■ before月姫
―――プロローグ
冬のある日、遠野家では大掃除で忙しかった。
「志貴さーん、大丈夫ですか……」
昼食が出来たので呼びに来てくれた琥珀さんが部屋を開けてアルバムに生き埋め状態の俺を安否を気遣ってくれた。
「今起こしますね。よいしょっと!」
「待ってください! 遅かったか……」
とりあえず、俺は救助されたが代償としてアルバムで支えられてた棚が崩れた……。
「兄さん! 琥珀に何をやらせたの!」
「志貴さま、お怪我はありませんか?」
食堂の方にも聞こえたんだろう、二人が駆けつけてきた。
その日の夕食後の居間ではいつものお茶会を開いていた。結局あの後志貴の部屋には壁に穴が開いたので部屋の修理で今晩は居間で寝ることになった。其処での話題で志貴が生き埋め状態の時に見つけた写真をテーブルに置いた。
「なぁ、秋葉ならこの写真に見覚えないか?」
「さぁ、琥珀や翡翠なら覚えてないの?」
「うーん……覚えてないですよね、翡翠ちゃん」
翡翠も同意した写真は庭の大きな木を背にして、五人の子供が写ってる写真だった。赤い髪の対照的な印象の二人の少女、セミロングで凛とした雰囲気の女の子、まだ幼いながらも大人っぽい男の子、そして白髪で五人の中で背が高い男の子が写っていた。
「でも何時撮ったんだろうな?琥珀さんが外にいたのって数えるほどもないだろうし」
「そうね…、四季兄さんも子供の頃はこうだったのね」
今、四季は秋葉に殺されかけたがその後翡翠達のお蔭で一命を取り止めて親父の部屋で寝ている。
「そう言えば秋葉、先輩は? この頃だといつの間にかお茶会に混ざってる頃だけど?」
「兄さん、やっぱり気になるんですか? 折角あの厄介者がいなくて平和が続いてるのに」
「シエル様は協会本部へ帰還されました。明後日までにはどんなに頑張られても帰られません」
「ですから、これで志貴さんの疑問は解決されましたから二日間はシエルさんの名前を出しちゃあ駄目ですよ」
「そうだな、話は戻るけど兄貴が反転する前ってどんな風だったっけ?」
「そりゃあ仲のいい子供達だったんでしょう……」
居間が沈黙に包まれた。琥珀さんだって自分のした事も反省しているし、翡翠だって明るくいれたし、秋葉も四季と仲が良かったんだろうな……。
全然考えたことなかったよなぁ、俺達の子供の頃って。
―――翡翠
春の心地よい風が吹く大きな木の下、俺は目を覚ました。起きたばかりで頭がクラクラする。
誰かが俺を呼んでる気がする。誰だ?
「あっ、此処にいたんですか?四季様ったら当主様がカンカンに怒ってられましたよ」
「五月蝿いゾ、あの莫迦親父が怒ってようが関係ない。つぅか誰だお前?」
「翡翠です、まだ覚えててくれてないんですね」
「フン、そろそろ戻るか」
俺は翡翠と言う元気で五月蝿い女の子と屋敷に戻ると案の定、クソ親父が怒ってた。
一通り怒られた後寝たりないのか部屋に戻って寝ようと思った。ベッドに入り寝付こうと思った時、ドアがノックされた。『コンコン、コンコン』戸鳴った。
ノックした奴に聞こえるように大きな声で言った。
「俺は寝るから静かにしてくれ!」
大体の屋敷の奴らは『これ』で諦める筈だ。
『コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン』
と、しつこく何度もノックし続けた。
「うるせぇんだよ、寝るつってんだろうが!いい加減にしろ!」
俺が来た奴に根負けしてドアを開け怒鳴ったのは羊を3万6942匹を数えた時だった……。
さっきの『ヒスイ』って奴がドアの前にいた。そして出てきた俺にこう言った。
「だって、当主サマに怒られて拗ねられてるかもしれないから。それに泣いてるんでしたら何が悲しいか聞いてあげたいなって思っただけですのに」
「大きなお世話だ。俺はな、お前なんかに心配されなくても大丈夫だから。ほら出て行け」
俺はヒスイを追い出そうと押しているが、ヒスイは反論した。
「だって、秋葉ちゃんや志貴ちゃんもずうっとお部屋にいて遊んでくれないの。お部屋でじっとするのもつまんないからお話しよ」
『志貴』か。こいつも志貴と秋葉のトモダチか。
「ねぇ、だから遊んでよ!駄目ですかぁ?」
「ったくしょうがねぇな。入って来いよ、話を聞いてやるよ」
「ありがとう」
ヒスイは嬉しそうに入ってきた。
「ねぇ、志貴ちゃんいるでしょ。全然『ハナレ』って所から出てきてくれないの、翡翠は一緒に遊びたいのに……」
「志貴は周りの人間が自分を嫌ってるって思ってんだろ? だからお前も信じらんねぇんだったら、じゃあお前はどうなんだ?」
「―――私、志貴ちゃんのことを……好きになってあげる!」
―――琥珀
周りの木には蝉が耳障りに鳴いている。それでも庭では志貴と秋葉、翡翠が遊んでいる。一応俺もその中に入ってるんだがかくれんぼ中である。
ん? 誰だアイツはずっとこっちを見てるけど、って消えた? 幽霊か?
人影は四季がこっちを見てきたらその場から消えた。
「あ! お兄様そこにいたのですか。翡翠が『四季サマがいなくなっちゃった〜』って言って半分泣いてましたよ」
「そうか、戻った方がいいな。そうだお前はこの屋敷に子供が他にいるの知ってたか?」
「え? 聞いたことないけど………………翡翠なら知ってるかも」
俺と秋葉は志貴と翡翠のいる広場に行ったら、翡翠が泣きかけて一生懸命探していた。
「あっ、四季様見つけた! 探したんだから……」
「うるせぇな、泣くほどじゃねぇだろが。それよりお前に姉ちゃんいたのか?」
「うん、いるよ。でも殆どが槇久様のお傍にいるから会えないかも……」
「そうか……そう言えばあの引きこもり親父は珍しくいないんだよな、志貴」
「そ、そうだけどさ、黙って入っちゃあ駄目だよ」
後俺は無論親父の部屋に行くことにした。行動は10時だがあいつらは寝てるし、使用人たちもいない。
こう言う時を『センザイイチグウ』って言うんだよな。
出来るだけ音を立てずに廊下を歩いて、親父の部屋の前に来た。鍵は……開いていた。
「入るのなら、どうぞ。そこでじっとされていたら困りますから」
中から女の子の声がした。
「邪魔するぜ、あんたが翡翠のねえちゃんか似てると言うか瓜二つだな」
外見は翡翠と同じだが中身は正反対みたいっていうか大人しそうなオーラが出ている。
「ありきたりな感想ですね……よく言われます」
「何でいつも親父の部屋にいるんだ?志貴たちと遊んだりしないのか?」
「結構です。私は槙久の人形ですから……」
人形って?? あの親父っていい歳ぶっこいて人形遊びか?
「何でだよ。俺も最初は仕方なく遊んでやってるけど、楽しいぜ」
「見ているだけ楽しいですからご心配なく」
何だよ、人が折角誘ってやってんのに。ロボットみたいに表情が一緒だし、声も落ち着いてるつうか人間らしくねぇな。それでいて頑固だし、確かに人形だな。
「そうかよ、今日のところは見逃してやるが俺は絶対に諦めないからな。いつかお前が仲間に入りたくさせてやるからな。そん時にどうしてもって言うんなら入れてやる」
「わかりました、それではまたのお越しをお待ちしています」
琥珀はどっかの営業係みたく言った。あれ?今確かに笑ったような気がするけど?
「そうだ、このリボンやるよ。俺と遊ばしてやるときにはそれをつけろよ。俺はサップウケイな女は嫌いだからな。それとな、もしありえねぇが俺が諦めたときがあったらそん時はそん時に好きな奴にでもやれ!
いいな、トウシュのムスコとしてのめいれいだからな」
―――秋葉
紅葉がいっぱい咲いている。空も雲ひとつないすがすがしい午後だ。
カップにはブルジョアっぽくダージリンとかいう紅茶が並べられてる。俺はコーヒー牛乳の方が好きなんだが、秋葉にあわせてやっている。
「お兄様、お茶のお替りはいかがですか?」
「ああ、貰おうか」
秋葉が俺に注いでくれる、我が妹ながら気が利いている。
「そういやあ、志貴がいないがどうかしたのか?」
「時南先生の所でケンシンへ行っていると琥珀が申しています」
「なぁ、その丁寧語はどうにかなんねぇのか?」
「すみませんがこれも遠野家のジキトウシュたるもの必要ですから本来ならお兄様も使われるべきなのですが……」
「嫌だよ家族内でテイネイゴ使う奴なんていんねぇしよ。大体あんなクソオヤジの何処が偉いんだか。それに俺は全然自分が偉いだなんて思ってねぇしな、くだらねぇ」
「お父様だって代々受け継がれていたことですから……」
「なぁ、お前のセリフって殆どが語尾に『……』が着けるの止めた方がいいぞ。そんなに消極的なままだと後々苦労するぞ。一人でクリスマスを迎えたり、バレンタインやホワイトデーにも縁が無くなるな」
「それは嫌ですけどお兄様みたいに『ボウジャクブジン』なのも問題かと……」
「おいおい、最初の方のボウジャクブジンは微妙だがまだ治ってないな。志貴と一緒にいる時だってそうなんだろうな。そう言えばアイツとは何して遊んでんだ?」
「例えば『陣取りゲーム』くらいかな?だって「ままごとしたい」って言ったら「嫌だ」って言ったから……」
なんて奴だ! 秋葉からの誘いを断るなんて。それにしても陣取りゲームか楽しそうだな。
「お兄様は何でお兄ちゃんと遊ばないの?だって二人だと面白くないし……」
「えっ、何でだろうな?とりあえず気が乗らないっつうかなんつうか。まぁオコサマとは遊んでられないしな……」
「……オコサマって言っても2、3年じゃないですか。いいですよ、遊んでくれなくたってそれにおにいちゃんの方が優しいから」
そう言って秋葉は自分の部屋に帰っていった。まぁ今の間は志貴とは必要以上逢わない方が良いような気がするし……。
「ただいま、帰ったよー」
玄関から志貴の声がした。それに秋葉は嬉しそうに応えた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん。ねぇ今日は何して遊ぶ……」
楽しそうな秋葉とまんざらでもなさそうな志貴か……。アイツなら秋葉の未来のダンナさんにぴったりだな……。
「陣取りゲームだったけ?今度付き合ってやるか」
―――翡翠 2
春の午後、冬には姿を出さなかった花々が一斉に鮮やかな色で覆われている花畑。
「オハヨ、四季さま。今日もいい天気ですね、こんなに晴れていたら何処かへお散歩に行きたくなりません?」
「そうか? 俺は別にやしきの中の花で十分だがな」
「でもでも、外にはもっといろんな種類のお花があるんだけどな」
「ふうん、俺は花の種類なんて知らないからな」
「それじゃあ、好きな花って何ですか? 志貴ちゃんにも聞いたんですけど答えてくれませんでした」
「う〜ん、そうだな……。名前は知らないんだけどな、よく公園に大きなやつで花びらとかはピンクかな? とにかくでっかいやつだ」
「それってサクラじゃない? 私も好きです。寒い冬はずーっと待っているけど、温かい春になるといっぺんに咲くから好きです」
「そっか、じゃあ一年中咲いてたらいいな。いつでも見れて楽しいだろうな」
「もしサクラが一年中咲くんだったら嫌い。やっぱりサクラって『いつ咲くのかな?』って待った後で咲くからきれいなんだと思います」
「そんなもんか? 俺だったら一年中咲いていて、ずっとそのきれいなのを見れた方がいいと思うけど
な」
そう言うと、翡翠はクスクスっと笑い出した。
「お、おいどうしたんだよ、急に笑い出すなよ。気味悪いじゃないか」
「すみません、だって四季さまって志貴ちゃんと同じこと言うんですから」
「アイツもそんな事言ってたのか―――」
「どうしたんですか?」
翡翠がけげんな表情で見つめてきたので答えた。
「ああ俺とアイツはいろんな所で似てるなって思ったら、面白く思ってな」
「変な四季さま」
俺はそう言って、空を見上げるようにそこへ寝転がった。
「四季様、御当主様に怒られますよ」
「いいよ、別に。それよりお前も横にならないか?気持ちいいぞ」
「そうですね、それじゃあ失礼します」
少しの間、翡翠と俺は青い空を見上げていた。
そこで俺はあることを思い出した。
「なぁ、翡翠、起きてるか?」
「ええ、どうかしましたか?」
「いいや、少し前に――お前と初めて会ったときに志貴のことで相談に来たよな」
「そんなこともありましたね」
「そのことなんだがな、お前はその――つまり言ったのか?」
「言ったって何をですか?」
「ほら、志貴が離れに閉じこもってた時だよ」
「はいその時はありがとうございました。ちゃんと『私が志貴ちゃんのこと好きになってあげる』って言ったら、あれから志貴ちゃんも遊んでくれるようになりました。そうだ、四季さまも志貴ちゃん達と遊びません?」
「秋葉にも言われたけど、今はそんなつもりない」
「何でです? お姉ちゃんも時々なら外に出てきますから、それに楽しいですよ。志貴ちゃんって秋葉ちゃんにも私にも姉さんにも優しいから、例えば秋葉ちゃんが転んでもすぐに走って「大丈夫?」って聞く位です」
「ふうん、それにしてもやたらと志貴の話ばっかりだな」
この間、琥珀が言っていたことも思い出して聞くことにした。
「べっ、べ、別にすス好きって訳じゃあないんですけど……」
耳まで真っ赤にして言った。誰も好きとまでは言ってないけど。
「誰も『好き』だなんて言ってないぞ。へぇ翡翠って志貴みたいなのが好きなのか」
「うう……四季さまはいじわるです」
かんねんしたのか、悔しそうな顔をしている。
「じゃあ白状しますね、翡翠は志貴ちゃんが好き。ですけど志貴ちゃんは他の皆と同じ分しか好きじゃないのがくやしいんですけどね」
そう言った翡翠の顔は笑っているようだったが、嫌な気持ちをかみ殺した感じだった。
「ふん、アイツらしいな。言っとくが俺は何もしないから安心しろよ」
「ええ、志貴ちゃんをずっと待つつもりです。
―――寒い冬を越えて咲くサクラを待つように」
―――琥珀 2
外は頬を切りつけるような冷たい風が吹いている。冬は気温だけでなく、風によって寒さが変化するものだ。外には志貴たちすら遊んでおらず全く人一人いない。
「なぁ、琥珀今年は雪降ると思うか?」
「四季様、それは昨日も一昨日もその前も言ったはずですけど?」
「いいだろ、楽しみなんだから」
「そうですか?」
「なんだ、お前は好きじゃないのか?」
「別に好きになる様な物ではありませんが、嫌いというわけでもありません」
「何でだ? 雪って面白いじゃないか。雪だるま作ったり、雪合戦したりで俺としては雪が嫌だと思ったことないぞ」
「でも……私は雪も嫌いじゃない所があります」
「何だ? 雪うさぎか?」
「いいえ、志貴さん達が遊んでいるの……。見ているの好きですから」
遊んでるのを見てて楽しいか?
俺はやっぱり自分もその中で遊んでる方が楽しいと思うけどな。好奇心で他に琥珀が好きなモノが知りたくなった。
「なぁ、それじゃあ他に好きなのは何だ?」
「そうですね、庭の大きな木――でしょうか」
「何であんな大きいだけの木が?」
「理由は……、最近読んだ本で長い間立っている大きな木の下でえいえんの愛をちかった二人はずっと愛し合えるという伝説があります。私だって女の子ですからそんなのにあこがれたりします」
琥珀はマジメな顔で乙女チックでありきたりなおとぎ話の伝説を言ってる。俺としては琥珀がこんなおとぎ話を信じてるなんて思ってなかった。
「あれ、四季様どうかされました?」
「い、いや、その……琥珀がそんなおとぎ話を信じてるなんて珍しいなって思ってな」
「そうですか? そう言われるのは初めてです。そうだ、四季様も本とか読まれます?」
「う〜ん、本はきらいじゃないが、おとぎ話は興味ない」
「そうですか……」
琥珀がつまらなさそうな顔をしてそうつぶやいた。
「俺はおとぎ話はきらいだ、なぜなら終わりがありきたりでいつもハッピーエンドだから飽きていた――。だがたった今好きになった、琥珀の一番のお気に入りをかしてくれないか」
「はい、どうぞこれです」
琥珀はうれしそうな顔で本棚から一冊の本を手渡した。
琥珀がくれて本の内容は。
主人公は羊飼い。彼には好きな娘がいた。その娘とは昔から仲が良く今でも普通に会話している。男はこれが永遠に続くことを願った、しかし他国との戦争でその男も兵士として戦場に行くことになった。そして別れの前日に彼女を丘の大きな木の下に呼び出し今まで想っていたことを告げた。彼女は男の想いに応えある約束をした。永い間帰れないから男の左手首に女の右手首に白いリボンを巻きつけた。
再会できることを願い、男は戦争へ向かった。
「あれ? この本こっから先が途切れてるけど。どうしてだ?」
俺は琥珀の部屋に行き、この本について聞いた。
「なぁ、琥珀何でこの本は最後でとぎれてんだ?」
「言い忘れてましたがその本、実は古いので私が読んだ時より前に破けてしまったのでした、申し訳ありませんでした」
「いいよ、それ位のことで誤るな。でもお前はどういう終わり方だと思う?」
「そうですね、私は主人公たちは何年経とうが再会出来たと思います」
「へぇ、なぜそう思ったんだ?」
「なぜなら再会できた方が個人的に好きですし、強い思いこそがどんな時にもすごい力があるものですから」
「そっか、そうだな」
「――そうですよ、少なくとも私は思い続けることが最良のことだと思います」
―――秋葉 2
春が過ぎ、暦では梅雨の真っ只中―――
外には出れないから、ろうかを歩いているとろまどから遠くを見ている秋葉がいた。
「よっ、なに『琥珀』してるんだ?」
「あら、お兄様こそお散歩ですか?」
「家の中を散歩するのも珍しいけど、ヒマだしな」
「そうですね」
「こんなろうかで立ってるのもおかしいから俺の部屋にでも来いよ」
俺は秋葉がさっきまで見ていた所が気になった。
「さっきまで何所を見てたんだ?」
「何所って別に決まってはいませんが、遠くの所を」
「遠くってどの位だ? 大抵の所は行ったけど、それよりも遠い所か?」
「ううん、行った所じゃなく私を知っている人がいないほど遠い所です」
「何でそんなのが気になるんだ?」
「上手く言えませんが、何所に行っても私を知っている人ばっかりだから……かな」
「そうか、秋葉は俺と違いよく旅行とかに行ってるもんな」
「私が行くのではなく、ただ単にお兄様がお父様と行く直前でケンカされるからです」
「そうだったか? そんな大昔のことなんて覚えてないな」
思い出すだけで気分が悪いので忘れたことにしている。
「自分のことを全く知らない場所って本当にあると思うか?」
「うーん……」
「それに行くのはお前一人だったらどうする?」
「……………………」
「周りの人は自分のことを知らないで、何所かもわからない所に行ってさみしくないか」
「お兄様……」
「だから、俺はお前をそんな所に行かせるつもりも無い。行くとしても絶対にお前と一緒にいてやるよ」
きつく言い過ぎたので軽くフォローしたつもりだが、かなりはずかしい事言ってるな俺。
「ありがとう、お兄様」
「ま、まぁな……」
出来るだけ早く話題を変えたかったが、あまり思いつかなかった。
「なぁ、お前は友達って欲しくないか?」
「友達……ですか?」
「『ですか?』って言われても友達は友達って意味だろ?」
「いいえ、友達って意味は知ってます。ですが、質問の意味がちょっと……」
「つまり、他の家の奴って意味だ」
「たしかにいつも同じ子だといつかはあきるかもしれませんが、別に今はこれ以上欲しくないです。ですがなぜそのようなこと聞くのですか?」
「いやな、親父ってあれだろ。だからお前は他の家で生まれたかったかと思ってな」
「いいえ、私は今までこの家で生まれてきていやだって思ったことありません。翡翠や琥珀がいますし、お兄様もそれにお兄ちゃんもいますから」
「そっか………………」
「ええ」
うっ、またはずかしいフンイキだな……。うう、どうしたら……。
「お兄様、そう言えばお兄ちゃんが『遊んでほしい』って言ってましたよ」
「そうだな、あいつとは話すことばっかりで遊ぶつってもすることないしな……。考えておくよ」
「そうですか、それじゃあ楽しみに待っています。雨も止んでいますから外にでも行ってきます。それでは、失礼します」
ペコリと礼をして、小走りで外へ走ってった。
そうだな、いつか琥珀や翡翠も呼んで思いっきり遊んでみるか。もちろん志貴のためじゃなく秋葉のためにな。
「――俺も庭を歩くとするか」
END
―――It got it from Exy.