■ 「 俺 は ラ イ ナ ー 。 車 庫 だ 。 」



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(お題:「りんかんがっこう」「胡乱」「証明の再構築」「嘘ついたら針千本飲ます」「モーニングコールを頼む」「洗濯物」「朝刊」)



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ライナー「お、おい! お前! ジャンじゃねえか!?」

ジャン「まさか、お前! ライナーか!?」

ライナー「生まれ変わった世界でお前に会えるなんてな! いつかジャンにも転生した後に再会できるんじゃないかと思っていたが、こんな所で会えるなんて!」

ジャン「し、信じられねえ! くそ、散々なことされたが生まれ変わって再会できて、う、嬉しいぜ、く、くぅっ……!」

ライナー「おいおいいきなり泣くなよ! 転生して涙腺が緩くなったか!? 穴からいきなりドボドボ黒いの垂らしやがって! どうやらジャンは立派な車に生まれ変わったみたいだな!?」

ジャン「お、おうっ! そういうライナーは車庫になったんだな!?」

ライナー「車庫に生まれ変わって十五年目になる!」

ジャン「俺より何倍も生きてるじゃねえか!? あの世界では一つか二つしか年が違ってなかったのにすっかりジジイになりやがって!」

ライナー「ジジイって言うなよ、これでも去年リフォームをしたばかりだからあと数十年は現役車庫だぞ! ジャンは新車だよな……まさか、お前を買ったのって!?」

ジャン「お察しの通りマルコだ! マルコの奴、ここのアパートに住んでるんだろ!? だから俺がこの車庫に来たんだよ!」

ライナー「やっぱりそうか! マルコがそろそろ新しい車を買うとは聞いていたが! けど免許を取ったばかりだから安い中古車を買うと思ったのに、新車のジャンを買うなんて……!」

ジャン「俺からアプローチをかけたからな! 店に来たマルコにクラクションを鳴らし続けたら『こいつ変な車ですね! 気に入りました!』って即日購入しやがったぜ!」

ライナー「お前って奴は! 不良品だと思われてジャンクにされたらどうするつもりだったんだ!? それでもマルコはお前を買ったんだから切っても切れない関係だったってことか!」

ジャン「ライナーの方はどうなんだよ!? お前が立派な車庫なのは判るが、具体的に言うならベルトルトはどうしたんだ!?」

ライナー「マルコの家族の隣の部屋に住んでる!! アルミンもマルコの家の逆隣にいるぞ! あいつらみんなガキの頃に引っ越してきたからな! ハハ、今でもここを集会所みたいに使ってるぜ!!」

ジャン「アルミンもいるのか!? マルコとベルトルトとアルミンか! ハハハ、一人称が同じもの同士仲が良いのかもしれないな!!」

ライナー「なんだその理屈」

ジャン「あ、うん、ごめん」



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エレン「おいそこの車! それと……車庫! お前らまさか……!?」

ジャン「なっ、エレン!? お前エレンなのか!?」

ライナー「し、信じられないがその気迫はエレンか!?」

エレン「久しぶりだなジャン! それとライナー! まさか生まれ変わった世界でお前らに再会できるなんて!」

ライナー「俺もあの世界で巨人樹からシガンシナまで逃げてえんやこらした後にあんな展開になって生まれ変わってお前に会えるなんて思わなかったぞ!」

ジャン「エレンはバイクになったのか!? 死に急ぎ野郎にピッタリだな……まさか、お前を買ったのは!?」

エレン「アルミンだ!!」

ライナー「やはりな、昨日免許取ったばかりで『バイク買いに行くんだー!』ってはしゃいでいたのを見たぞ! それでエレンを引き当ててくるなんてアルミンもとんでもない奴だ!」

エレン「店頭で並んでたとき俺がアルミンを見つけたんだけどアルミンの奴、俺がいることに全然気付かなかったから轢いてやった! そしたら引き取ってくれたんだ!」

ライナー「ハハハ、轢いたのか! 傑作だ、エレンらしい!」

ジャン「ハハハ、アルミンが気付かなかったってそりゃバイクだからな! 無理もないだろ! 俺が言える問題じゃないがよく廃棄処分されなかったな!?」

エレン「そんなことするような奴がいたら片っ端から轢いてやるぜ!!!」

ジャン「お前はバイクになっても変わんねえな!! アルミンの奴、ちゃんとお前を乗りこなせるのか!?」

ライナー「ああ見えてアルミンは器用だ! エレンの扱い方なら昔から得意だろう!」

ジャン「違いない! あ? おいおいどうしたバイク野郎、いきなり黙り込みやがって! いきなり不良品になったか!? 粗大ゴミ回収してもらうかぁ!?」

エレン「…………。ライナー。お前、車庫歴は長いんだろ? アルミンがここに住むようになってからも話を頻繁に聞いているんだよな?」

ライナー「ああ! アルミンとマルコとベルトルトはガキの頃から俺を遊び場として使っていたからな! 車庫にレジャーシートを敷いて三人で並んで読書するのがあいつらのお気に入りだったからな!」

ジャン「微笑ましいけどガキなんだから外で遊べよ!?」

ライナー「ベルトルトなんて親の心配を掛けたくないから『いってきまーす』って遊びに出るのはいいが外に出るのが怖いからってずっと俺のところに来るんだぜ! 林間学校や修学旅行のときなんか緊張しすぎて車庫に隠れてバスをやり過ごすレベルだぞ! 可愛いだろ! 俺のだ!! やらんぞ!」

ジャン「いらねーよ! あんな俺に乗ったら頭ガンガンぶつけそうな奴!」

ライナー「ふざけんなてめえ通過中をシャッターで潰すぞ!!!?」

ジャン「新車を初日で廃車にする気か!!?」

ライナー「ベルトルトは前の世界のベルトルトに比べてマイペースなんだよ! 小さいことにこだわらない性格なんだから頭もぶつけるんだよ! 俺のだ!! 馬鹿にすんじゃねえ!」

ジャン「おい馬鹿! どさくさに紛れて備えつけの壁掛け時計を車庫パワーで投げつけるんじゃねえ! 車庫なら大人しくしろ!! 時計を壊したら大変だろ! 時間判らなくなるだろ!?」

ライナー「朝になったら車庫の火災報知器を鳴らしてやるからどうにかなるだろ!!」

ジャン「なんねーよ!? 毎日寿命縮まるモーニングコールだよ!? 大らかなマルコなら『イイネ!』って頼むかもしれないがそれより初日に新車を傷つけられるあいつの気持ちを考えろ!! 悲しむだろうがっ! おいエレンも何か言え!!」

エレン「…………」

ライナー「どうしたエレン!? 喋らないなんてバイクらしいがお前らしくないな!」

エレン「アルミンが、バイクの免許を取った理由って?」

ライナー「確かアルミンは『免許を取ったら行きたい場所があるんだ』ってベルトルトに言ってたな!」

エレン「海だ」

ジャン「あ?」

エレン「……海だ。きっとあいつ、そのためにバイクの免許を取ったに違いない……」

ライナー「……ここは群馬の山奥だ。免許を取れる年齢になった子供は免許を取らないと移動ができない。ただそれだけじゃないのか。それに、海は遠いぞ。群馬がどれだけ奥深いかお前だって知って……」

エレン「そうかもしれないけど、きっとアルミンはバイクで海へ一人旅をすると思う。生まれ変わってもずっと……俺と海に行きたいという想いがある筈だ。……きっとそうなんだ……ずっと約束していたことだから……」

ライナー「……前。前の世界の約束があったのか」

エレン「……ああ」

ライナー「……何やら、訳ありなんだな」

エレン「…………ああ」

ジャン「……そんなの偶然だろ! マルコも俺のことは気に入ったと言っていたが、ただの車としか思っていねえよ! アルミンもお前がエレンと思ってバイクを買っちゃいない! ただ……急に轢かれて興味がわいたバイクだってだけさ……」

エレン「ああ……きっとそうなんだろう。でもかつてのあいつと今のあいつはどこかで繋がっている筈なんだ!」

ジャン「……死に急ぎバイク野郎……」

エレン「そう信じたっていいだろ……。信じてもいいだろ……。どうせ俺はもう実のところエレンでも巨人でも人間でもない、ただのバイクだって判ってる、けど……!」

ライナー「……ただのバイクだって投げやりにいうな。エレン。お前は、エレンだ。エレンはエレンらしく……自信を持ってアルミンを海へ連れて行ってやれ」

エレン「…………。ライナー! 前の世界から思ってたが、お前は慰めるのヘタクソだな! 支離滅裂にも程がある!!」

ライナー「なっ! 人がせっかく大らかな車庫らしく気遣ってやっているというのに! あんまりなこと言うとシャッターに挟むぞ!?」

エレン「やめろよ俺はただのバイクだぞ!? 突っ込んで穴空けてやろうか!? 今度は俺の方が穴を空ける番だな!」

ジャン「おいやめろよ馬鹿! 真冬にの車庫に穴なんて空けたら俺の体まで凍ってエンジン動かせなくなるだろ! 群馬を舐めんな! 壁の外より危険な場所だって新車数ヶ月目の俺に諭されるとかふざけるんじゃねえぞ!?」

エレン「ああ? 俺、バイク歴一年なんだけど、お前まだ数ヶ月なの!?」

ライナー「口が滑ったな、ジャン! ハハハ、今日からお前は後輩キャラとしてバイクにいじり倒されるな!」

ジャン「このやろ! バイクと車が勝負なんぞどっちが勝つか目に見えてるだろ!?」

エレン「ハッ、やるか!? 一発でジャンクにしてやるぐらい突っ込んでやるぜ! 窓を粉々にしてやる!」

ジャン「最近の強化ガラスも知らない生身野郎が! 捻り潰してやる!」

ライナー「お前ら、喧嘩するならせめて乗り物同士スピード勝負にしろよ!!」



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ライナー「……ん? おい、噂をすればあの三人が入って来たぞ。出かけるみたいだな!」

ジャン「どうしたんだアルミンの奴!? マルコに引きずられて歩いてやがる! ぶっとい足になってあれでも人間か!?」

エレン「ああ、あれはアルミンとの再会に俺が嬉しすぎて突っ込んだときの傷がまだ治ってないんだ!!」

ライナー「よく致命傷を与えた暴走バイクを買い取る気になったな!? お前ら幼馴染の絆には感心するよ!」

ジャン「いや感心すんなよ!? 危うく殺人バイクだろが!」

エレン「なんだよ殺人鬼みたいに言いやがって! 羨ましいだろ! 突っ込んだときのアルミンは柔らかかったぜ! あれはアルミンのせいで大変になるおっさんがいてもおかしくない柔肌だった! 判るか!?」

ライナー「そりゃあいつらまだ人間だからな! 柔らかいのは知ってるが恍惚としたバイクの顔をするんじゃない! さすがに気持ち悪い!」

エレン「けど判るだろ! 男だったら! 突っ込みたい気持ちは!?」

ジャン「ライナー! アルミンは無理だったがマルコの奴なら耐えられると思うか!?」

ライナー「勘弁してやれよ!! マルコも自分の車で交通事故に遭いたかないだろ! あと車に轢かれて耐えられない人間の他に耐えられる人間がいるという考えは捨てろ!!」

ジャン「お前だって車庫とはいえベルトルトに突っ込みたい気持ちはあるんだろ!?」

エレン「あるだろ! 車庫とはいえ!!」

ライナー「あるがしてしまったら倒壊事故だ!!」

ジャン「チッ、お前だけ種別が違うからそう言ってられるんだ! お前も自動車に転生してみやがれ! お前も突っ込みたいという気持ちが判るようになる!」

ライナー「言うがジャン、お前は前方に障害物があったら自動的に止まるからマルコに突っ込めないぞ」

ジャン「んだとぉ!? この新車め!! 最新技術なんぞ搭載しやがって! 安全設計か!!」

ライナー「おそらく最高級の褒め言葉を罵倒に使ってる車は世界でお前だけだろうな!?」

エレン「良かったなジャン! 車庫に奇行種扱いされてるぞ! ……ああ、どうやら三人で買い物に行くみたいだな!」

ジャン「マルコが俺を運転して街に下りるらしい。アルミンはどこぞの死に急ぎバイクのせいであの大怪我だし、ベルトルトはまだ免許を持ってないんだな!」

ライナー「ああ、ベルトルトも教習所には行っているんだが……最後の試験でどうしても90点以上が取れなくて落とされているらしい!」

エレン「意外だな!? あいつ、そういう試験なんてすぐパスしそうなのに!?」

ライナー「一人で本番に行くと緊張しすぎて頭が真っ白になるタイプなんだ! 昔からそうなんだ! 訓練兵のときだって毎日俺がいたぶってやらないと何にも出来なかったぐらいなんだぜ!」

ジャン「ナチュラルに『慰めて』でもなく『可愛がって』でもなくいたぶったな!?」

ライナー「ベルトルトは一人じゃ何もできない奴なんだよ。しかし。………………」

ジャン「どうした、ライナー?」

ライナー「…………今日はもう出かけるのはやめておいた方がいいんじゃないか。そろそろ天気が崩れる時間だ」

エレン「なんで判るんだ!?」

ライナー「リフォームしたとはいえ、築十五年の軋みがそう告げてくる! 今年の寒波は危険だ!」

ジャン「だからこそ晴れている今のうちに買い物をしに行くってことなんだろ。まとめて三世帯分の買い物をするつもりなんだろうな。俺が人並み以上の車体だからそういうことになったんだろ!」

エレン「俺は買い物をするには足りない体だしな!」

ジャン「そもそもアルミンは今、エレンのせいで乗れもしないがな」

エレン「馬ぁッ!!!」

ジャン「どういう罵倒だよ!? 今や車の俺に馬要素はどこにもねーよ!? ……それに俺達があーだこーだ言ってもあいつらには俺達の声は届かないから意味ねーよ!」

エレン「ジャン! 俺も連れて行けよ!」

ジャン「無理矢理トランクに入ろうとするんじゃねーよ!? ほら! いきなりバイクが独りでに動いたから三人ともビビっちまってるじゃねーか!?」

ライナー「おいエレン! あいつらを泣かせて楽しくことなんてないだろ!? 鍵も回されてないのに動くのはやめろ! 本格的に廃棄処分されるぞ!!」

エレン「ちぇっ!」

ジャン「相変わらずベルトルトの奴は泣き虫なんだな、腰抜けてびーびー泣いてやがる」

ライナー「いきなりバイクが暴走し始めたら泣き始めるのも仕方ないだろ!! 興奮すんじゃねーよ!!! 俺のだ!!」

ジャン「しねーよ!! 車庫の温度を勝手に上げてんじゃねえ! マルコが『なんかあつーい』って脱ぎ始めただろが!? ありがとよ!!!」

ベルトルト「………………」

ライナー「……ん?」

ベルトルト「………………」



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ライナー「………………」

ベルトルト「………………」

マルコ「い、今の何!? バイクが勝手に!? って、アルミンごめん! いきなり投げ飛ばしちゃったよな!? 怪我は無いかい!?」

アルミン「残念ながら怪我ばかりでこれ以上傷が増えても僕は気にしないよ……。ほ、ほら、やっぱり言っただろ? あのバイク、面白いって……」

マルコ「それを面白いで解決できるアルミンは凄いなぁ!?」

アルミン「君も同じだと思うよ、マルコ……いてて! 傷が開かなきゃいいけど……早く治してバイクに乗って遠出がしたいのになぁ!」

ベルトルト「…………」

マルコ「今日はスーパーだけに行くつもりだったけど後で薬局も寄ろうか! 新しい包帯を買ってこよう! 大雪が降って替えが買いに行けなくなったら大変だし!」

アルミン「僕のせいで手間を取らせてごめんよ! 出来れば本屋にも行きたいんだけどまた次の機会にした方がいいかな! 今日は買い物がいっぱいあるし時間に余裕があるときの方が……!」

ベルトルト「…………」

マルコ「そうだ、灯油が欲しかったんだ! 今年は相当寒くなるそうだし雪も酷くなるってニュースで聞いたってベルトルトが……! あれ!? 誰か暖房をつけておいてくれた!? なんか暖かいんだけど!? 洗濯物が早く乾きそうだよ!?」

アルミン「マルコの車を勝手にいじったりはしないよー! ベルトルトがつけておいてくれたの!?」

ベルトルト「…………」

アルミン「ベルトルト? 聞いてる? どうかした?」

ベルトルト「……ううん。ごめん。なんでもない……じゃあ、行こうか」

アルミン「マルコ、運転よろしく!」

マルコ「ああっ!」ブルルルル

ベルトルト「………………」

ジャン「ブルルルルブォーン」

エレン「…………ジャンの奴、行ったな!」

ライナー「街まで下りるのに一時間、それから大量の買い出しをしてから帰ってくるんだ。真夜中にならないといいんだが」



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エレン「…………」

ライナー「…………」

エレン「雪、降ってきやがったな」

ライナー「……ああ」

エレン「結構、ひどい降り方だな」

ライナー「……ああ」

エレン「なんか……猛吹雪になってないか?」

ライナー「……ああ」

エレン「アルミン達、大丈夫か」

ライナー「…………」

エレン「…………」

ライナー「…………」

エレン「こんな所に居られるか! 俺は迎えに行くぞ!!」

ライナー「待てエレン! お前のような二輪車が雪の中を突っ込んで行ったところで何になる!? すぐ動けなくなるぞ!」

エレン「でもそれはジャンも同じだろ!? 大量の買い出しで重くなった車体が雪の中で立ち往生してお陀仏? 考えられる話だろ!」

ライナー「だとしてもバイクのお前が行ったところで何も変わらない!」

エレン「俺はバイクだぞ!?」

ライナー「バイクだからだ! なんで俺を説得できるような顔してるんだよ!? 大したライトの向きだな!?」

エレン「クッ……! けど、だけど……!」



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ジャン「……聞こえるか……お前ら……」

ライナー「ジャン!?」

エレン「おいジャン! お前ら一体今どうしてる!?」

ジャン「クッ……頭の良いお前らも判ってるんだろ……立ち往生だよ。早くに街を出なかったのが悪かった、雲行きが怪しいと判っていながら街で待機しなかったのも……急いで逆効果だった……雪で前に進めねえ……!」

エレン「なっ!? お、おい、ジャン!」

ジャン「今は……あれやこれや色々あって俺の声をお前らに届けているが……それも限界だ……前が見えねえぐらい真っ白だ。しかも雪が高くなりすぎて車内で一晩越さなきゃいけねえのか……このままだとエアコンも停止しちまう……」

ライナー「もうそんなに積もっているのか!? それだと一晩のうちに車が埋まるぞ!?」

エレン「そ、そんなことになったら……中の三人は!」

ジャン「俺が潰れてあいつらもぺしゃんこだな……なあ、なんとかしてくれ……。俺が助けを呼べるのは……お前ら二人だけなんだ……じゃないと、また、俺はマルコを……アルミンを……こいつらを守れなくなっ……。ち……。…………」

エレン「ジャン!? おい死ぬな!? ジャーン!! くそ、俺は行く! アルミン達を助けに……!」

ライナー「さっきの俺の言葉を忘れたのか、エレン!? お前が行ったところで今度はお前が雪の中に埋もれるだけだ!」

エレン「くそぉ! 何も出来ないのかよ!! このまま……また、何の約束も果たせずに!」

ライナー「エレ……ン……」

エレン「俺は今度こそ……アルミンとの約束を果たしたいんだよ!! これからあいつとミカサを探し出して三人で約束の……!」

ライナー「約束……」

エレン「お前だってあっただろ、約束! ならこの気持ちだって判ってくれる筈だ!」

ライナー「……そうだ、約束……」

エレン「なあ! ……ライナー!」

ライナー「……ああ、俺も約束があった。ベルトルトを、守ってやるっていう約束……」

エレン「……ライナー!!」

ライナー「隣にいてやる戦士じゃなくなって、もう『お前を守る』というあの約束は果たせないと判って……車庫として見守ってやることぐらいしか出来ない……そう思っていた。だって俺は車庫だから」

エレン「違うだろ! お前が証明してくれたっていうのに、本当に支離滅裂な奴だな!?」

ライナー「エレン……?」

エレン「もう一回話してやる! バイクでも俺はエレンだって言った奴が早速何言ってやがるんだ!? 車庫だから何だ!? 車庫は車庫でも、ライナーはライナーだろ!?」

ライナー「エレン……!」

エレン「俺はバイクでも……雪の中を走るぜ! そしてアルミン達を助けに行くぜ!! お前はどうする!?」

ライナー「どうするって……!?」

エレン「車庫だから何もしないのか中途半端のクソ野郎!?」

ライナー「!!!! ……そうか、そうだったな。俺がベルトルトを見守っているだけなら……あいつは誰にも何もされず、ただ大人しく俯いているだけ……でも、誰かが……」

ライナー「誰かがいなくちゃ……あいつを、守ってやらなくちゃ……」

ライナー「そうだ……」

ライナー「馬鹿を言ってるんじゃない……」

ライナー「誰が守るって……?」

ライナー「ベルトルトを守れるような奴は、昔から俺しかいないだろ!!」

エレン「ライナー!!!」

ライナー「俺はライナー、車庫だ……だが車庫だからできることがある!! 車を雪から救う方法! それは……車庫に入れることだ!」

エレン「なに!?」

ライナー「車のジャンが俺の中に入れないのならば!! 車庫の俺が、ジャンの元に行けばいいだけの話!!!!」

エレン「なっ……そうか! ライナー……お前が動けばいいんだ! だが、行ける……のか……!?」

ライナー「行けるのか? 違うな! 行くんだよ!!」

エレン「ライナーっ……!」

ライナー「そういう無茶な発想は、かつてのお前の方が得意だったよな! エレン……俺はあいつらを救いに行く! 絶対にな!」

エレン「俺も行くに決まってるだろ。元からお前のことを信じてるぜ、ライナー。裏切られるのは一度きりでおしまいだ。助けられなかったなんて……嘘ついたら針千本飲ましてやる!」

ライナー「飲む口なんぞ車庫の俺には無いが……嘘なんてつくつもりはないからな!!」

エレン「よし、行くぞライナー!!」

ライナー「おお!!!!!」



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エレン「いた! こんな所に居やがった! ずっぽり雪に埋もれやがってジャンの奴!」

ライナー「だが押し潰されてはいないようだな、ジャンもよくやった!」

ジャン「はは……お前らの単純なところ、前々から嫌いじゃなかったぜ……そして、やっぱり二人ともやってくれる……お前らは、最高の同期だ……!」

ライナー「車庫ごとジャンを連れて雪の中を移動してやるからな! エアコンをつけてしっかりしてろよ!!」

エレン「死にかけの声なんて出すなよ、きもちわりぃ! 初日に廃車を抱えることになるマルコの気持ちを考えろ!!」

ジャン「ハハ……なんも考えたくねえだろうな……車庫が動き出すのも、誰も考えねえだろうよ……。寒さでぐったりしたあいつらが眠っていて良かったな……起きてたら絶叫だったぜ……ん……?」

ベルトルト「………………」

ジャン「ベルトルトの奴……起きてやがる……何だ、何か言いたいのか……?」

ベルトルト「……けて……」

ジャン「あ……?」

ベルトルト「……見つけて……く……」

ジャン「…………」

ベルトルト「見つけて……くれた……僕らを……。あり……が…………ライ……」

ジャン「っ……!!」



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エレン「――それから。ジャンを収容したライナーは、少しずつ車庫胴体を動かしながら元の持ち場に戻った」

エレン「ライナーの中は雪を通さず、完全無欠の鎧とも言える車庫は……ジャンの中に居る三人を守りながら、山奥のアパートに無事帰ってくることができた」

エレン「何が起きたか判らない顔をしていたマルコとアルミンだったが、生きて帰って来られたことだけを喜び、それ以外の事は深く考えなかった」

エレン「その切り替えの早さが、二人の長所だろう」

エレン「俺は思う……朝刊に凍死者のニュースが載らなくて良かったって――」

ジャン「おい、ライナー! お前も正体晒して乗り物カウントしてもいいんじゃないか! そしたらベルトルトを入れてどこにでも行けるだろ!」

ライナー「やめてくれ、俺は車庫だ。何者でもないただの車庫だ……あんな目立つことはもうしないさ」

エレン「俺もジャンやライナーみたいに屋根が欲しいな!」

ジャン「お前はバイクとしての誇りを捨てるなよ!!」

ライナー「エレンはバイクのまま生きろよ。バイクらしい無茶な発想があったからあいつらを救えたんだ。誰も欠けることなく、全員を守りきれた。それだけで良い。かつての俺には出来なかったことだからな」

ジャン「ああ……俺達には出来なかったことだ」

エレン「でも……この世界では出来る」

ライナー「だから、俺達は守っていこう。三人で、あいつらを」

エレン「ああ、みんなで!」

ベルトルト「ねえマルコ、アルミン。僕ね、全然車の免許が取れないからもういっそ小回りがきく電動自転車を買って来ちゃったんだけど」

マルコ「あっ、それって!」

アルミン「使いやすいって奥様方に人気の……!」

コニー「誰かお忘れじゃないかい?」

エレン&ジャン&ライナー「お、お前は……!!!」




 CAST

 車庫:ライナー・ブラウン

 自動車:ジャン・キルシュタイン
 バイク:エレン・イエーガー

 少年A:ベルトルト・フーバー
 少年B:マルコ・ポッド
 少年C:アルミン・アルレルト

 電動自転車:コニー・スプリンガー

 原作:『進撃の巨人』諫山創




 THE END

たとえライナーの姿を違えどライナーに守ってもらうベルトルトはかわいい。「車庫と車だったらどっちがライナーだと思う? 私は車庫かな」と言ったとある日に考えついたネタをそのまま文字に起こしました。元ネタは某迷作TRPGシナリオです。初めてシナリオシートを見たとき大爆笑しました。これでも愛に溢れたライベルとジャンマルとエレアルのつもりです。ありのままの姿見せるのよ。(フォロワーさんからお題を頂いてSSを書く企画をやってみた第8段。お題:「りんかんがっこう」「胡乱」「証明の再構築」「嘘ついたら針千本飲ます」「モーニングコールを頼む」「洗濯物」「朝刊」)
2014.6.26