■ 行為



 十年間使い古した脳は破壊を辿るか。あれは不安定な最期だった。何故今も永らえるか疑問に思ったこともある。

 だが今でも存在し続ける精霊の躯。開く眼、閉じる瞼。触れれば人の温かさ。首に指を掛ければ弾み変えながらも教えてくれるリズム。

 一度死した躯に生殖行為を求める。

 何の意味も無い行為。霊の類である以上に、例え人であっても大きな問題に当たる。逞しい肉体、勇ましい声色。そして何よりも『生きた者同士ではない事実』。

 まるで死体を犯しているようだ。
 否、本当に『死体に犯されている』のだと。
 事実を語る。変えようも無い、反論も無い真実事。

 語らいの一切無い行為にいつか感想を洩らした。
 新しく手に入れた方はいちいちやることなすこと反応をしてくる、そこが楽しい、などと、今している行為に対しての愚痴さえも。

 やり方を変えてみたらどうだ。
 久々に声を交わせた。魔力を貰っているだけの、この関係ならば当然の行為、そんなに楽しくなければ違う方法で愉しませてくれ。

 不思議と今日は言葉が進んだ。
 最先のうちは何があっても何を見ても無意識に開いた口だが、今となっては何を求めても詰らない。

 今この瞬間も、先あの時間も、おそらくこの先も。
 欠落していく。実意は無くなり愉しみも見当たらず生に固執しなくなる。永遠に近付いている者故の意識の変化。
 まだ残る意識の中で求めるのは只一点。

 ……自身を破った、あの騎士のみ。


 自慰が終わり受け入れる姿勢は整った。
 より快く、不便なこの関係の中でも言峰自身を、言峰の肉慾を受けとめられるよう。
 こんなもの意味の無い詰らぬと思っていても、するのは性行為だ。色々な理由を付けてもその根元は変わらない。
 如何にし施そうが、結合が、注入が変わってはくれない。

    、    。

 どちらかが息を殺す。拒絶は現れない。従順に、機械的に行為は続けられる。
 拒みはしない。本質的な意味が無くても、関係上意味のある行為をしている。
 愛ある行為と呼ばれても愛が無い、必要なのは精だけだとお互い悟っている。



「……?」

 ……だから。
 何時もとは違う流れに動きを止める。

 造作無く熱を与えた後、どちらかが転轍を切り替えなかった。
 それこそ、無駄な行為に終わることをしてみせた。



「今ので、何か、情は湧いたか?」



 微意による行為。

 生まれたものは何か。
 在か否いか。





 END

 05.4.27