■ 桜の時



『皆、お花見に行かない?』 



 桜の蕾が出来始めた春のある日に志貴がそう言った。翡翠と秋葉はもちろん直ぐに行くことを決めた。どうやら志貴はこの前TVで花見ってのを知ったらしく、そんなことを言った。俺も花見と言えば遠野の関係とかでただ単に桜の下で出された食事を食うと言った世間とは違う花見だったからどうせ子供たちで行ってもつまらなさそうだから行くつもりはなかったし、琥珀と屋敷で留守番でもしていると思っていた。
 そんな俺たちを志貴たちは説得にきた。

「ねぇ、琥珀ちゃんとお兄ちゃんも行こうよ」
「いいって別に。どうせつまんねぇって親父やら久我峰やら時南のおっさんが来て飯食うだけだろ?」
「違うよ、だってTVだと皆楽しそうにしてたしさ。それに大人はあまり来ないで僕たちでやろうと思ってるんだ、朱鷺恵さんだって来るからさ」
「う〜ん……どうする琥珀は?」
「私は……行くことにします」
「わーい、それじゃあお兄ちゃんは一人で留守番ってことにするけどそれでいいの?」

 志貴がニヤつきながら聞いてきた。琥珀を朱鷺恵さんで落としたことで俺もできるとでも思ってるんだろうが、ここは兄貴の威厳としていく訳には行かない。

「いいや、琥珀が行こうが俺には関係ない」
「えーっ、何でだよ。どうして行かないの?」
「どうしてもだ」
「四季さま……」

 琥珀が寂しげな表情で俺の着物の袖をつかんで呟いた。心が痛むがしかし、もしここで折れたら今後同じことになりそうだ……。

「わかったか。それじゃあお前はその準備でもしてこい、いいな」
「……わかったよ」
「そうだそれで良いんだ。俺のことは気にせず行って来い」
「じゃあ、僕も行かないよ」
「お、おい何もそこまでしなくてもいいだろ」
「ううん、お兄ちゃんも一緒じゃないと嫌だからね。女の子ばっかりだと楽しくないもん」

 最近こいつのブラコンも激しくなってきたな。しかしこいつが行かないとなると秋葉や翡翠に怒られそうだしな……仕方ないな。

「わーったよ、俺も行ってやるからお前は行かないなんて言うなよ」
「えっ! 行ってくれるの?」
「ああ二度も言わせるんじゃねぇよ。だから用意しに行くぞ」
「うん、それじゃあ琥珀ちゃんも楽しみにしててね」

 そういって志貴は部屋を出て行った。



 志貴と居間を通りかかると翡翠と秋葉が花見の用意のため、せっせと荷造りをしている。

「あーっ四季くんも行くんだ。よかったね秋葉ちゃん」
「ええ、お兄ちゃんもお兄様無しだと元気ないもんね」

 こうやって二人が仲良く話しているのと普通の女の子だな。

「そうだ、翡翠はお花見のお洋服はどうする?」
「うーん、私は別にいつもと同じだけど……やっぱり秋葉ちゃんはそれだとダメね」
「だから選びに来てくれないかな?」
「うん、それじゃあ私のお部屋に行こ」

 そう言いながら二人は二階へ上がっていった。

「それじゃあお兄ちゃんは僕といろいろなの運ぶのあるから倉庫まで行こうよ」
「お、おいそんなの使用人にやらせとけばいいだろ、何もお前が重いの運ばなくていいじゃねぇか」
「ううん、お父さんにお花見のこと頼んだら自分達で出来ることはしろって言われたからさ、出来る分はしようよ」
「そうだなお前がするっつたんなら仕方ねえか」

 倉庫の鍵をはずして扉を開けある程度のものを取り出した。その中にはバーベキュー用の黒炭やら新聞紙とかが何故かやたらと手前にあったり、折りたたみイスもちゃんとしている。あの親父も素直じゃないと言うか親バカって言うか……。

「ねぇお兄ちゃん。今から大きいの出すからそっち持ってくれるかな」
「ああいいぞ、気をつけろよ」
「うん、それじゃあいっせのーで」

 といつもの台詞で持ち上げ難なく一通りは終わった。

「ふう、お兄ちゃんお陰で早く終わったよ、ありがと」
「別に礼なんていらない、それに秋葉の為になるからな。ん?どうした?急に浮かない顔してるがどうした?」
「ううん、何もないよ。それにしてもお兄ちゃんって力持ちだね」
「そっか? 普通だと思うが?」

 まぁ一応小学生でバーベキュー用コンロを運べるのは凄い方だろうが、別にこいつに自慢するほどでもないし。

「普通じゃないよ、僕はお兄ちゃんにちょっと憧れてるんだけどな」
「頼むから真剣にそんなこと言うな恥ずかしいだろ」
「わかった、でも言わないけどお兄ちゃんは僕の憧れだよ」
「……しょうがねぇな。いいぜ別にお前が好きならいてもいい」
「ありがと、お兄ちゃん。さっ、荷物外まで運ぼうか」
「そうだな、気をつけろよ」

 志貴はそういって庭に走っていった。



 花見当日の朝、俺は何時もとは早く目覚めた。寝ぼけ半分で時計を見た。

「……あーもう、何で早く起きちまったんだろ」

 これだとまるで楽しみにしていたようじゃねぇか……。このまま起きるのも癪だから二度寝するためにベッドに倒れこんだ。
 その数秒後廊下からダダダダダと二人分の走ってくる音が聞こえた。

「「おっはよー!」」

 大きな声で志貴と翡翠が部屋に飛び込んできた。

「起きてー、お兄ちゃん」
「朝だよ、四季くん」
「あーもう、うっせえな。起きるよ、起きりゃあいいんだろ!」
「ど、どうしたのお兄ちゃん。怖い夢でも見たの?」
「違うよ志貴ちゃん、四季くんは今日が楽しみで全然眠れなかったからフキゲンなんだよ。だからこういう時はそっとしておいてあげた方が……」
「えーっ、きっと怖い夢みたから僕が一緒にいてあげた方が……」
「てめぇら!コソコソ話はもっと小せぇ声でしろ!全部聞こえてんだよ」
「ごっごめんなさい。志貴ちゃんもそっとしておいてあげよ」
「いいっつってんだろが、着替えるから出てけよ」
「うん、じゃあね」

 翡翠はそう言って俺の部屋を後にした。

「おい、何で志貴はまだいんだよ」
「えっと、聞きたいことがあるから残ったの」
「何だ?聞きたいことってのは」

 寝間着のボタンを外しながら聞き返した。



「お兄ちゃんは今日のお花見さ実は嫌々じゃないよね?」
「おい、どうしてンなこと気にすんだよ」
「……。僕だってわかるよ、お兄ちゃん最初は行くの嫌って言ってたけど僕らが無理矢理行こうとしたから。あのあともし僕がお兄ちゃんと同じ立場だったら凄く嫌な気がしてさ……」

 用意された服に袖を通しながらため息を後答えた。

「あのな。俺は一度行くって言ったんだからそんなの気にすんな、それに折角秋葉やら久しぶりに琥珀も楽しみにしているんだから誘ったお前がそんな気だとあいつ等に悪いだろ。いいな、そんなの気にするんじゃねえよ」
「そうだね、ありがとう。それじゃあ僕もう下で待ってるからお兄ちゃんも早く来てね」
「わかったから、あまり家の中で走るのは止めろよ」
「はーい!」と声を残して去っていった。

 俺は服のボタンを全部通して部屋を後にした。



 朝飯を済まして外に出ると志貴たちは既に行く準備をしていた。琥珀は俺に気づき礼をした。

「おはようございます、四季さま」
「おはようお兄様。今日は晴れて良かったですね」
「ああそうだな、それにしてもそれが昨日翡翠と話していた服か?」

 秋葉はいつものドレスタイプではなく半そでのシャツに珍しくジーンズだった。

「ええ、どうですか?いつもとは違うタイプの服って着てみたかったんですよ」
「別に可笑しくはないと思う」
「ふふ、四季さまも素直に似合ってると仰れば宜しいのに」
「こら、琥珀何言ってんだよ。お前だっていつも違うじゃないか」
「ええそうですよ、だって女の子にとって日焼けなんていけませんから」

 琥珀は白いワンピーズに麦藁帽子のお嬢様みたいな服装だ。

「可笑しいとまではいかないがお前らたかが花見でそんなにキレイにしなくても良いと思うんだが」
「いいえ、お兄ちゃんのことですから行く場所ってのは大方大きなアスレチックの公園だと思います。
ですからこんな服にしたんです」
「何だお前ら行く場所聞いてないのか?」
「そういう四季さまはご存知なのですか?」
「いいや聞いてない、多分知ってるのはアイツか朱鷺恵さん位じゃねぇか?」
「呼びましたか? 四季くん」

 後ろから女性の声がしたので振り返ったら一人の女性――俺たちの親戚にあたる朱鷺恵さんが立っていた。

「おはよう、今日は晴れて良かったね」
「そうですね、そろそろ出発するんだったら志貴の奴呼んできますけど……」
「とりあえず槙久の小父様にご挨拶してくるわ、それまで待っててね」

 朱鷺恵さんはそういって母屋の方へ歩いていった。

「お兄様って朱鷺恵さんの時だけ敬語を使われるのね」
「それは仕方ないですよ秋葉さま。そりゃあ朱鷺恵さまは年上ですしおキレイですし、四季さまの好みのタイプの女性ですからね」

 秋葉だけでなく琥珀の視線までが冷たく感じるのは気のせいだろうか……。

「そんなことよりも志貴を探すのが先だろ?」
「お兄ちゃんなら翡翠と朱鷺恵さんを屋敷で待ってるらしいですから一緒に来るでしょ」

 そう聞いて屋敷の方を見ると朱鷺恵さんの両サイドに翡翠と志貴がいた。

「お兄ちゃんは準備出来たの?僕と翡翠ちゃんは遊ぶものもって来たよ」
「そうそう、四季くんも一緒に今日くらい遊ぼうよ」
「それでは出発しましょ」



 その後朱鷺恵さんの運転で予定している公園に着いた。まぁ名家を誇る遠野家の子供が花見に行くだけあって、俺もかなり広い公園を想像していた……。

「志貴にしては普通の公園を選んだんだな」
「もう、どういう意味なの?」
「いいやお前のことだから公園の貸切にしかねないからな」
「それも考えたけどやっぱり止めた」

 考えたのか……、こいつもブラコン度が増してやがる。

「おーい、志貴ちゃーん」

 翡翠が手を振って走ってきた。

「おう、ここだ。秋葉たちはどうした?」
「秋葉ちゃん達もすぐ後ろにいるよ、それより何して遊ぶ?」
「うーん俺はいいから三人で遊んできたらどうだ?」
「折角来たんだからお兄ちゃんもしようよ」
「いいって、別によ」
「お兄ちゃんもうお兄様はほっといて翡翠と遊ぼ!」
「そうだね。バイバイ、お兄ちゃん」
「うっ……あ、ああ」

 一瞬だったが急に変な感じがした……。いつもならしつこい位かまってきてたんだが、こうもあっさりとは思わなかった。だがたまにはこうやって一人でいるのもいいだろう。

「じゃあ、ここにいてるから疲れた帰って来いよ」

 取っていた場所に戻ると、琥珀が変なものを見たような顔でいた。

「あら?四季さまは一緒に行かれなかったのですか」
「ん?ああ、あいつらもあっさりと引き下がってくれて楽だったぜ」
「駄目ですよ、四季くん。秋葉ちゃんたちは楽しみにしてたみたいだけど」
「いいっすよ。子供は子供同士の方が楽しいですしね」
「そう……、なら四季さまはどこかお散歩に出掛けてもらえます?」
「お、おい何でだ?今から一眠りするつもりなんだが……」
「四季くんは女の子同士の会話をするのにまさかその中に入るの?」
「……わかったよ、じゃあ適当に散歩してきますんで」

 とはいっても初めて来た公園だから散歩コースなんて知っているわけがない、しかし今から戻るわけにもいかないな……。

「ねぇ、君は一人かな?」

 後ろから女の子の声が聞こえた。

「何か俺に用でもあるのか?」
「ううん、ただ私も一人だから一緒に散歩しようと思ったから声かけたんだ」
「うるさくしなかったら一緒に散歩してやる」

「ねぇ君は何て名前なの? 私はさつきって言うの」
「俺は四季」
「それじゃあ四季くんはここの近くに住んでるの?」
「いいや、三咲町ってとこだ」
「あっ、私も三咲町に住んでるよ偶然だね。住所は聞いていいかな?」
「すまねぇが今さっきあった奴に住所は教えれねぇんだ」
「そうかな、いいよ別に気にしてないからさ」

 あっけらかんと彼女は答えた。

「そう言えば四季くんは何で一人でいたの?」

 花見に来たって言いかけたが花見に来たようには見えないだろうな。

「散歩するのは別に一人でいいだろ。お前こそなんで一人なんだ?」
「私が一人なのはたまたま、いつもは他に人がいたりいなかったりって感じかな」

 一瞬寂しそうな表情をして言ったがすぐにさっきと同じ笑顔に戻った。

「ねぇ……四季くん……、四季くんは好きな子っている?」
「はぁ、何でンなこと聞くんだ?」
「気になったから、別にいいじゃない知り合いじゃないんだからさ」
「好きな人か……、考えてことないな。別に周囲に女の子いねぇしな」
「そうなんだ。つまんないな、そういった話が本当にあったら面白いのにな」
「じゃあお前もいないのか?」
「うん、そうだけどさ。四季くんが一番好きかな?もし四季くんともっと早く知り合ってたらす気になってたんだろうな」

 さつきはさらりと恥ずかしいことを言った。

「バーカ、そんなのされてたまるか。俺にはもったいないから誰かにくれてやれよ」
「それもそうだね」
「ったく何で俺の周りにはこうもまぁ変な奴が多いんだろうな」

 ふふふっとさつきが笑っている。まぁこいつも笑っていたらいいんだけどな。

「おーい、おにちゃーん。お昼ご飯だってさ」

 志貴が遠くから手を振っているのが見えた。

「もうそんな時間か。じゃあな、さつき」
「うん、バイバイ楽しかったよ四季くん」

 俺が志貴の方向へ足を向けた時さつきは俺の腕を手を引っ張り俺の頬に唇を付けた。

「なっ、ななん何してんっだだだ」
「ふふ照れてるね、これは私からのお礼だよ。それじゃお別れだね琥珀さんと幸せになってね。それとさつきってまた呼んでくれてありがと」

 一瞬だけさつきは高校生みたいに大きくなって俺の目の前から幽霊のように消えた。

「お兄ちゃん………キスしたの?」



 志貴が俺を呼びに来てから何故か機嫌が悪い。昼飯の時にいくら俺が呼んでも返事はいつも棘がある。だが秋葉たちにはいつもと同じ接し方だ。俺が何かしたのか? 最近のことを思い返してみても心当たりがない、俺と別れる前はあんなに元気だったのに……。
 午前中の俺になくて、今の俺にあるもの……。あるなしクイズみたいに考えてみても何も浮かばなかった。もしかしたら秋葉と翡翠が俺の悪口でも言ってたのか?
 とりあえず隣に座っていた秋葉の耳元で話しかけた。

「なぁ、秋葉は何か俺がいない間何か志貴に言ったか?」
「そりゃあ何も喋らずに遊んでいたわけじゃないので、それに話すって何をです?」
「いいや、心当たりないんなら別にいい」
「もしかして、お兄ちゃんと何かあったんですか?」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「これを見てわからないのはお兄ちゃんとお兄様くらいですよ」
「………」
「そう気を落とさないでください、今日だけですよお兄ちゃんを譲るのは」

 そう言うと秋葉からのサインらしきものを受けた翡翠が志貴に向かっていった」

「ねぇ、志貴ちゃんこの先に水道あったっけ?」
「どうしたの翡翠ちゃん?」
「ハンカチ濡らして来ようかと思ってね」
「それじゃあ僕が案内してあげるから来て」

 志貴は翡翠と一緒に水道のある方へ歩いていった。

「それでお兄様は心当たりはあるのですか?」
「へ? 何のだ?」
「ですから!お兄ちゃんに何かしたっていう心当たりですよ」
「いやぁ、あいつが俺を昼飯に呼びにきて、何も喋らずにここに戻ってきただけだ」
「え? それだけのことでお兄ちゃんが怒ってるの?」
「ふむ……」

 秋葉は驚いてるようだ。まぁあんな志貴がそれだけの間で怒ってるんだから仕方ないだろう。琥珀の方も少し驚いたが黙って考えている。

「ありません」
「え? どういう意味だ?」
「ですから志貴さまが怒っている理由です」
「いやだからさ、何がないんだ?」
「私の思いつく内で志貴さまがご立腹の理由がありません」
「はあ〜、何だよ琥珀もわからないのか……」
「私だってさすがに人の心の奥底までは無理です」
「そっか、じゃあ俺が直にあいつの口から聞いてみる。ありがとな考えてくれて」



 志貴とは昼食後も不機嫌だった。俺も志貴と話そうとしても志貴は何故か俺を避けている感じだし、秋葉たちに『志貴と話したいから』なんて言えるわけでもない……。また同じ所を歩いている。
 歩いていると今朝さつきと出会った大きな木を見つけた。俺はその木の幹に体を預け腰を下ろした。
 いつもなら志貴が延々話かけてきていた。取り留めのない事でもよかった、アイツにしてみればどんなことでも良いただ俺と話したかったんだろう。
 そう思っている時足音が聞こえた。

「またそんなところにいたんだ。ダメだよ四季さん、ちゃんと皆の所にいないと私も帰るに帰れないじゃない」

 声の主はなんとなくわかっている。だが名前がわからない。声だけだとさつきと似ているがまるでさつきが大人になったみたいに思った。
 俺は振り返らずに言った。

「いいって別に。お前に心配してもらうほど酷くねぇよ」
「もうっ!子供のときからそんなんだったんだね」

 イマイチ意味がわからないがなんとなくこいつの言ってることがわかる。

「うるせぇな、お前には関係ないだろ」
「そりゃあ私には関係ないけど、私が好きになった人たちなんだからこんなことになるだなんて嫌なの」
「じゃあ聞くけど何で志貴はあんなに機嫌が悪いかお前にはわかるのか?」
「私もそこまでは凄くないけどちょっと志貴くんのことなら分かる気がするんだ。でも教えてあげない
よ、四季さんだったら志貴くんの気持ちくらいすぐにわかっちゃうよ」
「そっか……。やっぱり俺もまだ他人に頼ってるところがあったんだな。あー、なんで俺って頭悪ぃ
んだろ……」
「そうかな、頼るは悪くないと思うよ。ただ自分が頼っていることに気づかないでいるのが駄目なんじゃないのかな?」
「そうかもな。おっとまたお前と長々と話しちまったな、それじゃあ俺は戻るからよ。お前も自分の帰るとこに帰れよ。早く帰らないと怪しい奴に捕まるぞ」
「ふふそうね、でも四季さん戻るだけじゃなくてちゃんと志貴くんと仲直りしないと駄目だよ。四季さんは本当は悪い人じゃないんだからさ素直になれば最高なのにな」
「素直ってお前にだけは言われたくねぇな」
「それじゃあ私は帰るね、さようなら四季さんまた会いたいな」
「ああまた会えたらいいな、弓塚さつき」

 何で最後にあいつの名前が出たんだろう。そう思いながら帰りの車に乗った。
 そして屋敷に着いて真っ先に志貴に話しかけた。

「話があるから俺の部屋に来い」



 志貴はその日の夜に俺の部屋に来た。

「なぁ志貴、今日お前なんかおかしいぞ。朝は散々はしゃいでたのによ、なんで昼になるとあんなに機嫌悪いんだよ」
「お兄ちゃんには関係ないからさ心配しないでよ」

 そう言って後ろを振り向いた。

「心配しないで……って、どう見てもおかしいから聞いてんだ。心配しちゃあ悪ぃかよ」
「………」
「お前は……俺の大切な弟なんだぜ。いいや弟だからとかそんなんじゃなくもっと違う……友達みたいな奴でほっとけねぇんだよ。別に無理にとは聞かねぇよけどよ……、」
「ねぇ……お兄ちゃんは世界で一番誰が好きなの?」
「せ、世界で一番って……」
「お兄ちゃんにとって僕は何なの?弟?友達?」

志貴の声がとても細く壊れそうなほど震えているのがわかる。

「最近僕、お兄ちゃんが好きなんだ。どうしようもないくらいに。お兄ちゃんが僕のこと嫌いだったらそりゃあすぐに諦めれるけどさ、お兄ちゃんは優しくしてくれるじゃない。それを見るとさ僕も出来るかもしれないって思うじゃない……。だけで今日のことでわかったの、お兄ちゃんはちゃんと女の子の方がいいんだってことがさ。だから僕は必死でお兄ちゃんのことを嫌いになろうとしたんだ!でも……でもやっぱり……ダメ……みたいだった」

 そう言って志貴は泣き崩れるように俺の胸に飛び込んできた。
今日のこと……ってさつきとのことか!?

「あっあれはアイツが勝手にしてきてだな……その……」
「いいよ、もう諦めるつもりだったしさ。それじゃあ今日は寝るね」
「待てよ、おい」

 去ろうとした志貴の腕を掴んだ。

「放してよ、痛いってば。嫌だ放してよ」

 その腕を掴んだまま志貴を俺のベッドに押し倒した感じになってるだろう。そして志貴の顔を見下ろすように言った。

「お前には悪いが俺は秋葉も翡翠も琥珀が好きだ、もちろんお前も好きだ。だから順位なんてつけれないし恋人にだなんてそんな感情で見たことなんてない。だから無理に考えなくてもいいんだ」
「お、お兄ちゃん……」
「なぁこれで今の所は許してくれないか」 

 そう言って志貴と唇を重ねた。

「うん、ありがとう。嬉しいよ。今日くらい一緒に寝てくれるかな」
「ああ、かまわないぜ」



 俺が答えたあと、志貴は自分の部屋から枕を持ってきて俺の枕の隣に置き、二人で一つのベッドで並んで横になった。

「なぁそんなに俺といて楽しいか?」
「えっ、迷惑……だったかな?」
「いやそういう意味じゃなく俺の何処が良いか聞いたんだ」
「そりゃあカッコいいしさ、頼りになるし、優しいから……かな」
「う……」

 自分から聞いたことだが面と向かって言われると流石に恥ずかしい。

「でもさ……、今日みたいにキスしてくれる時のお兄ちゃんってさものすっごく大人っぽいから好き」
「頼むからもうそれ以上言わないでくれ。恥ずかしくて死にそうだから」
「ごめん、それじゃあもう言わないね」
「ああ聞いてのはこっちだからいい」

 少しの間沈黙が続いた。

「……ねぇお兄ちゃん、起きてるかな?」
「んあ?どうしたんだ」
「お兄ちゃんこの間さ、僕の好きな子について聞いてきたよね」
「……そういえばそんなこと言ったっけ」
「僕今日やっとわかったんだ、僕が一番好きなのはお兄ちゃんってことがさ。秋葉や翡翠ちゃんたちとは違う感じな『好き』なんだなって思うの」
「なぁいくらそんなこと言っても俺はお前を友達として見るのには変わりないからな。しかも俺の一番
好きなのは秋葉だからな、それは忘れるなよ」

 すると志貴は俺の方へ向いて言った。

「フフ、お兄ちゃんらしいね。でも僕はそんなお兄ちゃんももっと好き」
「コラそれを言うなって言っただろ」
「あっごめんごめん。じゃあもうそろそろ寝ようか」
「そうだな、疲れてるだろ」
「うん」

 枕元の電気を消し眠りについた。
 志貴とは一緒にいた。庭を駆け回っている志貴を見てたり、勉強を教えてやったりで普通の兄弟以上にいただろう。
 親父が少し前に遠野の血には何か秘密があるらしい。最近の親父はおかしくなっているらしい、だからその子供の俺にも何時かはああなるのだろう。だが今だけは忘れていたい。友の……志貴と一緒に寝ている間だけは全てを忘れ、安らかな眠りが欲しい。

 「じゃあな、親友」

 そういって完全な眠りについた。





 END

 ―――It got it from Exy.