■ before月姫 shelless
―――志貴
冬のある日、遠野家では大掃除で忙しかった。
俺も部屋で本のせいりをしていたらだれかがドアをノックした。
「お兄ちゃん、入って良いかな?」
「どうしたんだ、志貴。今は忙しいから後でなら………、やっぱり良いから入れよ」
アイツの悲しそうな顔は俺を意志をかんたんに変えた。
部屋に入ってベッドにちょこんと座った。
「ボクの所が終わったからお手伝いしたいな。ねぇすることないかな?」
「いいよ別に、それよりも秋葉や翡翠たちの方に行ってやれよ」
俺は作業を続けながら話している。志貴はつまらなさそうに足をブラブラさせている。
「だって女の子の部屋って行きにくいって言うか………その……」
へぇ、こいつも恥ずかしがるんだな………からかってみるか。
「ふうん………、オマエってよくあいつらと遊んでるよな」
「うん、秋葉や翡翠ちゃんと遊ぶのや琥珀ちゃんにご本を読んでもらうのも好きだよ」
「じゃあその中で一番好きなのは正直なところ誰だ?」
「え、えっとその………わからないよ」
むっ、一番つまんねぇ答えだな………。
「でもお兄ちゃんとはあまり遊ばないけど、いつも何してんの?」
「俺か? そうだな………。ほとんどがねてるな」
「つまらなくない? ボクだったらあきちゃうけどなぁ」
志貴が答えたらそこで話がとぎれた。俺はたなから『コーヒーメーカー』と書かれたほこりかぶった箱を見つけた。あまり使わないものを子供部屋に入れっぱなしにしているとこの時期にみつけるのでめずらしくない。
「なあ、オマエはコーヒーって飲んでみたいとおもわねぇか?」
「でもコーヒーって大人の飲みものだから飲んじゃダメって言ってたよ」
「ったく、つまんねーな。いいから食堂からコーヒーの豆でも持って来い。これが仕事だ」
「うー、お父さんに怒られも知らないからね」
そういって志貴はしぶしぶ出て行った。
「あれが弟だとはぜんぜん思えねぇな………。えっと、花びんはっと………」
花びんが音を立てて割れた。はへんが指を切り赤い線が流れた………。
「お兄ちゃん大丈夫! 血がながれてるじゃないか。今ときえお姉ちゃん呼んでくるね」
コーヒー豆のふくろを近くのつくえにおいて、いまに走っていった。
「待てよ、これくらいで呼ぶほどじゃあ………」
「そうなの………。でもバイキンが入っちゃうからね」
志貴はケガした俺の指を口にくわえた。
「これで大丈夫だと思うけど………、ばんそうこうはと………」
可愛いな………こいつ。
「うん、これで大丈夫だね」
志貴が俺に巻いてくれたばんそうこうを見て満足そうに言った。
「珍しいね、お兄ちゃんがケガするなんて。ボクが役に立ててうれしいよ、それとコーヒーの豆持ってきたから置いておくね」
「ありがとな。そうだ、お前も一緒に飲まないか?」
「いいよ、夜眠れなくなったら困るし、翡翠ちゃんが言ってたけどとても苦いらしいから」
「そうか? 俺は何ともないしうまいと思うけどな………。あーあ、ったくこの家にはガキばっかりで困るぜ」
ったく、きまじめっつうかなんと言うか………。一人でコーヒーのんでてもつまんねぇからな。そうだ、秋葉とかとちゃんと全員そろって集まったことないよな………。こいつの『本命』を探り当てるついでに集まるか。確か親父たちがいなくなる日っていつだ?
「なぁ、志貴。親父っていつでかけるって言ってた?」
「えーっと、確かあさってから2日くらい遠野家の集まりがあるって言ってたよ」
「そうか………サンキュな。それじゃあそうじでもすっから邪魔になるから出てけよ」
「………わかったよ」
志貴ばしぶしぶでていくのを見た後、そうじを始めた。
ほとんど終わらして、いれたコーヒーを片手に一息ついていた。
ふと、指のほうたいに目をやっていた。志貴………か……。何なんだろうな?まじめだけど秋葉にはたよれるアニキで翡翠には楽しい友達、琥珀には可愛い弟みたいだし………。アイツは俺にしてみればやっぱり兄貴なんだろうな。
何だ? 抑えようのなさそうなもやもやは?ばんそうこうを巻いてくれる前にアイツは………。だが志貴にしてみたら普通のことで逆に俺の方が変なのか?いいや、こんなのにパニクってるのは俺らしくねぇぞ。『ジキトオノケトウシュ』の俺がこんなことだけで………。
それを確かめるために俺は志貴を庭の大きな木に呼び出した。
「どうしたの? お兄ちゃん。やっぱりボクの助けがひつよ………」
志貴は言葉の途中でこうちょくしている。ほんにんの思いのよらないことだったんだろう?志貴は木をせにして俺のりょう手でみうごきがとれなくなってるからな。
「ど、どうしたのお兄ちゃん? 怒ってるの、ボクなんかしたっけ」
志貴はそうとうパニクってるていうか、半分泣きかけてる。だが俺はおかまいなしに志貴の目をぎょうしした。何故だ? 俺はコイツが志貴が好きなのか? 何で気になって可愛く思うんだろ?
「ね、ねぇもうはなしてよ。いたいからさ、それに今日はお兄ちゃん変だよ。何でこんなことするの?」
こいつ………泣いてるのか? 目からなみだが流れている………。泣かしたのか? 俺がこちうを………。
俺は自分がわからなくてその場からはしりさった。
あの木から走った。気がつけば親父の部屋の前にいた。
「当主様、いらっしゃるのでしたら入られてはどうですか?」
琥珀の声が聞こえる。前に会った時から数回ここに出入りしているけど、いつもとは話し方がちがうような気がする。入ることにした………。
「よ、どうしたんだ? お前から入れなんてめずらしいけど」
「すみませんが先ほどのことを一部始終見せてもらいましたが………」
「やっぱりな、見られてるって思ってたけどそれがどうかしたか?」
「そっちょくに聞きますが当主様は志貴さまのことが好きなのでしょうか?」
「な、何言ってんだよ。そんなわけねぇだろ、それにアイツは男だぜ」
「さきほどの『好き』には恋愛なしの場合ですが? やはりいしきはされてますね」
「ぐ………、うるせぇな。あげあし取ってんじゃねぇよ」
「それでは志貴さまには恋愛感情はないと思ってもかまいませんね。でしたら問題ありませんね」
「どういう意味だよ、問題ないって」
「ええ、アナタ様の代わりに志貴をワタクシがうばっても構いませんねという意味です。私はどうやら志貴さまのことを好きだと思うんです………。ですから、当主様のモノをうばうのは使用人としていかがなものかと思いまして………」
「アイツは俺のモノでもお前のモノでもない! アイツをモノみたいに言うな!」
その時見た琥珀の目はいつもの無表情じゃなくまるで人間らしかったが冷たかった。
「『アイツをモノみたいに言うな』ですって? 当主さまこそ、志貴さまを自分だけみたいに………。本当のことを申しますと私だけでなく翡翠や秋葉さまも志貴さまが好き。だから志貴さまをキズつける人は許すつもりはないです。それでは、失礼します」
そう言って琥珀は部屋を出て行った。
俺は志貴をどう思ってたんだ?
あいつは俺の弟なだけで………。『好き』とか『嫌い』とか考えてなかった。だが何だ? あのばんそうこうの時の顔を思い出すとおかしくなったようにむねが苦しい。
さっき琥珀が言ったように秋葉も翡翠も琥珀もアイツの事が好きだって………。だからキズつけた俺をにくんでいる。俺は何でとまどっているんだ、そこまでひていしているんだ? 秋葉や翡翠になら普通に好きだと言えるけど………。アイツが男だからか?
「お兄ちゃんここにいたんだ………」
いつの間にか志貴がそこにいた………。さっきのことがあってか少しおびえているようだが、何か決意したひょうじょうだった。
「ボク………まだ自分が何したかわからないけど………。ボクはお兄ちゃんが好き、やさしくてカッコよくて、遊んでくれるからお兄ちゃんが好き」
そうか、こいつはずっと遊ぶ相手がいなかったから俺にいて欲しかった。俺は遊ぶ相手なんて欲しいとも思わなかった………。
だからこそさびしかったのか………。俺はそれにきづいてやれなかったのか、これじゃあどっちがアニキかわからねぇな。まぁいっか、これからはずっとお前のソバにいてやるよ。
「あぁ、俺もお前が好きだ。すなおでかわいげがある俺の弟だ」
「ありがとう、お兄ちゃん」
結局は俺はこいつが好きかどうかなんてわからなかった。だけどもう少しの間だけこいつの『たった一人のアニキ』でいてやることにすると決めた。
END
―――It got it from Exy.