■ 「 淫 乱 な 事 実 」
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ライナー。ライナー、ライナー。
名前を続ける。それだけじゃ足りない。だから残していくことにする。
忘れないようにするために。いつか彼みたいに忘れてしまう日が自分にも来るかもしれないから、その保険のために。
それと自己満足のために。こんなにこの名を恋しく想っているんだと思い知るために。見返して、まみれたこの名に満たされたいがために。
全ては自分を慰めるために。
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奥の奥まで知りたい、隠された場所まで到達したい。そう思いながら今日まで彼との何気ない時間を過ごしてきた。
「ライ、な……ライナー……」
俺が便所へ行くため席を外していたとき。ベルトルトは俺のベッドに顔を埋めて、こっそりとオナニーをしていた。
「ライナぁ、ラ……い、あっ……」
自室を離れていた時間は二十分。勉強の休憩時間としたら相当長い。便所のついでに友人とメールのやり取りをしていたらあっという間に時間が過ぎてしまっていたらしい。
たとえベルトルトが滅多に怒らない性格でも、ちゃんと俺の親から金を貰って雇われている家庭教師なんだ、大学の授業の合間をぬって小学生のために勉強を教えに来てくれている。仕事をしに来たんだから席を外しすぎれば遅いと叱られる。そう思うと何だか怖かったので、おそるおそる自室に戻ることにした。
だから部屋に近付く足音に気付かなかったんだろう。ベルトルトは部屋の主がドアの前まで来ていることにすら気付かなかった。
「ぅ……ライナー……ぼ、ぼく……うう……」
毎日俺が使っている枕に顔を寄せ、自分の股間を慰めている。
俺が近づいてきていることにも気付かず、夢中になって。
それでも隠そうという意思はあるらしい。切ない声を部屋の外へ漏らさないよう、枕で口を塞ぎ喘ぎ声を殺しながら自慰に耽っている。
部屋の外から覗く彼の痴態に、異常なまでに胸が高鳴った。
「らいな……ぁあ……ライナー……きみの……欲し……んっ……!」
彼が家庭教師になり、俺の部屋に来るようになって一年が経つ。たった一年、されど一年。俺達は親しくなった。年は十歳も離れているが大親友だと思っているぐらいだ。
たとえ大親友と思っていても、俺はベルトルトのことをあまり知らない。彼は自分のことをちっとも話してくれなかった。その彼が、漸く日常を匂わせる行為を晒している。
自分の部屋で変態行為をしている衝撃よりも、『彼は性欲がある普通の人間なんだ』と実感した途端、俺は嬉しくて堪らなかった。
「僕……ああ、うぅ……らい……ライナー、の、んぅ……」
ベルトルトが俺の寝汗が染み込んでいるシーツを噛む。
顔を突っ伏しながら、部屋の前に居る俺の名前を呼ぶ。
ライナー、ライナー。静かに名前を呼び続けている。
ああ、俺をオカズにしてる……倒錯行為に俺を使っているんだ……。
教え子の部屋で、十歳も年下の、しかも同性の匂いを使って……ちんこを扱いてるだなんて。
いつも俺の隣で参考書を開いている彼が、静かに手帳に何かを書きこむ彼が、筆記用具を忘れただけで『ごめんよ、先生失格だ』と慌てる彼が、イタズラをしたとき困った笑みを浮かべながら叱る彼が、俺が小学校であったことを話すたびに微笑む彼が、何の話をしてもニコニコと笑ってくれる彼が!
あんなに切なく吠えているなんて!
「ライナー……ライナーっ……!」
「何だよ」
我慢ならずドアを開けた。足音も無く前触れも無く突然開いた扉に、ベルトルトが素っ頓狂な悲鳴を上げる。
言葉にならない音を羅列させながら弁解しようとする姿が可愛かった。そんな顔を見せつけられたらもっと慌てさせたくなる。
構わずベルトルトに近付き、「何をしていたんですか、先生?」と問い質した。
彼は涙目になって言い訳を続ける。でも俺は冷たく問い詰めていく。大人だし頭の良いベルトルトは次々と綺麗な日本語で誤魔化していくが、
「本当のことを言えよ、変態」
普段の敬語を取っ払って詰め寄ってみた。
「らいなっ……」
「言えないことしてたのか? 人の部屋で?」
一時間前まで俺は生徒らしく、先生である彼を敬っていた。彼は先生らしく、年上として生徒である俺を可愛がっていた。
その立場が逆転する。
ベッドから這い出て転がり落ちる彼の前に立った。怯えた目の彼を見下ろす。背の高い彼がおそるおそる俺を見た。
立ち上がれば二メートル近い体つきの大人が、子供の俺を怖れて見上げている。そんな目をされたら……体中がぞくぞく震えてくるじゃないか。
自分でも唇が上向きに歪んでいくのが判った。調子に乗ってしまいそうな自分を察されないように、力強く佇む。
「何をしてたんだよ、なあ、答えろよ……ベルトルト?」
いつも呼んでる『先生』ではなく、初めて名前で彼を呼んだ。
死にたいぐらい辛そうで暴走しがちだったベルトルトが、びくんと肩を震わせた。俺よりもずっと大きい体のくせに縮こまって、大きな目を潤ませながら、
「オナニー……してました……」
口を微かに開き、告白をした。
「ごめん……ど、どうしても……我慢できなくなって……。ぼ、僕、君のことが……その、好きで……君のにおいで、オナニーがしたくて……ごめん! いきなりそんなこと言われても、嫌だよね、気持ち悪いって思われるって……判ってたのに、ごめん、僕、ごめ……!」
「続けろよ」
涙目でびくびくと大きな体を小さくして震える彼。俺が乱暴に言葉を吐くと、彼が畏まる。
元からこの男は気が弱そうな奴と思っていた。俺より年上だから明るく振る舞ってはいたが、実際は物静かで内気な性格なのは普段の喋りから判っていた。
そう、明るく振舞うような奴じゃない。小学生の俺に良いところを見せようと無理をしているのが判る。下手な演技を見せつけられていた俺は、いつしか『本来の姿が見たい』と思い始めていた。
本当のベルトルトの姿を暴きたい。この男は普段、どんな顔をするんだろう。苦手な笑顔を作って、家庭教師を演じているけど実際は?
日頃からそう思い耽っていただけに、体を震わせ悪行を詫びる彼の姿を見られるなんて嬉しくて堪らなかった。
大きく興奮する。こんなチャンスを見逃すことなんて出来ない。俺は俯く顔に近付き、命令をする。
ぞくぞくは止まらなかった。
「続けろ」
/2
親は俺に中学受験をさせたがっていた。
だが俺の住んでいる家から塾はどこも遠く、そのくせ夜遅くまで子供を出歩かせたくないということから家庭教師を雇うことになった。
それが俺とベルトルトとの出会いだ。
「この記事、読んでみろよ。そうそれ。ケツの穴は少しずつ慣らせばマンコみたいになる……って書いてあるだろ? なあ」
「…………」
「そんな顔するなよ。うん、ちゃんと履歴は消しておくから。心配するなよ、家族には言わない。言っちゃいけないってことぐらい判ってるぜ。俺、ちゃんと勉強してるからな」
「勉強って……ライナー……」
「ああ、この二日間ずっとネットで調べてたんだ。大丈夫。俺がいっぱい可愛がってやるから。ベルトルトを気持ち良くしてみせる」
ベルトルトは父親の同僚の息子で、そこそこ良い大学に通っているらしい。
愛想は悪くない。背格好も目立たないけど不細工ではない。そのことから両親はベルトルトに会う前から彼のことを気に入っていた。
だが俺はどうだろう。最初顔を合わしたとき、初めて会った大学生の男に対して妙な感情を抱いていた。『地味だ』『弱そうだ』、いやそれだけじゃない、不思議な感情を。
「ライナー……君は、まだ子供で」
「その子供の前にして、我慢できなかったんだろ?」
「……ぅ……」
「いいじゃないか。俺はベルトルトのこと、好きだったんだし。お揃いなら、このまま……」
俺は傲慢という自覚がある。決して口には出さないが、内心年上だろうが誰であろうが他者を貶す癖があった。ベルトルトのことも最初は心の中で『頼りない奴だな』と愚痴を吐いていた。
顔も格好も派手じゃない。声も小さく、物静かで落ち着いている。見るからに人前に出るのは好きじゃない、人の後ろに下がっているのが性に合っているような男。
俺の好みだった。
と言うと変な感じだが、昔から俺は大人しい奴が好きだった。自分が前に出たがるタイプだからだろう、後ろで静かにしている奴を見ると構いたくなる性格だった。
年上でも、その好みは違えないらしい。
そうして俺は考える。
――自分より大きな彼が、子供の俺の言うことを黙って聞いていたら?
『もしも』を考えると、未知の痺れが体中を包み込んでいった。
それだけ俺の本能は、ベルトルトという青年を好きに扱いたいと考えたようだった。
「ベルトルト。言われた通り、二日間……一人でエッチ、してないよな? ちゃんと言うこと聞いてたか?」
「…………」
「してたのか?」
「……してない。してないよ……」
「いい子だ。じゃあ服を脱げ。全部な」
「そんな……。ライナー、どこでそんな言葉遣い……。やっぱり君は……」
「やっぱり? 何だよ?」
「…………」
ベルトルトのことを悪く思っていたのは、始めのうちだけだった。
年も違えば住む所も違う、考え方も違うのにとても優しく包み込んでくれるような彼の空気は、俺の生きていた世界とは全く違うもので、新鮮だった。
話せば話す程、俺はベルトルトに夢中になっていった。
「ほら、ベッドに上がれよ」
「ら、ライナー……」
「それとも床の上でやりたいのか? 柔らかい方がいいだろ? 俺はベッドがいい。早く上がれよ」
「う、うん、ごめん……」
家庭教師と言っても勉強だけしかしない訳じゃない。休憩時間になればベルトルトは俺に色んなことを訊いてくる。
学校ではどんなことをしている? 趣味は何? 今日は何が楽しかった? そんな、時間を潰すための何気ない質問。どんな答え方をしてもベルトルトは笑ってくれる。それが嬉しかった。
俺が話したどうでもいいようなことでも彼は微笑みながら聞いてくれた。友達のことで悩んでいると言えば真剣に悩んでくれたし、部活動で活躍したことを言えば我が事のように喜ぶ。
優しい彼に虜になって、もっともっとと夢中になっていった。
「なあ、ベルトルト。俺がちゃんとお前を気持ち良くさせてやるからな」
「ら、らいなぁ……こ、怖いよ」
「これが本当の俺なんだよ。黙って言うこと聞いておけ」
「ぅ……」
俺にだって友達は居た。悩み事を相談してくれる奴も居た。
でも何気ないことを話しても笑ってくれて、アドバイスまでしてくれるような年上の知り合いはいない。相談して解決できなくてもベルトルトがそうなんだ、大変だねと受けとめてくれるだけで、なんだか前に進めたような気がして嬉しかった。
「んあ……指、そんな、挿れないで……だめだよ、ライナーっ……」
「だめじゃない。ちゃんと足開けよ。たっぷり可愛がってやるから」
充実した時間。たとえ一方的に俺が話し、彼がただ笑って受け留めるだけでも、どれだけ救われたか数えきれない。
けど、ベルトルトは自分の話を殆どしなかった。
「なあ……訓練次第でここ、凄く感じるようになるんだって。そのうち……歩いてるだけで気持ち良くなるんだって。記事に書いてあった。そうなったらどうする……?」
「んっ、やあぁっ……ライナー、抜いて、ああっ、ああっ……」
「どうしようかな。うん、お前が狂ったら俺が何とかしてやるよ。大人になった後も何とかしてやる」
聞き上手な人だが話すのは下手で、俺がどうしても話すのが好きなせいもあって、彼自信が話し始めることはなかった。
「ずっと、守ってやる」
そのことに気付いてしまってから、『ベルトルトともっと話したい』、思い始めると止まらなかった。
「ライ、ライナー、らいなぁ……」
「何だよ」
「……君に、こんなことさせて、ごめ、あ、ああっ」
「いいんだよ。ベルトルトにしたいからしてるんだぜ。恋人同士なんだし悪いことじゃないだろ?」
「っ。らい、な、ああ……!」
――今日はね、先生、今日はこんな授業があったんですよ。真剣に体育をやらない女子がいて、友人と注意したら投げ飛ばされちまったんです。
そんな話をするとベルトルトは「ライナーらしいね」と笑う。その笑顔が嬉しくもあったし、何でも笑って俺の話を聞いてくれる彼は大人だなと感心した。でも、何を言ってもそれ以外は返してくれなくて、なんだか距離を感じてしまう。
『先生は普段、学校で何をしてるんですか』 ついつい俺は俺のことを話してしまうので、たまには彼の話が聞きたいと思って尋ねてみた。するとベルトルトは『そんなことよりライナーの話が聞きたいな。君の話は楽しいもの』と、ニコリ笑う。
距離を感じる一言だった。
「なあ、ベルトルト。判るか」
「……ひっ、あ……な、何……?」
「今、お前……俺のベッドで、全裸で大股開いて、俺にケツの穴を穿られてるんだぞ」
「っ! や、やだ、言わないでくれっ……ぅうっ……!」
「こんなにぐちゅぐちゅ音を立てて、指……いっぱい挿れられて。めちゃくちゃ気持ち良さそうな声出して……。ガキの手でも気持ち良いんだろ? なあ、もっと突いてほしいんじゃないか……?」
「ライナー……困らせないでくれ……お願いだっ……」
冷たい拒否じゃない。でも何度俺から話し掛けても、先生のことを聞きたいんだと強請っても、ニコニコ笑顔で『ライナーくんの話がいい』と穏やかに拒絶される。
あまり人に自分のことを話すのは好きじゃないんだ、彼はそういう性格なんだ、そう思えばいいのに、子供で我儘な性格の俺は物足りなさに苛立つようになっていた。
「なあ、どんどん柔らかくなってきた。絡みついてきてる」
「ひっ……ああっ……だ、めっ……」
「ナカ、気持ちいい。……そのうち俺のブツが無きゃ生きていけないぐらいになっていくんだ……そうだよな?」
「言わない、でっ、んあっ、らいな……んああっ……!」
いくら求めたとしても、いつまで経っても変わらない。季節が過ぎても戻ってこない返事に、次第に喉の奥に窮屈なものを感じるようになっていく。
穏やかな笑みは嫌いじゃない。でも、何にも先に進めないのも嫌だった。笑顔を消したくはなくても、笑顔しかないのも嫌だった。
なんでいつもいつも!
ついに、俺は強い口調で怒鳴るように声を上げてしまったことがある。情けないほど子供染みた我儘だった。忘れたくなるぐらい情けない苛立ちと怒声だ。
でも、彼の二メートル近い大きな体がビクリと激しく震えたことだけは忘れられない。
何にもない、子供の俺がただ冗談で強く声を出しただけなのに、大人の彼は異常なまでに身を震わせた。
まるで悪いことをして叱られて委縮した子供のように。
しかも俺に謝罪まで繰り返してきた。ごめん、ごめんね、ごめんよ、と。おどおどとした目のまま、何度も何度も。
「う、ううう、ライナー、僕、ぼく……」
「僕がどうしたって。何なんだよ」
「……う、うう……らいな……うう」
「なんだよ。言わなきゃ判らないだろ。さっさと言えよ。じゃないと嫌いになるぞ」
「や、やだ……。ぼ、僕……その……。変に、なりたい……もう、なりそうなんだ……」
「へえ?」
「ライナー……うう、ライナー……。僕、そこ……で……イき……た……い……」
「どこで?」
「…………お尻で、イきたいよぉ……」
ベルトルトは大人しい性格だ。それは知っているつもりでただ俺がそうなんじゃないかと予想していただけだった。
実際は、やっぱり大人しかった。内気で気が弱く、大声や強い口調を前にすると考えなしに従ってしまうぐらい極端。咄嗟の怒声でそのことが判って、見せない内面に触れられた気がして、嬉しかった。
「ライナーに……もっと……」
「もっと?」
「……突いて、もらいたい……君に、君に……」
「なあ。俺の拳、全部ベルトルトの中に入ったら……どうなると思う?」
「……ぇ……」
「中にグーが入ったら気持ち良いのかな。その手を……指を広げてみたりしたら。今より気持ち良い声を出してくれるかな?」
「……ご、ごめん、判らない……」
「判らないか。じゃあさ、ちんこって大きくて固いと気持ち良いって記事に書いてあったんだけど。それ、本当か?」
「ライナー……ごめん……」
「ああ、お前がごめんって言うことは、そうなんだよな? よくバイブよりもちんこの方が良いって言うだろ? ベルトルトもそうなんだろ?」
「そうだ、よ……。い……いや、やったことないから、その、判らない……ごめん」
「やっぱり! やっぱりイイんだ! ちんこでいっぱい奥まで突いたら、気持ち良くて壊れちゃう……んだよな? そういうもんなんだよな? なあ、俺、まだ子供だからお前を満足させることはできないけど、でも、俺さ……お前を気持ち良くさせたくって……!」
「っ……らいなっ……やっ……もう……」
今の関係になったときから俺達の間に敬語は無い。大学生の先生に使っていた必要最小限の敬語を、まるで仲の良い幼馴染に振る舞うように砕けた話し方で、ベルトルトに捲し立てる。
少し乱暴な口調の方が俺にはラクだ。彼の幼い顔を責めるにも丁度良い。強く言えば彼は震える。意地悪く言えば言うほど感じるという性癖なんだろう。だから強い口ぶりで言えば言うほど、ベルトルトは本性を見せる。自信の無さそうな目で見てくる。
その目が良い。
自覚は無かったが俺はサディストらしく、叱られて怯えた目をするベルトルトを屈服したい感情が胸を満たしていく。
「俺の初めても貰ってくれよ。お前の初めて、欲しいんだ」
判らないことは沢山ある。どうやったら本当にベルトルトが悦んでくれるのか、気持ち良いことなのか。未知のこと過ぎて検討がつかない。教えてくれと強請ってもベルトルトは口を噤むのみ。
なかなか自分の事を話してくれないなら、無理に曝け出させるまで。
いつの間にか俺は、彼の内部を探ることを楽しみにしていた。
/3
十歳も年上の男性だとしても、可愛いものは可愛い。
気持ち良すぎてどろどろに溶けそうになったベルトルトの顔が大好きだ。写真に撮ってずっと見ていたいぐらいだが、彼の道徳感が全力でその行為を阻止して敵わない。
仕方ないと許した結果、俺は『その代わりに』と、小学生の自分が買いに行けないアダルトグッズをベルトルトに買いに行かせ、次々に倒錯行為に身を投じた。
初めてエッチなことをした日の夜。ベルトルトは俯きながらぽつぽつと自分のことを話してくれた。
――ずっと俺のことが好きだった。初めて会ったときからこんなことをしたいと思ってた。小学生の男の子といけないことがしたいって考えていたんだ。変態だって思われても仕方ない、でも好きな気持ちが止まらなかったんだ……。
人によってはそこでドン引きするだろう。絶縁を言い出してもおかしくない。だけど、俺は抱きついて喜んだ。
――俺も同じなんだ。出会ったときからっていうのは違うけど、ベルトルトと話しているうちに……ずっと話していたいって思えてきた。今はベルトルトの声が聞きたくなっている。だからもっと声を聞かせてくれ……!
精一杯の言葉を並べて、反省したベルトルトが俺の家庭教師を辞めるのを必死に止めた。
その後、俺は勉強をした。
学校の成績を上げるための勉強を、中学試験に受かるための勉強を。そして何よりベルトルトを喜ばせるための勉強を。
ネットで見たアダルトビデオのサンプル動画でどんなことをすれば大人を愉しませることが出来るのかを学び、素人の書いたハウツー記事で足りない脳に性知識を叩き込む。
俺に足りないのは経験だからとベルトルトで実戦する。彼は顔を真っ赤にしながらも拒まず、家庭教師としての職務を全うするためなのか、それとも俺が脅迫してきてるとでも勘違いしてるのか、俺の言うことは何でも聞いた。
『今、僕は小学生に調教されている最中です。今も僕のおちんちんのキモチ良いところにローターを三つ付けられて、これを打って、まsssssssssssssssswwdyhたよp@「』
ネットの掲示板に解読不能の言語が表示されていく。
こういうプレイを見たことあるから実践しているだけだ。まだ誰にも見られていないのに既に大勢に視姦された気分になったのか、ベルトルトは感じきった声を部屋の中で上げた。言われたことを打てばいいだけなのに、簡単な文章さえも入力できず彼はキーボードの上で突っ伏してしまう。
「んううっ、ああ、ライナー、ああっ、ライナー……!」
椅子の上で彼は喘いだ。
衣服は全て取られ、ゴムを被った性器にローターを括りつけられながら。敏感なところを無機物により掻き回されて、喘ぎっぱなしの彼は無理矢理快楽を叩きつけられている。何度も性具によって絶頂を導かれ、半泣きで声を上げ続けていた。
ライナー、ライナー。俺の名前を呼びながらベルトルトが乱れる。羞恥心で口を閉ざしていた彼の口から甘い声が上がる。
でもまだ本心は判らない。まだ感じているふりをしているだけかもしれない。疑り深い俺はダイヤルを回した。より艶を帯びた低音の喘ぎ声が部屋に響いていったが、足りなかった。
「まだイくなよ」
「そ、そんなの無理っ……んああ……っ!」
ダイヤルを逆方向に回し、一度停止する。
ベルトルトが戸惑った目で俺を見る。でもすぐに、ゆっくりとダイヤルを回した。徐々に強くなっていく出力に、焦らされたベルトルトは更に甘ったるい声で喘ぎ始めた。
俺の手で性感を操作していく。彼を自分の物にしている。そう実感した途端、ゾクリと自分の体が震えた。下半身に熱も篭っていった。
「うあ……あああ、ライナーっ、やめて、おかしくなる……っ」
ブブブと心無い音が彼を苛んでいく。
体格の良いベルトルトは性器も大きい。だけど今付けているのは市販の物では最も小さいサイズのコンドームで、その中にローターがテープで括り付けられているのだから、強く締め付けられているようなものだった。
始めの頃は拒んでいた道具を使たプレイも、今日は大きな体を縮こませながら静かに頷くぐらい従順になっている。どんなに恥ずかしそうにしていたって今、快楽に負けてしまったベルトルトは椅子の上で気持ち良さそうに悲鳴を上げている。性器に取り付けられた三つのローターがあらゆる方向から快楽を与え、彼を限界へと導いていった。
「ああ、可愛い声だ」
「ひっ、あ……んああっ、狂う、狂っちゃう……」
悶絶する彼の腕が在らぬ方向に向う。手にマウスが触れ、意図としないところでブラウザが閉じられてしまった。
匿名掲示板を使って不特定多数から辱めてもらおうと考えていた。だがそこまで気乗りするプレイではない。まあいいかと俺は放り出されたマウスを操り、パソコンの電源を落とした。
今日、俺の部屋にやって来たときから一時間近くも俺の愛撫に耐えているぐらいだ。いつ果ててもおかしくないぐらい気持ち良くなっている。今までイかないように我慢していたことを評価してやろう。全裸で椅子に座って激しい刺激に翻弄されたままベルトルトの頬に顔を寄せた。
「気持ち良かっただろ。今までで一番感じてたみたいだけど、こういうの好きなのか? 昔から好きだったとか?」
「ぁ……あっ……」
ゴムを外してやろうと頬に口付けたが、長時間快感に身をやられてしまった彼は腰を浮かせることもできず、ビクビクと震えるだけだった。
「昔……昔、は……昔は…………」
「…………。いいや、昔のことは話すな」
「ぁっ!」
昔のことなんて話されたら、腹が立っちまう。
こっちを向けと強い口調で俺がそう言うと、荒い呼吸を繰り返しながら俺を見つめてくる。俺の手がペニスに触れるのをじっと待っている目は、今度は何をされるんだろうという期待と恐怖の感情が同席しているように見えた。
震えている目が可愛い。涙を溜めて揺れる目の色が堪らない。良くやったと褒めながら敏感な腿を撫でる。ベルトルトは俺より十歳も年上の相手だが、なんだか年下をあやしている気分になった。
「おい。脚開けよ」
「んぅっ! らい、な……。……して……」
口を抑えながら、恥ずかしがりながらも両脚を開いていく。ゴムに覆われた性器を俺へ突き出すように見せつけた。
俺の手が触れてまた気持ち良くなるのはいい。だがベルトルトを傷付けたくはない。俺なりに彼を気遣ってやりながら、性器に手を掛けた。
「うあ、ああっ……んああ、らいな、ああああっ!」
ほんの些細な刺激も相当好かったらしく、ベルトルトはゴムの中にまた射精した。
先端が膨らんでいく間、痺れた体を休みなく機械が玩び続ける。
「ラ、いな、もう、許して、ああ、あああああっ!」
よがるベルトルトの声が愛おしい。俺はもう一度ベルトルトの頬に口付けようと顔を寄せた。だが、何度目か判らない絶頂に頭を振りたくっているせいか近付けなかった。
震える体を取り押さえて、唇を奪いたい。
こんな目に痛い不埒な玩具じゃなくて、自分のペニスでベルトルトを喘がせてみたい。
思ったが、いざ半狂乱になったベルトルトを前にすると、叶わないことを思い知った。
「ら、ライナー……?」
どんなに俺が優位になっているようでも、彼は二メートル近い体格の大人だ。一方俺は、小さな子供だ。クラスメイト達より大きい体はしていても、少し成長の早い小学生には変わりない。
押しつけて奪い取ることなんて、物理的に無理な話だった。もう少し俺がでかくなるまで望みの行為は叶わない。
「前言撤回。もう一度、イったら外してやるよ」
「そんっ、な……ああっ、ひっ……んああっ……!」
「ベルトルトは、俺のこと好きなんだよな。俺の匂いでオナニーするぐらい」
だから俺は小さな機械に嫉妬する心を悟られないように、精一杯の余裕のある声を囁いてやる。
少しでも大人びた台詞を吐く。なれない年上の姿になりきって、酷い台詞を吐き続ける。
こんな声でもベルトルトは激しく反応してくれる。大きな体が悦んで跳ねた。乱れる自分が恥ずかしくて、真っ赤な顔を抑えながらビクビクと悶えている。
息が出来ないぐらい熱くなっている恋人の体。愛しい筈なのに、憎くも思えた。
「俺もだよ。俺もベルトルトのことが好きなんだ」
「……ライナー……」
「色んな顔が見たい。泣いてる姿が特に見たい。なんでだろうな。ひいひい泣いてる姿、凄く見たいんだ。もちろん泣いてるだけじゃなくて……俺のこと、好きだって言って、ぎゅうっとするところとか……見たい。ベルトルトにぎゅうっとされたい」
「……う、うん……嬉しい……嬉しいよ、ライナー……僕、ずっと、君を……」
「そうだ、俺、ベルトルトにぎゅうっとされたいんだ。しようぜ、今日……」
色んなプレイを思い出しながら、俺はベルトルトを責め立てる。
買ってきてもらったローションでベルトルトの中をぐしゃぐしゃにして、酸素を掴もうと必死に息を荒くして興奮するまでぐちゅぐちゅにして……。
ぽろぽろと涙を零して悦ぶまで、ベルトルトの中を甚振る。
「ああ、その顔。その顔だよ」
もう勘弁してほしいと懇願する顔。もう焦らさないでくれと縋る顔。
そんな甘ったるい顔が見ていたいと思うと、俺の下半身に熱がこもっていった。
――ああ、もしベルトルトが年下だったら。幼馴染だったら。毎日構って、いじめて、可愛がってやるのに!
充血する自身は、近頃彼を見るたびに感じていたものがやっと形になってきてくれたものだ。これでちゃんとベルトルトを直接愛してあげられるんだと、俺は真正面から彼に抱きついた。
「は……あっ……っ! らいな……あ……!」
「ベルトルト……俺のこと、好きなんだよな?」
ベッドに横たわるベルトルトに覆い重なった。
余裕をもってベルトルトを愛してやれたらさぞ格好が良いだろうが、初めてのセックスに緊張しない訳が無かった。
下半身に力を入れることができないベルトルトの腰を両手で固定し、さっきまで俺の指が出入りしていたそこに亀頭を押し当てる。
「ごめ、こんな、僕っ……」
「どうなんだよ……」
「…………好きだよ……好きだから……我慢、できなかったんじゃないか……。君はまだ、子供なのに、僕だけ、先に、大人になっちゃって……なんで、僕だけ、我慢できなくて、それぐらいライナーのことが好きで、僕……欲しいよ、ライナー、おねがい……!」
頭を振りたくって懇願する目が愛おしい。力を込め押し付ける。深呼吸と共に、俺はベルトルトの中を引き裂き始めた。
ずぷり。ローションでぐちょぐちょにした中にペニスを押し込んだ。
指を何本も入れていたから慣らしきれているつもりだったが、ベルトルトは激痛に顔を歪ませていった。それでも充分ベルトルトの中は人工液で濡らしていたので、ぐちゅ、じゅっと卑猥な音が立てて動くことができた。
「ベルトルト、ナカ、すげえ。きゅうきゅうしてる」
「は、んああ……中……いい、ああああっ……」
俺の指が何時間も体を嬲っていた。その甲斐あってかベルトルトはあまり上げない甘ったるい声を上げている。
滅多に口を開かないベルトルトとは思えない声に、俺は更に興奮した。
ぞくぞくは一向に止まらない。痴態を長く見ていた性器は痛いぐらいむくむくと勃起し反りかえっていた。
「うれし……ずっと君と、こうしたかったから……あ、ああっら、いな、あっ、あああっ、きもちよいよぉ……ごめ……ごめん……」
「ベルトルトっ……俺も、俺も……!」
これならきっとインターネットの記事にあった通り、相手を悦ばせることが出来る。そう踏んで奥を突いた。
実際はあまりの圧迫感に腰をくねらせることもままならなかった。
気持ち良さは感じている。だが、本当にこれでベルトルトは気持ち良いのかまで理解が追いつかなかった。
当の本人の彼は、顔を真っ赤にして大量の涙と汗を流しながらひんひん泣き喚いている。苦しそうにも見えるし、実際に苦しいだろう。でも同時にキモチイイ、キモチイイよと何度も零している。
「んあっ、らいっ、らめっ、あっ、んああああ……」
俺には何が正しいのか、よく判らなかった。でも泣き叫びながらも抵抗を見せずに中を震わせるベルトルトは、全てを諦めて陵辱に身を委ねてしまったのではなく、俺を想って責めを受け入れているに違いなかった。
ベルトルトは俺を受け入れてくれている。顔を赤くして、泣いて、涎を垂らして、悦びよがっている。
その顔が愛おしい。ずっと見たいと思っていた、出会いたいと思っていた表情に勃起する。
膨張したちんこを根元まで尻の中へ押し込み、満足させてやりたいが一心で激しく動かした。
食い締めてくるベルトルトの中は熱く、不思議な感覚に包まれていた。繋がっている箇所が心地良いというより、俺の名前を呼びながら涙する顔が興奮を呼んでいた。
「ずっと君と……。君のが、あ、あつ……ああっ、もう、ぅ、だめ……イく……ううっ」
喉を反らしてベルトルトが一際甲高い悲鳴を上げた。
俺の目の前で、大きく膨張させたベルトルトの性器がまた吐き出された。腹に白い液体が出されていく。
「イくう、ライナー、イっちゃう、ライナーので、イくぅううっ」
彼の体はいつまでも反応を続けた。自分の体を自分で濡らしていく。狂人になったのかと思うぐらいベルトルトは体を震わせた。
がくがくと波打つ中が俺にも快楽を教えてくれる。呑み込んでいた俺の性器もベルトルトの快感を響かせて、我慢できなくなった俺は中で放った。
腸内を俺の液体で犯し続ける間も、俺は熱く火照ったベルトルトの体を抱き締めた。
抱きかかえることは出来ない。伸ばした腕で支えることも不可能だ。
もし彼と同じぐらいの体格だったら、彼より年上なら悶える彼に次の責めが出来たかもしれないのに。
何もかも初めてな俺は彼の腹に抱きついて、首元に口付けすることぐらいしか出来なかった。
「なあ、ベルトルト。俺は……ちゃんとお前を、満足させられたか?」
俺は荒れた呼吸で、何度も同じ質問をした。
意識を手放してしまいそうになるぐらい初めては激しい時間だった。俺が抱きしめるよりも早く、ベルトルトは長い腕を俺の背に回し、ぎゅうっと抱きかかえてくれた。
「もちろん……。ライナー、僕はね……ずっと君に抱かれたかったんだ……ずっと……ずっとだよ…………」
快感に涙を流し、唇を震わせながらベルトルトは小さく応えてくれる。
俺の体にしがみ付き、全身で俺の体温を味わいながら、ベルトルトは「ありがとう」と言った。一度だけじゃない。何度も何度も、自分の体が乾いてしまうほどの時間「ありがとう、ライナー、また、ありがとう」と繰り返して、俺の頭を撫でた。
抱き締めながら頭を撫でる手が、大人びたものに変わってきた。
子供扱いされて、気に食わない。
俺は口を尖らせ、腕を放すようにベルトルトが言う。言われた通りにするベルトルトの首に、今度は俺から抱きついて、精一杯大人のキスをした。
唇と唇を合わせて、舌を攫う。息が切れてしまったら少しでも大人びた声を作って、「次はどんな風に苛めてやろうかな」と耳元に息を吹きかける。ベルトルトがびくびくと肩を震わせるまで、何度だって着飾った声で囁いてやった。
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ベルトルトの手足をベッドの足にそれぞれ括りつける。
丸裸で大の字になって、どんな場所でも隠すことができないように。まるで蝶の標本のように色黒の裸体をベッドの上で拘束する。
体を動かせず、不安そうに俺を見上げる顔にキスをした後、アイマスクを付けて視界を奪った。その後すかさずスイッチを入れる。ブウンと比較的静かな音が部屋に響いたが、シーツを掛ければ耳を澄まさなければ聞こえない程度になった。
何度も甚振ってやったケツの穴には、今までで一番大きな性具を突っ込んでやった。ネット通販ではなくてベルトルトに店に行かせて直接買わせた超大型の玩具だ。そんなもの入るのかと恐がってはいたが、何度も俺の手で遊ばれているうちに頭だけなら呑み込むようになってしまった。
「ぁ、ああっ、やだ、ライナー……ライナー、たすけて……」
やだ、いやだ、助けてと言いつつも、視界を奪われ暗闇の中で吠えるベルトルトの口元は、なんだか笑っているように見える。
シーツの中で、拘束された裸体が乱れるのを想像して、俺は今まで以上に興奮した。バイブでいかに体内を蹂躙されたとしても、叫ぶのは俺の名前なんだ。ケツがどんなに良くったって俺の名前を叫びながら果てるんだ。大の大人がべそべそ泣きじゃくりながら。俺が突っ込んでいるのだから当然かもしれないが、こんな子供を求めているという淫乱な事実に俺の半身は昂ぶった。
大きすぎる性具を突っ込まれたとはいえ、頭の部分しか味わっていないベルトルトは、ぶるぶる震える物を奥まで欲しいと訴えるかのように首を振るった。だけどそんなことをしても自動的に玩具がベルトルトの中に入ってくることはなかった。俺の手で導いてあげなければ、ベルトルトは満足できない。
「恥ずかしくないのか、俺に助けを求めて」
アイマスクをされて、何処に俺が居るか判らないベルトルトは……ハッと俺の方向に顔を向け、「ライナーっ」と声を上げた。
シーツがもぞもぞと動いている。手首と足首を結ばれて、ちっとも動かすことができない腰を動かそうとしていた。ライナー、ライナーと掠れた名の連呼は続く。
「だって……僕を助けてくれるのは……君しか、いないだろ……!」
違いない。無機質な道具に中途半端な状態で犯されていくベルトルトに、
「ああ。そうだよ。助けてあげられるのは俺しかいない」
と、黒髪を撫でた。
ベルトルトは悶絶する。
「なら!」
「ああ、そういえば今日母さんが家に居るんだよ。そんなに声上げていいのか。来るぞ。あ、電池の買い置きを忘れてた。これじゃこれ以上遊べないな。コンビニに行ってこようか。いや、ベルトルトの住んでるアパートまで取りに行くのがいいな。買い置きぐらいあるだろ? 俺、お小遣いももう残ってないし。じゃあそこまで行ってくるよ。あんまり声を出すなよ……」
言いながら俺は自室の扉を閉めた。
悲鳴を背中で聞くことが、最近の趣味とも言えた。
ベルトルトが一人暮らしをしているアパートまでは自転車で数十分だ。ただ行って帰ってくるぐらいなら三十分もかからない。
今日は俺の家で遊ぶことにしたが、普段はベルトルトの部屋に行って寝ることが大半だ。今日みたいにスリルを楽しむために自宅を選ぶことはあるが、他人に邪魔されずセックスをするには一人暮らしの彼の部屋が理由無く最適だからだ。
既に数日前に貰っていた合鍵を使って部屋に入り、勝手知ったる我が家のように、電池の買い置きのある引き出しに手を伸ばす。あまりにスムーズに目的を果たしてしまったため、このままだと二十分もかからずに自室に戻ってしまいそうだった。
ベルトルトには自宅に母が居ると言っていたが、あれは嘘で、自分の両親はまず昼間帰ってくることはない。自分を愛していない訳ではないがそんな寂しい事情もあって、家庭教師を雇うぐらいだった。
今となってはベルトルトに会うキッカケをくれた自分の寂しい家庭事情に感謝している。
勉強はもちろんしている。成績を落とす馬鹿な真似はしない。
だが毎日のようにベルトルトと連絡を取り合い、今日はどんな風に遊ぼうか、どう気持ち良くしてやろうかと考えているぐらい、元の関係などどうでも良くなっている。
今も頭の中に考えているのは、帰った後ぐちゃぐちゃに泣いているだろう愛しい人をどう愛でようかということだった。
一時も忘れることの無いぐらい、ベルトルトのことを想ってやまない。
さて、今度はどうやってあの泣き顔を楽しもう。
たとえ十分早く帰って来ても、ただいまを言わずにずっとベルトルトの痴態を見つめていようか。何も言わず、誰かも判らず触られたとしたらどんな反応をするだろう。怖がって俺に助けを求めてくれるだろうか。
そんなことを考えていたら、すぐにベルトルトの元へ帰りたくなってきた。
よし、ダッシュで戻ろう。電池を掴んで踵を返した途端、コタツの線に足を取られ、頭から引っくり返った。
誰も見ていないところでギャグみたいな転び方をして、俺は悪態を吐きながら頭を上げる。
そこには、ベルトルトがよく持っていた手帳とペンケースが置いてあった。
「………………ん?」
いつも持ってるのに? 今日はこんな所に?
いや、今日は勉強を教えに来た訳じゃないから部屋に置きっぱなしだったんだ。
もう俺達はただの教え子と家庭教師の仲じゃない。そのことが、放置された日記のような手帳と筆記用具から判る。
窓ガラスに写る俺の顔は、満足げに歪んでいた。
ただそれだけのこと。
俺は立ち上がり、おそらく俺の名前を叫んでいるであろう恋人の元へ急いだ。
END
(手帳のページが捲れた。誰にも読めない文字が並ぶ)
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
会いたい。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
もう僕、16歳になってしまったよ。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
君を追い越してしまった。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
嫌だ。もう。何年会ってないんだろう。
僕は君に会うため留まっているのに。
○月×日。
今日もライナーに会えなかった。
○月○日。
ライナーに会えた。
父さんの同僚がブラウンだと聞いて、まさかと思って住所を調べて家に向かった。よくある名前だったけど間違いなかった。ライナーだった。僕と初めて会ったときのライナーと同じ顔をしていた。やっと会えた。ずっと会いたかった。会うために生きてきたから報われた。嬉しい。とても嬉しい。ライナーもこの時代を生きてたんだ。また一緒に生きることが出来て嬉しい。
(中略)
ライナーが僕のことを先生って呼ぶ。嫌だ。また名前で呼んでほしい。でも先生って呼ぶ。なんで僕、先生なんだろう。先生になったからだけど。それでまた話ができるようになったから。でも。嫌だ。僕のことも思い出してくれない。記憶が無い。ずっと関係無い話ばかりする。僕のことは話さない。小学校が楽しいらしい。悔しい。僕は君を。ライナー。ライナーに呼んでもらいたい。ベルトルトって。また。ライナー。呼んで。ライナー。
(中略)
ライナーに名前を呼んでもらいたい。ライナーともっと話したい。ライナーが欲しい。欲しい。ライナー。欲しい。欲しい。ライナー。
(中略)
ライナー。ライナー。ライナーが欲しい。ライナー。ぎゅうって。苦しい。ずっと夢を見る。ライナーの舐めたい。ライナーの欲しい。ライナーの、欲しい。ライナー。ライナーが好きなのに。こんなに想ってるのに。
我慢できない。
(中略)
我慢できない。
我慢できない。
我慢できない。
(中略)
ライナーが僕を抱いてくれた。
嬉しい。ライナーが僕を。あの頃のライナーじゃない。けど嬉しい。今はそれで満足しよう。新しいライナーに会うのは慣れているから。一番最初のライナーのときから慣れてることだから。
今のライナーは大人ぶっていて可愛い。ライナーはライナーだ。気取っていつまでも子供みたいだ。今の彼は子供だけど。それでもあのときみたいに意地悪してくれる。好きになってくれた。僕を。また僕と一緒にいるって。やっぱりライナーだ。
きっと大きくなったらあの頃と同じになる。またライナーと歩んでいける。今度こそ忘れられない。このままずっと一緒にいれば離れ離れになることも、きっと。
ずっと居よう。そしたら凄く幸せだ。また会える。またあの頃のライナーに。それまで我慢。子供の君でも僕は。抱かれよう。ライナー。ライナー、ライナー。
(手帳のページが捲れていく。誰にも読ませる気などないような文字が無数に並んでいた)
END
小学生ライナーに調教される大学生ベルトルトはえろかわいい。フォロワーのMさんが描かれた漫画に「えろい! なんだって! えろい! かわいい!」と興奮した結果、隠れてこそこそ書いた産物をご本人が語られていた真の設定を加えて新たに生まれ変わらせました。純愛をエロ話にしか変換できなくて大変申し訳なく思っていますが元の形を残してしまいました。素敵なお話をありがとうございます。えろい文章を練習するためフランス書院文庫を読みまくるけど小学生攻なんてどこにも無かったのが悲しい。しかしベルトルトのことが大好きすぎるショタライはかわいい。
2014.2.28