■ 7章 Alice's insanity



 /1

 ―――空をもう一度見上げた。

「……」

 闇世界に輝く月。満月は近い。
 身体が痺れる。感覚が崩れていく。
 黒の世界が少しずつ染まっていく。
 そろそろ、ヤツが現れてもおかしくは―――。

「……ねぇ。シオン、どうしたの?」

 異常さを感じ取ったのか、志貴が声を掛けてくる。

「……」

 ナンデもない、……そんな一言も言えない。
 彼女は何も感じないのか。オレの肩は何かに怯え震えているというのに。

 空気がおかしい。電気が走っているような空間。歩くだけで頭が痛い。
 風がおかしい。切り裂くような冷たい刃。歩くだけで肌が痛い。
 音がおかしい。耳に響く高い音。歩くだけで耳が痛い。

 ……そんな自分が一番おかしい。何かが、痛い………………。

 ―――それだけ、オレは侵食されたというのか。

「シオン、やっぱり貴男、気分悪いんじゃ…………」
「……あぁ、どうやら気分が悪いらしい……」

 近寄る志貴。
 早足で彼女から遠ざかる。正直に身体は答えた。

「そっか。……じゃあ今日はアルクェイドに会うの止めて、明日にしてもらう? 私から説得しておくから、ね?」
「いや……」

 彼女は優しい。
 いや、恐ろしい。あの真祖を手懐けているような気がする。
 ……しかしそれは間違っている。彼女が、……志貴が真祖の皇子の――なのだ。

 認めたくない、まさか彼女がオレと同じ――だなんて。

 呼吸を整えるため、深く長くため息をついた。
 すると、

「!」

 ―――ツンとした匂いが鼻に届く。

「シオン、……これって……」

 それはオレの思い違いではなかった。志貴も顔を歪める。
 コレは、鉄の香り。―――血の匂いが、する……。

「……」

 匂いのした方向。あっちは、確か……。

「商店街の向こう……からかな?」

 ……所謂、路地裏と言われている所だ。

「―――ッ」
「シオン……!」

 居たたまれなくなって、志貴を置いて駆け出す。当然の如く志貴は追いかけてくる。

「な、何、また路地裏なの―――!?」

 彼女にとっては嫌な、悪夢のような想い出しかないらしい場。
 これからオレにとっても最高の悪夢の場となる―――。



 /2

 ―――着いた途端、信じられない光景に目を見開いた。

 紅く、赤く、朱い。一面に広がるアカ。
 そして鉄の匂い。
 物体は何から何まで歪み、曲がり、有り得ない形として存在してしまっている。
 硝子は割れ、破片達が月の光によって道を照らしている。

 ―――此処は無い世界。

「……なっ……!」

 後を追ってきた志貴も、その世界に息を呑む。

「―――」

 その世界は、美しかった。
 見取れるようにある一点に視線がおくられる。

 月下。
 白のスポットライト。
 朱の舞台を照らす。
 地面という地面を血に染めて、
 無数の死体の舞台に、

 ―――1人、少女が佇んでいた。

「―――」

 頭上の月を睨み、少女は楽しげに笑っている黒い、長い髪の少女。
 さらさらと風に揺れる長い髪の少女。
 その姿は―――志貴そのもの。

 でも、眼鏡をしていないし、髪も束ねていない。いつも志貴は髪留めをしている。だからあんな風に黒髪が揺れる事はない。だからあの女性は別人だ。

 ―――しかし、あまりにも似すぎている。
 あの美しさと繊細さを持ち、蒼く光る、凶器のような目を持っている女性は―――。

「アの、ヒと……は―――」

 志貴にも彼女…………『アレ』が見える。ということはオレだけが見ている幻ではないらしい。
 アレは、

「――――――アレは、私?」

 志貴は震える声で言ってみせた。
 少女の、長い黒い髪が風に揺れる。
 なんて、美しい。

 あれもまた―――月の姫のようで。

 紅い舞台に立つ少女は、よく似合っている。
 少女から発せられる威圧感は明かに以上だった。

「アレは、…………誰なの、シオン?」
「―――あぁ、キミじゃない。アレは遠野志貴じゃない。キミが遠野志貴だろう。……そうだな?」

当然の問いに志貴は激しく頷く。自分でもどんな返事を求めたか、変な質問をしてしまった。

「じゃあ何、……私のそっくりさんなの?」
「アレはキミじゃない。しかし確かにアレも――――――『志貴』なんだ」

 ……志貴は変な顔をする。
 オレも『偽物』そう言ってしまえば簡単なのに、何故か口が動かない。
 ……それは、アレは本物とか偽物とかで表せないからだろうか。

「もともとあの死徒―――『タタリ』には、偽物や本物といった概念はない。アレはただ噂…………キミの、夢だからだ」
「『タタリ』って……あのヒトの名前のこと?」
「アレの事を言う」

 ―――志貴は少女を見た。オレは彼女と少女を見比べる。

 似すぎている。流石『タタリ』。
 あの匂いさえ紛らせば少女は彼女になれる。又、彼女は少女になれる。

 代行者は言っていた。

『今、僕が捜している彼女も、志貴ちゃんが意識を通わせる前に片付けなければならないコなんでね』

 ……克明に想い出される。

『女の子に泣かれたらやっぱ後味悪くなるからさ。……志貴ちゃん自身のためにも、早めに彼女は片付けておきたいんだ』

『だから、イレギュラーば君を捕らえても僕には体力と時間の無駄になってしまう。報告書も書かないといけないしね』

 ……その志貴も、イレギュラーのオレもヤツに会ってしまった。
 一体どうすればいい?

「―――志貴。オレは……本当は吸血鬼化の研究のためだけにこの国に訪れたんじゃない」

 いつの間にか、隠していた事を口走っていた。
 ……何故か。今、語っておくのがいいと思ったからだろう。
 ヤケに人事のような言い草だが、冷静に考えれば言うべき事ではなかった。
 のに、

「オレは、―――この国にタタリを止めるために来たんだ」

 ……彼女には、『本当のオレ』を知ってもらいたかったのかもしれない。

「え……じゃあ、吸血鬼化を治す研究というのは、嘘……なの……?」
「…………」

 ……それは嘘じゃない。確かに吸血鬼化の研究も目的だった。
 しかしそんな事はいつでも捨てていいことだった。真祖もどうでもいいこと。
 ……きっと代行者は気付いていただろう。オレの目的。

 ―――それは、三年前の復讐。

 だが、復讐と言ってもオレには力がなかった。
 魔術師としての力では勝てない。半端物の力も使い物にはならない。
 でも復讐、それが心に残っていた。ヤツを倒したい、殺したい、この世から消してしまいたい。自分の手で行うのはどうすれば出来るだろうか。

 ―――ヤツを倒す道具を備える事。

 それがヤツへのオレの報復になるに違いない。
 しかし、今夜それも叶わずヤツに出会ってしまった。
 満月にはまだ早いのに。
 勝ち目はない。オレは、―――限界、なのだ。

「志貴。アレは志貴じゃない。志貴の形をしただけの―――死徒だ。倒さなければならない、敵なんだ」
「何言ってるの。私だってシキよ」

 志貴が言う。言ったのは、―――赤に演出された志貴だった。声まで同じ。それに志貴は驚く。
 ……そりゃそうだろう、全てコピーしてしまっているのだから。

「貴女は―――ッ?」
「……ふふ、シオンが折角判りやすくって説明してくれたのに、まだ判ってないの? 私は『敵』だって、倒せって、戦えって言ってるじゃない」

 ……嗚呼、今……少女と彼女の違いに気付く。
 花のように可憐に微笑む少女。それは二人とも変わらない。

 でも何かが違う。
 志貴は、あんな風に笑わない。
 志貴は、『敵』だなんて言葉は使わない。
 その証拠に―――

「『敵』……? どうして、私は……貴女と戦わなきゃならないの?」

 ……まるで状況を一つも掴めていないような。血の中で死体に囲まれて凶器を向けるヤツに言う台詞を言ってみせた。

「…………もぅっ、シキったら本当に平和主義……というかバカね。私が誰だか判ってるの?」
「……ううん、分からない……貴女、一体誰なの?」

 こんな時にもペースを乱さない志貴。
 だから周りを見ろ……どう見たってヤツは、殺人貴……『殺人姫』だろうが!

「私は本来の志貴。本当の私なんだから―――そうね、『七夜』とでも呼んでもらおうかしら」

 うっすらと、シキが嗤う。
 ……その笑顔に背筋が凍った。
 この笑みはオレにとっては真祖以上の『恐怖』だった。

「七夜……私の……本当の名前の……七ツ夜の……?」
「えぇ志貴。私達の本名でしょ? 貴女がまだ『遠野志貴』って語ってるんだから私はそっちで名乗らせてもらうわ。これで私は本物よ」
「本物……って、何なの? 私、まだワカラナ…………」
「志貴! もうヤツと話すな……!!」

 どんどんと彼女に近づく志貴を腕を止める。

「だって……私、あの子と話が…………」

 ……あぁ、代行者が苦労がっていたのがよく分かる。このまま止めたら泣いて嫌がりそうだ。
 ……しかし、それで許す訳が無い。
 もう、彼女と少女は顔を合わせるべきではない―――それだけは、混乱した頭で理解った。オレの力で消滅させる事は出来ずとも、ヤツを邪魔する事ぐらいはできる……!

 吸血鬼狩りは修行してきた。
 吸血鬼封印も研究してきた。
 三年前の教訓を元に戦えば、ヤツを止める事ぐらい―――!



 ―――なのに、

 ぶちっ

「バカね。私の前にして正気を保てると想ってるの―――?」

 ヤツがオレの眼を見て嗤った途端。
 何かが、

「ぐ、がああああぁああぁぁぁ―――!!!!!」
「シオン―――!?」

 ………………ブチ切れる音が聞こえた。



 ―――全く、こんなにも情けない声が出たのは多分生まれて初めてだ。

 膝、肘、頭、次から次へと地面に墜ちていく。
 倒れてからは自ら首を絞めた。
 首筋が痛い。喉が無性に渇く。
 どく、どくどくと激しく胸がが高鳴る。
 鼓動と呼吸が不規則に踊り出し、生きていられなかった。

 ―――否、もう死んでいた。

「ぐく、があ……っ…………くそぉ…………!!!」

 口から出る音は形にならない。
 こんなにも簡単に、切れてしまうなんて。
 もっと勿体ぶってもいいじゃないか。
 最期の最期まで取っておくとか、もっと満月に近づいた時とか。
 負け惜しみで考えてみるが、

 ―――どちらにしろ死ぬのには変わりない。

「っ! ……は、ぁ……!!」
「よく頑張ったわね。シオン・エルトナム・アトラシア。だけど、もうその身体は限界でしょ? ―――さっさと堕ちたら良かったのに」
「ぁ……くっ!!」

 意識が落ちそうになる。
 どうせなら早く落ちてくれ。
 気を失えば、この感情は消えるかもしれない。

「さようなら。三年間、ご苦労様。楽にしてあげる」



 ―――欲しい

 ……という化け物のような感情が。

「待っててね、シキ。……この男を始末したら貴女の相手をしてあげるわ」

 ……これで終わる。
 オレの時間はこんな所で終わるんだ。

 ……。

 …………。

 ………………。



 なのに、いくら経ってもその刻は来なかった。
 意識も消えてはくれず、現実世界に残ったまま、喉を掻きむしり続ける。

「『さっさと堕ちればいい』か……ったく、死徒っつーのは同じコトしか言えないのかよ」

 誰かが、この空間の時を止めているようだった。
 勇ましい男声にうっすらと瞼を開けると、美しいシルエットが映る。

「おぃ、テメェ。志貴と同じカッコしやがって……。いいぜ、遊んでやるよ。来ないんだったら、俺から行くぜ―――?」

 軽快なステップを踏んで、―――彼女が飛んだ。
 それは一瞬のコト。
 花のようにひらひらと、小柄な少女の身体が浮く。

「あぁ? ……何が『志貴の相手をしてやる』だよ。すげぇヨワイじゃん、お前」
「ア、アルクェイド―――!?」

 驚く志貴の声。
 その前に現れたのは、白の皇子。
 その皇子が、少女を軽くつついて追い払った。
 軽くつついて……だが、彼女は激しく飛んでいく。
 飛んで、落ちて、―――動きが止まる。

「アルクェイド……どうして此処に!?」

 もう一人の彼女が真祖の皇子の元へ行く。



 あぁ、そうか……あの男が姫の王子様か。
 ピンチになった姫を助けにきた、白馬の王子様か。
 オレにはそんなコトが出来ない、本物の王子様か―――。



 オレの指が微かに動くようになった。彼女の力が弱まったからだろう。
 しかしアレで倒されたわけではない。潰された彼女―――『タタリ』は、ゆっくりと立ち上がった。スカートの埃を払って、長い黒髪を掻き分けて、本物のシキの様に。

「イッタイなぁー、いきなり現れて蹴るなんて何すんのよアナタ」

 画面の端から端まで飛ばされたというのに、彼女は平気そうに嗤った。

「―――シキが相手ならともかく、真祖相手には…………流石に私もまだ戦えないわね。仕方ないわ、まだ満月じゃないんだもん」

 静かに嗤って、嗤って―――その声が路地裏中に響く。志貴と目が合い、真祖の皇子と目が合い、―――最後にオレの方に合う。

「貴男も素敵な『一人前』になれたコトだし。今夜は引いてあげる」

 彼女は後ろを向き、

「ばいばい、シキ」

 ……そう言って、闇の中へと去っていった。
 ―――否、彼女……『タタリ』は元から此処にはいないモノなのだ。
 殺人姫を一閃した。安堵。一気に身体が軽くなった気がする―――。



「おぃ、志貴……アイツさぁー」
「シオン、大丈夫!!?」

 真祖の皇子が声を掛けるや否や、オレの方へと駆け寄ってくる志貴。
 勿論声を掛けようとして逃げられた真祖は、良い顔はしない。今にも殺されそうな朱い眼でこちらを見る。

「シオン、平気……?」
「触るな!」

 びくり、と彼女の肩が揺れる。

「けど……」
「オレに触るなって言ってるだろ!!」
「……ぁ……」

 あともう少しで彼女の手が届く―――所で動きを止めた。止められた。
 志貴は悲しそうな、心配の顔でこちらを覗いてくる。起きあがり首を震う。……深呼吸をして、志貴の目を改めて見つめる。
 今にも、泣きそうな顔……。

「……心配するな。アレが消えたのなら倒れる事もない……」
「身体……痛いの?」
「いや、もうどこも………………」

 ……ふと、周りを見渡す。
 周りには志貴と真祖と、―――ゴミ袋がいくつか。なんと人間の死体なんてない。散らばっているのはゴミ袋とその中身だけ。さっきは確かに死体だった。あの匂いは血の匂いだった。……このゴミの山も遠目から見れば動物の死体に見えなくはないが、匂いまではしない。

 錯覚―――だったのか。
 オレがあまりにも『アカ』に執着し過ぎた故の。

「あの、シオン……さっきのヒト……」
「―――アレは志貴の見た夢だ。キミが見ていた幻の現実化……それがタタリの正体だ」
「私の……マボロシ?」
「タタリは本来は噂に取り憑く死徒。ヒトの不安に憑き、寄生し、出現する悪夢。……意志の強い不安に想ったコトを、そのまま形にしたモノだ」
「……何ソレ」

 ……ホントに何ソレ、だ。そんなコトが本当だったら、世の中悪夢だらけだ。
 彼女―――志貴一人の想いで出現するタタリ。それだけ、志貴は恐ろしい存在なのだ―――。

「……蛇やタタリがキミを好むのが分かるな」
「好む……? 何でそこでロアさんが出てくるか判らないけど、どういう意味……?」
「志貴。実に興味深い存在なんだキミは。キミは真祖と最も関わりのある人間だから、真祖の寵愛を一身に受けているのだから、色々と重要視されている」
「し、真祖の愛って……っ!」

 ―――自分で言っておいて、凄い響きだ。
 そして、その真祖だが…………

「? なぁ志貴、『チョーアイ』って何だよ」

 ……訂正しなくていいだろう。

「とにかく、―――志貴の想いが悪夢になる。タタリという吸血鬼は身体を言葉にうつす。……此処では噂よりもそれでヤツが蘇る方が確率高いだろう」
「吸血鬼……人々には噂は絶たないとおもうけど、この街吸血鬼さん多いからな……。それにしてもシオンタタリの事詳しいね?」

「―――オレは、二度目だから」

 ……一番、来てほしくない質問がきてしまった。
 だが訊かれたからには答えなくてはいけない、本当のコトが……。

「に……二度目!? シオン、貴男、アレと戦った事あるの?」
「…………三年前に一度。オレは教会からの協力要請を受けて、タタリ討伐に参加した事がある」
「……タタリはここにいるんだから、……シオンは……」
「あぁ、失敗だった。討伐も、防ぐことも、……まだヤツの事がわからなかった。タタリは普通に滅ぼせるものじゃない。村人は全て死に絶え、騎士団も全滅した。オレは一人逃げた。逃げ切れる筈がなかった。―――だというのにオレが生き残れたのは、タタリが情けをかけたからだ」

 ……吸血鬼に情けをかけられる。こんなコトがあるだろうか。
 ……それが許さない。こんな安い命を遊んだヤツが。

「シオン……貴男は……タタリに血を吸われて…………?」
「……」

 ―――そうか。今更分かった。
 オレはヤツに逆らえなかった。
 ……それは、タタリの死徒だからだろう。

「シオンが吸血鬼化の治療法を研究しているのも……?」

 それも、どうしても研究は続けなくちゃいけない。

「―――そのとおりだ。オレは、タタリに噛まれている」
「…………」

 真祖は志貴の後ろで黙ってこっちを見ていた。
 微笑んでもいなければ睨んでもいない。無表情で光りのない、朱い目で。

 ―――その視線だけで、頭が痛い。

「三年前、村から逃げ延びたオレは森の中でタタリに捕まった。なのにヤツはワザとオレを生かした。血を吸われ……死徒になった。しかし吸血鬼にすればオレは半人前で…………まだ人間の形を保っていられるんだ」

 ……それでも死徒に血を吸われた人間は親である死徒に逆らえない。

 ―――気を抜くと、本能だけで動いてしまう。
 それは、血を吸ってしまいたくなる本能。
 吸血衝動が―――。

 ―――どくん

「クッ……!」

 修まっていた衝動が、再発する。

「シオン……ッ!?」
「く、そ……ヤツは……っ!」

 ―――ヤツは、あの時『人間』と『吸血鬼』の境を切った。
 あの時、命まで切ってしまえば楽だったのに……まだヤツはオレの命で遊ぼうとしている…………。
 それが、許さない。

「ぐ、あぁ―――ッ!」

 ……割れた硝子にオレの姿が写る。

 ―――あぁ、ついに。

「シ、オン―――目が、赤………………」

 真祖の皇子と同じく、赤く染まった目。

「……これで、完全にオレは―――死徒に」

 三年前から予想していたコトが、ついに。

 ―――満月の夜の前日。
 起きてほしくなかった、最高の悪夢がこの場で―――。





Freaks Channelに続く
03.5.25