダメージで、私の【HP】は26なの。……ルージィルがいてくれれば助かったけど、無理ね。
GM/では航のターン。メジャーアクションで、鉄にトドメを刺す。
鉄/…………そうなるな。
P-27/まっ……! 待ってください、駆けつけることはできますか!?
GM/したとして、どうもできない。そしてそれを許可するのは、強制転移させた鉄だが……?
鉄/駆けつけられないぐらい遠くに飛ばしたことにする。P-27は戻ってこられない。
P-27/そんな……。
GM/では、余ったターンで航は鉄にトドメを刺す。……ラウンドに動くものがいないなら、4ラウンド目にGP-01がサクラを、航がマリアベルにトドメを刺す。……戦闘終了にする。


 ●エンディングフェイズ/鉄

 ルージィルが消えた後は、ただ終わらされるだけの戦いだった。

 動けなくなった鉄のもとに、航が近づく。
 「はぁ……少しは落ち着いたかな、航? ちゃんと治療をしてあげるよ、正気に戻してあげる。さあ、『キャシーと同じになろうか』。ちゃんと僕を分かってくれる形に……」
 穏やかな口調で、ゆっくりと航に近づいて鎖を鉄の四肢に巻いた。……もう、逃げられはしない。

 「あっ。その前に」
 鉄に近づいた航が、パチンと指を鳴らす。
 「ぎゃあ」
 ……泣きながら『家族』を抱いて戦闘から隠れていた名生の身体が、鎖によって両断された。
 紙を千切るかのように、航は名生の命を終わらせた。
 そこに何の感情も無い。『話をする前に、見苦しかったゴミをゴミ箱に入れた』、その程度の動作だった。

鉄/……航……。頼みがある。
GM/「どうしたんだ、頼みって?」
鉄/マリアベルとサクラを助けてやってほしい。……先に俺をメジャーアクションでトドメを刺す行為をしたから、まだ2人は生きているものということで、頼んでみる。
GM/「はぁ、何を言ってるんだ。2人だけじゃなく鉄も助けるためにやっているんだぞ」
鉄/俺はお前の言う助けとやらをされても構わない。……でも2人には、何もしないでやってくれないか。具体的に言うと、「何も喋らないと約束させて、家に帰してやれ」。
GM/「どうしてそんなことを?」
鉄/…………忘れたのか? 『夜だから、女の子はもう家に帰してやらないとだろ。夜に歩かせるのは駄目だ。何もせずに帰すんだぞ』。

 「あっ! ……そ、そうだ。そうだったね。そう教えてもらっていたのに、ゴメン」
 ハッとした航は、倒れ伏す2人のもとに駆け寄る。
 そして2人に――契約をさせる。

 「1つ目。君達が知っている『キャシーが遺した記録』は誰にも話せない。誰にも渡せない。明かしたら君達は死ぬ。……外に出せないようにしておけば、消えてもらう必要は無いからね」
 「2つ目。君達はもう『機関』に関わらない。……また僕と仕事を一緒にできなくなるのは寂しいけど、これぐらいしないと消えてもらうことになるからね」
 「3つ目。今日の出来事があっても、もう僕と関われなくても、僕達は友達のままでいてくれ。……これはオマケってことで」

 令呪で、『3つの呪い』を掛けた。

マリアベル/ネックレスももちろん没収されるわね。……それで許してくれるなんて、航は優しいわ。
サクラ/ああ、優しすぎて涙が出てくるな。……何もしないで全てを闇の中にしまいこんでしまえば助けてくれる。なかなかそういうことが出来る人はいないぞ?
GM/「ギアスの力で約束したけど、僕は信じてるよ。……という訳で2人を送ろうか。今の住まいはどこだい?」
サクラ/ならタクシーを呼んでくれ。一時的に使っているホテルがあるんだ、そこまでタクシーで帰るから。
GM/「送らせることもさせてくれないのかい? 2人がそれでいいというなら呼ぶけど……」
サクラ/契約したんだ。誰にも話さないさ。機関にもう関わらない。そして、友達のままだ。最後の3つ目は、本当に無くて良かったんだぞ。
GM/それは嬉しい言葉だ。「今からタクシーを呼ぶよ。このまま施設の入口まで出てくれ」 ……マリアベルとサクラは退室を。
マリアベル/……鉄を、見ます。
鉄/行けよ。
マリアベル/……貴方ならもっと、航を言いくるめて助かること、できるでしょ。
鉄/できるかもしれないけど、今はお前達を殺させないようにするので精一杯だ。……さっさと行けよ。
サクラ/航には聞こえないように言うぞ。……助けてくれとお前が言ったなら、時間を掛けてでも助けてやる。だがここでお前自身が私達に呪いを掛けなければ、私達は一生機関に関われない体だ。言うならさっさと言え。
鉄/いらない。さっさと行け。……お前達が無事なら、いい。
マリアベル/……貴方って人は。さよなら。
サクラ/じゃあな。……最後まで私達を助けることを考えてくれて、ありがとう。
鉄/……P-27のこと、頼む。

 鉄の体は、鎖で拘束された。
 もう動けない。自力で逃げ出すことは敵わない。いつでも息の根を止められている状態、もう死人も同然だった。
 「……名美。すまんな。友人のことばかり考えすぎていて、お前への謝罪の言葉も思いつかなかった。……弟達を助けてやれなくて、ごめん」
 二つに千切れた名生を見ながら、虚空に謝罪する。
 航が女性二人のためにタクシーを呼びに電話をしている間、拘束されて転がされている鉄の話ができるのは一人しかいない。
 武器を携えた、無言で見下ろしている……かつて助けた少年だった。

鉄/…………。今から俺を助けてくれる気は無いか?
GM/「…………」
鉄/その気は無いか。……お前と戦ったのが俺達の敗北だった。それぐらいお前は強かった。強く生き残ってくれたんだな。本当なら嬉しいことなんだが……。
GM/「俺は、両親に連れられて機関に来た」

 彼は話し始める。
 航に話し掛けているのでもなく、しかし鉄の顔を見るでもなく。彼の口が勝手に動き始める。

 「父も母も機関の一員で。能力者の強化人間を作りたいという計画で、自分の子供を率先的に差し出した連中で。俺は何も興味なんて無かったけど、連れてこられて勝手に体を弄られた。
 実験は痛かった。苦しかった。まだキャシーやエルフの連中みたいに素材にされる方が良かった。あいつらは死んで弄られて、俺は生きたまま弄られて。あいつらみたいに死ねた方がマシって何度も思っていた。
 だから機関の外に出されたあの作戦。あそこなら研究所の外だから、死ぬチャンスがいっぱいあった。ようやっと死ねるって嬉しかった」

鉄/……だから、あんなに死にたがっていたと。

 「もし死ねなくて、俺を生かしてくれた人がいたなら、その人について行って、もう一度生きてもいいなって、強く生きようって思い直して……機関から逃げ出してでも生き返ろうと思っていた。
 なのに」

GM/「先を越された。……あのホムンクルスに」
P-27/えっ。
鉄/えっ。……え?

 気付いたら機関の研究室に戻され、新たな手が加えられる苦痛が始まった。
 死にかけなのに生かされ、また弄られて人離れしていくような地獄が始まった。
 そして、自分と同じような境遇――いや、自分と同じではない、人間ですらないホムンクルスが同じように手を伸ばして――機関から逃げ出していた。
 先を越された……手を伸ばそうとした先には、もう違うものが収まっていて……。

鉄/お前も、助けてほしかったのかよ。
GM/「…………」
鉄/なんで言ってくれなかったんだよ。お前、黙っているだけで……一言でも言ってくれれば……。
マリアベル/もし鉄が、「一緒に来るか?」って言っていたら……?
GM/いつでも頷いてた。ただこいつ自身が言い出すことは決してなかった。「プレイヤーが、NPCを味方につけようとすれば味方につけられる」。先に説明した通りなんだが、基本はプレイヤーが動かなければ積極的にはキャラロールしないつもりでいた。……まさかPCで同じことをされるとは思わなかった。
サクラ/……倉庫でも、こいつ、待っていたんだよ。「お前も来るか?」とか「俺達に協力してくれるか?」とか。
鉄/…………。ごめんな、気付いてやれなくて。
GM/「…………」 GP-01は、この場を去って行こうとする。吐き出すだけ吐き出して、もう話すことはないというかのように。
鉄/……お前。両親に、機関に連れてこられたって言ってたけど。GP-01って機関で付けられたナンバーだよな。ということは、名前あるよな。教えろよ。俺が今すぐ呼びたいから知りたいんだ。……今更だけど、呼ばせてくれよ。

 ――男は、躊躇いがちにゆっくりと唇を動かす。
 その音を、鉄は口にした。だがその名で呼んだところで、もう何も変わらない。もう、何もかも遅い……。

 マリアベルとサクラを送り届けた航が戻ってくる。
 男は航と入れ違いに部屋を出て行った。……鉄が、教えてもらった名前を呼びかける前に、逃げて行くように。

 「鉄。僕は何度も言うけど、友達を殺せない。君は失ってはならない存在なんだ。だから、永遠に君を残そう」

鉄/何をするつもりなんだか。……まあ、いい。お前の友人をずっとしてきたんだ。両手足をもがれようとも、目玉を引き摺り出されようとも、意識のある最期までお前に付き合ってやるよ……。

 ――鉄、キャラロスト――。


 ●エンディングフェイズ/マリアベル&サクラ&P-27

 郊外の瑞鶴研究所から、主要駅前にあるサクラが泊まる高級ホテルまでタクシーは走る。
 車内での会話は無く。黙々と走るタクシーはあっという間に、サクラとマリアベルを目的地で降ろす。

鉄/ルージィルは、サクラの部屋にワープさせる。≪スーパーテリトリー≫で守られた中なら安全だと思って。

 慌てる素振りもなく、サクラとマリアベルは部屋に戻る。
 鍵を開け、マリアベルが張り直した結界の中へと入ると……そこには慌てるルージィルと、たった一人残されてしまった名美がいた。

P-27/サクラ様! マリアベル様! マスターは……!
サクラ/航の所だよ。
マリアベル/死んではいないと思うわ。
P-27/……生きては、いませんね?
サクラ/そうだな。
マリアベル/航いわく、殺さないらしいけど。
P-27/でも、無事では、ないですね。
サクラ/ああ。
マリアベル/そうね。……私とサクラはこれ以上、航には……機関には関われないの。呪いについて説明するわ。

 1つ目の束縛により、キャシーが記録したものを誰かに受け渡すことができなくなった。闇の記録はそのまま闇に葬られてしまった。
 2つ目の束縛により、機関に関われなくなった。それは言動にも影響するらしく、機関について話そうとすると死ぬほどつらい眩暈に襲われるほどだった。
 だというのに3つ目の束縛により、今までの時間に対する嫌悪感は無かった。
 航は友であり、エルフを殺そうが真実を覆い隠そうが『嫌悪する対象ではない』と……魂に課せられた呪いが2人に命じていたからだった。

サクラ/嫌悪感と後悔で苛まれるようだったら、死にたくてたまらなかったがな。不思議な呪いのおかげで、何にもする気が起きない。なんでもサッパリ忘れてしまえというかのようだ。
マリアベル/ある意味、最善のバッドエンドね。全部航の掌のうちで悔しいけれど、悔しさが憎しみにならないだけで心が救われる。
P-27/……それでもマスターは、殺されました。
マリアベル/航としては殺さないみたいよ。
P-27/ヒトの形はしないものにされます。
サクラ/それは分からないぞ。GP-01の例もある、凄い強化人間になって蘇るコースもありうる。鉄のことは気に入っていた航だ、最悪の形にはしないさ。
P-27/僕は、貴方達のように呪いが掛けられていません。だから悔しいです。憎いです。マスターを打ち負かして奪った彼らが。
サクラ/その気持ちは、理解できる。
マリアベル/理解できるわ。でも……不思議ね。貴方、もう、全然ニコニコしていない。ヒトみたいに悔しそうに歯ぎしりして……泣いてる。本当にホムンクルス?

 「失敗作ですから。感情を抑えきれなくて暴走しようかなというぐらい、危ない失敗作なんですよ」
 人の手で創造され、美しい顔を象っていたルージィルは、無様に零れる涙を乱暴に拭った。
 「僕はまだ負けていません。逃亡しただけです。貴女達とは違う。……だから、これからも戦います。恐ろしい敵と。マスターを取り戻すために!」

 「そう。勝手にするといいわ。…………頑張って、ルージィル」
 「ああ。私達は手伝わないがな。…………応援するよ、ルージィル」

 ――マリアベル、キャラロスト――。
 ――サクラ、キャラロスト――。



    ◆


 名美は、サクラと共に日本を去った。
 サクラの実家なら、少女の一人ぐらいなら育てられる。そう判断して、名美は連れて行かれた。

 航からの命じられた呪いのせいか、サクラは機関に関わる仕事すべてに手をつけられなくなった。
 予算の都合、派遣した研究員が事故死している問題、方向性の違いから錬金術師協会エルスと超人類開発研究所機関の関係は断絶されることになる。
 提携は無くなったが、互いの技術を交換したおかげで大きく進歩した。一時的だったが良い交流だったと双方の研究員達は思っているだろう。

 サクラは機関を追わない。機関もサクラ個人を追わない。
 だからサクラが一人の少女を連れ去っていったことも、機関は何も干渉してこなかった。

サクラ/最後にあの所長が何か言ってくるかと思ったが……話し掛けられただけで虫唾が走る体になってしまったからな。何も無くて安心したよ。

 マリアベルも、本国に戻った。
 女優業に専念することにした。エルスの活動も、ハンター協会に声を掛けられての活動も、教会のエージェントとの交流も、全くと言っていいほど無くなった。

マリアベル/色々やってきたけど、一つに絞らないと体がもたないからね。……何も出来なかったことを思い出すの、やっぱり嫌だし。

 鉄を見た者はいない。
 キャシーを目撃できたという者もいない。
 同じように、ルージィルという愛称で呼ばれたホムンクルスの姿を見た者はいない。

P-27/ある日ひょっこり現れるかもしれません。……機関が潰せる、そのチャンスの日が訪れたときは、もしかしたら……。

 ――そして、とある研究所にて。
 航は今日も研究を、熱心に打ち込んでいる。
 汚れたままの白衣姿で、何日も洗っていない頭をガリガリと掻きながら、一心不乱に研究を続ける姿を注意する者も少なくなった。
 ギガースの開発は進み、それ以外の研究も順調に進んでいる。功績を上げ、どんどんと出世していく。賞賛の声を浴びながら、主任として活動は留まることをしらない。

 「もっと頑張れるよ、僕は。未だに鉄が言ってくれた言葉を忘れたことはない。確かこう言ってくれたね」

 研究室にて航は、安置してある『友人であった物』に……いや、『友人そのもの』に語り掛ける。

 「『頑張れ、いつでも応援してる』。シンプルだけど、失敗続きで自殺も考えていた僕にはこれだけで充分、生きる糧になった。この言葉で僕はこれからも研究をやめないよ」

 ニコニコと今日も活動をやめない研究員が居る研究室から、1匹の猫が出てくる。
 よく分からない飼い主の挙動を気にせず、黒猫が散歩をしていた。
 何事もなく、何のおかしなこともなく……あの日のように。

 そんな猫を、刀が貫いた。

 「なんでお前だけ生きているんだ?」

 黒猫は死んだ。
 キャシーも本当は死んだ。鉄も死んでいる、生きてなんかいない。
 サクラもマリアベルもあの日に殺されて、イキイキとしているふりをしているに過ぎない。だからそいつだけあの日のままだったことが、許せなかった。

 「……なんで、俺は、生きて………………」

 男は許せないからと、持っていた刀を



 それから先は、誰も見ていないので、分からないこと。




番外編2に続く

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