■ To lose in amber



 どこかの森林公園を思わせるように木々の中に一つの離れがあった。その小さな離れは母屋とは劣るものの立派な造りだった。
 離れの住人はいつもの同じ時刻に目を覚ました。ちょうど窓から太陽の光が住人の顔に当たった為である。

「んん……、もう朝かよ。ったくまだ五時間しか寝てねぇのによ」

 時計は七時を指していた。休みの前の日だけあってどこの家にも夜更かしをするのは珍しくもないが、彼の場合は最近恋人になった女性との『生活』にて更に就寝は遅くなっている。自業自得なのも分かってはいるがイマイチ体は学習してくれないのが人間である。
 不満気に体を起こして近くに畳んである服に手を伸ばし着るのが日課だったが、服に手を伸ばさずに途中で止めた。理由は其処に服がないからである、辺りを見回してもそれらしいのは無い。

「どうしたんだ? どんな時もこれだけはしてったのにな」

 見回している間に少し異変を感じた。

「あれ? 俺の寝てる間にここを増築でもしたのか?それにしたら天井だけ高くするのも可笑しいしな……」

 とりあえず洗面台に足を向け、鏡を覗いた。そこには肌は白いが活発そうで10歳程度の少年が映っていた。少年にしては多々可笑しい部分があった、髪の毛が白く昨今欧米化しつつある日本でもあまりお目にかかれない和服姿なのを除けば立派な日本の子供だ。

「な……なんだよ、これは―――」

 エコーがかかりそうなほど大きな声を発した。

「おいおいおいおい、何だよこれは!? まだ寝てんのか俺はよ!」

 そう言いながらでも、ちゃんと顔を洗った時に水の冷たさを感じたので夢ではなかった。

「なんかしたかな……? 最近はバケモノの気配してねぇし、最近はあいつの使い魔にちょっかいだしてねぇしな……。それにお姫さんやら黒いのも見てねぇからな……もしかしたらムラサキがなんかしたか?」

 そう思っているよりもとりあえずは唯一の理解者である使用人に頼ることにした彼は離れのドアを開けた。

「あれ? うわぁっとっと」

 ドアを開けた瞬間、黒い髪の少年が突進(?)してきた。ちょうど黒い髪の子が白髪の子を押し倒すように(実際に押し倒しているのだが)状態になった。

「おい志貴、いつからお前は突進するようなキャラになったん…………だ。お前…………志貴だよな。ってなんでお前まで縮んでるんだ?」
「違うよ、僕がお兄ちゃんを起こそうと思ったんだ。そしたらさ、勝手にドアが開いてコケたってことだよ。……それよりも『縮んでる』ってどういう事? そりゃあ最近お兄ちゃんは身長がドンドン伸びてるけど、ヒドイよ」
「な、なあ志貴……今日は何月何日か教えてくれ」

 確かに今日の俺は可笑しな点があると思う。それは俺一人だけが時間旅行でもしているかのようだ……。実際そうなんだろうがイマイチ信憑性がない。どこぞの映画じゃあるまいし……。



「オッハヨー、四季くん。今日もいい天気だね、それとお誕生日おめでとう」

 そうなのだ。
 今日は遠野四季の誕生日らしい。何故こんな日にしたんだろうか?

「? どうしたの考え事でもあるだったらさ私に相談してくれても良いんだからね。私と姉さんは四季くんのメイドなんだからさ。でも月日が経つのって早いよね、もう12歳だよね」

 しかも12歳ってのが可笑しい。これも志貴に言われたから驚かなかったがさっき志貴にも同じことを聞いたのでかなり驚いた。

「いいや、考えことなんてしてねぇよ。だから心配すんな。それとな、ありがとよ」
「あ……うっうん。わかったよ、なんだか今日の四季くんってオトナって感じだね」
「そうか? 俺はただこは…………じゃなくて翡翠に要らねぇ迷惑かけるのが嫌いでな」
「そ、そう……それじゃあ私は仕事あるからさ、秋葉ちゃんが朝ご飯待ってるてさ」
「おう、わかった」

 そういって翡翠は走り去っていった。

「昔の翡翠ってこんなんだったんだな、これが空元気なんて知らなかったんだよな」

 そう思いながら屋敷に入っていった。

「あら、おはよう御座います。お兄様お誕生日おめでとうございます」
「秋葉……ありがとな」
「どうしたの? ちょっと変よ」
「いや、別に変じゃないぞ。それよりも朝飯だったな、行くぞ」

 秋葉ってこんなに小さかったのか。と思い出しながら食堂へ入っていった。

「もー、秋葉もお兄ちゃんも遅い。僕待ったんだからね」
「ちょっと翡翠と話していてな、アイツっていつもあんなんだったっけ?」
「…………」
「お、おいどうしたんだ。二人して黙るなって」
「い、いえ別に今日のお兄様ってなんかいつもと違うように感じるから」
「お前も翡翠と同じこと言うんだな」
「へぇ、あの子も結構勘がいいのね」
「おい志貴、お前もそう思うか?今日の俺が変って」

 急に話を振った所為か慌てた。

「あれっ、何か言ったかな? お兄ちゃん」
「もう、お兄ちゃんはまた遅くまで起きてたの、ちゃんと早く寝なさいって言われたでしょ」

 俺はこいつらがあまり変わっていないと思いつつ琥珀に会いに食堂を去った。



 俺はこの事件(俺が小さくなったこと)について琥珀が何らかのカタチで関与していると思っている。とりあえず琥珀のいる部屋に来た。ノックしようとドアの前に立ち、手を伸ばした。

「四季さま、おはようございます」

 後ろに背後霊みたいに現れた琥珀は俺の昨日まで知っていた琥珀ではなかった。

「あ、ああおはよう。部屋にいると思ってたんだが何処に行ってたんだ?」
「少し翡翠ちゃんに呼ばれましたから、そちらへ行ってましたが何か御用でしょうか?」
「そっか、その様子じゃあ何にも知らねぇようだな。いいよもう用事はないから」

 俺はそう言い残して去った。つもりだったが琥珀が急に俺の着物の裾を掴んだ。

「あの……四季さまが宜しければ琥珀のお相手していただけませんか?」

 琥珀が何故か顔を真っ赤にしてそう言った。

「ああ、それよりも中に入れてくれねぇか」
「はい、どうぞ」

 琥珀の部屋は本当に昨日と変わっていた。まるで無人を思わせるかのように静まり返っているが、所々翡翠の趣味っぽい人形があった。多少過去が変わっているようだ。琥珀は部屋の棚から珈琲のセットを出してきた。

「なぁ、お前のの部屋ってこんな人形あったっけ?」
「これですか、これは翡翠ちゃんがくれたものです。翡翠ちゃんって志貴ちゃんから『男の子みたいだね』って言われたから女の子みたいなるためにお人形を造ったんですけど、当の志貴ちゃんが自分の言ったこと忘れちゃったから結局私にくれたんです」
「はは、あいつは年中構わずにそうやって女を引き寄せてるようだな」
「そうですね、少し志貴ちゃんに嫉妬しちゃいます」
「もう小姑になるつもりか?」
「そうかも知れませんね。でも志貴ちゃんが一番好きなのって誰なんでしょうね」
「そんなことが気になるのか、別にアイツのことだ「皆ダイスキ」とでも言うだろうな」
「あら、志貴ちゃんって実は……」

 琥珀は喋っているのを途中で止めて俺の顔をまじまじと見た。

「どうしたんだ? おい途中でやめるなって気になるだろうが」
「フフ、やっぱりそんなことは志貴ちゃん本人に聞いては如何ですか?」
「結局それかよ。わーったよ、別にアイツのことなんて無理してまで知ろうとなんておもわねぇからよ。じゃあな」

 結局琥珀から得たのはどうでもいいことだった。俺とアイツは今でもこういう風な感じだから、知ろうだなんて思いはしなかった。俺は琥珀を残し部屋を去った。
 一人になった琥珀が片付けている最中こう呟いた。

「四季さまも十分鈍感なんですから、全くあの二人ってどちらかと言えば友達って感じですね」

 遠野四季は離れに戻り、今までの事を整理した。

「あーあ、何でこんなことになっちまったんだろ?悪夢ならとっとと覚めて欲しいぜ。ったく何処のどいつがしやがったんだ……。大体夢にしたって俺は12歳の時なんて知らないか夢じゃねぇってわけかよ」

 本来夢というのは見た人物の記憶されていること、見たことあることから派生されてできるものであるからして夢という可能性はない。

「やっぱりそうなると……あっちのトンデモ系になっちまうな。日本式なら解きやすい筈なんだがな西洋だと許容範囲外だからな」

 あれから人間らしくはなった彼だが未だに人外並みの耐性を持ち合わせている。シエルの使用する黒鍵くらいは素手で持てる程度だが彼にしてみれば寛大になっていると言っている。

「仕方ねぇ、あのインケン親父に頼るしかねぇな」

 首と腕の力で飛び上がり再び母屋に向かった。



「うあっと、アブねぇなまた本が落ちてきやがった」

 どうやら此処の世界では親父はちゃんと死んでいるから、部屋はすっきりしていた。がしかし、所詮は子供の姿の四季にしてみれば普段は届くはずの所の本を手近にある棒で何冊も本を落としてその本を片っ端から読んでいる。『もしこれが見つかったらどうなるんだろうな。』と一度は思ったが今はそれ所ではない。

「……何だこれは? 親父の手記だよな?」

 運良くさっき落とした本が槙久の手記だったようだが、それを不振に思っている。

「これには秋葉の事とか、琥珀のこととか書いているんだったよな?」

 中には全くを以って『普通』であった。志貴が生まれたことや秋葉が初めて立ったこと、他にも翡翠
と琥珀がこの屋敷に来たことしか書いておらず、『七夜』、『感応者』、『軋摩』のことが一切書いてなかった。

「何で書いてねぇんだよ、それにいつの間にか違和感がなくなってきているじゃねぇか」

 立ててあった姿鏡には見知らぬ自分がいた。髪の毛が黒く活発なのを象徴しているかのように。

「あ……れ? 俺は……」

 急に彼は膝から崩れ落ちるかのように倒れこんだ。とても明るい光に吸い込まれるかのように。

 その光はとてもとても明るかった。お父さんにおこられたり、走っているときにつまづいてヒザをすりむいても、わすれさせてくれました。そう、これはいけないことじゃない。わたしはカレがすきだから……だからわたしがまもってあげないと。



「う……ここは……」
「お兄ちゃん、よかった起きてくれて」
「ど、どうしたんだ。泣きそうな顔してよ、みっともないから泣くなよ」
「だ、だってね……お兄ちゃんがもう目を覚ましてくれないと思ったらさ。悲しくなっちゃって……」

 志貴が俺に抱きついてきた。俺の腰に跨るような形で俺の胸に顔を押し付けて泣いている。

「痛いから離れろよ。ったく大体お前は……何睨んでんだ?」
「僕がどんなに心配したか分かっているの?本当に起きないかと思ったんだからね」
「ちっ、わかったからこの状況を説明してくれ」

 志貴は残念そうに俺の上から降りて俺の近くの椅子に座った。

「えっとお兄ちゃんはボクと遊んでいる時に急に倒れちゃったんだ。鬼ごっこしている最中にパッタリとコケて、いくら呼んでも返事してくれないからボクが大人達を呼んだら直ぐに此処に運ばれたんだ、わかった?」
「ああ、とりあえずはな。秋葉達はどうしているんだ?」
「秋葉は外で待ってるから呼んでくるね」

 志貴に開放された少年はベッドに倒れこんだ。

「大方日射病でも起こしたんだろうな。大げさなんだよ、アイツのブラコンぶりは」

 『ズキン』と金属と金属が擦れる音がした。
 志貴と秋葉達が部屋に入ってきた。

「お兄ちゃん大丈夫?よかった、あれからずっと起きないんじゃないかって思ってた」
「ワーイ、四季くんが元気になったー」

 秋葉と翡翠が盛大に喜んだ。

「あれ?アイツはどうしたんだ?」
「え?アイツって誰なの四季くん」
「いや誰かもう一人いたような気がするんだが……気のせいか」

 『ズキン、ズキン』更に強く擦れる音が響いた。

「そうだ、お兄ちゃんが直ったらどっか四人で行こうよ。ね、秋葉」
「うん。私も行きたい。皆でどっか海とかに行きたいな」
「それじゃあ四季くんがどっか行っても大丈夫になるまでに私は用意しておくね」
「おい、翡翠幾ら俺でも一日や二日ではなおらねぇと思うぞ」
「良いの、四季くんが大丈夫になるまで待っていてあげるから。
「そうよ。私だってお兄様が良くなるまでずっと傍にいてあがる」
「うん、皆お兄ちゃんが起きるのを待ってたんだからね」
「そっか、ありがとよ」



 『ズキン』と一番大きく響いたけど、気にならなかった。
 あれからずっと三人は俺の部屋に来てくれている。ただあれから『ズキン』とした音はしなくなった。あれから海に行ったり、花火したりした。今日も近くの寺で夏祭りがあるらしい。今まで行けなかった夏祭りに珍しく俺が行こうと言い出した。

「ねぇ、これどうやって着るの?」

 志貴が浴衣を抱えて聞いてきた。普段着が和服なので人に浴衣を着せる位簡単だった。ただ秋葉と翡翠に関しては少々問題がある。理由は女だから俺が着せるのには気が引けるため、屋敷の他の使用人の所にいる。

「こんな時アイツがいればいいんだがな」

 志貴に着付けしている最中、手を止めて呟いた。

「アイツって誰なの?お兄ちゃん、またそんなこと言って」
「怒るなって。ほらこれで良いだろ、それじゃあ俺も後から行くから先に外に行ってろよ」

 志貴は頷いて出て行った。

「アイツって……誰なんだろうな。変だな覚えている筈なんだが思い出せない」

 赤い和服でいつも俺の傍で笑っていてくれた女性……。
 また『ズキン』と頭の中で響き続けている。



「ぐ……ふ。あああああ」



 何故、こんな頭痛がするんだ。赤い和服、常に耐えない笑顔、赤いリボン、いつも隣にいた女性の名前……たしか、こはくだった。
 気がつけば祭の喧騒の中にいた。闇を消し去るランプと賑わう人々たちで夜の静けさが全くなかった。



「あっ、お兄ちゃんここにいたんだ」

 志貴は走りよってきた。両手には綿菓子を持っている。

「はい、買ってきたよ。一度でいいからこうやってお兄ちゃんとお祭りを歩きたかったんだ。ねぇ、次はどこがいい?」
「な、なぁ俺って確か部屋で浴衣着ていた筈じゃあなかったのか?」
「んもー、お兄ちゃんって時々変だよ。ちゃんとボクとここにいるじゃない」
「そ、そうだな。すまなかったよ、そう言えば秋葉と翡翠はどうしたんだ?」
「さぁ、知らないよ。ボクはお兄ちゃんさえいればどうなってもいいんだからさ」

 志貴は引っ張るように俺の手首を掴んで歩き出そうとした。



「……離せよ」



 思いっきり志貴の手を振り払った。

「あれ? ボクなんか怒られるようなこと言ったかな?」
「いいや、癪に障ったんじゃねぇよ、ただ貴様は志貴じゃねぇからだ。志貴は犬っコロみてねぇに俺に着いてきたがな。ぜってぇーに秋葉や翡翠をぞんざいにしねぇんだよ。誰だ貴様は」

 ―――そういった瞬間、目の前が、いや世界が死んだ。



 世界を殺した、いいや殺すという表現は正しくない。『生』を消したというのが無くなったのだ。あのあと俺は自然に血刀で世界の「生」を消しただけだ。
 『生』がなくなった世界はとても脆かった。ハリボテのように触れるだけで跡形もなくなってしまう…………。俺は子供になった時の世界もさっきの何かが足りない世界も全て消した。
 そして、今こんなくだらねぇ世界を作りやがった奴に元へ行っている。



「おい、茶番劇は終わりだ。直ぐに元に戻しやがれ」



「なんで? 思い出してしまったの? ワタシにはわかるの、大事な人がいなくなってしまうのなら最初からいない方が良いってことを」
「ハンッ、どいつもこいつも勝手に押し付けやがってよ。上等じゃねぇか、今すぐ殺してやるよ」

 人影に近づき顔を包んでいたベールを剥がしその人影に口付けをした。

「なっ何をするんだ……」
「やっぱりな、少し前までさつきか琥珀かと思ってたがやっぱり違った。アイツはもっと上手だし、さつきなら避けれるよこんぐらいのことは」

 その人影は全く四季と同じ背格好の少年だったがその眼は憎しみでいっぱいになり、爪も獣のようで「バケモノ」そのものだった。

「お前は……自分のこんなにした奴らが憎くねぇのかよ。ずっとお前の好きな秋葉たちに会えなくて、それでも良かったのか?それにあの女さえいなければ……」

 四季は少年の右頬に左拳を叩きつけた。

「ガキだから利き手と逆にしてやったがな、俺はお前の我侭で散々振り回されたお礼だ。それに俺の女を『あの女』呼ばわりすんじゃねぇよ。俺は志貴に殺されたんた。だが俺は志貴に感謝している、元々は俺やてめぇが元凶なんだしな。それを逆恨みしやがって……。あーあ、何自分相手に怒ってんだろ」
「だって……ボクは独りだったから。辛かったよ、独りで長い間あんな暗い所に閉じ込められて秋葉にも会えなかった。なのにお前は簡単に復讐を諦めたからボクしか自分を守れないって思った。それにボクが創った夢、志貴との『花見』や『夜の公園』、だって本当は存在しなかった夢だとも知らずにお前はそんな楽しそうな志貴を殺すチャンスはいくらでもあったのにお前は何もしなかった。だからボクはお前に夢を見せて……いやもう少しで現実になりかけたのをどうして思い出そうとしたんだ?」
「甘いねぇ、これが俺だと思うと情けねぇよ。いいか俺とお前は遠野のくだらねぇ血筋でイカレちまった以上は仕方ねぇけどな、ちゃんと夏になれば前みてぇに会えるんだからいいじゃねぇか」
「嫌だ、ボクは秋葉たちに会いたいよ。それにさつきをあんな目にあわせたくもなかったし」
「そっか……なら真正面から邪魔するものを消しに行け。自慢の血刀があるんだからよ、『天の川』だろうが殺しちまえるようになったら教えてやるから。そのつまらん意地を捨てな!」



 そういって俺は自分の前から姿を消した。後ろからガキが叫んでいる。



「わかったよ、俺ガンバっからお前もちゃんとけじめつけろよ」
「てめぇに言われる筋合いねぇよ、タコ」

 最後までガキは俺に手を振っていた。


 
「ここが奴の残してくれた世界ってわけか。しかしよくもまぁこんなの作れたもんだぜ」
「あれ?お兄ちゃんどっか行ってたの?探したんだよ」
 眼鏡をかけた少年がかけよってきた。
「少し散歩していたんだ」
「それならボクも誘ってくれても良いのに」
「膨れるなよ。それで何で俺を探していたんだ?」
「ちょっと待っててね、皆呼んでくるかさ」

 少年は母屋へ走って行き、すぐに戻ってきた。

「これがボクたちからのお兄ちゃんへの誕生日プレゼントだよ」

 少年の手にはラッピングされた小さな箱があった。

「そうだよ、お姉ちゃんと私が探してきたんだからね」
「大事に使ってくれると嬉しいです」
「お兄様のことだから忘れはしないと思うけど覚えててね」
「開けていいのか?」
「うん、僕と秋葉が選んだんだ」

 箱のラッピングを解くと中には小さなマグカップがあった。ちゃんと四季の名前が彫られてあり、日付も書いてあった。

「ほら、お兄ちゃんってさいっつも珈琲だからそれにしたんだ」
「ありがとな、大切に使わしてもらうぜ。これからもな」

(俺はこの世界の人間じゃない……。だが何もしねぇまま去るのもどうかと思う)

「うーん……」
「何唸ってるの?」
「そうだ、なぁ俺の12歳の記念に写真でも撮ってくれねぇか? まだ俺らまとまって写真なんて撮ったことないし……駄目か?」
「ボクは撮りたいな。ねぇ秋葉は?」
「お兄ちゃんがそう云うのなら良いよ。ねぇ翡翠ちゃんたちはどうかな?」
「うん、お姉ちゃんも写りたいってさ」
「そんじゃあ、あの木をバックにしてみっか?」

 部屋から持ってきたカメラと三脚でセッティングをして大きな木の所へ行った。

「それじゃあ撮るよ、皆笑ってね」

 志貴がカメラのスイッチをいれて俺の隣に立った。



「あれ? お前は俺の隣で良いのか?」
「うん、ボクお兄ちゃん大好きだからね」

 カメラのフラッシュと共に四季の望んだ世界が消え去った。



    ボクは決めた。もう人をうらむのはやめた、たとえ早くしんでもその間まで
     ちゃんと生きようと思う。何年後のボクが言っていたことを信じて。





 END

 ―――It got it from Exy.