■ 外伝09 / 宝物
元は友人の執筆したオリジナルキャラクターのショートストーリーを、長編連載用に改変させていただいた小説です。パロディ小説、2.5次創作でございます。 参考元:華(ぷぇっとした雨音)
――????年??月??日
【 / / Third /
/ 】
/1
藤春伯父さんの良いところ。
実年齢に相応しいカッコ良さ。四十代後半になったというのに衰えない肉体美。若々しく髪を掻き上げる姿は、実際の年齢よりずっと若く見える。
その年齢だというのに金髪に染めている。周りを気にしていない豪快さを持っている。
デスクワークの仕事に就いている。椅子に座ってペンを走らせている姿が絵になる。一番絵になるのは、ペンを置いて思考しながらコーヒーを飲んでいる光景。堪らなくカッコイイ。男らしさを感じる。
そして仕事はきっちりする性格。仕事にべったりとも思えるぐらい忙しいけど、家族サービスはきっちりするお父さんぷり。最近は息子が勝手にどっか遊びに行っちゃうから、声を掛けるタイミングを失っている寂しいお父さんになっている。だから俺だけのお父さんになっている。やりぃ。
「ウマちゃんって、ホント、お父さんのこと好きだよね」
みずほが「信じられない」と付け足しながら俺に言う。
俺は今までの人生で多くの大人を見てきた訳じゃないけど、俺の中では藤春伯父さんほどカッコイイ大人を見たことがない。
みずほに、「好きだよ」ってハッキリ言ってやろうかと思った。でもやめた。言っても「知ってる」と言われそうだし、自己主張の激しすぎるのは伯父さんのタイプじゃないって分析済みだからだ。
伯父さんの一番良いところと言ったら、優しいところだ。それと、前を見て生きているところかな。
後ろを見てばかりいる周囲とは大違い。それが後ろ向きに産まれ落ちた俺にはキラキラ眩しくて憧れだったんだ。
/2
ウマちゃんのイイトコロ。
ファッションセンスの良さ。そういう雑誌のモデルさんがしているような着こなしを、誰から教わったというのでもなくしているコト。残念ながらテレビに出られるほど顔が整ってないから(ブサイクじゃないけどさ、惜しいぐらいだよ)本物のモデルさんにはなれないけど、中の上ぐらいなセンスの良さを持っていると思う。
ボクも外見は気を付けようとはしているけど、ウマちゃんほど完璧になれない。朝早くから鏡の前で寝癖と格闘しているウマちゃんを見てしまうと、そんなにも『自分』に気合いを入れることが出来るんだって感激してしまう。
いつか忘れたけどそのことをウマちゃんに言ったら、「俺は顔が良くない分、違うもんで魅せなきゃいけないんだよ」と答えた。その根性がスゴイ。
あと、クールだ。いっつも一歩後ろに下がって物事を見ている。ボクが火刃里ちゃんや寛ちゃんとバカ騒ぎしているのを遠くで見ている。だから全体を見ることが出来る。リーダーっぽい。
「リーダーにはなりたくねぇけどな……。あと、みずほ。『誰からも教わってない』っていうのは違う。一応、俺は福広さんからご指導をもらってる」
「そなの? 指導って何?」
「一緒に買い物に付き合ってもらうだけだけどさ。そんだけでスッゲエ価値があったよ」
「へえ。……具体的にはどんな価値があった?」
「今でもジーパンの買い方は教わって良かったと思っている」
「にゃ、本格的だった。あー、福広さんってオシャレさん代表ってカンジだもんねー。ボクもちょっと教えてもらおっかなー」
「みずほだったらやっていけるよ」
「……ボク『だったら』?」
「この前、寛太が遊ばれているところを目撃しちまった。……散々な目に遭ってた。多分、みずほなら福広さんと……やっていける。多分」
「そんなに念押ししなくても……」
でも一緒に買い物行ってもらうのはマジオススメ。
そうウマちゃんはボクの顔を一切見ず、一連の流れの間、ケータイをカチカチしながら話をしていた。
人を見ないで自分ばっか。それだけがウマちゃんの短所かな。
/3
みずほくんの良いところ。
それは、すっごく明るい性格です。初対面の人でも仲良くなれるところはとっても羨ましいです。緋馬くんは「みずほは猫被りなだけだ」って言いますけど、それが出来るのは本当に良い人だからだと思います。
あとは、猫さんが大好きなところでしょうか。猫が好きって言ってるみずほくんはキラキラしてます。すっごく楽しそうです。何よりも好きだから、色んな猫のグッズを持ち歩いています。街で見かけるとつい買っちゃうらしいです。
「でも、ネコミミを僕に付けるのだけはやめてほしいなのです。貰ってもどうしたらいいのかわかんないのです」
「あぁ〜。それだったら余ったネコミミ、俺にちょうだいぃ」
「……福広さん? ネコミミの有効活用ってあるんですか?」
「ふっふふぅん。ネコちゃんプレイのときに使おうかねぇってぇ」
ネコちゃんプレイ? みずほ君みたいにニャーニャー言いながら猫になりきることでしょうか。さっぱりです。僕は勉強不足ですね。……ちゃんと後で調べておきましょう。
/4
寛太のいいとこ。
まだまだこどもだってこと。小学生にちょっと大人の毛が生えたぐらいの子供ってこと。若いって良いねぇ。それだけで価値になっちゃうもん。
これからなんでも試していけるっていうのはスッゴイ価値だ。何にも知らないから何だって挑戦できる。……って、まるでオジサンみたいなコトを言ってみる。
「9月26日生まれの福広さんはですね……天秤座で、『欠けてゆく月』なんですよ」
「カケテイク、ツキぃ?」
寛太は占いなんて可愛い趣味にハマっちゃってる。女の子みたいで可愛い。
そう言うと「何故か僕、女の子のお友達がいっぱいなのです」って困った風に笑う。照れ隠しではなく、本当に困ったように笑うんだ。年頃の男と言ったら女の子は聖域かババアと見なして近付けなくなるもんなのに、まだ女の子と遊んでいる寛太は『成長期の男』になれてないってことだなぁ。
まあ、無骨な男にならずに済んでいるんだ。まだまだ柔軟な男の子である。とても重要なことで、今しか無い良いトコロだ。
「福広さんの生まれた日のお月様はですね、欠け始めてまもない状態なのでした。欠け始めの月の下に生まれた男性は、集団の中にいても目立つような存在になるのです。ユーモアのセンスに富み、場の空気を盛り上げることが上手な人なのです。多少見栄を張ってしまうときもありますが、この人の場合は自分の利益を損なうことはありませんです。見た目によらず、しっかりしている人なのです」
「ぶはっ! 『見た目によらず』だってよ! 見た目は駄目だってことか!」
「あぁー、芽衣ちゃんうるさーいよぉー。寛太がイイコト言ってくれてるんだからちゃんと聞きなさぁーい。ほらぁ、今から寛太が俺のイイトコもっと言ってくれるからぁ!」
「えっ!? これでもう占いはおしまいなのですよぉ……?」
「えぇー、俺のイイトコってそれっぽっちなのぉ? ほらぁ、もっとあるでしょぉ? 俺のイイトコぉ」
「無ぇーってよ。諦めろ」
「芽衣ーしゃらーっぷ。さっさと弟くんの所に行きなよぉ。今はぁ、俺と寛太のラブラブデート中なんだからぁ」
「依織なら放っておいても芽が出て膨らんで花が咲くぐらいで急いでも何も起きねーよ」
「はあ、意味が判りません…………それにデートって、僕達男なのですよぉ!?」
わたわたする寛太ってばマスコットキャラっぽい。
ぐりぐり突つくとはにゃはにゃ鳴き出すなんて、ああ、女の子じゃないのが勿体ないなぁ。……って、女の子だったらこの家的に大問題だな。こんなトコロで俺と一緒におしゃべりなんかしているような身分じゃなくなるか。
あ、寛太のイイトコ、もひとつあった。偉くないとこ。だからみんなに優しく平等で明るいとこ。これ重要。
「あっ、福広さんの曜日占いは金曜日なのですよっ!」
「……それってイイコトなのぉ?」
/5
芽衣兄ちゃんの友人・福広さんのいいとこ。
世渡り上手なとこ。あの人、色んなところにコネ持ってる。俺の親父(大山)だろうが、狭山の野郎だろうが、一本松だろうが柳翠様だろうが、どんな連中にもそれなりに顔が通じてなんでもできる。あの男をへらへら笑ってるだけの人間だと思ったらいけない。
その笑顔の裏では超計算高い面があるのかもしれない。……きっと。
「おぅや? おーい芽衣ぃ、弟くんが痺れを利かせてお前を迎えに来たぞぉ」
「は? ……なんだ、依織。そんなにお兄ちゃんが恋しくなったか?」
「兄ちゃんがいないとパソコンが立ち上げられないんだよ。パスワードよこせ」
「パスワードほいほい教えたらキー掛けてる意味が無いだろ」
俺と兄ちゃんがむっと睨み合っている(もちろん本気じゃない。お互い冗談でやってるんだが)中に入って来て、「兄弟仲良く研究室にお戻りぃ〜」なんて笑う福広さん。
誰が喧嘩を始めてもこの人は間に入る習性を持っている。いいとこ……っていうか、侮れないとこだよな。
/6
依織の長所。
記憶力が良い。以上。
「……なんだ、この朝顔?」
「芽が出て膨らんで花が咲いただけだよ、兄ちゃん」
それ以外はどうだっていいことばかりだ。やることは破天荒。言うことは支離滅裂。兄貴である俺もフリーダムに生きてるけど、コイツには負ける。
なんつーか依織のやること成すことは……想像ができん。
「おっかしいなぁ。この朝顔、確か二日も経ってなかった筈なのに。俺の記憶、間違ってないよな?」
「正解。コレは、四十九時間前と十四秒前に植えた朝顔だぜ」
「……確か『種を植えた』ってお前言ってたよな? なんで花が咲いてるよ」
「領域遣いの力を発揮してもらったからだよ」
「ああ、術で強制的に成長促進させたのか」
「ずんずんずくずく伸びた結果がコレだぜ! エクセレンッ! 芽衣兄ちゃん、朝顔ってな、下剤の効果があるんだぜ! 今まで3回さ……」
「ハイハイ。なんで冬に朝顔研究をチョイスしたかねお前は。ちゃんと調べたら記録取っておきなさい」
「だから兄ちゃん呼んだんだろ。パソコン! 早く!」
依織は、今から記録を取ろうとしている。全ての研究を終えてからだ。その行為は、依織自身のためではなかった。
依織は『データをメモる』『記録を残す』『絵を描く』と言った行動を必要としない人間だ。だって一度見た数値は忘れることなく、記録は全て脳に残すんだから。完全記憶の持ち主、コンピュータのように正確に記録と出力が出来る人間、それが依織だった。この上ないぐらい超人的な長所だ。
「……ほい。パスワード解除。パソコン使えるようになったぞ」
「サンキュ、兄ちゃん!」
「つーかさ、俺が居なかったら三つ子の誰かに訊けって言ってなかったっけ?」
「俺が覚えてねーから兄ちゃん言ってねーな!」
「……だな。すまん。瑞貴か陽平か慧なら、このパソコン立ち上げることができる。使いたくなったらそいつら連れてこい」
「いえっさ!」
依織はパソコンかたかたし始める。
いっそ短所も言おうか。まあ、御察しの通り……『依織は覚えているだけに過ぎない』。依織は、この二日間の異常な朝顔の成長を全て記憶している。何時に何センチ伸びたとか、いかなる事が起きたとか、全部忘れることなく覚えている。でもそういった研究成果を相手に伝える場合……記録媒体が依織の脳であるから、依織の口を通さなければ発表ができないんだ。
普通の人間が事象を全部記憶してなくても、書面にいちいち記録しておけば簡単に他人に研究成果を発表できる。……たとえ依織が超人的な記憶力を持っていても、普通の人間と同じように記録を取らなければならない。研究を団体でやっているのだから、超人も凡人も変わりなく過ごすしかないという例だった。
「芽衣兄ちゃん! 朝顔ってさ、利尿剤の作用があるんだぜ!」
「それ、そこまで主張すべきことか?」
でもそれに気落ちしないで研究者をしていけてる性格は、依織の長所だと思う。
/7
俺の兄・瑞貴のイイトコ。
真面目で、優秀。魔術の腕も中の上。口も達者で、清潔感ある佇まい。愛想笑いも巧くって、嫌なことがあったらハッキリ言う素直さ。すっきりした声で、高音が響くけど耳に残らない。背は日本人の平均身長はキープ、白を基調にしたださくない服装をいつも心掛けている。完璧な優等生。イイトコしかない。
俺と瑞貴は三つ子の兄弟だ。俺より数分前に生まれてきたのが瑞貴だった。
あまりに近すぎて「兄さん」とも呼べないほどの関係だ。それなのに何故俺と瑞貴はここまで性能の差がついたか。あんなに優秀で爽やかでいられるのか、謎だった。
別に瑞貴のことを妬んだりしないけど、ちょっと羨ましいって思うことはある。
もう一人の兄弟、慧は……弟だから何かに劣っていても許せるのに。ああ、ちょっと自分が情けなくなる。
「アタシ、瑞貴くんのこと、キライー」
唐突に、梓丸さんがズバッとそんなことを言った。
今さっき瑞貴が去っていったばかりの書庫で、何てことを言うのか。隣のシンリンさんが苦笑いをしていた。三つ子の弟である俺を気遣うような笑い方だった。
「な、なんでそう思うっすか!?」
「……さっき廊下の角でぶつかったらー、舌打ちして睨んだー。その後すぐに『ごめんなさい』って言ったけどさー……むー」
「ああ、言ったならいいじゃないか。そんなプリプリすんなよ、梓。陽平がビビってるだろ?」
「いえ……」
『ごめんなさい』を言えるだけ良い子じゃないか、とシンリンさんが年上っぽく梓丸さんにフォローを入れていた。
……うん、舌打ちっていう失礼な行為をしたけど、その後にちゃんと謝罪ができる瑞貴は……本当によく出来た人間だと思う。
悪い面を出してもちゃんと良い面でカバーしている。
でもカバーしているだけで……悪いところはちゃんとある。
悪いところがあるのは、人間だから仕方ない。短所が無い人間なんていない。……瑞貴の短所は『誰にでも不敬』ということなだけ。ちゃんと隠そうとしているだけ良いじゃないか。
/8
陽平の長所。
隠そうとして隠しきれてない『いいひと』オーラ。熱血漢な素質。何事にも元気に対応するのは評価されるべきだ。
「あざっす!」「すみませっした!」と体育会系のノリは、見ていて気持ちが良い。「熱くてイヤだ」って言う人種もいるだろうけど、陽平の場合、ちっとも嫌味に思えない。単に元気なだけだから、体育会系独特の『人に押し付ける感』が全然しないんだ。
あと、いっつも黒服ばっか着てるせいかスマートに見える。目立たない方の顔だけど、磨けばきっと光る。磨く機会が無いのが勿体ない限りだった。
「梓ぁ、いちいち怒るなって。カルシウム足りてないぞぉ」
「だってぇー! リンちゃんも舌打ちされたらキレるでしょぉー!?」
ぷりぷり。ピンクのリボンをいっぱい付けた可愛い外見の梓丸が可愛くぷんぷんする。……一見、梓丸は可愛いだけ。それよりは陽平の秘めた可愛さの方がずっと愛着持てる。
別に梓丸非難をする訳じゃないけど、陽平はそういう可愛さがあるんだよなぁ。引き合いにしちゃってゴメンな、梓丸。
「おらっ、燈雅様の前でそんな不機嫌な顔すんなよ?」
「むーっ。しないもーん!」
/9
シンリンの長所。
人が気にするところを敢えて言ってくれる。心を鬼にして指摘してくれる。嫌われ役を進んでする、優しい男だ。
「燈雅様は、俺達のしていることを考えるべきです」
キツイことをズバズバ言ってしまうのは梓丸の仕事だと思われがちだが、実はシンリンの方がずっとストレートだ。
「リンちゃん……ちょ、ちょっと、落ち着こ? ねっ?」
「燈雅様。聞いているんですか。俺達のことを思って何も言わないってことなんでしょうけど、それって俺達に仕事を与えないのといっしょです。何もしなくて金が入って来るのも悪くない。けど、それは仕事に誇りを持っている俺達の冒涜ですよ。考え直してください」
しかもそれが正論だから、攻撃されたら受けるしかない。
「…………すまない。シンリン、梓丸……。男衾にもゴメンって言っておいてくれるか」
俺は良い主治医に診てもらってる。
『仕事に誇りを持っている』。自分は心霊医者として埃を持っているとシンリンは言った。その姿は凛々しく美しい。糾弾された俺は何も言えなかった。申し訳無さが生じ、彼のことが凄いなと思った。
俺が頭を下げて数秒、沈黙が流れる。するとシンリンはニカッと笑って声を張った。
「っていう訳で、しっかり食事を摂ってくださいね! お残しは許しませんよぉ!? 判りましたか!?」
誰の真似なんだか口調を変え、明るいテンションで言う。梓丸もほっと胸を撫で下ろしていた。
……ああ、シンリンは本当に良い人だ。俺を叱っておきながら、沈む俺の気を和ませることまでするなんて。何から何まで感心してしまう。
「おっ。圭吾さん、さっきから俺への視線が熱いっすよ。恋ですか?」
「はあっ!? べ、別に変な見方はしてねーぞ!」
ちょっと離れた場所で俺がシンリンに怒られるシーンを眺めていた圭吾が、笑いながらシンリンをどつく。
もちろん圭吾も気分を悪くしてない。寧ろ、そのように面白いことを言って次々に気を良くしていくシンリンに感激しているようだった。
「ふんふん、美しい俺を見たいならじっくり見てくれて構わないませんよー」
「な、何言ってんだか……」
「いっそ俺に乗りかえます?」
「の、乗りかえるって何をだ!?」
「はっはっは。いじり甲斐のある人だなぁ、圭吾さんって!」
「うう……。あ、俺……そろそろ去った方がいいのかな?」
「いや、折角遊びに来て頂けたんですからゆっくりしていってください。そうだ、圭吾さんもご一緒に食事はどうですか。……燈雅様がちゃんと食べて、その後、薬を飲むか……見張っていってください」
/10
燈雅の良いところ。
凄く綺麗だ。男だけどつい思ってしまう。真に黒い髪。切れ長の目。深い色の……ちょっと一般人では手が出せそうもないぐらい高級そうな着物を難無く着こなしている佇まい。ただただ箸で摘んで食事をしている光景でさえ、ぼうっと眺めてしまうぐらい、綺麗だった。
「……圭吾。箸が進んでないぞ」
「え? いや、腹が減ってない訳じゃないから」
「食欲があるのに箸が進んでないのは、どういう理由なんだ?」
「あ」
「はは……なんで食事するだけなのにそんなに緊張してるんだ。いつもの圭吾に戻ってくれよ」
燈雅と俺は同い年の幼馴染だ。でも同い年という理由だけで長い付き合いをさせてもらっているだけで、燈雅は『大切にされているお坊ちゃん』だから、俺とは全く違う生活をしている。召使いが三人ほどついて全て身の周りの世話をしてもらっているぐらいだ。外で「おらおら働けー!」と親父に鞭振るわれている俺とは大違いだ。
――上品。優雅。みやび。言い過ぎだなんて思えない。一つ一つの仕草が綺麗だなぁつい見入ってしまうぐらいの彼に、俺は暫し見惚れていた。
「圭吾。これ」
食事を終え、燈雅が薬を飲み干すのを見届け、俺が帰り支度をしていると、何やら高そうな木箱を持たせた。
木箱だから何だと思ったら、中身は単なるお菓子だった。……って、お菓子なのに、木箱に入ってる……? 箱代に金が掛かってもいい超一流ってことか?
「これは匠太郎様に頂いたんだ。でも食べきれなくって……。梓丸達にも分けたんだが、お前も貰ってくれないか」
「箱ごといいのか?」
「ああ。一通り配った後だ。それに圭吾は甘い物が好きだろう?」
「ん、うん……好きだけど。そうだ、明日……新座くんと一緒の『仕事』の予定だから、彼にも渡すよ」
「新座と一緒なのか! それはいい! ならもっと持って行ってくれ! ……志朗と会うことはないのか?」
――新座ほど志朗はあんまり喜んでくれはしないって判ってるけどさ。でも喜んでほしいし。
弟の趣味を理解している『遠い兄』は、はにかみながら言う。
ああ、本当にこいつ……弟達のことが好きなんだな。俺にもひしひしとそんなあったかい心が伝わってきた。凄く良い兄貴だ。
「あ、もちろん、圭吾も食べてくれよ? 今日来てくれたお前にやるために残しておいたんだから」
「え、そうなのか? んなことしなくたっていいのに」
「……オレのしたいからしたんだ。悪いか」
燈雅は急に寂しそうな顔をする。しゅんとなったり明るくなったりまたそんな顔をしたり忙しい。いや、感情豊かっていいことだよな。
ふざけて俺はよしよし頭を撫でると、子供みたいに笑った。可愛いと思った。
あ、そういうのってしない方がいいんだっけ。身分的にも、いいかげんお互い年なんだからしない方がいいよな。……もっとガキの頃にしときゃ良かった。全然一緒に居たことなんて無かったからなぁ。惜しいことをした。
/11
圭吾さんのいいとこ。
全体からニジみ出る『おにーさん』オーラ。あんまりおれは会ったことないけど、カスミンのおにーさんだから知ってる。ちょーカッコイイ車に乗ってた。駅まで送ってもらった。その間たったの三十分ぐらいだけどいっぱいお話をした。「これがホントのおにーさんなんだなー」って思えるおにーさん力を感じた。
「うえー!? ねえねえカスミン! スゴイよ! このマドレーヌ……一個680円もするんだよ!?」
「マジかっ!?」
おれは長男だけど、『おにーさん』ってどうあるべきなのかよく判らない。
最近いっしょによく居るカスミンは俺より年上だけど、三男坊だからホントのおにーさんじゃない。おにーさんぶってるだけ。パチモンだーって言うと怒るけど、無理しておにーさんぶってるなーとは思う。でもこれはこれであったかいから良いや。
圭吾さんの『誰にでもおにーさん』でいられるあの余裕っぷりは……並大抵のオトナじゃできない。なんかすっごい。何を食べたらそんな人になれるんだろ。おとなのふりかけとかかな?
/12
玉淀のいいところ?
いつまでも子供っぽいところとか…………いや、それって欠点じゃね?
「いや、新座より『長男成分』があるだけマシか」
「むぐっ。カスミちゃん! 今、何か僕に対して失礼なこと考えたでしょ!?」
うーうー言ったりアニメ漫画の話ばっかする玉淀だけど、それなりに公私の区別はつけてるし……。『我儘自己中な王子様成分』が無いだけ新座よりずっと大人だ。いいことだ。評価できるじゃねーか。
子供っぽいっていうのは純粋無垢でいいことだしな。これからもこのままでいてほしい。うんうん切実だ。玉淀、お前は癒し系であれ。
/13
カスミちゃんのいいとこなんてありませーん。
「新座てめえ!? 絶対俺より失礼なこと考えただろ!?」
「あーあーあーお前らいい年してやめなさい!!」
圭吾さんが僕達の間に割って入る。いつも通り。
あ、カスミちゃんのいいとこっていうか、圭吾さんの弟であるってポイント高いよね。そんだけかなぁ。
……志朗お兄ちゃんもどうしてカスミちゃんのこと良く思ってるんだろ。むぐ。むかつく。……それさえなければ優しくって頼りがいがあってカッコイイのになぁ。責任感が人一倍あるからどんな仕事でも(文句言いながらだけど)こなすし。色んな仕事をしてきたから何でも知ってるしどんなことでも答えてくれるし。凄い人なのになぁ……ったく、惜っしいなぁ。
「むぐぅー。……悟司さんは、カスミちゃんの長所ってドコだと思います?」
「何食わしても面白いリアクションするところだな」
「……何、食べさせてるんですか?」
/14
新座くんの長所。
一族で一、二を争う高い能力を持っている。あまり仕事に駆り出されることがないから目立たないが、新座くんのこなす仕事のスピードは途轍もない。
大抵の仕事は三〜七日はかかるものと考えている。だが彼は一日で、長くても二日で解決する場合が高い。五回やったら五回ともそうなのだから確実なデータだ。これは『本部』も大変評価している。
何故ここまで早く終わらせるのか。……『心が読める』という能力は、我々が見付けだしたいもの――真相を、真っ先に手にすることが出来るからだろうか。精神面のアフターケアさえ欠かさなければ、新座くんはどの場所でも活躍できる優秀な能力者だということなのか。
しかし大変精神面の代償が多いということ、本家で住んでいないから連絡に時間が掛かること、何より『現当主の息子』という大事な立場故に危険すぎる任務につけないのがデメリットだった。……一つでもその欠点が解決出来れば、新座くんは魂回収の引っ張りだことなっていただろう。
……そんなことを考えていると、ざっと少年が現れ、我々に礼をした。自分らとは別任務に就いていた(だが場所がほぼ同じだったため、一緒に行動していた)若いメンバーだった。
「む、寄居くん。こちらは休憩中だったんだ、すまない。……君らの仕事は解決したようだな?」
「はい」
圭吾の方を見る。高級菓子で一休みはこれまでにしようと目で訴えると、すぐさま圭吾は頷いた。ただマドレーヌを飲み込むのに必死そうだった。
仕方なくその間、こちらで話をすることにする。
「寄居くん、御苦労だった。連日仕事をよく頑張ってくれているな」
「いえ……今日もつきにぃと一緒でしたから、いつも通りですよ」
「月彦くんはどうした?」
「つきにぃなら先にワゴンに戻ってます。疲れたから寝たいって言ってたんで。あ、怪我はしてないんで心配いりません」
「そうか。君らも完璧な仕事をこなせるようになってきたな。将来有望で何よりだ」
「はあ」
「…………圭吾。まだ飲み込めないのか? 俺の日常話題はつまらんことしか無いので定評があるだろ。早くしろ」
飲み込みづらい焼き菓子と格闘している弟を叱咤する。情けない姿だった。俺は溜息を吐いた。
/15
悟司様のイイトコ。
迫力があるとこ。
悟司様は今、仏田寺を動かしている『本部』の人間に一番似ている人だ。鬼の狭山様、冷酷無情の一本松様、無表情魔王の銀之助様と同ジャンルだ。年が他の人達に比べると高いっていうのが威圧感の理由になるかもしれないけれど、悟司様は……なんていうか、『本部』の冷たさと恐ろしさを持っている人だった。
優しい圭吾様、のほほんと外で暮らしている新座様、その他下っ端くさい人達に比べて……立場もあって重みのある喋りをする悟司様は、威厳があってキマっている。それはきっと長所だ。だるだるで何も考えていないタコみたいな人間よりずっと良い。俺はそういうタイプの人間が好きだからつい肩を持ってしまう。
「つきにぃ。そろそろみんな帰るみたいだよ」
ワゴン車へ一足先に帰っていたつきにぃに声を掛ける。
……何故かつきにぃはハァハァ息を切らせていた。顔も真っ赤だ。何かあったんだろうか。……悪いこと、あったのかな?
/16
寄居の良いとこ。
ズバリ、飾り気の無さ。いっそ潔いほどシンプルだ。
「……なに、その目。つきにぃ、変だよ」
「え? や、いや、何でもないって」
「それとも、俺が変?」
「いや、違うって。気にすんな」
オレがアハハハと笑うと、ふぅん、と呼吸のついでに言ったような返事がなされる。それっきり、こちらの目線は気にもせず、ワゴンに乗り込むと寄居は携帯電話のボタンをかちかちと押し始めた。
ごわごわしてそうな黒い髪。手入れの施されていないかさついた肌。飾り気の何もない簡素な衣服。身形をさほど繕わない寄居は一般的だけど、みずほやウマのようなオサレ男子の中では大変珍しい部類の子供だった。
けど、オレは寄居のTシャツの袖から伸びた、しっかりと筋肉の付いた腕を見てしまう。寄居は男らしく幅のある体格をしている。その体格のルーツを踏まえてみれば、非常に「不謹慎」なのは理解してしまう……飾り気の無いのも、その背景があるからだった。
だから敢えて何も言わない。
……寄居は淡々と携帯電話を開き、そっちの世界に夢中になっていった。多分仲の良い誰かと通信してるんだろう。きっとウマかな。だからオレは安心した。……出てきちゃダメだよ、アっちゃん。
/17
つっきーの良いところ。
女の子に優しいところ。「女の子はそんなことしちゃダメだよ」って注意してくれるところ。ワタシに「女の子はこうあるべきだ」って教えてくれるところ。
ワタシは何も知らないし教えてくれる人もいなかったから、一つ一つ教えてくれるつっきーはとっても良い人だと思う。
あとは、何があっても驚かないところ。それ、すっごく良いこと。……あ、驚きはする。ビックリするけど、すぐに慣れて、何にも言わなくなる。順応が早いってこと。これ大事。
ワタシが変なことをして、ビックリするけど、「これはあれだよ」って教えてくれて、それ以後は普通に接してくれる。すぐに普通に戻るのが素敵。文句ばっか言うるー子よりずっと優しい。
だからつっきーは良いひと。好きよ。るー子より好き。あの娘よりも好き。彼女より? ううん、どっちも好きだけど。でも他の彼らよりは好きよ。大好き。
/18
彼女に関してはノーコメントにさせてもらおう。
人生を謳歌している『あの気の変わりよう』は評価したいが、複雑な気持ちの方が大きい。彼女は今幸せならば良いと思って笑っているんだろうが、それで良いと私は思えない。
仮初の幸せを少年と暮らす彼女。これから訪れる別れの不幸を考えていないのだろうか。考えて今の時間を興じているのなら大したものだ。敬服しよう。
/19
ルージィルさんの長所。
今も昔も変わらずいること。……そのときの感情なんて数十年も経てば変わってしまうものなのに、何年も同じ信念で生き続けていること。俺は常に揺れ動いてしまうから、何にも変わらず一つの夢に突き進むルージィルさんは高い志の持ち主だと思う。諦めを知らないといえるのかもしれないけど、諦めないのはとても心が強い証だ。……羨ましい。
それと……兄さんと付き合えるほどの心の広さを持っている。兄さんと話を合わせられるって相当なことだから、『どんな相手でも対応ができる』って点で長所だ。……兄さんがどうでもいいことをベラベラ喋っているのにちゃんと話に合った相槌を打てるんだから、純粋に感動してしまう。
「貴方ほどではありませんよ、弟。貴方は兄のどんな言葉も受けとめるでしょう? それは凄いことですよ。兄の狂った理想を受けとめて流さない。私は、ついつい口を出してしまう。これは余計なお世話を焼いてしまっているだけ。自分の欠点と自覚してますよ」
そんなことをさらさらと川が流れるようにルージィルさんは笑顔で言う。
どんな台詞も、その時々にあった相応しい言葉を選べる。自分の立ち位置を一切変えず。……相変わらずだなと思った。
「ただ……オレは…………。兄さんは、好きに生きればいいって、思っている……だけだから」
/20
ブリッドの良いところ。
いつでも人を気遣っている。自分が迷惑を掛けていないか普段から考えている。
約束をすると守ろうとしてくれる。来ると言ったら来てくれる。走ってでもやって来てくれる。
どんなことでも手伝ってくれる。自分から何か出来ることはないかと言ってくれる。とても頼りがいがある。
外見的なことだが……目の色が綺麗だ。やや長めに切られた髪の下に隠れる目は、少し大きめで、綺麗な色をしている。不思議な色だ。黒でなく、青でもなく、やや赤っぽい……紫色をしている。本人はそれを見られるのが恥ずかしいらしく、極力隠そうとしている。もったいない。
「いきなり髪の毛掻き上げられたら仰天でひっくり返りますよ。そりゃアクセンさんが悪いです」
「う」
せっかく綺麗な色をしているのに見せようとしないのは惜しかった。けど、どうやら周囲の人に知らせていないことみたいだから……彼の特別なことを一つ知ってしまったようで、何だか気分が良かった。
あと、何よりも、笑顔が良い。これに勝るものはない。滅多に見せてくれないのが残念だ。
――いや、私だけに見せてくれるものだから、良いんだな。
考えて、ついつい笑みがこぼれてしまう。するとときわ殿が音を立てて茶を飲んだ。ときわ殿がマナーに反したことをするのは、決まって『私がおかしなことをしてしまったとき』を知らせてくれるものだった。
一体何をしてしまったんだろう、笑っただけなのに……必死に探してみる。だが、思い当たるものはなかった。
END
本編: ← / →
外伝: →外伝10「関係」 →外伝11「将来」 →外伝12「好意」