■ 「ライナー、君もみんなと同じだったんだね」



※パラレルです。過去捏造するなら今のうち。



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 仕来り通りに従わなければ、愛するこの場所で生きていけない。
 村の仕来り。その一幕。



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 昔ながら伝統で人々を縛る。高等な精神を代々受け継ぐことに誇りを持つ。この村は開放的なところではなかった。

「今日はどっちがアニにいっぱい土産を持って帰るか勝負だ!」

 遠くの国の人が聞いたら馬鹿にするかもしれない言い伝えがあった。でも誰もそのことに疑問を抱かず、仕来りを守るため必死になっていた。
 その仕来りというのが『村で生まれた異形の子を皆で愛してあげる』というもの。大勢に愛された異形は、愛してくれた村人達を恩返しする。みんなで愛してあげたんだから君の持つ超人的な力でみんなを守ってくれという、とても判りやすい伝説だった。

「胡桃がある。いっぱい採ろう。アニ、喜ぶよ。だってアニは胡桃好きだもの」

 山奥の村には特別な力を持った人が大勢居て、みんな巨大な力を持っていて、必要となればその力を自由に操ることができる。この集落では巨人と呼ばれる姿に変身することは普通で、誰もがその力を正しく扱う。野蛮なことは何一つなく、無秩序に暴れることもなく。ごく普通に村は村としての生活を送っていく。
 だけど稀に、他の者達とは違う特徴を持って生まれてくるケースがある。
 ある時代に生まれた異形というのが、僕だった。

「いっぱい採れよ。いっぱい採ってアニに持って帰るんだ!」

 他の村人よりも僕の方が巨人の力が多い。みんなが出来ないようなことが出来て、熱を操る能力があり、何より大人の巨人よりも僕の巨人の方がずっとずっと大きかった。普通の村人にはない能力を見て、大勢は僕を村に語り継がれる伝説の異形と呼ぶようになった。

「ライナー。凄い。いっぱいある。大量だ」

 だからみんな、僕を愛すようになった。

「俺にかかればこれぐらい余裕だ!」

 それまではどうだっただろう。初めて巨人の姿になる前までは、誰かに注目されることなんて無かったと思う。だって僕は人前に立つのは苦手だし、人前に立たされるような目立ったものなんて無かったぐらいだ。
 なのにいきなり『素晴らしき力』を持つことが判明して、『お前は神の寵愛を一身に受けたんだ』と皆に手を合わされるようになった。今まで愛してくれそうにない他人ですら僕を見るようになり、生活は一変した。

「凄い、凄い。僕の倍だ。ライナーは凄い。僕はライナーに勝てない。凄いや。凄いや」

 仕来り通り、異形を皆で愛してあげなければならない。そこに『結構です』と言えるほど異形の意思は無い。
 村人の愛は拒むものではない。拒んではいけない。村の仕来りは村のもの。当然村の視点でしかなく僕は勝手に愛され愛してもらったんだから、彼らに尽くさなければ。

「おい。本気でやってるのか? 本気で探したのか? これしか探せなかったのか?」

 人達は、祈りを捧げて異形を讃えなければならない。祈りを捧げる人達ために、異形は人達の為に聳え立っていなければならない。人達が異形に愛を囁いてくれたなら、異形は愛を全て受け入れなければならない。
 そこに異形の意思は無い。『そんなことしなくていいよ』『祈りなんて捧げなくていいよ』『愛ある言葉なんていらないよ』、そう思っても拒んではいけない。

「もしかして、俺に遠慮してないか?」

 僕は意思を持ってはいけない。祈りを捧げられ愛を歌われ例えそれが苦痛でも、彼らの為に僕は居てあげなきゃいけない。どうしてって、僕の役目だから。そのような説明を受けたのが、もう何日も前のこと。

「ライナーは凄いから。僕、どんなに頑張って敵わないよ。僕もライナーに凄いって言われたいけど、勝てないよ。僕、凄くないから」

 そのときは『そんなものなのか』『従わなかったらきっとみんなが大変になるんだ』『言われた通りにすればいいから難しくないな』と、ぼんやり聞き流してしまった。あまりに難しいことを言われても僕には半分も判らなかったし、『我々の言うことを聞いていればいいんだ』の一言で思考を止めてしまった。

「うん、うん。判った。頑張ったんだな。ごめん。泣くなよ。ベルトルト、お前は村のどの奴らより凄いよ。今日は俺の方が調子良かっただけだ。落ち込むな」

 多くの人に祈られ歌われ『神の愛を我らにも分けてくれ』とよく判らないことを言われて一度も来たことのない洞窟の奥に連れて来られて壁画の絵が怖いけど寝かせられてここが神聖な場所だからとか体を清めるんだとかその神の身で我らを清めてくれとかこの場所ならば神に最も近いとかだからこの場から離れてはならないとかもう何処にも行ってはいけないとか天を繋ぐ鎖とか結ばれて、その後は――。

「……僕、凄くなんかない……」

 ――口に詰められた物のせいで、悲鳴という悲鳴は上げられない。
 痛いよ! 苦しいよ! 気持ち悪いよ! 何度も叫んでいたのに何も変わらない。それにいくら辛いと訴えて抵抗したって誰も聞いてくれない。
 ついには口を塞がれてしまって精一杯喉を枯らしても無意味なんだと気付いて。からというもの、敢えて声を張ることなんて馬鹿馬鹿しくなった。

「ああ? お前、凄いよ。知ってるさ。ベルトルトは凄い奴だって俺、知ってる。みんなが認める凄い奴なんだって、俺は知って」

 それでも時々喘いでしまう。押したから出る。それだけ。身体を突けば音が出る玩具のようになったみたいだ。この現状から逃れることができない。ならばさっさと受け入れて楽に時間を潰すようにするしかない。
 特にすることも無いから暗い天井を見ながら鼻を啜る。洞窟の中は寒く、両手両脚に掛けられた鎖も固定された祭壇の上も冷たい。でも今も大勢の人が僕の中に入ってくるから、身体の中はとても熱い。石の冷気が良い中和剤になっているけど、それが気持ち良いとは言えない。

「違う。その、僕、巨人としては凄いかもしれないけど……ちゃんと、僕が頑張って、僕の力で、その、凄いって……」

 ぶちゅ。ぐり。ぎし。押し潰されるたびに骨が軋む。痛い。重い。早く楽になりたい。やわらかい所に行きたい。何もしたくない。家に帰りたい。ここから出たい。あそこに戻りたい。遊びに行きたい。会いたい。静かに思いながら、僕の上で相変わらず覆い重なって荒い呼吸を繰り返す男を見た。

「僕、ライナーより胡桃、見つけられない。凄くない。今日もかけっこ、負けた。ここまで来るの、負けた。全部負けてる。ライナーは、ライナーは……」
「……なあ。この石も、アニにあげるんだろ?」

 男は精をぶちまけながら唄う。『ああ、神様、お助けください、我らを導いてください、ああ、ああ、神よ、どうか、我らを、い、イキます!』 何度も10歳の子供である僕の中を揺すりながら、見たことのないような笑みを口元に浮かべながら吠える男。その後ろには、同じように神を求める男達。
 熱いよ。もうこれ以上は無理だよ。もう限界だよ。そう思いながら、猿轡を噛む。じわりと脳に染み込む薬のせいでふと頭の中に過ぎるのは、大好きな幼馴染みが僕を呼びかける姿だった。

「この石、キラキラしてる。綺麗だな。この前さ、アニの奴、ばーさんに水晶貰ってすっごく喜んでたもんな。きっとこれも大好きだよ。俺の胡桃だらけの土産より、好きな物が入ってるベルトルトの方が喜ぶ」
「……そ、そう、かな……」
「多分、お前の勝ちだよ」

 両膝に鎖を巻かれて、大きく中央を晒すように脚を開かれ、固定されてもう数時間。何も身に纏わず仰向けで脚を開き、洞窟の天井に描かれた不可思議な文様を見るしかない姿勢。猿轡を何度も噛み、鎖に巻かれて身動きが取れないまま、次々とやって来る異物感に耐える毎日。

「うあああん」
「ああ、なんで褒めてるのに泣くんだよ、お前は。おい、俺の服が濡れる。離れろよー」

 僕はずっと倒れたまま、天を見たまま動けない。だから一体どんな人が僕の中に入ってきているのかはちゃんと見られない。判らない。これは村の人々の愛を受け取る伝説の体現。大切な儀式。僕がやらなければならない仕事。僕の中をみんなにあげる。僕の力をみんなに与える。よく判らなくて痛くても苦しくてもやらなきゃいけないこと。だから、

「やっぱライナー、凄い。僕、嬉しい。ライナー、好き」

 口に入れられた布巾を強く噛み、お尻に入ってくる熱いものの衝撃をずっと、ずっとずっと耐えていくしかない。
 布にぎゅっと歯を沈ませると、そこからじわりと微かに甘い液体が滲み出た。仰向けで寝かされ縛られているんだから液体が嫌でも吐き出すことは出来ない。喉の奥に否応なく染み渡る薬のせいで、また僕は興奮して、屈強な男達を受け入れる身体になっていく。

「ああ。好きだぞ。俺も。みんなもお前のこと、好きで……」

 それでいい。辛いよりはずっといい。もっと楽になりたい。噛む。楽になれる薬が欲しいのに。ちっとも楽になれない。苦しい。欲しい。もっと気持ち良くなりたい。あれさえあれば何度も押し寄せるあの渦が気持ち悪いものから凄く心地良いものになれるのに。薬。気持ち悪いの。気持ち良いの。欲しい。

「……みんなは……いいよ……。ライナーが凄いって言ってくれて、好きでいてくれるなら、僕……」

 無我夢中でいると次の男が僕の中に挿入を始める。大きく激しい波に、布に歯を立てる。だけど布に染み込んだ媚薬が切れた今、ただ悲鳴を噛み殺すぐらいしか効果は無い。
 今の男は暴力的な動きだった。僕を傷付けようとはしていなくても、血が滲んでもおかしくないほど激しく中に打ち付けてくる。数時間ぶりに『やめて』『助けて』『痛くしないで』と涙を流して訴えるが、誰も助けてはくれない。

「そろそろ時間だな。ベルトルト。……それ、預かるから」

 だって村人達は仕来り通りに異形を愛し続けるだけ。あるべき姿をとっているだけ。異形も愛され続けなければならないんだからこのまま。僕の声にならない叫びなど誰も気付かず、男は僕の中に大量の愛をぶちまけていくのは自然なことだから、ずっと、このまま。

「ちゃんとアニにあげてね。これは僕からのお土産だって。……ライナーのものにしちゃ嫌だよ」

 男達の声が交差する。『投与する薬の量、間違ってないか』『まさか? そんな?』『ああ、やってしまったか』『取り返しはつかないのか』『だが廃人になる程ではないだろう。これで巨人化できなくなるということはない。逆に大人しくなってきっと』『これ以上薬を与えるな、口を離してやれ』「あっ、ああ! あああああ!? いやだやだもう僕なんで僕がやめてたすけてアニあああライナーあああたすけ…………」

 欲望を吐き出された。飛び散っていく。頭が真っ白になる。
 男がずるりと僕の中から自身を引き抜くと、熱いそれを震える僕の腿にぺたぺた押し付けていた。綺麗に拭き取りたいのだろうか。大勢が祈りを捧げた後の身体だからその分の精液で満たされている。どこで拭いても綺麗になんてならないのに。びりびりと全身に走り抜けるものを感じながら、そんなことを考えた。

「また明日。……ううん。3日間、洞窟だから。居なきゃだって言われたから……明日は遊べないや。だから4日後。また、遊んでね」

 もう何十人もの村人が僕を愛し続けた。
 一つの体に混ざり合い、無数の熱が僕の中に籠る。大事な儀式。大事な時間。これは否定してはいけない、意味のあるもの。僕の意思だけで否定なんてしたらいけない。僕の意思なんて消してしまわなければいけない。これはとても意義深いんだから。

「……次は、もっと面白い遊び、考えてくる。お前が今日より楽めるの、考えてくるから。だから」

 鎖で縛られた体を揺らす。ちっとも動けないけど、腰を揺らして下半身に篭る甘い痺れを緩和させようとした。
 だけど村人は待ってくれない。次の男が僕の足に手を伸ばした。
 でも、それだけだった。今まで愛してくれる前、指でお尻の穴を突かれたり、前を弄られたりすることはあった。けど、今度の村人は僕の体に触れただけでそれ以上何もしてこない。足を触ったままその指は動かなくなり、無言で僕を見ているだけだった。『どうしたんだ』と僕は身を捩じらせる。天井ぐらいしか見られないけど少しだけお腹に力を入れて顔を持ち上げれば、開かれた僕の両脚の先に居る人が誰かぐらい確認が出来たからだ。
 早く終わらせるためにも、目の前に居る人にはやってもらわないと。だから早く。そう腰を動かす。
 拭えない涙の目に映る村人の姿は、この数日間ずっと記憶の中で遊んでくれていた大好きな幼馴染、その人だった。

「今日も面白かった。いっぱい笑った」

 ――『すげえよ! ベルトルト! お前は俺達の救世主になるって! みんな言ってる! お前が居れば世界が変わるかもしれない! 壁の中の連中なんて、お前が居れば……!』
 僕の家に限った話じゃなく、ここはあまり裕福な暮らしは出来ない村だった。どんなに不思議な能力があったとしても、ここは山奥の閉鎖的で寂しい異端の集落。毎日子供も働かなければならない毎日が続いていたし、親とともに汗水流して働くことを強いられれていた。

「うん。ライナー、いつも楽しいの、いっぱい教えてくれる。好き……」

 けれどそんな日々でも楽しく過ごしてこられたのは、毎日の楽しみがあったから。時間をぬって友達と楽しむのが何よりも幸せな時間だった。限られた時間の中であれで遊ぼう、ここに行こう、そう相談するのが大好きだった。僕が一番心を許した幼馴染は毎日色んな提案をしてくれる、とても頭の良く元気で明るい人。幸せな時間をくれる人。どんなにつらいことがあったって彼から幸せを貰えるならこの村を愛す。彼との時間は尊いもの。彼と遊びたい。もっと彼と一緒に笑いたい。これからも彼とずっと一緒に走り回りたい。楽しい毎日を一緒に生きていきたい。思っていた。
 『お前が居れば、俺達は救われる』『ほんと?』『ああ。大人達がそう言ってた』『僕が居れば、ライナーは、救われる?』

「……頑張ってこいよ。ベルトルト」

 『なら、僕の意思なんて無くていい』。
 その暖かい手が、僕の足に触れていた。ああ。いつかこんな再会をするってなんとなく思っていたのに、いざやってくると、とても悲しい。
 ライナーの顔は、僕とは違って、彼らと同じ顔をしていた。

 ――ライナー、君も・・・・・・・・・・・・――。



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 大人に言われた通り彼の中に身体を満たす。
 彼という神と一体化し祝福を受けた。掛け替えのない崇高な儀式。否応にもやって来るこの時間。身体が動く。苦しそうに、時には気持ち良さそうに腰を動かしていった。そうして大人が子供に語り掛ける。
 ――感じるだろう。彼の力の大きさが。今、君は彼の熱を持った。君も彼と同じ力を得た筈だ。君はもう一人前の戦士だ。壁の中の人類を殲滅するために。全ては故郷の為に。君の神々しい力は我々を導いてくれる。
 だからもっと。手にしろ。求めろ。愛せ――。

「はい。判りました。お父さん」

 仕来り通りに従わなければ、俺は、俺達は、愛するこの場所で生きていけない。
 判っているだろうに、崇高な事だというのに。どうしてベルトルトの奴はそんなに絶望した顔を向けてくるんだろう。




END

そうだ自分の好きなものを詰めよう! 気分転換に短編を書こう! ベルさんかわいい! と歌いながら書いた『ショタで現人神で輪姦』。猛烈なショタブームに負けました。拘束とショタとベルトルトの組み合わせで毎日脳内快適です。
2013.10.4