■ 「セクサロイドトルトと愛欲の檻 第3章」
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少年がライナーになって、数日後。
若々しい体でベルトルトと共に時間を過ごしていたライナーの元に来訪者が現れました。
名前はアニ。近所に住んでいる女の子で、彼の幼馴染でした。
ベルトルトは小柄で大人っぽい雰囲気を纏った彼女を見たとき、なんて可愛らしい子なんだろうと感動します。
/2
少女はぶっきらぼうに言います。
「最近あいつが姿を見せないから」
「心配してきてくれたのかい?」
「別に」
そう言ってる割には、元気なのか、あんまり顔を見せないけどどうしたのか、これ学校の提出物なんだけどと色々気遣ってきます。
無愛想を装っているだけでとても優しい女の子だと判りました。
/3
「アンタ、あいつの友人?」
アニはベルトルトの顔をまじまじと見てくるので、恥ずかしくてなかなか目を合わせて話ができません。
顔も真っ赤になってしまいます。
「う、うん」
子供の頃から面倒を見ていたのだから親のような存在ですが、外見は20歳前後です。
彼と同じなのでそう頷くしかありません。
/4
「お父さんが亡くなってショックなのは判るけど、いいかげん復帰してくれないと……」
「彼は元気だよ。部屋に居るから呼べば出るけど、ライナーに会っていく?」
そんなに心配してくれているなら実際に元気な姿を見てほしいと思ってベルトルトは言いますが、「ライナー?」 少女はまず訊き返します。
/5
アニの友人だった17歳の少年の名前は、ライナーではありません。
だからキョトンとした顔を向けてきます。
真面目で美しい眼差しにベルトルトはタジタジしていると、中からライナーが現れます。
「アニ、これから俺のことをライナーって呼んでくれ。俺の家は上の代が亡くなると親の名を継ぐ風習があるんだ」
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咄嗟に出た嘘でしたがアニはさほど疑うことなく「そう。えっと、ライナーって呼べばいいんだっけ」。
「そうだよ。俺はライナーだ」
と仲良さそうに話を続けていきます。
「で、こっちはベルトルト」
ライナーが指をさして紹介をし始めます。
「俺の恋人だ」
指をベルトルトに向けながら、満面のドヤァ。
/7
「ハッ」 鼻で笑われました。ライナーはショック顔です。
だけど、ベルトルトにとってはクールでカッコイイ女の子。ドキッとします。
「あ、アニ、だったね。良かったらお茶でもしていきなよ。僕が淹れるから」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「普段のライ……彼はどんな子だったか教えてほしいな」
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「本人の目の前でいっぱい話してやろうかな」
「お、おいやめろよアニ! 公開処刑の何が楽しい!」
「へえ、教えてほしいな、ライナーってどんな奴だったんだろう」
「ベルトルト!」
「え、えっと、アニ。僕、ライナーのこともっと知りたいからいっぱい話してくれないかな?」
3人は家の中へと消えていきます。
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それからというもの、アニは頻繁に二人の家を訪ねるようになりました。
凛々しくさっぱりとした印象の女の子。
彼女のことをベルトルトはとても気に入りました。
二人きりのときもアニの話をするベルトルトにライナーが膨れっ面になるぐらいです。
「君は本当に繊細だね。何十年経っても変わらない」
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「何年も変わらずお前のことを好きでいられるから、永遠を続けていられるんだよ」
「……なかなか恥ずかしいことを言うね、君は」
「毎日恥ずかしいことをさせる身としてはもう慣れたもんだな」
「嫌なことを自慢しないでくれよ。……うん。ライナー。好きだよ」
「……お前も恥ずかしいことを言う」
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もうこの世にいない彼と、アニは仲良しでした。
近所に住んでいることもあり頻繁に遊んでたからです。
息子の友人ということもありライナーもアニと仲良くなりました。
ベルトルトもライナーを通じてアニと仲良くなりました。
大人しく人付き合いが得意じゃなさそうな印象のアニですが、そうでもありません。
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クールでも勝気に討論し合うこともあるような熱い心も持ち、人を気遣う優しさも持ち合わせつつボーイッシュにも見えますが可愛いものが好き。
さっぱりした性格がライナーとベルトルトには好意的で、アニも過度な接触をしてこないけど楽しい二人を好いてくれてました。
理想の友情だったかもしれません。
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アニが遊びに来た際、とあるチケットをベルトルトに渡してきました。
「サーカスのチケット。父親が貰ってきたんだけどその日、私は行けないから」
2人分を置きます。
「あ、アニ。実は僕、外には出なくて……」
「知ってるよ。けどなんで。外に出ちゃいけないぐらい病弱なの? 毎日運動してるみたいなのに」
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毎日運動してる……。寝たきりなら筋肉が衰えるだろうに、ベルトルトは人並みの体を維持している。
けど外出はしない。となったら自宅内でトレーニングをしているに違いないと鋭いアニは踏みました。
不正解です。ベルトルトは人らしい人ではないから体が変わらないだけ。勘違いしてもおかしくないです。
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ライナーは呟きます。
「毎日運動はしてるな……ベッドの上で」
「僕も思ったけど、どうしてライナーが先に言っちゃうんだ」
「すまん」
「しかも言ったら冷ややかな目で見られるって判ってただろ、なんで言っちゃうんだ」
「す、すまん」
「あーあ、アニがあんな目に。あーあ」
「すまんって言ってるだろ!」
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ライナーとベルトルトのやり取りを見ていたアニは(最初は冷ややかな目でしたが)フッと笑って「行きたければ行くといい。私は用事があって行けないからいらないなら捨てるだけだから」。
楽しい話をした後、いつも通りアニは帰っていきました。
そう言われても、ベルトルトは行く気がありませんでした。
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アニが去った後、ベルトルトはテーブルに置かれたチケットを掴むと「ごめんね、ありがとう」ゴミ箱に捨てようとしました。
「いや、行こう」
それをライナーが止めます。
「えっ? ライナー?」
今までそんなこと言い出さなかったのに。突然のライナーの「外出しよう」の言葉にベルトルトは困惑します。
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「昔とある奴と話をしてたんじゃないか」
「とある奴? 話?」
「どっかに行ってみたい、行ってみないかって話」
「……なんで君がそれを知っているんだ」
何処にも行けず寂しい想いをした少年のことを想い出します。
もう彼がいなくなって、アニが結婚して子供を産むぐらいなのだから、5年以上経ちました。
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「いつそれを聞いたんだ。あの子が君に言ってたのか」
「つい最近。日記を発見してな」
「日記が……そういえば先日掃除をしていたね」
「寂しいと日記にあった。繊細な奴だな」
「繊細な君から生まれたんだしね。さびしがりやも遺伝するよ」
そんなさびしがりやの胸に、ベルトルトはそっと抱きつきます。
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「自分はどこにも連れて行ってもらえなかったという恨み節が山ほどあったぞ」
「そう……」
「それと、お前をどこにも連れて行けなかったという悔恨の言葉も」
「そうなのか……」
「これから連れて行ってやろうという、野心もな」
「…………」
「……正直、あいつにはすまなかったと思っている」
「だから」
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抱きついてきたベルトルトを両腕で包み込んで、ライナーはぎこちなくも笑いかけます。
「明日行くぞ。お前も来るよな」
わざわざ確認してくる必要は無いと、ベルトルトはやれやれと思いながら頷きます。
「ライナーが行くなら僕も行くよ」
ベルトルトはライナーの唇と、その体に沢山口付けをしました。
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数年ぶり、数十年ぶりにベルトルトは外に出ました。
ライナーと共にサーカスを見に行きました。
世にも珍しい芸や動物を見せるためのサーカスですが、そんな所に行かなくてもベルトルトにとっては全てが珍しく楽しく新鮮なものでした。
「なんだか僕が知っている世界と全然違うよ」
「そりゃあ、すまんな」
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ライナーは苦笑して謝ってきます。
「ライナーは謝らなくていい」
「それでもすまないと思っている。お前を何処にも行かせたくなかったんだ。俺は傲慢で欲張りで我儘だから」
「うん、知ってる」
そんなところも可愛くて好きだよと外なのに口にしてしまいました。通りすがりのお姉さんが喜んだ気がします。
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一日中楽しい時間を過ごしました。
街を歩くだけで楽しいのに、歌や踊りや遊びに来た子供達の笑顔まで見られてベルトルトはご満悦。
ライナーも喜んでいました、あまりに楽しそうな顔を見ることができたからです。
「お前、大口開いて笑うような奴だったんだな」「あ、そうだね、自分でも知らなかったよ」
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とても楽しい外での一日を過ごしました。
帰宅後、二人は外であったことを沢山話しました。
翌日、また二人は外に出ました。
その次も、翌週も、暇さえあれば二人は外を歩いて過ごしました。
数年間閉じこもって過ごしていたことが嘘のように、今までの反動かいっぱい外に出るようになりました。
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そのおかげか近所の人達と話をするようになりました。
近所付き合いというものをし始めるようになって、二人は次第に「昔の知り合い達はどうなったんだろう」と思うようになりました。
ライナーは大成したくて外に出ました。
ライナーの夢を叶えるためベルトルトは彼についてきました。そういえば故郷は?
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外出に抵抗が無くなって半年。事件は起きました。
アニに不幸が訪れました。
とても悲しい事故で、アニの家族はアニひとりだけになりました。クールな女の子でしたがアニはお父さん想いだったことを知っています。
大きくなった家族を心から大切にしていたことも。
だから二人は、アニを支えようとしました。
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「アニ。俺達と一緒に故郷に行かないか」
「ここより田舎で山奥だから不便だけど、良い所だよ。新しい生活を始めるには良いかもしれないよ」
アニを無理に連れて行くことはできません。
しばらく氷に閉ざされたようなほど凍りきっていたアニの心は、完全に溶かすことはできずとも彼女は頷いてくれました。
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帰って来た故郷は、都会に比べると貧弱な地方です。
それでもライナー達は、一生を実験に協力する代わりに多額の報酬を受け取っていました。
山奥にそこそこ大きい家を建てて、アニにも家をプレゼントしました。
「アンタらは私を馬鹿にしてるのか」
サラリと言われてしまいましたが「まさか」と答えます。
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「君は僕らにとって大事な女の子だから幸せになってほしい。気持ちを形に表すとこうなっただけだ」
「落ち着いて家庭を持って暮らせ、と」
「ゆっくりでいいから」
そうして故郷での生活が始まりました。
落ち着くまで1年、3年、10年は経ったでしょうか。
ライナーとベルトルトは二人の時間を過ごし、アニは……時間は掛かりましたが、新しい家族を手に入れることができました。
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アニが元気になるまで支えようと決めていました。
そして凍った心を溶かす男性に出会えた彼女を、またこれからも支えていこうと、再度決意します。
「身勝手かもしれないけど、長く長く、永遠に幸せは続いてほしいものだから」
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長く長く永遠に。
その心は決して歪むことはありませんでした。
深く触れ合った少年。
少年と仲良くしていた少女。
自分達とも長い付き合いになった女性。アニ。
彼女にはとても感謝している。永遠に幸せを続けてほしい。
だから、ライナーは動き始めます。
平和に年老いていくアニを、同じものにしようと。
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ある日、帰宅したライナーはベルトルトに言いました。
「アニに俺と同じ永遠の方法を教えてきた」
ベルトルトは目を見開きます。
俯き、「そう」とこぼしました。
アニは病に伏せました。あの年齢ならそうなってもおかしくないと言われるぐらいですが、それでも死には早いです。
だから教えにいきました。
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「俺はアニに死んでほしくない」
「僕もだ」
「ベルトルトと同じように長く近くに居てくれた。別れたくない」
「僕もだよ。……それにしても僕達、我儘だね」
「ああ」
「神様がそろそろ別れを告げるべきだって言っているのに、身勝手に抗ってるんだから」
「神様に抗えるすべがあるんだからいいんだよ」
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「ずっとこんなことしていたら、怒られないかな」
「こんなこと? 怒る? 誰に?」
「終わる生をずっと続けて。……怒られるのかな、誰に怒られるんだろ」
「考えもしないのに言ったのかよ。変な奴だな」
ライナーは不安がるベルトルトの頭をがしがしと撫でます。
「ずっと愛し合って幸せでいることの何が悪い」
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「悪いことなんてない。怯えるなよ、ベルトルト。誰かが間違ってるって止めようとしたら俺は抗うし、お前と過ごすこれからの未来を守るに戦うぜ」
「ライナー、君は本当に強いね、それと」
それと。
その次の言葉をベルトルトは言いませんでした。
ライナーは安心しろとしきりに言います。
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それと、君が怖いよ。
僕を愛してくれる君を僕だって心から愛してる。
でも、その強い意思が、執念が、少しだけ怖い。
微かな恐怖に身を震わすとライナーは暖めるように抱きしめてくれました。
ベルトルトは震えを吹き飛ばそうとします。
……僕はもう、何も口を出さない方がいいのかもしれない。思います。
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その頃からです。
ベルトルトが何かを言うと「大丈夫だ。安心しろ。不安がるな」とライナーが元気づけてくれるようになりました。
それはいいのです。
でも決まって激励し、ベルトルトの言葉を殺すのです。
いつしかベルトルトはライナーに口を出すことをしなくなりました。
しても意味が無いからです。
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僕はただライナーライナーって名前を呼んで、好きだ好きだよと甘えるだけ甘えて、何年も何十年もいるべきなのか。
そんな考えに思い至る程です。
数日後。アニは二人へ元気に挨拶をしてきました。
若々しい姿で。
三人はまた楽しい時間を過ごすようになりました。
良いことです。そういうことにします。
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一体どれほどの月日を過ごしたことでしょう。
真夜中。ベルトルトは目覚めてしまい、ふと隣に眠っている少年を見ます。
ベッドの中、隣で眠っている彼。
自分を抱き締めるように眠っている彼は、少年でした。
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数年前までは青年でした。
数年前は少年でした。
数年前は壮年でした。
少年でした。青年でした。青年でした。少年でした。
今は、少年でした。
「……それでも君は、ライナーのままだ」
何年も何年も変わらず、自分は愛する人と共に眠ることができている。
そんな幸せ、誰も経験したことがないでしょう。
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恋人同士変わらず二人きりで小さな世界の中でいられる。
おそらくこの世で最も幸福な形。
それでもベルトルトは、唐突に考えてしまいました。
このままでいいのか。この姿は果たして許されるのか。
これ以上続けてしまっていいのか、と。
ベルトルトは問いかけては、ライナーに窘められますが、それでも。
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「なあ、ライナー。起きているのか」
ライナーと呼ばれた少年はゆっくりと瞼を開きます。
「またお前は、どうしようもないことで悩んでいたみたいだな」
「どうしようもないことかどうか判らない。何度も君に不安がるなと言われても、どうしても怖くてたまらないことがあるんだ。このままでいいのかって」
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「いいんだ」
「いいのかな」
「いいんだよ」
「本当に? だってこんなことしていたら君はずっと下の子達を……」
「うるさい奴だな」
ライナーの声が鋭くなっていきます。
怖い。いつもここでベルトルトは「ごめん」と言って諦めます。
でもそれももう何回目でしょう。
震えながらもまだ食いかかります。
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「でも、なあ、ライナー。ごめん、何度も言う。僕はどうしても目を瞑れない。僕は君と十分に生きた。生きてないけど生き続けることができた。そうだろ、だから」
「……………………………………………………………………………………………………うるさい」
最後は首をナイフで開かれました。
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ベルトルトは口を開きます。
「ライナー」
驚いて声を上げます。
「ライナー」
焦って声を荒げます。
「ライナー」
口を抑えて、傍にいる彼を見ます。
「お前は俺の言う通りにすればいい」
愛に溢れた、とても真剣な眼差し。
だけど凍てつくような瞳にベルトルトは後ずさります。
「ライナー!」
逃れられません。
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何年か前のお話です。なかなか自分を厳重な壁から外に出さないライナーがいました。
理由は自分が身勝手な別れを突きつけたからです。
だけど楽しい二人の時間を増やすために、外に出ることを許してくれるようになりました。
あの拘束も、解放も、ライナーの当時の心を知っているなら批難できません。
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そして今日の拘束も、ベルトルトはその心を知っています。
僕と別れることを否定するために。
僕だって別れたくないけど、君は僕以上に別れたくないんだね。
それでも僕は突き放すようなことを言い続けてしまったから。
君は強引な人だ。
優しくて寂しがりで甘えん坊で困った人だ。
ライナー。
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「ライナー」
どんなに心の中でライナーへの想いを馳せても、それを口にすることはもう出来ません。
どんなことを考えても、彼に伝えたいと思っても、口から出る言葉は彼を許容するかのように愛おしげに発せられる音だけになってしまいました。
知識のあるライナーは、そのようにベルトルトに設定しました。
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そうしてライナーは、ベルトルトをとある部屋に押し込めました。
「ライナー……」
怖いからそんなことやめてくれと頼んでも、まるで誘い込むような甘い声しか出ません。
手枷と足枷を付けられます。
逃げる気なんてありませんでしたがライナーが付けたい気分なので付けられます。
そして激しく抱かれます。
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気分が変われば時には縄、時には鎖。
来る日も来る日も愛されました。
優しい時間だけではありません。強く強く、狂ってしまうほど愛され続けました。
息が出来ないぐらい責め立てられたこともあります。
逆にどんなに触れてほしくて触れてもらえなかった日もあります。
苦痛を強いられたこともありました。
/52
とめて。嫌。もうやだ。イイ。いく。いかせてほしい。いく。嫌。イイ。やだ。もういやだ。もう。またいきたくない。とめて。いく。いかせて。やだ。もうやめてくれ。死ぬ。死なせて。痛い。やめてください。らくになりたい。たすけて。いく。助けて。やめて。こわされる。イかせてクださイ。気が狂う。
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して。いっぱいおかして。ぐちゃぐちゃにして。いれて。ください。犯して。飲ませて。味あわせて。いっぱい。欲しい。優しくして。また。もっときて。おねがい。もっと。いきたい。欲しい。気持ちい。味あわせて。出してください。せいし出して。飲ませて。激しく。気持ちいい。かき混ぜて。欲しい。
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毎日毎日。永遠と永遠と。
同じ事をして同じ名を呟いて。
そうしていれば身も心も染まっていき、自分の在り方に疑うことなどなくなりました。
どうしてセックスだけをしている。
それは、そういう存在なんだからだろう……いつしかそう思い信じるようになりました。
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ライナーは記録を残します。
いつかの息子が日記を残していたことがありました。
見知らぬ自分を学ぶ手段ができる手段。
記録は取るべきだと考えた彼は些細な事も記すようになりました。
毎晩のように激しく愛し合う記録も、先の自分に何か役立つことかもしれない。
倒錯した永遠はまた始まりました。
/57
何年も経って。何年も変わらなくて。
何年も続いたある日。ベッドに繋がれたベルトルトは目を開けます。
「……ライナー」
一声鳴き、ベッドに腰掛けていた持ち主の元に頬を寄せます。
腕を拘束されていたので、構われたくてもすりすりと顔を寄せ付けることしかできませんでした。
「ライナー、ライナー?」
/58
ベルトルトはもう何年もライナーに愛されるだけの日々を暮しています。
それしかされていません。
毎朝の習慣として彼に抱かれ、夜になれば食事や睡眠を取るよりも体を寄せ付けます。
「ライナー、ライナー?」
呟ける言葉はそれだけ。
何も出来ないベルトルトが、何も考えられなくなるのも早いものでした。
/59
突然のことでした。ライナーはベルトルトのうなじをこじ開け、設定を変えます。
ベルトルトの視界は真っ暗に反転しました。
数秒の機能停止。
そして目を開けます。
変わらずベッドの上に拘束されたままでした。
数分だけしか経っていないことに安心しつつも一体何があったのか目の前のライナーに尋ねます。
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「●●……!」
ベルトルトは驚きます。
口から出た言葉は、ライナーではなく違う名前でした。
その名前は、今のライナーが居る体に名付けられたものでした。
一度は消された名前をどうして呼ぶことにしたのかベルトルトには判りません。
「●●……」
相変わらず名前以外は話せませんでした。
/61
どうしてと首を傾げているとライナーは、いや●●は頭を撫でてきます。
「気分転換だ」
「●●……?」
「昨晩、お前が寝ている間に記録をずっと見ていた。日記も、写真もビデオも。どれも同じものが続いていた」
当然です、彼と彼はずっと同じことがしたくて何回も何年も続けていたのですから。
/62
「たまには、違うことがあってもいいだろう? それだけだ」
そう言って●●は今日もセックスをするだけの存在を愛し始めます。
理屈も道理も何にも無い、理解に至れない行動。
……ふとベルトルトは思いました。
何も変わらないことが幸せだと言いましたが、変化が無いとつまらないと感じてしまうのだと。
/63
100年続いていたものが明日壊れる。
呆気なく。特に意味も無く。
「……●●?」
呼び方が変わり、少し愛し方も違うものになりました。
あくまで気分転換です。ベルトルトがすることは変わりません。
この体尽きるまで行為を続けるだけです。
もし尽きたとしても、替えがきくことを知っていましたが。
/64
体が鈍くなったときもありました。
自分の寿命を感じる瞬間もありました。
でもそれを彼は察知し、新しい体に移行して普段変わらぬ日々を続けました。
●●は自分を愛しながら違う人間も愛します。
新しい体が生まれ育っていくのを遠くから眺めます。
そう数年過ごしていると、移行の時期が訪れました。
/65
「起きたときには新しい体だ」
彼はそう言いながら、ベルトルトを保管しておく棺桶に彼を寝かせました。
それは寝室の壁の中にあります。
「暫くの間、我慢して寝ていてくれよ」
そうは言ってもベルトルトにとっては一瞬暗転して終わるだけなのですが。
言えないベルトルトはニコリと彼に笑いかけました。
/??1
少しだけ夢を見ました。
全然知らない世界のお話でした。
なんだか不気味な化け物がいた気がします。
とても大きな化け物のように見えました。
/??2
「●●!」
名前を呼ぶ、その一言に『おやすみ』『待っているよ』『早く会いにきてね』『愛してるよ』を込めて、「●●……」。
数秒の闇に落ちていきました。
/??3
よく判らない街に居ました。
高い所から街並みを見下ろしていました。
誰と? ライナーとです。
あそこはどんな街だろう、どうして僕らはその街を見下ろしているんだろう。
考えると、その街の名前が「シガンシナ」ということを思い出しました。
……思い出しました? そう夢の中で聞かされたのではなく?
/??4
二人は……自分と彼は泣きながら高い所で抱き合っていました。
怖いものがたくさん近寄ってくる悪寒がしました。
化け物でしょうか。いいや、化け物だけじゃありません。
色んな脅威が自分達に迫ってきている恐怖感に、吐き気がします。
夢の中なのにとてもリアルな感覚と気持ち悪さでした。
これは、何だ。
/??5
「不幸に終わった命は、必ず次では幸せになれるらしいぞ」
ライナーが、ぼろぼろでへとへとのライナーが自分を抱き締めて泣きながら話をしてくれます。
「殺し合った仲なら手を取り合う仲に、別れる運命だった二人は結婚したり親子になったり。次の世界で生まれ変わったら、絶対に俺達は幸せになれる」
/??6
「でもさ、ライナー、それだと」
震えながら、ライナーに抱かれて最期を待つ体が声を絞り出して言います。
「僕達、今の世界で愛し合っただろう。幸せにはなれるかもしれないけど、君と分かれることになるじゃないか。そんなの嫌だ」
「……じゃあ、こう考えよう。俺は一度、お前から離れた」
/??7
「お前を忘れ、危険に晒した。だから次はお前を忘れない。危険に晒さない。分かれる運命になったとしても、一生追いかけてやる。そして幸せに終わろう。次の世界はそうやって生きてやる」
……ライナー……。
「一度手放しておきながら、身勝手な話だって判っている。それでも」
ライナーは、跳びます。
/??8
とても高いところ、50メートルぐらいある大きな石の建造物から、僕を抱きながらトンッと空へ跳びました。
「すまない。俺の我儘に付き合ってくれ。俺達は最期までずっと一緒だ。死んだって離すもんか……」
/999
ベルトルトは目を覚まします。
目を開けると、少年が驚いた顔で立っていました。
/1000
本棚の背に隠れた壁に人が埋まっていたなんて知らずに驚愕する少年が居ます。
●●は居ません。
相変わらず●●に眠らされた後たった数分の暗転での目覚めのようですがとりあえず少年と真正面から向き合います。
「●●、●●!」
「俺は違う、●●じゃない。俺はライナーだ。●●の息子のライナーだ」
/?????1
「……嫌だ」
ライナーは布団に横たわるベルトルトの隣に胡坐をかき、眉間を抑え、呻いていました。
ベルトルトは……少しずつ鈍くなる体の感覚を覚えていました。
消耗していく作り物の体。
動かなくて心配顔になる彼。
何度も経験してきたことでした。今回もそのときがやって来ましたようです。
/?????2
でも今回は違います。
今回の彼は彼であって、彼ではない存在なのです。
ベルトルトは重い瞼を開きます。
「……ライナー」
名前は先々代と同じ。でも中身は先代までのものとは違うものです。
重苦しく名前を呼ばれ、ライナーは心配そうに横たわるベルトルトの指を掴みました。
この感覚、とても懐かしいです。
/?????3
作り物の体でも寿命は訪れ、動きが鈍くなり動けなくなる。
でも真っ黒く意識を飛ばしている間に新品の体に移し替えられ、新しく健康的な生活ができる。
今まではそう。でも今までの彼とは違う現状では……その連鎖が再び起きるかどうかは判りません。
僕は死ぬかもしれない、この感覚が懐かしいのです。
/?????4
遠い時代で一番最初に自分が倒れたときも、こんな風に彼は気遣っていたかもしれません。
彼は変わらず今も。自分を気遣います。
今も? いや? かつての彼と今の彼は違う筈だ?
彼は先代から中身の違のだから? でも名前は同じで? あれ?
彼は昔の彼と……。
鈍くなった頭で必死に考えますが、追いつきません。
/?????5
彼は死んだ。彼は彼に移り変わることで生きている。
移り変わった彼はかつての彼と同じ脳を持っているのだから彼だ。
けど死んだ彼も彼であることには変わりない。僕だけじゃなく彼も大勢いた?
一人に沢山長く愛されていたかと思ったけど、ああ、僕は沢山のライナーに愛されていたんだ!
なんて幸せ者!
/?????6
一度死んだこともある僕らはお揃い。ずっと生き続けたことすらお揃い。
僕達は本当に最期まで一緒だった。
死んだって離すもんかって……遠い遠い、多分一番遠いライナーの約束ずっと僕らは守っていたんだろうね……。
ライナーの指を弱々しく握り締めながら、かつての病人のときのように過ごしながら、ベルトルトの視界は暗転します。
/?????7
次の瞬間。目を開けるとそこは彼が住んでいたアパートの部屋ではなく、壁に別の自分が並べられたあの実家でした。
時間の感覚なんてベルトルトには既にありませんが、あっという間の移動に混乱します。
「よし、ベルトルトの中のものを新しいベルトルトに移行するか」
「……ライナー」
/?????8
それは、今の自分への死刑宣告。
「ベルトルト? どうした?」
「……好きだよ」
「俺もだ。さあ」
ふとベルトルトは思います。
次の自分は本当に自分なのか。唐突に不安になりました。
壁にいる自分と同じ顔を薄れゆく視界の中で見ます。
移行ってことは次は君が僕になるんだよね? この僕は終わって……。
/?????9
ちゃんとこれからも続けられる?
僕と同じく彼と一緒にいられる?
新しい彼は新しい僕をこれからも一緒にいられる?
今まで同じだったけど、次々新しいことが始まって、少しずつズレが出始めて変わっていくかもしれないよ?
本当に大丈夫?
問いかけても誰かが答えることはありません。
/?????10
決まった言葉しか喋れなくて、動かない口。
いくら混乱して不安になって泣き叫びたくても今の心を伝えることなんてできない。
だからベルトルトは、心の中で叫びました。
消えるかもしれない!
消える! 消えたくない! 死にたくない!
次の僕が生きようが今の僕が生きたいよ!
移行って何だ! 作り物って!
/?????11
壁に立っていた僕は本当に僕なのか!
死んだ後の僕は僕と同じ物を使っていても本当に僕なのか!
ずっと続くからって忘れていた!
死にたくない! 無くなるのが怖い!
……でも、始めの頃の僕は、自ら死を選んだんだっけ?
気付かなかったから、こんなに恐くなかったんだ。
それと、一番最初の僕も。
/?????12
死にたくなかった。
怖かったけど、ライナーの言葉のおかげで怖さを殺して。
久々に思い出した。
こんな怖さを、最期になるたび毎度感じてたんだっけ。
移る前のことなんて覚えてないや。
もう変わる。
混乱してると不安感だけが増すんだな。
もう考えるな。
早くライナーに…………。
/?????13
おはようと言ってもらいたい。
ずっと言い続けたい。
彼が死んだ後も生きていく先も、ずっと――――。
/?????14
とっても不安になってライナーのことを強く想ったベルトルトは、目覚めたとき今まで以上にライナーのことが好きになっていました。
だから心の底から言えます。
「ライナー」
ベルトルトは自分の役目通り、ライナーに身を寄せます。
「好き」
/?????15
永遠と役目を果たすだけの彼と、それを続けるために永遠を創り出していく彼。
実際に別物になった彼がどの結論に至るかは、
「好きだよ、ライナー」
「俺もだ」
あと数十年後、彼らの毎日を巡らせていけば判る話です。
身を寄せるだけでなく、彼らは今日も一つになっていったのでした――――。
/????????????
おしまい。
第3章 END
【連載あとがき】
参考資料というかパロディの元ネタとコンセプト
・『1999年のゲーム・キッズ』
・『どこでもドアの思考実験』
・『沼男は誰だ?』
・『進撃の巨人』
・ベルトルトが毎日セックスしてればいいんじゃね?
・ループものっていいよね?
・転生ものでいこう?
絶対に入れたかった要素
・4月中毎日更新
・ライナーの名前しか呼べないベルトルトという設定
・ライベルだけじゃなく他の人も巻き込んだ迷惑恋愛連鎖テイスト
・よく判んなくて錯乱し始めてウワアアアってなった人が最終的に「愛って最高! 僕の恋人最高! だいすきちゅっちゅ!」ってなる展開
できれば入れたかった要素
・セクサロイドトルトも病弱トルトも進撃原作軸トルト(逃亡した先のシガンシナで追われるのに疲れてライベル心中設定)も同じ世界線なんだよという設定
・子ライナーに恋してきゅんきゅんしたけど殺されてショックなシーン
・快楽責めされて崩壊する展開
・苦学生もえ
ライナーと愛し合っていたのに疑念を抱き、洗脳され、愛され続けるベルトルトはかわいい。おつかれさまでした。
2014.5.9