■ 「 陵 辱 劇 」



 /1

 閉じられていた彼女の両脚を、正面から開いた。
 夜の教室で、ベルトルトは長机の上に乗せられ丸裸で脚を開かされている。大きな目がうるうると濡れていた。
 無理もない。ここは暗闇。小さなランプの微かな光しかない兵舎。机の上に乗せられ、無理矢理脚を開かされ背後から胸を揉まれている。そんな中、反り立った性器を見せつけられて怖がらない子はいない。
 涙を溜め「恥ずかしい、嫌だ」と声を上げていた。大きな胸を揉まれ、先端を指で長く弄られている彼女は熱い息を吐き続けている。
 散々Bの手で揉まれているというのに、両乳房は崩れず肉付き良く張っていた。

 女の子にしては低い声で、時折愛しい人の名前を呼んでいる。「ライナー、ライナー」と。その仕草が可愛らしかった。決してオレ達の名前を呼ばないところも憎い。そんな憎さを見ていたらつい意地悪なことをしたくなってきた。
 やだ、拡げないでと抵抗するが、体に力は篭っていない。
 露わになった秘裂の周囲は案外、毛深い。まじまじと剥き出しの女性器を眺める。

 ――女の子の体って、気持ち良いと濡れるって言うけど。あれって本当なんだね。

 オレが呟くと、ベルトルトは顔を激しく振った。
 乱れる声をオカズにちんこを扱いていたCが、もう少し優しい言葉を言ってやれよ、と文句を言う。ベルトルトを後ろから抱きかかえて両胸を揉み続けるBも、Cだって女の子の前でそんなことしながらよく言えるな、と笑う。
 男子達の会話にベルトルトは耳を赤くしながら鼻を啜った。こういうことに免疫が無いらしく完全に怯えてしまっている。
 そうだ。ベルトルトは女の子だ。
 彼女は、幼馴染の男子に静かに恋している普通の女の子なんだから。
 短かすぎる髪型をしていても、洒落気の無いセーターとパンツ姿でも、男まさりという訳でもなくベルトルトは女の子なんだ。一端の羞恥心ぐらいは持っている。
 そんな子の長い足を開かせてもらったのだから、オレは期待を裏切らず、股間に顔を近づけた。
 普段は地味な下着で隠していた秘部から、むあっと熱気を感じた。「やだ、もう、いやだっ」 泣き声が力無く教室に響く。きっと想い人にもここまで見せたことはないだろう。オレが息を吹きかけるとぶるぶると綺麗な太腿を震わせた。ひくひくと上げる啜り声が、とても可愛らしかった。

 オレは開かれた草叢を指で摩ってみた。
 きっとそこは小便臭いんだ、官能本にありがちな甘い蜜の味なんてしないんだ。そう思いながらおもむろに愛液が溢れる膣口に唇を寄せてみる。
 けど驚いたことにベルトルトは入浴直後だったせいか、いくら鼻を近づけても不快感のある香りがしなかった。
 女の体に幻想なんて抱いてない。生身の女の子には多少の生臭さがある。それぐらい覚悟していた。寧ろその匂いを心待ちにしていたぐらいだ。実際には女の子の良い匂いの方が先立っていた。今は可愛い声が聞きたさと、彼女に気持ち良くなってなってほしいという気持ちの方が勝っていた。
 夢中でベルトルトの膣口に舌を這わす。
 やだやだ喘ぎながらベルトルトが足を閉じようとした。
 しかし背後で胸を揉んでいたBがベルトルトの両腿を掴む。脚を開くように固定した。
 両足を閉じられなくなったベルトルトが大きな声で鳴く。敏感な突起に舌が襲いかかる。「ひぃ!」 いくら悲鳴が上がろうが、構わずオレは表面を舐め続けた。
 溢れている液は彼女が喜んでいる証だ。そう思うと余計にくりくりと味わいたくなった。苦みはある。でもちっとも苦にならなかった。
 感じる箇所を探ろうと舌を中に差し込んだりしてみた。やはりと言うかベルトルトが一番声を上げた場所は、陰毛の中に隠れた突起だ。
 舌で陰毛を掻き分ける。閉じた場所を舌で突いてみる。「やめて、感じちゃうっ」 そう叫んだ後に体がびくんと震えた。腰を浮かせるほどの過剰な反応だ。きっとここを使って自分を慰めていたんだ。確信した。
 今度は舌で突くだけでなく、クリトリス全体を口で覆うようにしてみた。ぱっくりと口を開けてクリトリスを全方位から責める。まるで逃れられないように舌全体で突起を貪った。
 恥ずかしそうに声を上げた。肉の付いた大きな尻を動かしながら悶えていた。
 それならとオレは上から、下から、舌を強く激しく動かしていく。いくら悲鳴を上げたって、ぷるぷると天を向こうとしているクリトリスへの愛撫を止めなかった。
 動きを少しずつ激しく早いものにしていくと、ベルトルトは高い声を上げていった。

「ああ、だめ、イく、はああっ、イくう……!」

 中からぴしゅっと液体が溢れ、口内を襲う。
 こくんと飲み込んでみた。不愉快さなど微塵も感じなかった。寧ろ女の子が快感に捕らわれた達成感が大きい。夢中になって絶頂に悶えていたと思うと、感動してしまう。
 両乳房を鷲掴みにされていたベルトルトは、荒い呼吸を吐いてぐったりしている。
 乳首が天高く盛り上がっていた。背後からベルトルトの胸を味わい続けていたBも、興奮しきった顔をしていた。

 ――ねえ、やっぱりその声も、ライナーは聞いたことないの?

 目を瞑り快楽に酔っていたベルトルトはピクリと動く。悲しそうな目でオレを見た。

「なんで……そういうこと、言うんだ……」

 絶頂に導かれ涙を溜めていた目が、本格的に流れたのは、きっと『ライナー』の名を聞いたからだろう。
 それまで悲鳴を上げても涙は流さなかったのに、ぽろぽろと彼女の大きな目から雫が零れ落ちた。



 /2

 万年一位の成績を誇るミカサ・アッカーマン。一位に及ばないが鋭い斬撃と静かな跳躍に定評のあるアニ・レオンハート。その二人の連携なんて見てしまったら、誰もが見惚れてしまう。
 遠い国の血を引いているという珍しい顔つきをしたミカサ。無愛想で恐ろしい噂を装備してはいるが小柄で可憐な美少女のアニ。二人とも成績が良く、上位十位どころか五位が約束された美少女達にファンは多い。オレも例に漏れず彼女達に惹かれている一男子だった。
 美少女二人の空の舞いに見惚れていた。街中を立体機動を使って駆ける訓練初日だというのに、友人のBとCと共に別世界を踊る彼女達に目を奪われてしまった。
 その光景はオレが知っている世界ではなかった。
 あれが、上位五位の実力。
 同じチームで学んでいる仲間なのに、こんなにもオレと生きる世界が違う。自分も訓練に参加している一員だということを忘れてしまうほど美しい技術を目の当たりにして、オレは愕然とする。
 オレはあんな技術は無い。もう訓練兵団に入って二年以上が経ったというのに。
 ああ、もう一度訓練兵をやり直したい。何もかも叩き直したいよ!

 空を軽々と飛ぶ少女二人。彼女達と同じくオレも屋根から屋根へ飛び移る訓練をしている。
 だというのに夢心地になっていたオレはバランスを崩した。アンカーを出すタイミングを誤り、真っ逆さまに石畳へと落下していく。
 Aッ!
 友人のBとCがオレの名前を叫び、ミカサとアニも驚いて急降下のオレの方を見た。
 激突する! 三階建ての建物の高さから、頭から地面に激突してしまう! オレは死ぬ!? 死んじまう! ……ああ、馬鹿をした……。全てを諦めて目を瞑った。

 同じチームの男子ライナー・ブラウンの雄叫びによってオレは目を覚ました。
 野太い声に何事かと瞼を開くと、オレの下にはライナーが居て、オレの体を受け留めるように両手を開いていた。
 ライナーはオレの下に割り込んだ。瞬時にワイヤーで重力を殺し、ライナーが下敷きになる形で……同期のオレを助けたんだ。
 だからオレには痛みなど無い。ライナーが全部受け留めてくれたおかげでオレは九死に一生を得た。
 だがライナーはどうだろう。
 いくら重力を殺しきったとはいえ、オレにも並みの体重がある。その体重を引き受けて石畳に激突したんだから、ライナーの負傷は……。
 オレが震える声でライナーの名を呼ぼうとする。けどそれより前に、ライナーの同郷だというベルトルトが駆け寄り、叫んだ。

「ライナーッ!」

 それからの展開は早かった。
 ベルトルトだけじゃなくオレの友人BとC、ミカサとアニが駆け寄り、音と声を聞きつけた心配性のクリスタや、この場を指揮する教官までもが駆けつける。
 オレは無傷だ。でもライナーは血を流していた。
 そのときのベルトルトの形相と言ったら。

「ライナー! ライナー、死なないで!」

 見ているだけで不憫になるぐらいの様子だった。
 血を流すライナーを見るなり真っ青な顔になり、大声で彼の名前を呼び続ける。クリスタや教官が「大丈夫だ」と窘めても、ベルトルトは取り乱したままだった。
 最終的に、アニの平手打ちで決着がついたけれど。

 優秀で美しいミカサやアニが目立っているせいで、同じぐらい優秀な少女がいることをオレは、いや、同期の大半は忘れていた。
 上位五位の中に入るぐらい優秀な少女がいる。名前はベルトルト。特に目立った特徴が無い彼女は、とても存在感が薄い。
 女子の中では背が高い。だが男社会の兵団ではごく普通の体格だ。端整な顔だが、珍しい顔つきのミカサや絶世の美少女クリスタがいる104期では目立つことはない。
 敢えて特徴を言うなら、体格が良いから他の女子よりハスキーな声をしていることと、十五〜十六の少女達よりも大人びた体つきをしているぐらい。
 普段から大人しく、芋女のようにエキセントリックな発言をして目立つこともないベルトルトは、何か事件でもない限り表に出てくることがなかった。

 だから余計に取り乱したベルトルトが印象的だった。
 彼女は目立たない子だったし、目立つことを怖れている節もあった。
 オレはライナーとよく話をしていて、そのライナーの幼馴染だから名前を憶えていたに過ぎない。ミカサやアニのように目を奪われることなんて今までなかった。
 今まで一切興味が無かったのに、幼馴染の少年に縋る彼女の姿はズボンの下の自身が硬くなっていくほど可愛らしかった。

 訓練が終了する。教官からの叱責、BやCからの半笑い、ミカサとアニから静かな忠告を受けたオレは、すぐさま医務室に向かった。
 命を助けてくれたライナーに謝りたかった。会ってごめんと言おう。ありがとうとも言おう。もう一度訓練兵をやり直したいなんて出来ないことをグズグズ悩んでバカをしたんだ、すまなかったな……。そう言おうと思いながら医務室のドアを叩こうとした。そのとき、室内から口論が聞こえた。
 扉が開かれても、部屋の中の怒鳴り声は止まらない。
 ベッドには身を起こしているライナーが居て、人当たりの良い彼が声を上げていた。ベッドの横には興奮しきったベルトルトが、同じく彼に声を張っている。

「君に何かあったらどうしたらいいんだ!」

 ライナーの身を案じるベルトルト。
 怪我をした同郷に対して心配でならなかった彼女は、滅多に出さない大声で彼を士かる。
 二人は命からがら故郷から逃げてきた運命共同体だと聞いていた。彼らは単なる幼馴染ではなく兄妹のような関係らしい。ならここまで心配しても仕方ない。

「この程度の怪我で喚くな!」

 ライナーってこんな声で怒るんだな。思いながらその様子を見ていた。

「今まで大きな怪我をしなかっただけだ、これから怪我なんていくらでもする! 『兵士なんだから』当然だろ!」
「……ッ!」

 オレ達は兵士になるために訓練を受け、巨人の餌にならぬよう技術を磨いている。その中で血を見ることは避けられない。
 だというのに、ベルトルトはライナーが傷付くことが許せなかったらしい。
 そして、『さっきのライナーの一言』に酷く心を痛めたようだ。
 彼から顔を背ける。そのまま走り去ろうとする。
 後ろを見てなかったベルトルトは、入室していたオレに気付かず激突した。普段のベルトルトだったら「ごめん」の一言を言えただろうに、彼女は何も言わず口を抑え走り去っていく。
 どきっとした。
 激突したときの感触が柔らかかった。当然だ、女の子だもの。今ばかりは体格が良いベルトルトがとても小さく見えた。
 切ない。
 思わず手を伸ばし引き止めようとしてしまうぐらい。
 だけど、オレが原因で彼女の大切な男を傷付けたんだ。どんな顔をしたらいいのか判らない。彼女に触れることなんてできなかった。
 苛立った顔をしていたライナーは、オレの顔を見るなり笑う。「怪我は無かったか、A?」 オレより包帯を何重にも巻いた本人が、無傷のオレを気遣う。
 ごめんな、ライナー。ありがとう、ライナー。謝罪と感謝の言葉を言うためにオレはここに来た。けど、それ以上に言いたいことができてしまった。

 ――なあ。お前達が同郷なのは、オレだって知っているよ。
 でも。いくら仲の良い幼馴染だったとしても。もっと良い言い方があるんじゃないか。
 あんなに心配してくれた彼女に、お前は何も――。

 そこまで言って、ライナーが笑いながらも握り拳を崩さないことに気付いた。
 ビビリのオレは、それから先は何も言えなかった。



 /3

 机の上に乗せられたベルトルトの声が、夜の教室に薄く響く。
 身を捩じらせて息を吐く姿。暗闇の中。微かな光の中。浅黒い裸体が揺れている。
 背が高く、筋肉も適度についた体はどこを見ても興奮する。
 ランプでちゃんと裸体を照らすよう、Cに命じた。
 ベルトルトの後ろに回り込んだBは、未だ背後から両胸を掴み続けている。乱暴に巨大な乳を鷲掴みにされ、ベルトルトははあはあと熱い息を吐いていた。
 さっきのオレとのやり取りに興奮しきったBは、オレのじれったいやり方に我慢ならなかったらしい。Bの指は、ベルトルトの乳房に深く沈んでいる。こねる手は激しく動いていた。
 感じきったベルトルトがひいひいと喘ぐ声を聞いているだけで、オレ達はどうにかなってしまいそうだった。
 オレも目を血走らせながら、Bが下から抱える胸を、指で上から押し潰した。肉の余る巨大な胸をに指を沈める。
 これほど大きいものなのに、形を崩さずに上を向いている。つんつんと指を沈めていく。
 やめて、痛いんだ、許して。そうベルトルトは首を振るう。
 乳房の先の乳輪は、大きな胸に比例して大きめに形を作っていた。先っぽが綺麗だと心の底から思う。
 身を捩じらせると大きな山が震えていた。両手で乳房を掴む。指が沈む。肌が吸い付くとはこのことを言うのかと実感し、前と後ろから二人で手を動かしていった。
 ぐいぐいと乳房を揉むと、指と指の合間から形を変えてはみ出していく。
 きつく揉んだつもりは無かった。だけどベルトルトはもう何十時間も責め立てられているかのように、顔を真っ赤にしている。
 それでも嫌がっているようには見えない。反応が大きすぎるようにも思える。これは悦んでいるものなんだと思い込む。
 オレはその中心で立とうとしている突起を指で小突いてみた。
 敏感なところを直接刺激されて、ベルトルトは逃れられない悲鳴を上げた。
 声を我慢していたときとは全然違う、他の女子よりはずっとハスキーな声だが可愛らしい喘ぎ声に、下半身がずくんと蠢いてしまう。
 乳房を揉むことよりも指先に神経を集中させ、くりくりと先端を弄る。
 壊れ物を扱うよりも優しく、それこそ綿を撫でるかのように親指と人差し指で両乳首を摩る。「はあ、やあっ、やめて、おかしくなるっ」 きっと責め方としては二流だろう。でもベルトルトの声はどんどんと喜びの増した声になっていった。
 ――ねえ、ライナーとはこういうことしたことないの?
 隆起していく先端を撫でながら、正面からオレは尋ねる。

「な、ないよ……だって」

 びくりとベルトルトが体を震わせた。オレの指の刺激ではなく、その質問に対して身を震わせていた。

「ライナーと、僕は……そんな関係じゃない、から」

 その声は、とても淋しそうだ。
 きっとこんなことをしたい、してもらいたいという願望はある。だってベルトルトはこの教室で、彼の匂いを嗅ぎながら、彼の座った場所を陣取りながら体を慰めていたんだから。
 喜んでいた表情が一気に沈んでいく。可哀想な質問をしてしまった。反省の気持ちを込めてオレは少し強めに乳首を摘まんだ。「んあっ! ひっ、やぁ、っ」
 痛みを感じる程強くした方がベルトルトの為になるのか。その方が悦ぶのか。付き合いの浅いオレには見当もつかない。

「や、だっ……らいなぁ……」

 身を捩って喘ぎ声を上げる姿を切なく見つめながら、掌にたっぷりと余る乳房をまた揉みしだいた。



 /4

 ベルトルトはよくライナーの傍に居る。そのことを茶化した男子が居た。

「俺とベルトルトは同郷なんだ」

 けろっとした顔でライナーは説明する。俺達はガキの頃からの付き合いで、一緒に家畜の世話をしたもんだ、昔は一緒に水浴びだってしたぜと話してくれた。
 ライナーの顔は涼しい。その顔は自然で何も疚しいことも考えていない。ただお互いの関係を説明しただけに過ぎなかった。
 茶化していた男子ですら面白くないと話題を切り替えたぐらいだ、ライナーはベルトルトのことを特別に想っていないとよく判る一幕だ。

 だが、今思えば。
 ベルトルトは明らかにライナーを目で追っていた。

 同郷故の親近感だけじゃない。愛情を持った目で彼を見つめていた。
 注目して見れば誰でも判る。ついついベルトルトの近くに居るアニにばかり目を奪われていたオレは、そんなことも気付けなかった。
 どうしてこんなにベルトルトに注目するようになったかと言うと、簡単な話で、ライナーに邪険に扱われ逃げ去ったベルトルトが気になって仕方なかったからだ。
 あの事件以降、二人の関係が変わったという話は聞かない。一見、二人の仲は崩れていないように見える。
 でも、実際はどうなんだろう。
 あの後、ベルトルトはどうしたんだろう。
 誰かに慰めてもらったんだろうか。一人で悲しみに暮れたのか。ライナーと再び話ができたのか。
 彼らの関係には口出しすることが出来なかったが、オレのせいで二人の仲に亀裂を入ったと思うと申し訳なくて、心配で数日眠れなかった。

 いつしかベルトルトの動きを目で追うことが日課になっていた。
 物静かなで、いつもみんなから一歩引いたところにいつも居るベルトルト。女の子にしては体が大きいことを気にしているのか、普段から身を縮こませているベルトルト。
 まるで巨人だと茶化され、困った顔をしながら微笑んでいるベルトルト。その顔は他の子に負けないぐらい可愛い。何より胸が大きい。多分同期の中ではトップクラスだというのはすぐ判った。
 よくミーナと話している……と思ったが、ミーナと一緒に居るアニの方に心を許しているように見えた。
 アニは小柄だ。だからベルトルトと並ぶとアニの小柄さがよく判る。
 そのことを友人のBとCに話したら、あいつら「ベルトルトはアニの可憐さを引き立てる役だ」と言いやがった。「ベルトルトだって可愛いさ」と言い返したら、おかげでそれ以降BとCに茶化されるようになった。

 やはりと言うべきか、ベルトルトは大抵……男子達の中央で座るライナーを見ている。
 彼のことが気になって仕方ないのか、心配そうな顔で、時折淋しそうな顔で笑うライナーを見ている。
 そんなに気になるなら声を掛ければいいのに。幼馴染ならそれぐらい可能だろうに。
 そう思っていたが、何故ベルトルトが声を掛けないのか、彼女を見れば見るほど理解した。
 ライナーは、とある少女――クリスタに夢中だった。
 男子の中では有名な話だった。彼はなにかとクリスタを意識し、「彼女は女神だ、結婚したい」と笑う。冗談で言うならまだしも、クリスタの前で嬉しそうに話す姿だって確認されている。
 そんな光景を見る内気な少女。眺めていると彼女がいかに不憫か判る。そうして誰も気付かない魅力の虜になっていく。
 未だにミカサやアニに見惚れることは多かったが、それとは別にオレはベルトルトのことを考えるようになった。

 ベルトルトに注目して過ごすようになり、三ヶ月が経ったときのことだ。
 オレと友人のBとCは三人で試験勉強に励んでいた。書庫に篭り、なんとか憲兵団行きのチケットが手に入るトップテンを目指して勉強をしていた。
 運が良ければ年間成績上位者に食い込むオレ達は、夜遅くまで、消灯時間を過ぎても学び続けていた。気付いたら誰にも気付かれず辺りは真っ暗闇になっていて、オレ達頑張りすぎだろ、と笑って宿舎に戻ろうとした。

 真夜中。いつまでもランプ片手に勉強はしていられない。ノートを纏めて宿舎に向かう。小さなランプの微かな灯りを頼りに、昼間座学の授業を受ける教室の前を通った。
 普段なら何事も無く通り抜けるただの廊下だが、その日は眠気が吹っ飛んでいたせいか、教室に誰か居ることに気付いてしまった。
 こんな夜中に教室で試験勉強? 立派なもんだなと声を掛けようとする。
 中に居るのは……ベルトルトだった。
 消灯の号令に気付かずここで眠ってしまったのか? 違う。
 ベルトルトはここで、自分の体を慰めていた。
 暗がりの教室。昼間、ライナーが座っていた席。彼女は何かの布を噛みながら、机の角に股間を当てて喘いでいる最中だった。

「……ライナー……」

 股間に角を擦り付けて。ぎちゅ、ぎちゅと鈍い水音を立てて。
 切なく呟く名前に、思わずにいられない。
 ――ああ、やっぱり。と。
 ベルトルトは噂が立つような美少女じゃない。でもどんなに地味な子で男みたいだと茶化されても、恋をして甘い息を吐く彼女はどんな子よりも魅力的だ。
 もっと声を抑えた方がいいよ、もっと人が来ない場所でやった方がいいよ、そう声を掛けるべきなのか。黙り込んで考えていると、急に口を開かなくなったオレを怪しんだCが「教室に誰か居るのか?」と止める間も無く室内へ入って行ってしまった。中から「ひっ!」と小さな悲鳴が上がった。
 仕方ない、説教して帰ろう。そう思ったオレも教室の中へ入る。
 だけど一歩足を踏み入れた途端、息を呑んでしまう。

 シャツの前を開け、豊満な胸を晒していた。
 それだけならまだいい。上半身だけなら。けどズボンまで脱いでいるとなっては、何も言えなかった。
 机に股間を押し付けてぐらいだったらまだ良かった。でも半裸……どころか全裸に近い状態では、オレ達は三人とも言葉を失う。
 暗闇の教室。おそらく四人は四人とも真っ赤な顔で見つめ合っていただろう。

「待って……」

 ベルトルトはオレの腕をガシリと掴む。か弱い声で引き止められたが、その手は素早くか弱さと真逆にだった。

「待って……お願い、何でもするから……ライナーに言わないで……」

 腕を離さぬまま、ベルトルトはそのままペタリと座り込んでしまった。
 元からそんなつもりは一切無い。
 だが。
 小さなランプの光で、ベルトルトの体がくっきりと見える。
 こちらの腕を掴み、ふるふると震えながら何度も懇願する彼女の姿。
 オレの心は揺らいだ。
 両手で腕を掴んでいるから、晒した胸も何も履いていない下半身も丸見えの状態だ。そんな姿に、欲情するなと言うほうが難しい。
 オレは意を決して、なんでここでしていたんだと尋ねる。
 何をしている、だとオナニーとしか答えられない。でも疑問はある。知りたいという心は拭えず素直に問い質した。

「ライナーが……いつもここに、座ってるから。背、高いから、いつも後ろの、この席、だし……。それにこれ、ライナーが手拭い忘れていったの、見たから」

 ――その布、ライナーのか。
 男女別の生活だから一緒に居られる場所といえばこの教室と食堂ぐらい。だから夜、誰も居ない部屋で、彼の痕跡が残るここで、彼の匂いを嗅ぎながら自慰に耽りたかった……?
 そうしているとベルトルトはぽろぽろと、オレ達が訊いていないことまで話していく。
 ライナーのことが好き。
 本当だったらもっと一緒に居たい。でも男女の壁がそうさせてくれない。
 ライナーとは付き合っていない。自分達は付き合うとか付き合わないとかの関係じゃない、そもそもライナーには好きな女の子がいる……。
 ベルトルトってこんなに饒舌だったのかと驚くぐらい、次々と口を開いていった。

「自分に魅力が無いことぐらい知ってる。……なんで女に生まれてきたんだろうって、いつも思ってるぐらいだ。こんな弱虫に縋られても嬉しくないって……自分でも判ってる。……もし、僕が男だったら。彼の親友として隣に居られたのに。親友として、彼を支える役をして……。いや、男でも似たようなことしてたかもしれないけど……」

 少しずつ告白していくベルトルトの声が、ただでさえ重いのにより重く、沈んでいく。
 オレは持っていた小さいランプをベルトルトに向けた。光を当てられてベルトルトは、恥ずかしそうに身を捩る。
 掴まれた腕を振り解き、腰を抜かしたベルトルトを立たせた。彼女はよろよろと立ち上がる。オレはベルトルトの腰を掴むと、持ち上げ、机の上に乗せた。
 至近距離のベルトルトが小さく息を呑んだ。

 ――何でもするって言っただろ? それなら、何でもしてもらおうかな。

 こんなあくどい台詞を言ったのは、生まれて初めてだった。
 でもこんなチャンスは二度と無い。半裸の子に「何でもする」と言われ、自分が上位者となった今、黙って見過ごす男がいるか?
 可哀想と思う反面、腹立たしさも感じていた。
 目の前で愛しい男のことだけを口走っているベルトルトに対して。
 弁解のつもりでオレ達にライナーとの仲と、無情な事実を話したつもりなんだろうが、どれだけライナーのことを想っているか聞かされたってオレには……嫉妬心しか生まれない。
 同情心だってある。でも心の大半を占めている「あいつから奪ってやりたい」という想いだ。
 オレはBとCの方に振り向く。じゃあオレ、今からベルトルトとヤるから。ハッキリと言うと、BとCはなんとも言えない顔をした後に……頷いた。
 どうやら彼らもオレと同じ考えなのか。ただ女と付き合えるチャンスに踊っただけなのか。
 この際、どうでも良かった。
 好きな子に触れられる絶好の機会を、棒に振りたくなんてなかった。



 /5

 教室の机の上で足を開かされて、まんこを舐め回されて、すっかりベルトルトは抵抗する力を失ったらしい。彼女はハアハアと熱い息を吐き、汗に濡れた全身を震わせていた。
 初めて見る女性器は予想よりもずっと綺麗だった。グロテスクなものだと聞いて直視できないかと思っていたが、ぬるぬると動く内臓は人体の神秘すら感じる。感動が強かった。
 これで許してやろうとも思っていたが、更なる感動に包まれたいオレは、ベルトルトの秘部を更に拡げる。
 ぬるぬると濡れたあそこが、くぱぁ、と口を開けた。
 何もせずに隣でちんこを扱いているだけだったCが、ボクも触っていいか、と尋ねてきた。オレが決定できる権利は無いが頷く。
 Cは恐る恐るベルトルトの股間に指を運ぶ。先ほどまでオレが舌で刺激していたクリトリスに触れた。

「うあっ!?」

 刺激が強すぎるのか、ベルトルトは初めての責め立てを受けたように体を震わせた。
 オレ達にとってはどの器官に相応するのか判らない。散々ぐちゃぐちゃになった後だというのに、ベルトルトは身を激しく捩って嫌がった。
 長い足が暴れ出す。オレは咄嗟に肉付きの良い右足を抑えた。するとベルトルトの背後に居たBがすかさず左足を掴む。「やっ、やだ、やめてっ!」 長机の上で更に足を開かされ、閉じることができないようにされたベルトルトは、両手で股間を覆おうとした。
 でも軽くその手は払い除けられ、行き場を失った両手は顔へと場所を移していく。
 Cは一度触れた指をまんこの方に滑らせる。オレの唾液と愛液でびちょびちょになった場所を拭った。「やっ! うあっ! もうやぁ、んああっ!」 中に挿入はしなかった。ぬるぬるした液体で手をふやかした後、もう一度クリトリスをスリスリと撫で始めていった。
 びくん、びくん。ベルトルトの腰が動く。動くたびに放り出された二つの乳房がふわり揺れる。
 濡れたCの指が調子に乗ってきて、高く隆起した陰核を責め立てていく。
 くり、くりっと。
 くちゅ、くちゅっと。
 ぐちゅ、ぐちゅりと。
 濡れまくった表面をゆっくり摩っていく。顔を隠したベルトルトは両掌で口を塞ぎ、より高く上げてしまいそうな声を我慢し始めた。

「ううううっ、んんんっ、やあ、もうやだっ、らいなぁ……!」

 今度は二つの指を交互に摩るように擦った。
 楽器を弾くように、何度も指に当て、離し、当て、離しを繰り返す。
 オレ達の目から見ると雑な動きに見えた。でも敏感になりすぎている女体はじわじわと快感で押し込まれているらしく、激しく悶絶し始めた。

「やだ、いやだ、イっちゃ、あ、んああああっ……!」

 その責めが何分続いただろうか。
 Cは荒い息をしながらベルトルトの敏感な場所を指でなぞる。ただそれだけ。オレ達は両側から足を抑え、その光景を見ていただけ。
 それだけだった。それだけで十分だった。
 びくびくと弾けて無我夢中に喘ぐ姿をただ見ていた。滅多に上げない大声を晒すベルトルトを、あらゆる角度から視姦していた。
 大きな胸が揺れて、とろとろの液を放って、涙を流して、涎を垂らして、気持ち良さそうな声を上げている姿を。
 それだけで満足できた。

「い、いいっ、またイく、くうっ……!」

 鼻水まで垂れ流して喘ぐほどCはベルトルトをイかせ終えて、満足して指を放す。
 すると今度は胸を愛撫していたBが乗り出した。Cと同じように陰核を責め始めた。「ひっ!?」 再び始まる執拗な責め。くちゅくちゅ音を立てて性器を甚振る指。ベルトルトは逃れようと暴れたが、もう儘ならない。
 Cとオレが取り押さえ、まだまだ元気なBが指を這わす。

「イく、イっちゃう、感じちゃ、ああっ、んあああああっ!」

 そうして二度目、三度目を迎えられてしまった。
 呼吸もおいつかないほどにベルトルトは何度も達され、長机の上はベルトルトの香りで溢れた。
 臆病者なオレ達のちんこは興奮しきっていたが、どろどろにとろけた膣の中に挿しこみたいと言い出す奴はいなかった。
 オレはしたいとは思ったし、おそらく他の二人も同じ筈だ。だけどそれをしたら問題になることを知っていたし、それ以上に……可愛いと思っていた女の子の全てを傷付けることを怖れて、言い出すことはなかった。
 ここまでしておきながら、全部を奪うことまでいけない臆病者ばかり。
 中途半端だからきっと成績も伸びないのだろうと考えてしまうぐらいに、オレ達は半端にベルトルトを汚し、半端に綺麗なまま放置した。
 よがり泣く姿に興奮したオレは、盛り上がったオレの半身を開きっぱなしの口に突っ込みたいと考えるようにはなっていたが、

「らい……な……らいなぁ……ぼく、うう、うっ……」

 その口が『愛しい彼の名前』を小さく叫んでいるのに気付いて、オレは動きを止めた。
 それでも衝動は止まらない。しごいていたものが炸裂する。
 精液を、ベルトルトの大型な胸に放った。
 Cも同じだった。我慢できず放たれた精液がベルトルトの腹に飛び散る。それを見たBもベルトルトの右掌にびゅっとびゅと放出していた。
 胸、腹、掌。全身を汚す。
 イき果てたベルトルトは体の上に出された精液をぼんやりと見ていた。性器はぴくぴく震えていた。本当にあくどい台詞が言える奴なら、誘っているように見えるぜ、とでも言えるんだろうか。無理だった。



 /6

 翌日。何事も無かったかのようにベルトルトは訓練に出ていた。
 オレ達もそうあろうと努めようとしたが、三人ともベルトルトの顔を直視することは出来なかった。
 何も知らないコニーとジャンが「あいつら、喧嘩でもしたのか?」「あの女が喧嘩するように見えるか?」とオレ達のことを話しているのが聞こえた。それぐらいオレ達は露骨にベルトルトを意識していただろう。
 ライナーはどうだろう。
 彼を見てみたが、判らない。いつも通りに見えた。
 普段と変わらず、ライナーは誰かの訓練を付き合っている。男友達と笑っている。そして片想いの少女の前で赤くなって話していた。
 ではベルトルトはというと、そんなライナーを黙って見ている。たまにライナーが後ろを振り返ってベルトルトを気遣う素ぶりをする。何事も無くいつも通り話をするライナーに、ベルトルトは静かに微笑んでいた。
 話し掛けられたら明らかに嬉しそうな目。楽しそうな声。
 じくりと胸が痛む。
 苛立ちを感じる。
 ふと隣を見てみると、その気持ちはBもCも同じらしく、二人とも隠れて口を尖らせていた。そしてオレ達は顔を見合わせる。これが嫉妬なのか。全員で思い知らされてしまった。

 それから誰が打ち合わせした訳でもなく、オレ達は夕食後の自由時間にベルトルトの前に集まっていた。
 ベルトルトは女子の宿舎にミーナやアニ達と向かう途中だったが、オレ達三人を見るなり不安そうな顔をしながらも寄って来てくれた。
 オレはミーナ達に聞こえるように「明日の訓練で相談したいことがあるんだ」と言い、その場から不安顔の彼女を連れ出した。

 書庫の中でも一番奥にベルトルトを連れて行く。彼女の背に本棚、三人で取り囲むように立つ。
 なあ、ベルトルト。名前を呼びながらふわふわした黒髪を撫でた。大きな体をびくっと震えて俯く。訓練を終えて汗を流した後だから石鹸の良い匂いが漂っていた。
 俯いたまま何も言わないベルトルトの様子を楽しんでいると、Bが彼女の尻を鷲掴んだ。怯えきった息遣いが聞こえた。でも声を荒げて抵抗することはなかった。
 そのうち、消灯時間になって灯りは消される。
 隠していた小さなランプで光を作り、闇の中で衣服を肌蹴させ、同じことを繰り返させた。
 誰かがベルトルトの豊満な胸を苛める。
 肉付きの良い尻を揉む。
 敏感なところを舐め回す。
 ベルトルトは突き飛ばして逃げることもせず、オレ達の指と舌の責苦を受け入れた。
 二度目も。
 翌日の三度目も。場所を変えて五度目も。
 果ては半年後も。

 けれど三人とも彼女の処女を奪うこともしなければ、唇を奪うこともしなかった。
 ベルトルトが「しないでほしい」と頼み込んできた訳でもない。オレ達が「しないようにする」と約束したこともなかった。
 ただオレ達は抵抗しない女の子をイかせて、その体の上に精を吐く。
 フェラチオをさせること、アナルを犯すことだってできた。でも彼女の中を探ることは一切しなかった。
 突き出た乳首を指で甚振る。ツンと張ったクリトリスを弄る。言われるがまま自己主張をしないベルトルトは体を翻弄されていく。強く拒否を示すこともなく、ただただ責められ喘ぐだけの日々を送る。
 そして同じぐらい強い意思も勇気も度胸も男気も無かったオレ達は、中途半端な抵抗しかできない彼女を嬲り続けた。それだけで満足していた。
 そんな関係を続けても、オレ達四人がが親しくなったかというと首を傾げる。それでもオレには見惚れて手の届かない世界に少しだけ入り込めた気がして、身勝手な自己満足に酔いしれることができた。

 ――このこと、ライナーには気付かれてないの?
 ある日。どろどろに汚した後のベルトルトに服を着させながら尋ねた。
 ベルトルトはどんな責めにもいやいや喘いでいたが、その中でも一番嫌がるのが、ライナーの名前を出すことだった。
 オレ達はこの方法がベルトルトを甚振るのに一番効果的なことを百も承知なので、反応が鈍くなったときによく名前を出していた。ベルトルトを生かすには、ライナーの名は何よりも効果がある。この日もまた、後は帰るだけの上の空から意識を取り戻して口を開くようになった。

「気付かれてないんじゃないかな……。だって、気付いていたなら……」

 気付いていたなら?
 気付いていたなら、何かしら言ってくるものだろう。気付いていて無視をするほど、無償で人の命を助ける男が薄情なものか。腹の立つ相手ではあるが、オレにとっては一応尊敬している人でもある。そこまで貶すことはできない。

「……故郷に居たときにね」

 聞いていないのにベルトルトは昔を語り始める。彼女はライナーのことになると饒舌になる。最初に関係を始めたときもそうだった。
 なんでも幼い頃、まだガキんちょだったライナーと一緒に遊んでいたとき、彼は「ベルトルトを守ってやる」と約束したらしい。「これからずっとお前を守ってやる」と。年下の女の子を俺が守るんだと、まるで絵本の王子様のようなことを言ったらしい。
 あのゴリラが! ロマンチックな台詞を! 聞いたオレ達は三人揃ってクスクス笑ってしまう。ベルトルトに怒られるかなと思ったが、彼女もオレ達といっしょにクスクスと笑い始めていた。

「馬鹿だよね、僕。ずっとその言葉信じていたのに。いつまで経っても助けに来てくれないんだから。今日だっていっぱい名前を呼んでも、来てくれないんだ。何が守る、だ。そんな言葉で女の子を騙して。この。……うそつき」

 クスクスと笑いながら、ベルトルトは、泣いていた。

「もう一度、守ってやるって言われたいな。……もう一度、やり直したいな。……そしたら……もう少し、ライナーに守ってもらえるような女の子になるのに。守ってもらわなくてもいいような女の子になるのに。……こんな中途半端なクソみたいな奴にならなかったのに……」

 クスクスと笑いながら、やり直せたらなんて夢みたいなことを。
 何度も、オレ達に聞かせるように。
 自分に言い聞かせるように。
 無理だということを。
 …………。
 ……。



 /7

 ベルトルトは第三位という好成績で上位十位に入賞した。
 ベルトルトの隣には次席の成績のライナーが立つ。トップテンに選ばれなかったオレ達は、彼女を始めとする十人の背中を見ていた。
 あの二人の位置は変えられないのだと思い知らされた。
 どんなに頑張ってもオレはミカサやアニのような美しい舞いもできないし、勉強に励んだって勝てなかった。巨人に喰われて終わる最期も遠くはないと思ってしまった。

 解散式後の食事会ではエレンの演説に盛り下がったり盛り上がったり。これからの未来に期待したり儚んだり憂いたり。
 狙っていた憲兵団にギリギリのラインでいけなかったオレ達は、気を取り直して「壁の掃除をする役を頑張ろうな」と飯を腹に入れていた。

 ベルトルトは前々から口にしていた通り、憲兵団に行くんだろう。となると当然内地に行くのだからもう会えなくなる。
 けど隣には彼女が愛した幼馴染がいるのだし、彼女はこれからも彼を追いかける日々を続けることができる。変わらずいられるんだ。関係が始まる前から見えていた光景に、文句を言うことなどなかった。
 席に着いて三人で訓練生として最後の駄弁り合いをしていた。すると、相変わらず地味な私服姿のベルトルトがオレ達の居るテーブルにやって来る。
 明日になれば内地に行くのだから、別れの挨拶に来たのだろう。オレ達は精一杯の笑顔で彼女を迎えた。

「みんなで話さないか」

 ベルトルトは「外に出よう」と誘ってきた。他の誰にも見つからない場所に行こうと言ってくる。これはもしかして、内地に行く前にもう一回ってことなのか。三人で顔を見合わせながら、「最高の思い出作りだ」とベルトルトの後を追った。

 相変わらず暗闇の中。小さなランプだけしか光の無い世界で、オレ達三人はベルトルトを取り囲む。
 いつもの切ない顔は、今日ばかりは抑え気味だ。
 この数ヶ月間、何度も目の前で服を脱いでもらった。溢れる肉を堪能させてもらった。ひたすら柔らかい肌を味わった。悶える声に酔った。酔っぱらって朝を迎えて、何事も無かったかのように過ごした。
 こんな風に堕落して過ごしていたのだから、更においしい目にあえる訳が無かった。世界は良くできているとこのときになって達観して物が見えるようになった。
 いつの間にかオレ達はベルトルトと共に思い出話に花が咲かせていた。
 Bがホントは一発ヤりたかったんだぜと軽口を叩く。実はボクもとCもはにかんだ。でも無理強いはしたくなかったからと、オレは本音を口にした。
 あんなことしておいて言うのもおかしいかもしれない。
 本心を言うと、ベルトルトを追いかけ始めた頃から、彼女にどうしたらもっと近づけるのかと考えてばかりだった。
 もう一度、もう一度やり直せるなら。彼女を意識し始めた頃、頻繁に考えていた言葉がざわざわと頭の中に駆け巡っていった。
 もうどうしようもないことなのに。

 オレ達が本音を吐き終えた頃には、ベルトルトは微笑んだ。
 その笑顔をもう少し早く見てしまったら、オレは彼女をガツガツに犯してしまったかもしれない。それぐらい可愛らしく腰にくる笑顔だった。
 何故最初から彼女の魅力に気付かなかったんだろう。三人でぼうっとランプに浮かぶ笑顔に見惚れていると、ベルトルトは愛しい人の名前を呼んだ。

「ライナー」

 と。
 暗がりの中からその名の主が現れる。
 全員背筋が凍る。ここでこいつが出てくるのか、と恐ろしい考えが浮かんで逃げ出してしまいそうだった。
 だがライナーは激怒するでもなく、気難しそうな顔をしながらも頭をぽりぽり掻いて現れただけだった。
 警戒は一気に解いた。特にオレ達に害を成すようなことはなく、ベルトルトの隣に立つライナーはいつも通りの男だった。

「……僕、今まであったことをライナーに話したんだ」

 ぽつりベルトルトが呟くように言う。
 へ、へえ、言ったんだ。思わず震えた声が出てしまった。
 しかし彼女は、クスリと笑うだけ。

「そしたらね……『なんてことをしたんだ』って僕、怒られちゃったよ」
「そりゃ怒るだろ。俺は間違ったこと言ってない」
「ライナーでも怒るんだね。本番は一回もしてないのに」
「してなくてもヤっていたようなものじゃないか。それで怒らないと思ったのか?」

 ベルトルトの頭にこつんと軽いゲンコツをするライナー。
 痛くなさそうな一撃にベルトルトは笑いながら「痛いよ、ライナー」と微笑む。
 まるで恋人同士のじゃれ合いだ。なんだ、この二人。やっぱりこういう仲なのか。
 残念がると同時に、何故かオレは安心していた。微笑むベルトルトの顔が、とりあえず向けていただけのような作り物ではなかったからだ。

「なあ、A、B、C。俺はな、ベルトルトをお前達に奪われたと知ったとき……殺意が湧いた」
「ライナー」
「別にベルトルトは俺の女じゃない。殺意なんてそんなの……。まあ、つまりな、お前らという存在が居たと判った途端、俺がベルトルトに抱いていたものを自覚したというか。おかげで俺は戻ってくることができた」
「ライナー……」
「煮え切れなかった感情を理解できるキッカケを作ってくれたんだ。ありがとよ。ベルトルトは俺のもんだ。今ならハッキリ言えるぜ。友人であるお前らにはこれからも生き残ってほしい。…………無理な話だが」

 ベルトルトの顔が一瞬喜び、次第に暗くなるのが判った。
 ライナーは饒舌に言葉を進める。今まで同じ学び舎で過ごしてくれてありがとう。三年間、良い生活を送れた。ベルトルトを慰めてくれてありがとう。感謝している。そう迷いなく唄うように言葉をつづける。
 二人は内地の安全な所に行く。でもオレ達は壁を挟んだ街、巨人のすぐ傍で生きていく。二人よりオレ達はずっと死に近い。しかも彼らほど力の無いオレ達は更に死に近い。
 その事実は判る。でも、「無理」と言うのは失礼じゃないか。
 同じことを思ったらしいCが前に出て笑顔で文句を言った。少しはボク達を元気づけてくれよ、ライナー。Cらしい言い方でライナーに近寄った。
 ライナーは頷きながらCに抱擁した。

「ベルトルトは、お前達のことを大切にしていると言う。俺が馬鹿をしてこいつを無視していた寂しい時間を、お前達が埋めてくれたから。感謝しているから、お前達に死んでほしくないと言う。人類と巨人の戦いが避けられなくても。喰われるのを待って恐怖の中で死ぬのは、お前らだって嫌だろう? だから」
「ありがとう、君達のおかげで気分が紛れた。でも君達のせいで人間を好きになりかけてしまったよ」

 それでもお前達に死んでほしくない。
 無理だというのに。

 繰り返しライナーは呟いた。抱擁していたCの両肩に手を置くと、次の瞬間その手は頭を掴んでいた。
 頭を、ぐいっと回す。くきっと音がして、Cは崩れ落ちた。
 なんか変な音がしたなと思いながらBを見る。Bはどうしていたかというと、いつの間にか背後からベルトルトに抱き締められていた。
 なんだよ、羨ましい。そう言おうとした瞬間、Cと同じようにBはベルトルトに首を持たれ、ぐいっと回される。またもや変な音がして、Bも崩れ落ちた。
 友人である二人の首が、ぽろっと落ちる。友人だった二人が、こちらを向いた。

「このままだとベルトルトは前に進めないと言う。お前らを残してここを離れられないと言う。だから先にお前らを潰しておかないと。前に進めないんだ」

 そう言ってライナーはオレの目の前に立つ。
 ベルトルトは今度は何をしている? 気付けばBを抱き締めたようにオレの背後に立っていた。彼女に後ろからゆっくりとぎゅうって抱きしめられた。あったかい。柔らかい胸が背中に当たる。気持ち良かった。そのせいで近付く死の恐怖が薄まった。
 瞬間、ぐるりと首が回る。
 ベルトルトと顔が合う。
 暗転した。

 だがオレはそこで終わらなかった。
 意識は途切れたが、一瞬闇に包まれただけで、まだオレは生きていた。

「ねえ、ライナー」

 彼らはオレ達三人を闇の中に葬ろうとしたが、相当急ぎの用だったらしく、ロクな確認もせずにオレ達の体を折り畳んで袋に詰め込んでいく。
 その動きはなんだか慣れたもの。まるで人殺しのプロのようだと思ってしまった。

「僕、まだ……誰のものでもないんだ」
「生娘だってことか」
「う、うん。そ、その、いっぱいイかされたりしたけど、キスもされてないし、その……処女なんだよ。まだ、だから」

 綺麗に三人まとめて結ばれ、袋に詰められてごろごろととある場所まで運ばれている最中。二人の仲の良さそうな会話が聞こえていた。
 三人分の男を一つの塊にするように結ばれていたから、ごろごろ運ばれる最中に骨が軋んで肉が歪み、それだけで死にそうだった。更に、ベルトルトの健気な声に殺されていく。ベルトルトは必死に、「自分はまだ君に愛されたい」「まだ愛してくれるかい」と言いたがっている。それが暗闇の中でも伝わってきた。

「ベルトルト、何が言いたい」
「……あのね、ライナー。僕は、君の……」

 弱々しい主張でも、ベルトルトは必死に彼に縋っていた。オレ達が何をしても変えられないぐらい、愛情をもって。そんな会話に殺されかけていたが、風が音が強くなってきて、掠れた声しか聞こえなくなっていった。
 もしかしたら五十メートルの壁の上に来たんじゃないかってぐらいの、強い風の音だった。

「お嫁さんになりたい。赤ちゃんを産みたい。まだ……その資格、あるかな……」
「そんなもの元から無いだろう。お前も。俺も」

 そんな幸せになるような資格……。
 それから先は聞こえない。
 袋の中で二人と折り重なっていたオレは、ベルトルトの顔なんて見ることはできない。でもきっと、いつもと変わらぬ切なそうな目をしていることだけは判った。

「……そう、だね……そうだよね……。僕と、君は……共犯者で……そんな関係で、結ばれることは、な……い……」

 重要そうな会話は聞こえない。だというのに、普段から聞こえずらい彼女のか細い息遣いがハッキリと耳に届いた。
 きっとこの数ヶ月、オレはその声を聞き逃さないようにしていたからだ。その癖が抜け切れず、こんなときにも、悲しそうな彼女の声だけは聞こえてしまうようになっていたんだ。
 袋の中でBとCの体重で骨を曲げながら、オレはクククと笑っていた。
 ごつんと何か衝撃が加わる。きっと変な音を聞きつけたライナーがオレ達、塊を蹴りつけたんだろう。
 ――ライナー、一言いいか。
 オレは最期の声を上げた。
 三人まとめて丸くなった袋をずずずと前方へ押されながら。そしてフッと袋が空に舞いながら。無重力を体感する最中に、オレは開けない口を開く。

「そんなに泣かせておきながら『ベルトルトは俺のものだ』? ふざけんなッ!」
「……A!?」

 オレが最期の一言を言ったせいか、驚いたベルトルトがオレの名を叫んだ。
 同時にオレは落ちて行った。
 おそらく、五十メートル下へ。

 最期の光景は憎い男の顔ではなく、『ベルトルトがオレ達の死を悲しんだ顔』で済んだ。
 最期に聴いた音は憎い男の言葉ではなく、『ベルトルトがオレを呼んだ声』で済んだ。
 なにより最後に言いたいことが言えた。きっとラストは『好きだった女がオレを想って流す涙』が流れていたと思いたい。なら巨人に喰われて終わるよりは良い死だったんじゃないだろうか。虚しいことに。悲しいことに。中途半端で下衆な人間の最期にしては恵まれた方じゃないかと笑った。

 もしもう一度訓練兵をやり直せるなら。
 何度も巡らせたことをまた考える。
 もしもう一度訓練兵をやり直せるなら。
 華麗な立体機動技術や天才的な頭脳よりも、泣いている女の子に声を掛けてあげるぐらいの勇気が欲しい。

 切に願った。




END

男の子達に襲われるベルトルト(メス)かわいい。ライベルのつもりですが、モブ視点で輪姦付きのモブベルです。女体化というものを初めて書きました。女のエロスを表現しようとしたとき、揺れる乳房の描写と陰核責めと妊娠については外せませんでした。これでもエロを精進しているつもりです。フランス書院文庫が溢れています。おっぱい大きいけど肝小さいベルトルトかわいい。
2013.3.14