■ 「 聖 母 の よ う な 眼 差 し 」



 /0

 無心になって日々を過ごせば、故郷までの道は遠くない。

 この街に来る前に、ベルトルトの長い腕に抱き締められながら眠った夜。
 子供の俺を守るように大きな体で包みこんで、彼は何度も語ってくれた。

 二年なんてすぐ終わるから。
 五年なんてあっという間に過ぎてしまうから。
 抱き締めて、髪を撫でて、額や頬に口付けながらベルトルトは言う。

「訓練を終える頃にはライナーは逞しく成長しているから。僕が守らなくてもいいぐらいに大きくなっているから。それまで我慢だから」

 子供の俺に言い聞かせていた。

 頭を撫でるベルトルトの指は震えていたし、抱き締めて首元にかかる息は涙を含んだ熱いものだった。
 いくら彼が俺よりずっと年上だからって、壁を壊して、壁に入って、壁中の人間に見られて、怖くない訳が無い。
 それでも俺より年上だからって、震えを隠して俺を守ろうとしてくる。

 しがみつくように俺を抱き締める彼の背に腕を回して、俺も同じようにベルトルトの黒髪を撫でた。

 強がって泣きもしない大人の彼を、どうすれば傷付けずにいられるのか。

 足りない脳は泥沼に落ちたよう。身を切り刻む苦悩に、俺も彼も弱り果てていた。



 /1

 ――優しい彼を、解放してやりたい。

「隣の部屋に弟くんが寝ているんだろう? 大声を出したら、起きちゃうんじゃないのか」

 そんな台詞、何回だって聞いた。どいつもこいつも同じことしか言わなかった。

 俺は汚いシーツを頭から被り、不愉快な男達の声を閉ざす。
 いくら耳を塞いだって、酒を飲んで機嫌を良くした男達の声は聞こえてきた。壁一枚隔てただけのボロ宿では、聞きたくない声も全部俺の中に入ってくる。
 男達の声だけじゃなく、その中に紛れたベルトルトの艶やかな声だって全部届いてしまっていた。

「もう何度も出入りしたせいかな。おじさんのモノ、君の中に、ほら、あっさり入っていくよ」
「う、あ、ぁ、ああ……ん、ああっ……きもち、いいっ……」

 快楽に負けた声。
 始めは声を殺していたのに、追い詰められたベルトルトはもう我慢できなくなったらしい。
 壁を挟んでいるからベルトルトの姿を見ることができなくても、どんな顔で喘いでいるか容易に想像ができた。

「い、いや、いやだ……くる、僕、きちゃうっ、んああっ……」

 既に言葉にはならない声で喘ぐばかりで、ベルトルトの声から抵抗する意志は聞こえてこない。

「ぁぁぁ……僕……あああ……こんなっ……はぁ、ん、ぁああ……」

 そんな声を楽しそうに聞く二〜三人の男達は、隣の部屋で寝ている俺に聞かせたいのか、わざとらしく声を掛けてベルトルトを責め立てていく。
 ベルトルトはいつもの低い声で、叫ぶばかりだった。

「おじさんのチンコ、そんなに締め付けて、気持ち良いのかな?」
「もう一度イこう、ベルトルトくん」
「足が不自由なのに腰を振ってくれるんだ? また凄いイキっぷりを見せておくれ」

 よくあんなに恥ずかしめる台詞を言えるもんだ。
 俺は耳を塞ぐ。ボロ布を被って、何も聞きたくないから頭を抱える。それでも、

「はぁぁ……きもち……良く……して……ぁぁ、ああ、あ、イク、イクううぅ!」

 頂点に追い詰められたベルトルトが上げた咆哮を、掻き消すことなんてできなかった。
 恥を晒すことなんて誰だって嫌に決まっている。
 おそらくベルトルトは無様な姿にさせられて、涙を流しながらもがいている。
 いくら目を閉じても違うことを考えても、俺の中には何もかも忘れて気持ち良くなりたくて泣いて悦ぶベルトルトの姿ばかりが浮かんでしまった。

「さあ、口で綺麗にしてもらおうか」
「おしゃぶりは得意だって聞いたよ。昨日のお客さんとおじさん達はお友達なんだ。出来るだろう?」
「ああ、いいよ、ベルトルトくんの口の中、とても気持ち良い」

 違うことを考えようと思っても、次から次へとベルトルトに浴びせられる卑猥な言葉ばかりが聞こえてきて、意識を切り替えることなんて出来なかった。
 誰かの声で俺の中が埋め尽くされていくなら、違う声で自分を保たなくてはいけない。
 そう思った俺は、自分の言葉で不愉快な時間を掻き消すことにした。

 ――悪魔の末裔め。

 シーツの中で、俺は何度も繰り返す。

 ――悪魔の末裔め。悪魔の末裔め。悪魔の末裔め。

 思い浮かべるのは、奴らが巨人に喰われていく姿だ。
 不細工な顔を晒して、鼻水も小便も垂れ流して逃げ惑い、それでも巨大な指に捕まって喰われていく姿。
 何度だって頭の中で繰り返し、時に笑い、そうやって俺は今の時間から逃げ出そうとしていた。

「ライナー」

 そんな時間が何時間続いたか。
 何万回呟き、何万回奴らを空想の世界で喰ったか。
 数えきれないぐらい長い間、喉がカラカラになるぐらい奴らを喰らい続けた俺は、ベルトルトが仕事を終えて帰ってきたのさえ気付けなかった。

「ライナー」

 優しく俺の名前を呼び、被っていたボロ布を剥いでくる。
 見上げると、疲れた顔のベルトルトが、俺だけに見せる顔で微笑んでいた。

「……怖がらせちゃってごめんね。今日のおじさん達、おしゃべりな人達だったから長くなっちゃったんだ。でも、もう、帰ったから……」

 だから、安心して眠っていいんだよ。

 微笑んで、俺の頬をそっと撫でる。
 近付くベルトルトの指は、プンと臭った。ギトギトとして気味が悪い香りを纏った指だった。
 それでもベルトルトの指だ。
 払い除けることなんてできず、俺はすぐに大きな体に飛びついた。
 ベルトルトは微笑む。
 限界は、近いように思えた。

『ぎ』

 疲れ果てた彼を癒してやる手段は無いか。彼はこれから壊れずに済むのか。
 乏しい体、足りない脳、拙い思考のループ。俺は考え続けた。



 /2

「坊主。さっきの人はお前のお兄さんかい」

 宿屋の主人は淡々と仕事をしていた。だけど俺が通るなり急に話し掛けてきたから俺はビックリしてしまった。
 あんまり似てない兄弟だって言われているのに、よく判ったもんだ。

「鼻の形がそっくりだからねぇ。それにあのお兄さん、ずっと坊主のことを気にかけていた。心配性なんだね。ママはどうしたんだい」

 そんなものはいない。
 ウォール・シーナまで逃げてきたのは俺達二人だけだ。母さんは故郷にいる。そういうことになっている。

「お兄さんは……そうかい、足を巨人にしゃぶられたか。働き盛りなのに大変だね。いや……杖があれば歩けるぐらいなんだから良かったと言うべきか」

 ――あの年のお兄さんなら確実に徴兵されていただろうから、怪我の功名と言うべきなのかな。

 口減らしのことを言っているんだろう。壁の外に送られた大人を見てきたらしい主人は呟きながら憂いありげに視線を逸らした。

 ――子供なんだから今のうちに甘えておくんだよ。
 そうべらべらと話してくるじいさんに相槌を打ちながら、二人分のパンを強請る。するとじいさんは明らかに二人分以上の量を俺に渡してきた。
 目を見開いて驚くと、じいさんは笑って、「今朝、孫が病気で亡くなったばかりなんだ」と笑えないことを言った。

 巨人に喰われても、生き延びられた。喰われなくたって生き延びられない子もいる。このパンは、生きた奴が持ってなきゃ意味を成さない。
 他の連中に妬まれる前に行けと、年老いた主人は俺の背を押した。
 俺は無言で頷き、宿泊していた部屋に向かった。パンの入った袋を抱きながら『ありがとうと言いたい』と思ったが、後悔するほどのことではないので呑み込んで滑り込むように宿の個室に入った。
 部屋ではベルトルトがベッドに座って足を摩っていた。

「ライナー、おかえり。……どうしたの、甘えてきて」

 上着を脱いで、すぐにベルトルトの隣に腰掛ける。
 個室にあるベッドは一つ、椅子も一つ。本当なら俺の部屋は隣に取ってあるんだが、十歳の甘ったれな子供は年の離れた兄にべったり引っ付いて離れない――そういう演技をするために、そして実際俺が今べったりしたいがために、ベルトルトの隣に腰掛けて右腕に引っ付いた。
 俺はもう、立派な戦士だ。まだ子供だと言われても、門を破壊することだってできた。じいさんが言っていたことなんていらないお節介だ。それでも気にして思い返していると、ベルトルトは苦笑いをしながら俺の頭を撫でてきた。

 ――やっぱり大人はみんな、壁の外に連れて行かれたらしい。

 固くてボサボサするパンに齧り付いていると、ベルトルトはさっきの主人が言っていたことと同じの話をする。
 パンを細かく千切りながら、「マルセルの言っていた通り、怪我人のふりをして正解だった」とこぼす。子供は口減らしの対象にならないが、男達は総じて『奪還作戦』の名目で壁の外に送られていった。
 俺はまだ十歳の子供だからいい。でもベルトルトは、俺よりも十歳も年上だ。
 壁を打ち破り、巨人を中に引き入れる作戦が完了した後だというのにまた壁の外に連れて行かれる訳にはいかなかった。

「ライナー。はい。おかわりだよ」

 マルセルは死ぬ前にそのことを指摘してくれた。
 だからベルトルトは杖をついて歩き、足が不自由であるような演技もしている。
 そのおかげか周囲は働き盛りの年齢であるベルトルトに対して不憫な目を向けるだけで、壁の外に連れて行くことはなかった。

「僕はいいんだ。育ち盛りの君が食べないと駄目だ。子供なんだからもっと食べなきゃ。じゃないと立派な戦士になれないよ」

 けど、俺は子供だからという理由で甘やかされて飯を貰えるが、ベルトルトの風当たりは尋常じゃなかった。
 演技によって奪還作戦に駆り出されずに済んだ大人のベルトルトだが、体格の良い一端の生年が働けないのは反感を買うこともあったし、何より五体満足じゃないベルトルトを働かせてくれるところはどこにもなかった。
 それでも二人で壁の中で何年も生き延びなければならない。

「ライナー。お腹の音が聞こえたよ。我慢しないで食べてくれ。僕は二つも食べられたら充分だから。早く大きくなって……任務を終えて、故郷に帰ろう」

 健康的な一般人なら壁の外に送られて死ぬ。でも病人は壁の中で飢えて死ぬ。
 死ぬ訳にはいかない。なんとしてでも不自由ながら生きていかなきゃいけない。
 壁の中で、人間達に媚を売って。息を潜めて生きていかなくてはいけない。

「ちょっと遠いんだけどね、畑を耕す仕事を募集していたんだ。子供でも出来るって。ライナー、明日から一人でそっちに行ける?」

 次々とベルトルトは話題を変え、喋り続け、俺の口元を拭う。
 滅多にない量のパンを一気に口に押し込んだ俺の唇を拭いて、優しく髪を撫でてくれた。
 俺を見下ろすベルトルトの表情は、とても大人らしく……暖かく穏やかだった。

 俺は……俺のことよりも、一人を心配するベルトルトの方が心配だった。

 お前はどうなんだよと言う目を向けると、ベルトルトは俺の額に唇を寄せ、ほんの少し吸い付ける。
 ちゅっと優しい音がして、なんだか胸がムズムズした。

「僕は、君よりお兄さんなんだから。大丈夫だよ」

 ベルトルトは微笑む。
 疲れた顔で、それでも俺を安心させるように微笑む。
 ……そんなんじゃ駄目だ。
 いつもの台詞。いつもの抱擁。
 ベルトルトが好きな二つの行為。でもそれをされた俺は、嬉しくもあったけど……何故かいつもムズムズが過ぎて、笑えなくなっていた。



 /3

 徴兵を免れたのは、体に問題がある者達、街の運営のために必要とされる地位の者達、金にものを言わせることができる者達のいずれかだ。
 何にもない者達は、金を持っている連中に群がって仕事を貰う。できれば大金が欲しい。でも俺達はそんなに高望みをしていなかった。

 支払われる額は少なくて構わない。今日だけでも過ごすことができる程度なら。
 選んでいる余裕なんてなかった。訓練兵になれるその日まで生き延びることができるなら。
 だからどんなに劣悪な環境でも構わない。
 手っ取り早く終わらせるのが一番だ。
 ……ベルトルトは、いつもそう言っていた。

「傷だらけで仕事なんて選べないんだよ。しかも僕は可愛げがないし、どう見ても男だから。客もつかない。……仕事を選ばなければ、なんとか今日の宿代ぐらいはありつけるんだ」

 よくそう言っていた。

 俺は隣の部屋に移り、ベッドに転がる。早く夜が過ぎればいいと思いながら瞼を閉じた。
 日が昇れば土を耕しに行ける。子供でもできる簡単な仕事を見つけてくれたベルトルトのために、明日の宿代のために、早く体を動かしに行きたい。
 体を動かしていればすぐに日が落ちるから。それを繰り返していれば気付いた頃に時は過ぎていて、アニと合流する約束の日まで辿り着くものだから。
 早くこの時間が終わればいいと、俺も思っていた。ベルトルトとは違う理由で思い続けて、夜を過ごしていた。

「……あ、あ……ああ……う、ぁ……」

 聞こえる。
 この安宿の壁も薄い。
 雨風を凌げてシーツに包まることができれば上質な世界だから、壁の薄さなんて気にしていることなんてできない。
 でも、ここでも俺はシーツを被って耳を塞がなければいけないみたいだった。

「感度が良いみたいだね。ほら、ここももう硬くなり始めている」
「ぃや……やだぁ……もっとぉ……」
「良い反応だ。ベルトルトくん。まだ始めたばっかりだっていうのに。そんなに欲しかったのかい?」

 知らない男の声が二つ。その中に低く呻くような声が混じる。
 ベルトルトの声だ。
 まだ静かなものだけど、そのうち喘ぐばかりになっていく。
 低い声で息をしていたぐらいなら別室の俺に聞こえる訳がないのに、次第に感じていくから聞こえてくるんだ。

「ここかな? 君の、一番敏感なところは」
「んんっ……そう、ですっ、ぁぁ……もっと、きもちよく……して……」
「そんなに腰をくねらせて。足、動かないんだろう? 無理をしなくても言ってくれれば気持ち良くしてあげるよ」
「ぁぁぁ……あああ……」

 声は、聞きたくない。
 でも、やめろとは言えない。
 守られて生きる子供の俺は、彼の決定を無碍にしたくなかった。

 どんなに金が掛かっても、俺とベルトルトは同じ部屋で眠らない。
 理由は、言わなくても判る。すぐ終わる。あっという間に過ぎていく。それまで我慢してくれよ、ライナー。繰り返しベルトルトが聞かせてくれた言葉を思い出して、朝を待つ。

「んあ……うあ、あああっ、きもち、いい……いれて……僕に、いれて、ください……」

 感じたい、感じたいと甘えるように、ベルトルトが肯定を口にしている。
 でもその程度でやめられてはベルトルトの方が困るだろう。反射的に言ってしまっているだけというのは、今夜の二人も理解していた。

「やだ、いやだ、僕……」
「嫌だ? 良いんだろ?」
「……はいっ……きもち……いいっ……です……」

 止まらないベルトルトの声を聞く限り、何かでどうにかされてしまったのだけは判った。

「おや、棒だけでイっちゃったのか。床がビショビショだ」
「ひっ……あ……ああ……いいっ、イイ……!」
「お尻をグリグリ掻き回されて、あっという間に良くなっちゃったんだ。流石に宿の主人に怒られないかな?」
「はぁ……ぁぁぁ……ああっ……ぼく、ぅう……」
「ベルトルトくん。どうすればいいと思う?」

 おしゃべりな一人がベルトルトを追い込んでいくのが聞こえる。
 でもベルトルトが何て言い返したのかは聞こえない。口籠ってボソボソ喋ることの方が多いベルトルトの声が、隣から聞こえてくること自体がおかしいんだ。
 何かをされていることは判っても、それが一体何かは……俺の中で勝手に想像していくしかなかった。

 ――ベルトルトは、ケツの穴に棒を突き立てられていたんだ?

 最初それをすると言われたとき、どんな顔をしたんだろう?
 驚いて震えて、首を振ったんだろうか? それとも仕事だからとすんなり受け入れたのだろうか?
 どんな格好で掻き回されていたんだろう? 足を開いて棒を飲み込んでいたのだろうか? それとも顔をベッドに突っ伏してケツを上げていたのだろうか?
 床がビショビショって、何をしたんだろう?
 小便が我慢できなくてやっちまったのか? それとも……?

 考えて、明確に想像して、俺は頭を抱えた。
 考えてはいけないと思っていた筈なのに、あの声は、彼が乱れる姿を思い浮かべてしまう。

「いい……きもちいい……もっと、して……よく、して……」

 そして俺は、いつもの言葉を頭の中で繰り返すしかなかった。

 ――悪魔の、末裔、め。

 一言呟いた途端、視界が開けた。
 急にシーツを剥がれ、何かと思って見上げると、そこには見知らぬ男が居た。
 俺は枕元に置いていたナイフを掴んだが、男は両手を上げて微笑むだけだった。



 /4

 俺が二人目の男に連れられて部屋に入るなり、ベルトルトは目を大きく見開いた。

「ぁ……あっ。なっ、なんで、ライナー……?」

 大柄のベルトルトがか細く声を震わせた。

 ――ベルトルトは、何も身に纏わない状態で、床に唇を寄せていた。

 まさかそんなことをしているなんて想像できなかった。
 「舐めろ」だなんて言葉は一切聞こえなかったし、それを全力で拒否するベルトルトの悲鳴も無かったからだ。

「弟くん、ベッドの中で自分のおちんちんをずっと触っていたんだ。辛そうだったよ」

 俺を部屋から連れ出した男が背後に立ち、両手を俺の肩に置く。

「お兄さんが大声を出してたせいかな。えっちな気分になっちゃったんだよね?」
「あ、あの、ライナーを、部屋に戻してあげてください、まだ子供なんです……」

 ベルトルトが二人に懇願する。
 だが、何故か都合良く耳が遠くなった二人はベルトルトの言葉を一切聞いてはくれなかった。

「お仕事の続きをしよう。ベッドに戻っておいで、ベルトルトくん」
「ら、ライナーは、その……」
「おいで」

 強く男に命じられて、ベルトルトは俺と目を合わせないように移動し、ベッドに戻っていく。
 演技じゃなくずるずると足が不自由に見えたのは、腰を抜かしているからのように見えた。
 男はベッドに近づいたベルトルトを転がし、枕元に顔を押し付ける。そして腰を高く上げるように命じた。

「弟くん。おいで」

 男は優しそうな、でも少し威圧感を感じる声で俺を手招きした。
 声につられて俺はベッドに近づいていく。ベルトルトは顔を突っ伏しながらも俺の動きを制止しようとしていたが、

「さあ、ベルトルトくん。足を開いて腰を上げなさい。それぐらいならできるだろう?」

 という強い言葉の言いなりになっていた。
 ベルトルトが腰を上げている背後に俺を立たせて、男は楽しそうに笑う。

「なあ、弟くん。聞こえてたよね。お兄さんがきもちいい、きもちいいって喘いでいたのは。そうだよね。……おや。お兄さんは君に見られて、少しだけおちんちんが元気になった。判るかな?」

 言われてみれば、重力に従ってぶら下がっているベルトルトの大きな性器は……通常時より形を変えているのが見えた。

「今からどうやってお兄さんがお金を稼いでいるのか、教えてあげようか?」

 そう言って男は、何か液体を塗った棒をベルトルトのケツの穴に押し当てる。ゆっくり先端を中に沈めていった。

「ううっ、あ、は、ああ、あああ……!」

 壁越しでもシーツ越しでもないベルトルトの声に、俺の中がずくんと弾んだ。
 ぶるぶるとベルトルトの腰が震えていたが、貫かれた下半身は大きく態勢を崩すことはない。
 まるで棒で固定されて動けないようにも見えた。

「くうう、らいなっ、うう、っ、んぅぅ……ああぁ……っ!」

 透明な液体を塗られた棒が、ベルトルトの中を行き来する。
 垂れるベルトルトの大きな性器が、ぴくぴくと動いている気がした。
 男は棒を中に押し込み、引き、更に押し込み、掻き回していく。単純な動きをするたびに、ベルトルトは声を上げた。

「ぃっ、はぁああ……らいなぁっ……み、見ちゃ……あぁぁあ……」

 痛みに苦しむ声なら、故郷の訓練中に何度でも聞いた。でも、それとは違った。
 突かれるたびに肉体が反応してしまっている。言葉がままならなくなったベルトルトは、持ち上げている脚を振るわせて、必死に耐えていた。
 ビクビクと反応しているベルトルトの体は、今まで見たことがないもののように見えた。
 俺は不意に、ベルトルトから垂れて震えるモノに手を伸ばしてみたくなった。

「ひっ!? ら、らいな……っ!?」

 大きく膨らみ、垂れ下がったモノの先端を両手で包み込む。
 熱く湿ったそれは未知の感触で、自分も同じモノがあるにも関わらず、まるでまったく違ったものに触れているような気がした。
 両手で包みあげ、先端に指を這わせてみる。

「ぁぁっ……ぁぁぁ……おね、おねが、い……触らな、ぃ、ライ……んぁあああ」

 何がお願いなのかは判らなかったが、棒を突かれていただけのベルトルトが違う声を出した。
 男が態勢を変え、小刻みに抜き差しを始め、中を抉っていく。
 俺はただ包み込むだけだった指を、少しゆるゆると撫でてみた。
 ただ指を動かしただけに過ぎなかった。それでも、既に膨大な快感が押し寄せていたベルトルトには耐えきれなかったのか、それが拍子になったのか。ベルトルトの快楽の起爆剤となってしまったようだ。

「ああああっ……きもち、いい……! イ、イく……ううううぅぅ……!」

 顔を上げられず、シーツに口元を突っ伏しながらも、ベルトルトは悲鳴を上げる。
 足をぷるぷると震わせ、指先を伸ばしていた。腰を下ろして深いところまで棒を受け入れていた。
 そして俺の掌に、先端から熱い液体を飛び散らせていた。

「はぁ……ぁぁぁぁ……やだっ、子供は……見ちゃ、だっ……め……だ、ぁぁぁっ!」

 表情は見えない。だが限界を告げたベルトルトの声は、壁越しで聞くものと間近に聞くものでは大きく違った。

「らい、なっ、イくっ……ライナーの前で、イっちゃ……ぁぁぁぁっ……!?」

 膨らみ、次々に放たれる精液。
 涙を大量に零しながら人前で、俺の前で絶頂を迎えたベルトルトは、なかなか収まらない快感によがり狂っていた。



 /5

 ――その後は隣の部屋に戻ってしまった。

 男達は「続きを見ていかないのか」と何度も俺に尋ねてきた。
 その声を無視して隣の部屋に戻り、シーツだけじゃなく外着も全部被って耳を閉じた。

 男達は俺の参加を提案しただけで強制してこなかった。
 敢えて言うならベルトルトがしていることも強制されたものじゃない。ベルトルトが頼み込んで男達にしてもらっているようなものだ。
 金を払ってもらうために。
 それで明日の生きるすべが手に入る。そのためにやっているのだから。

 ――俺が去った後だって、事は続いた。
 微かに聞こえてくる悲鳴があった。厭らしい言葉が繰り出されていた。それでも俺は聞こえないようにしていた。

 何時間も経って、静かな夜を過ごすようになってから俺はシーツから頭を出すと、ちょうど部屋にベルトルトが入ってきた。
 上着は羽織っているだけのベルトルト。
 ズボンも履いてはいるが、今すぐ着てきたとうかのような皺くちゃなもので、隣の部屋から何も声がしないことから、今日の客が全員帰ったことを物語っていた。

「……ライナー、ごめんね」

 俺がベッドから立ち上がろうとすると、ベルトルトはそのままでいいと言うかのように手で制してくる。
 でも俺は駆け寄った。演技でもなくよたよたと足を振るわせて、体力を全て奪われたような彼を支えてあげたかったからだ。

「ライナー、ごめん。寝る前に君の顔を見たかっただけなんだ。顔を見たら、すぐ部屋に戻るから。ごめんよ……」

 いくら俺が抱えてやろうとしても、子供の俺では二メートル近い体格であるベルトルトを支えきることなんてできない。
 それでも。それでもだ。
 どんなに年の差があったって、どんなに体格差があったって、ぼろぼろになっていつ折れてもおかしくないぐらいか弱く見えるベルトルトを放っておくことなんてできなかった。

 ――ベルトルトを解放してやりたい。
 その苦悩から、解き放ってやりたい。どうすればいいんだ。彼が望むことをすれば、少しでも辛いものから救われるんだろうか。
 足りない脳で俺は動き出した。

「……ライナー……?」

 俺はありったけの力でベルトルトの腕を引き、さっきまで寝ていたベッドに転がした。
 普段だったら堪えられてしまうけど、今夜ばかりは力を失くしたベルトルトはボスンとベッドに倒れる。

「僕……すぐ、部屋に戻るって……」

 力無い笑顔を向けるが、そんなの聞かずに俺はベルトルトを押し倒した。

「……どうして……?」

 焦りながらも我儘な俺に、ベルトルトは優しく尋ねてくる。
 子供らしく、「今日はベルトルトと一緒に寝たいんだ」と言えば判ってくれるのか。
 でも、男達にあの姿を見せられたときから興奮しきった俺は、突拍子もない行動に出てしまった。

「あっ……」

 ベッドに乗り込み、上着を羽織っただけで中に何も着ていないベルトルトの肌を撫でる。
 びくっと震えて驚いた顔で俺を見るベルトルトが何か言い始める前に、羽織っただけの上着を掴んで、ベッドの下に投げ捨てた。

「ライナーっ……!」

 裸にさせて仰向けに倒し、ベルトルトの胸を両手で撫でる。
 驚いて一瞬声を失ったベルトルトだったが、すぐに俺の名前を呼んで止めようとした。
 けど止める気はなかった。今度は手で押し返してきたが、そんなの払い除けてベルトルトの裸体を撫で続けた。
 ――俺はただ、ベルトルトの苦痛を取っ払ってやりたくて……。

「ライナー、やめるんだ。君はまだ子供で、こういうことは大人になってから……!」

 絶対に言われると思っていた言葉を放ったベルトルトの口を抑える。
 呼吸を奪われ、ベルトルトはまた大きく目を見開いた。すかさず抑えた唇に……今度は俺の唇で蓋をする。
 ベルトルトは息を呑んで驚いていた。
 「やめてくれ、やめるんだ」と俺を押し返してきたが、全力で唇に噛みついた。
 額や頬以外にキスをするのは、初めてだった。

「ライナー、駄目だよ、もっと君は良い思い出を作るべきだ。初めてが僕なんて……駄目だよ……」

 ベルトルトは上から覆い被さる俺を引き離そうとする。
 けどその言葉にカチンときた俺は、持てる全ての力でベルトルトの唇を無理矢理奪い続けた。
 さっきまでの仕事で体力を失ったベルトルトの手首を捻り上げるようにして、ベッドの頭に移動させる。その間もずっと唇に吸いつき、呼吸させないようにしていた。
 息ができなければ冷静な判断が難しくなる。その方が俺が有利になると思い、俺も初めてのキスで苦しかったが必死に食らいついた。

「ああ、ライナー……」

 俺は興奮してるんだ。当然だろう。あんな姿、実際に見ちまったんだから。
 全力で押し退けてくる俺に、ベルトルトは不安そうな声と共に見上げてきた。
 いつもなら子供の俺の方が見上げていたけど、力を失くしてベッドから立ち上がれなくなったベルトルトは観念したのか、覗き込む俺を見つめるだけになる。

「ライナー、駄目だって……判ってくれよ……」

 何が判ってくれだ。
 毎日あんな声を聞かせていたくせに。ベルトルトのせいなんだ。
 ――俺の初めてを、貰ってくれよ。
 晒されたベルトルトの胸に唇を寄せる。
 キスのせいか、それよりも前の行為があったからか、盛り上がった突起に舌を寄せると、ベルトルトはピクリと露骨な反応を見せてぎゅうっと目を瞑った。

「ライナー、そんなこと……!」

 ベルトルトはしきりに「気持ち良くなりたい」と言っていた。
 なら、俺がしてやる。あんな奴らにさせるな。俺が、ベルトルトを気持ち良くしてやる。満足させてやるから。
 だから、同じぐらい俺にも満足させろ――。

「ライ……ナ……駄目だよ……君は子供で……ぁぁっ……」

 低くもか細い声が響く中、ベルトルトは乳首を舐める俺の頭を抱える。
 突起をカリッと弱く齧ると、ピクリとベルトルトは体を震わせた。べろべろと舐め上げる動作と軽く齧って引っ張る動作を繰り返していく。
 ベルトルトの目がぼんやりとしてきたところで、俺は彼のズボンに手を掛けた。隙間から手を滑り込ませて、引き摺り下ろそうとする。

「ライナー……。本当に僕を、抱いてみたいと思っているの……?」

 狼狽えながらでもなく、恐怖に怯えるのでもなく、ベルトルトは俺にズボンを脱がされながらおそるおそる尋ねてきた。
 何を言ってるんだと、俺はベルトルトをぎょっとした目で見てしまう。

「彼らは、金を払ってでも男で遊びたいと思っていた人達だよ。だから相手をしてくれたんだよ。僕もお金が欲しくて、それなら気持ち良い方がいいから抱いてもらっていたんだよ。でも、君はどうだい?」

 どうだい、という言葉の意味が判らない。
 唖然としてベルトルトの不安げな目をまじまじと見つめた。

「繊細な君を気遣わなかった責任は年上の僕にある。軽率だった。反省している。ごめん。でも……君が僕を抱いて、何の得があるんだ」

 ズボンを剥ぎきって、ベッドの上にベルトルトの裸体だけが現れた。
 俺はその上に覆い重なるようにして、苦しげなベルトルトの問いを続ける顔を見下ろしている。
 ベルトルトはと言うと、聞き分けのない子供を窘めるように……いや、強情な子供を窘めるために、俺をじっと見上げていた。

「キスの仕方だってきちんと知らなかっただろう? オナニーの仕方なら僕がちゃんと言葉で教えてあげるよ? それに、こういうのは好きな人とやらなきゃいけないって、ちゃんと判ってからじゃないと……。きっと君が後悔して……」

 ベルトルトは、今日の連中が好きなのか。
 壁の中の下衆どもが好きなのか。あいつらがベルトルトの好きな人な訳が無い。
 でも、俺の好きな人は明確だ。
 俺の好きな人は、ベルトルト以外にいない。俺にとって味方は、ベルトルトしかいないんだから。

「ライナー……」

 だからこそあんな奴らに負けたくない。
 ベルトルトが甘える声を奴らに渡したくない。苦しくて逃れたくて気持ち良くなりたいと言うのなら、俺が気持ち良くさせてやりたかった。
 あんなに『して、して』って言ってたんだから。俺だって。

 ――俺とすればいいんだ!

 ぐしゃぐしゃの顔になっていても、ベルトルトは切なげな顔のまま、俺を見上げてくるのは変わらない。
 ろくな愛の言葉なんて言ったことなかったが、俺は止められない欲情に身を任せて、ベルトルトの下半身に手を這わせた。

「んんっ……! らい……な……」

 甲高い反応を見せてくれる。
 ぐいぐいと俺が性器を揉もうとするとその手を払い除けようと伸ばしてきたが、不意に、ベルトルトは脚を開いていった。

「ライナーは……。ライナー自身が、僕を抱きたいんだよね……?」

 静かな声で囁くように尋ねる声に、俺はしっかりと頷いてみせた。

「そうなったの、僕のせい……だよね……。ごめんね、頼りなくて……君を、惑わせて……じゃあ、仕方ないよね……」

 ――違う。

「僕、反省してるから……そうだね……仕方ないや、僕を使うといいよ。ちゃんと子供の君に教えてあげるから……。しょうがないか……じゃあ、僕を気持ち良くさせてみて……」



 /6

 違う。
 違うのに。そうだけど、そうじゃないのに。ベルトルトは諦めたような笑みを浮かべて、力を抜いていく。
 俺はただ、ベルトルトを気持ち良くさせて……重圧を背負おうとしている彼を、救ってやりたいだけだった。

「おいで、ライナー。……僕を、抱いてごらん……」

 隠そうとしていた手は、自らの開いた両脚を持ち上げるものへと変わっていく。そして指を自身の窄まった穴に近づけていく。
 ケツの穴はきゅっと閉じていたが、ベルトルトの十本の指がその穴を開くように、俺に注視させるように動いていく。

「ライナー。僕のここはね……棒でも、指でも、おちんちんでも入れられると……すごく気持ち良くなれる場所なんだ……。君でも簡単にできる筈だ……なあ、僕に挿れてくれる……?」

 足を開いて皺を自ら広げるように穴を晒すベルトルト。
 そんな妖艶な姿を見て、俺はゴクリと喉を鳴らした。
 ゆっくりと顔と……指を近づけていく。
 指を二本、ベルトルトの穴に押し込んでみた。

「らいっ……。あ……んは……ぁ……っ!」

 俺の指がベルトルトの下の口を引き裂いていく。ベルトルトは身悶えして、腰を浮かしてくれた。
 悶えていても、ベルトルトは両脚は閉じようとしなかった。覗き込む俺の頭を蹴ることもしない。
 広げる指はそのまま、「そう、指で……弄って……」と誘ってくる。

「僕の中、濡れてるだろ……? さっきおじさん達にいっぱい出してもらったんだ……まだ、ぐちゅぐちゅだから……きっと、入りやすいよ……」

 羞恥心は無いのか。ベルトルトは苦しそうに眉間に皺を寄せながらも、口元は微笑む俺の指を待っていた。
 俺は……言われるままに指をじっくりと中へ押し込んでいく。
 最奥に届くように、ベルトルトが毎日のように欲しがっていた気持ち良い場所を探るように、奥へと進んでいく。

「ぁぁ……ライナー……ライナーの、ちっちゃな指っ……入って……るぅ……んんん……」

 押し込むたびにベルトルトは喘ぐばかりになる。膝を折って大きく開いた両脚の先がふるふると震えていた。
 俺は指をベルトルトの直腸の中で動かした。経験の無い俺は、少しでもベルトルトの感じる場所を探すように、二本の指でぐりぐりと掻き回していった。

「ぁぁぁぁ……そう……そこ、ぁああ……きもち、いいっ……」

 ここか。ここだろうか。俺は探りながらベルトルトの恍惚とした声を聞いていた。
 足を開きながら俺に指を奥まで突っ込まれて仰け反るベルトルトは、さっきの部屋で棒を突っ込まれているときよりもずっと気持ち良さそうな顔をしていた。

「うんっ……ライナー、いいよぉ……ぁぁぁぁ……」

 壁越しに聞いていた快感の声よりも、自分の手で喘がせている声の方がよっぽど良さそうに聞こえる。
 ぎゅっと目を瞑って絶叫しているベルトルトを、もっと良くしてあげたくて……指の出し入れを始める。

「ひぃっ、ぁぁああ……んああ……らいなぁっ……ぁああ……!」

 ベルトルトの顔は、凄く官能的に変貌している。
 いつもこんな顔、悪魔の末裔どもに見せていたのか。厭らしい泣き声を聞かせていたのか。
 俺の中に湧き上がる熱い感情が、指の動きを激しいものにしていた。

「きもち、いいっ……んん……らいな……ぃ、ぃっちゃう……よぉ……」

 これが一番良いことだからと言いながらも、恥ずかしさや屈辱感だってあっただろう。
 だらしなく脚を開いて、腰をくねらせて、言いなりになって……。そんなの、許せなかった。

「ら、らいな……ぁぁぁぁ……」

 許せない。
 気持ちいいことなら、俺がいくらでもしてやる。ベルトルトのことを好きな俺が、いくらだって突っ込んでやる。
 ベルトルトの中を一心不乱に転がしているうちに、

「あっ、ああっ、らいなっ、んあああ……くるっ、きちゃっ、ああああ……っ!」

 強い痺れが走っていったのか。ハッとした俺は、刺激を酔う大人の顔を見下ろしていた。
 ビクビクと震えた彼は俺を押し退けるかと思ったが、呼吸を整えてから隣に座るように言ってくる。
 これから指で馴らした尻の穴にブチ込んで気持ち良くさせようとしたのに、どうしてだと思っていると、「君のを、しゃぶらせてくれ……」と、まるで懇願するかのように身を寄せてきた。

「今度はライナーを……気持ち良くさせるんだ。このままだと僕ばっかりになるから。おいで……」

 いつも言われている「おいで」の言葉がやけに色っぽく聞こえる。
 初めて戦士として出会ったときに聞いた声を思い出す。
 俺が守らなきゃいけない特殊な巨人の彼を前にして、ドキドキしていたとき……俺に目線を合わせるようにしゃがみ込んで、笑ってくれた。
 君が僕を守ってくれる戦士なんだね、と……。おいで、と……。これから仲良くしてくれよ、と……手招きされたあのときの優しい声。
 思い出しながら、俺はベルトルトに身を寄せる。
 ベルトルトはしな垂れかかってきて、元から反り上がっていたちんこに唇を寄せてきた。

「ライナーの……おちんちん……んんんぅ……」

 舌を出して、ちろちろと先端を、その周りを舐め始める。
 さっき喘いで枯れてしまったんじゃないかと思った口は、唾液にまみれていて不思議な感覚だった。
 ずっとしゃぶっていてほしいぐらい、気持ち良い。
 必死に口の中で舌を突き出して、至るところを舐め回して……破裂しそうになるぐらい、裏筋や尿道口を舌で突かれて、覆われて。
 油断していると何故か目から涙が零れそうになっていた。
 堪え切れなくなった俺は、半ば乱暴にベルトルトの顔を退かすと、彼はゆったりと腰を向けて、また十本の指が穴を開くように動き始める。

「すごく……えっちな顔をしてるよ、ライナー……。さあ、僕を突いて……くれるかな……?」

 えっちなのは、どっちだ。
 いい。とにかく、彼を気持ち良くさせたい。会得した動きのままベルトルトの下の口に指を這わせた。

「ほら……入れて、早く……僕に……ちょうだい……お願いだ、ライナー……」

 全裸になった俺の真ん中には反り返る逸物がある。
 ベルトルトはひいひいと乱れた息を繰り返しながらも、俺のモノを求めていた。
 腰を突き出して、足を開いて。ベルトルトの入り口にモノを押し当てて、俺は一気にちんこを押し込んだ。
 二本の指よりも太いものを、容易くベルトルトの体は受け入れていく。ベルトルトは気持ち良さそうな声で鳴き叫んだ。

「ああ……はああっ……! んぅうう……ライナーの……これぇ……あぁあ……!」

 唇を震わせて悶絶するベルトルトの中を進めていく。

「ひあっ、ああ……! らいなぁ……きもちいいよぉ……!」

 子供みたいな甘えた声を上げた。両脚を震わせているが、逃げるようなことはなかった。
 歯を食いしばったベルトルトはビクンビクンと揺れ動いた。
 引き攣って、腿が張り切って、ガクガクと揺れていく。
 荒い呼吸を吐いて両手で頭を覆おうとする彼の体に、俺は唇を寄せる。

「ああっ、らいなっ……君ので、ああ、イク、イクゥっ……!!」

 俺は腰を押さえて前に突き出す。感にやられた声でベルトルトは中を締め付けてきた。
 息が詰まるほどよがり泣き、ベルトルトはシーツにしがみ付いて自分を保っているようだった。
 元から快感が溜まっていたからか、それともベルトルトがあっという間に快感に満ちてしまう淫乱なのか。

 思ったよりも早かった絶頂だが、俺は充足感を満喫していた。

 ――イってくれよ、ベルトルト、俺も中でイキたい。
 イけば、きっとラクになれるんだろう。気持ち良いことだけ考えれば、演技とか任務とか罪悪感から解き放たれて……。

 そうだ、それだ!
 俺がそれをしてやれたら――!

 中を交差させ、俺は腰に抱きつきながら息を吐く。

「ああっ、あああ……!? らいなぁっ……! イ、イクウウ……!」

 もう何度目の絶叫か判らない。
 堪え切れない快楽に、ベルトルトは体の自由を奪われていった。

 ――ベルトルト。ああ、指でイかせたときのベルトルトの顔、凄く可愛かった。なんで俺、もっと早く見なかったんだ。

 惚けた顔で虚空を見つめる彼の顔を見ながら、自問自答する。

 ――俺、なんでお前より年下なんだ。俺が大人だったらいつでもその顔、見ていられたんだよな。あいつらよりいっぱい気持ち良くさせてあげられたんだよな……?

 俺がお前より頼り甲斐があったら。
 逞しかったら。
 お前にばかり負担を掛けなかったかもしれないのに。

 そんなことを繰り返したってどうしようもない。ベルトルトならそう言うことを、俺は責め立てていく。

「ライナー……」

 ――ベルトルト。ベルトルト。誰にも渡したくない。

 彼の大きな体に覆い重なって、心の中で呟き続ける。

 ――なあ。ちんこ、この穴に挿れればいいんだろ。挿れて揺さぶればもっと気持ち良くなるんだろ。中に白いの出したら最高な気分になれるんだよな。……そうだから、毎日してるんだよな……?

「……ライナー……?」

 俺の中が熱くなる。暴走してしまうぐらい、大量の熱が湧き上がってくる。

「ライナー!?」

 すると目の前が真っ赤になった。ゲホゲホと咳き込んでしまう。

『ぎ』
「ライナー! 深呼吸して!」
『ひっ、ひ、ぎい』
「落ち着いて。ほら、大丈夫だよ、僕ならここにいる。……無理しないで。声を出さないで」
『ひ、ひ、ぎ』
「落ち着こう。君の自由にすればいいんだよ。ほら、息を吐いて。まだ時間はあるんだから……僕が、いるから、平気だよ」



 /7

 ――壁を壊してから、俺は一段と弱くなった。

 大勢を殺した。殺した重圧が圧しかかってきた。一人なら耐えようとしたかもしれない。でも俺には頼れる大人がいたから、ついつい甘えて……俺はただただ、弱くなっていった。

 俺は、未熟な子供だ。

 声も出なくなって、甘えて飯を貪るだけのガキになって、全部ベルトルトに任せて、それで……。

「ライナー。ぎゅっとして」

 どこまでも優しいベルトルトの体にしがみついた。
 大きな腕が俺を包み込む。大量の恐怖しかない壁の中で出なくなった不自由な喉に口付けて、無理をするなと何度も囁いてくる。
 その言葉をどこか他人事のように聞いてしまう自分がいた。

「僕に任せて。……それでいいんだよ。次の約束の日まで、君はゆっくり大きくなればいい。焦らないで……そう、僕に、まかせて」

 ベルトルトは微笑む。
 疲れた笑みを俺に向ける。

 ――ああ、やっぱりベルトルトを包み込むようなことができない。

 またベルトルトを翻弄することなんてできない。微かな満足感さえ与えられない。彼は安心させるように、大人びた声で俺を抱き締めている。

 そんなことをずっと続けていたら、きっとベルトルトは疲れ果てて壊れてしまうというのに!

「……ライナー……? んんっ……!」

 俺はまた力づくでベルトルトをベッドの上に押し倒した。また両脚を開いてもらう。
 もう一度するんだ!
 中に精液を放つんだ!
 全身を痙攣させるんだ!
 そうして快楽に酔わせて、気持ち良くさせて、疲れ果てて崩れそうなベルトルトを癒してあげるんだ!

 無我夢中で俺は、ベルトルトの穴に自身の先端を押し当てた。

「……ごめん、ライナー、ごめんね。ああ、そうか……僕が……君を満足させてあげればいいんだよね……?」

 切なそうに彼は、暴れまくる子供の俺を見上げる。
 その目はまるで聖母のような眼差し。脆い緑色の光がギラギラとした俺をじっと見つめていた。




END

ライナーより年上で頼りがいがある性教育ベルトルトはかわいい。「人外」「キンカン」「おにショタ」「13連発イキっぱなし」というお題を頂きました。人外って元からあいつら人ではないものじゃん……キンカンって兄弟モノが一番萌えるなぁ……ベルトルトの方が年上でショタライナーに性教育したらいいなぁ……モブベルは外せんよ、とありのままの自分見せるのよ。心掛けたことは「おしゃべりなお兄ちゃんベルトルト」といういつもとは逆の状況。おにショタの扉を開いた。
2014.7.11