■ K



 夏の月はキレイだ。朝が来るまでずっと夜を照らし続けている。外の公園には俺らしかいない。志貴が少し前に一緒に月が見たいって言ったのを思い出して、今日その約束を叶えて。

「ねぇ、お兄ちゃんは夜の月って好き?」
「どうだろうな、別に好きか嫌いかなんて思ったことねぇしな………。とりあえず嫌いじゃねぇな。にしても何で気になるんだ?」
「ううん、僕がお月見したいって言ってたけどお兄ちゃんは楽しいのかな? て思ったから」
「月が好きかきらいかじゃなく、こうやって一晩中お前とのんびりしてて楽しいかが問題だろ? 俺としては月はオマケって感じだな」
「そう」

 志貴の顔が安心したようにやわらいだ。こいつって子犬みたいだな、ずっと俺についてくるし、きまぐれで秋葉や翡翠にもやさしいし。

「志貴、何かのみたいものでもあるか?」
「うーん、じゃあお兄ちゃんと同じものがいいな」
「そうか、待ってろよ」

 少し歩いた所でここが遠野の屋敷から離れていることを思い出した。

「のみものを持ってくるって言っても屋敷に戻るわけにはいかないし」

 そう言いながら俺はポケットの中から金を見つけた。

「これは俺のこづかいだしな………。まぁ、可愛い弟のためだし良いか」

 そう言い聞かせながら、かんコーヒーを二本買って公園にもどった。

「ほらよ、俺と同じでよかったんだろ」

 そう言いながらコーヒーをわたした。

「う、うん。ありがとうお兄ちゃん」

 プルタブを開け、一口飲んだ。いつもは屋敷のを飲んでいるのとはちがうが、あまくてのみやすい。

「どうした?志貴、変な顔して」

 志貴が一口のんでから、変な顔をしている。どうやらコーヒーが苦かったらしい。

「やっぱりお前にコーヒーは早かったな」
「ううん、だいじょうぶだよ。僕だってコーヒーくらいのめるよ」
「そうか、じゃあゆっくりでいいぜ。お前が飲み終わるまで待っていてやるよ」
「ありがとう、がんばるね」

 俺は笑いながら言ったが志貴のひょうじょうはマジメだった。こうして見るとけっこうかわいいな。

「それじゃあ、気長に待ってるぜ」
 そういってその場で横になった。



「なぁ、志貴。俺たちが大人になったらどうなるんだろうな?」

 ふと気になった。この時がずっと続くなんて思ってない、いつかは大人になって俺が当主になってこいつらとすごすんだろう。

「うーん、大人ってやっぱり二十才だよね。それじゃあ後十二年も先の話だね。………ぜんぜんわかんないや。お兄ちゃんは?」
「俺は少しは変わるがあんまり大して変わると思わねぇな。秋葉はお前が好きらしいから、ヨメにでもしてやれば?」
「秋葉が僕のおよめさんかぁ、ずっと遊べるんだったら良いな」
 志貴はヨメの意味がぜんぜんわかってねぇと思った。それだと秋葉も苦労するだろうな。

「お兄ちゃんは琥珀お姉ちゃんのダンナさんになるんでしょ?」
「ぶはっ、ゲホッ、ゲホ」

 俺はさっきまで飲んでいたコーヒーをふきだしかけた。

「なっ、何言ってんだよ、バカ志貴。そんなことだれが言ったんだよ」
「秋葉と翡翠ちゃんが二人はラブラブだって言ってたよ」
「ったく、どうカンちがいしたらそうなんだ」
「でも琥珀お姉ちゃんのことはきらいじゃないでしょ」
「……………」

「あはは、お兄ちゃん赤くなってるよ」
「ウルサイぞ。さっさと飲めよ」

 俺はこれ以上顔が赤くなっているのを見られないために、志貴をせを向けた。それにしてもこいつらは何で俺と琥珀が………その、なんていうか………ラブラブだなんて思ってんだ?
 それにしても志貴も秋葉たちも何年もいるんだよな………。こうしているのが一番楽しいかもな。俺は琥珀だけじゃなく、志貴といるのも楽しいしな。

「どうしたの、お兄ちゃん。今度はこわい顔しているけど、何かあったの?」
「いいや、別に大したことじゃない。それよりもこれからどうするんだ?」
「僕はお兄ちゃんがいるならまだいるよ」
「そうか、それじゃあ屋敷に戻るとするか」
「そう、じゃあ帰ろうよ。でもこんな時間だと明日は早くに起きれないね」
「志貴はそう言うのはいやか?」
「ううん、僕はお兄ちゃんとずっと二人でいれて楽しかったよ。また何時かこうやって夜おそくまで………今度はコーヒーじゃなくてもいいから遊ぼうね」

 志貴がうれしそうに言った。

「ふふ、そうだな。やっぱりコーヒーはまずかったようだな、いいぜまたこうやって入れる日がきたらな」

 俺も志貴に笑顔でそう答えた。
 二人で暗い夜道―――と言っても遠野家の土地なので心配はないが、とても静かだ。さっきから体が異様に熱く感じる、まるで前のあの時みたいな感じだ。

「なぁ志貴、お前さっき俺たちが変わらないで欲しいって言ったよな」
「うん、言ったけどどうかしたの?」
「いいや、俺な少しは今より変わっている方が良いなって思った」
「どうして、僕はお兄ちゃんと秋葉、翡翠ちゃんに琥珀お姉ちゃん達がずっといてくれた方が好きなのに」
「そうか………、だったら変わるのは俺だけか」
「えっ! それ………どういう事?」
「単に言っただけだ。お前の言うとおりだな、翡翠達も同じ風に言うだろうな」

 数日前に親父から聞いた。遠野家の当主は何時かは子供の時から変わらないといけないことを。その為にはどんなものでもぎせいにしないとならないことも………。

「お兄ちゃん、僕はそうなったらどうしたらいいの………」

 志貴が何故か悲しそうで細い声でつぶやいた。

「ねぇ、僕はお兄ちゃんが好き。だからいなくなるだなんてやだ、」
「志貴………」
「僕はお兄ちゃんしか男の子の友達がいなかったんだよ。だから………いて欲しいんだ」

 こいつには俺しか友達がいないのは知っているが、俺がいなくなった時はどうなるんだ。

「いいや、お前も少しは俺以外のダチでも作ればいいじゃねぇか」
「でも………」
「いいかよく聞けよ。ずっとお前と遊ぶやつが俺だけだったらは俺はいやだ。だったら他に遊べるやつを作るしかないだろ。お前は少し人とカベをすぐに作っちまう、それは仕方がないかもしれねぇがなそれさえ無ければぜったいにダチの一人や二人出来るって」
「そうかな………」
「まぁ今は無理かもしれねぇけどな。ゆっくりでも良い、一人だけでもかまわねぇからな。それに俺はダチの数には入らねぇ、兄弟だからな」
「うん、やってみるよ。でもそれでまでは一緒に遊ぼうね」

 全くこいつは子供っつうか、手間のかかるやつだな。

「それじゃあ、早く帰らねぇとな。そうだ、もう一杯飲むか?」 

 そういってポケットを探ったら、百円だけしか無かった。

「なぁ、やっぱりやめにしないか?」
「はい、僕も十円くらい持ってるよ」

 志貴は俺の百円玉をはんばい機に入れ、自分の十円を入れてコーヒーを一本買った。

「じゃあお前にやるよ。寒いだろ、帰るまでに飲んでろよ」
「ううん、これは二人でお家に帰って飲もうよ」

 志貴が笑いながらそう言った。





END

 ―――It got it from Exy.