■ 外伝10 思惑
普段はあまり気にしていないことだが、アルクェイドはとても美人さんだ。
金髪の日本人が増えた現代でも真のブロンドには敵わないし、背も高く体格は完璧さを追求しているかの様。
うまく言葉が出てこないけど、一流のモデルっぽいと思う。説明下手だからこれ以上の褒め言葉が見当たらない。
一流モデルやハリウッドスターでカッコ良さをあらわすことがよくあるが、それだってアルクェイドには申し訳ない評価だと思う。
私は彼以上の男性を見たことが……って、過大評価し過ぎだろうか。
褒めたところで何も貰えないから、素直に答えているだけだけど。
でも我が兄弟もとても可愛い二人だし、翡翠と琥珀さんだって見惚れるぐらいカッコイイ。
アルクェイドと違った異人さんの魅力を持つシエル先輩も学校で一、二の人気を……。
って、ああそうか、みんなの魅力をみーんな知ってるからアルクェイドのことを『普段あまり気にしない』だなんて思ってしまうんだ。
彼ら一人一人にとても失礼なことをしている。
失礼だと判っている、背格好だけが全てじゃないと判っていても、私にとってアルクェイドという男性は…………『完全な一目惚れ』から入ったんだから、こんなにソトミに拘ってしまうんだろう。
シエル先輩や弓塚くんは学校で何度もお世話になった。
有彦は昔から何度もお世話になっている。
秋葉や翡翠達は家族だ。こんな風に彼らとは順序を踏んで私は仲良くなっている。
それが普通の交流関係の築き方で、何分でも時間を取らなくて仲良くなる方法なんて、無い。
…………けれど、私の中のアルクェイドは違う。突然私は街中で見かけた一人の男性に釘付けになってしまった。
それがどんな理由で見惚れてしまったのか、これも言葉で説明出来ない。
ずっと彼を追いかけたくなった。
彼がどんな中身なのか、私と仲良くする時間をくれる人なのか関係無しに。
…………まあ、その先は単なる一目惚れではすまない事情になるんだけど。
人と人は繋がり無くして関係を築けないものだと思っていた、でも、唐突に訪れる感情があるということか。
『突然舞い降りた恋』。
…………そんなフレーズを思いついて真っ赤になった。
そう、女の子だから確実なものより神秘性を求めてしまう。
通常の段階を越えていくものも素晴らしいものだと思うけど、不思議な、彼と私の関係が、その経過事体が、彼に惹かれる要素になっているのだろう…………。
「あのさ、志貴」
呼ばれて彼の顔を見ると、綺麗な顔が子どもっぽく歪んでいた。
頬を膨らませるまではしてないけど、ちょっとだけ怒っているみたい。
喫茶店で向かい合って二人きり、話をしていたのに会話を打ち止められて不満らしい。
「なあに」
「今、俺以外の男のコト考えてたろッ。顔に出てるぞー…………」
「ううん。――アルクェイドのコトしか考えてなかったよ」
嘘じゃない。彼と居ることの素晴らしさについて自分達の出会いとともに思い返していたところ。
ふとその言葉を口にしたときに、――あ、コレって口説き台詞っぽいな――、なんて思ってしまった。
でもしておかないときっとダメだ。私は彼に一目惚れしている。
けど、そうじゃない彼は私を手順追って好きになってくれなければ両想いは危ぶまれるのだから。
そこまで考えて、計算高い女ってマイナスかな、と自分がイヤになった。
END
08.1.14