■ 外伝06 / 「爛漫」



 ――1982年12月24日

 【 First /     /     /     /     】




 /1

『メリークリスマース♪』
『ジングルベール♪』
『いい子にしてないと、サンタさんからプレゼント貰えないぞー♪』

新座「……」
霞「……」
志朗「……」
圭吾「……ほらっ、そんな顔しない!」
悟司「落ち込んでも我が家にクリスマスが来ない。何も変わらないだろ」
霞「なんでだよーっ。何でウチにはサンタ来ないんだよーっ!」
新座「……おじいちゃんにね、何で他の子の家はしてるのにしないのって聞きに行ったらね」
志朗「『異人を深夜に寝室へ入れるなんて馬鹿なことを』とか言ってた」
圭吾「小学校でクリスマスパーティーをしたじゃないか。それで充分楽しんだだろ。ね?」


 /2

悟司「サンタクロースがうちにやって来たら大変なことになるだろう」
霞「その心は?」
悟司「結界を張った敷地内に稀人が入って来られたらな、大問題だ。いかなる異端も弾き飛ばす結界だというのに」
新座「大問題じゃないよ! サンタさんなんだからお家に入って来るのフツーだもん!」
霞「そうだ! サンタはつえーんだぞ! 結界なんてトナカイが食い破って入って来るんだぞ!」
悟司「その強い何者かがうちに入り込まれたら、結界を作る者達の責任問題に発展してな……」
圭吾「いや、兄貴。そういう問題でもないんじゃないかな……」


 /3

志朗「新座、霞。サンタさんが来てくれたとしたら何を貰うんだ?」
新座「むぐー、ケーキがいいー!」
霞「肉がいいー!」
悟司「靴下に入っても良い物にしなさい」
圭吾「いや、だから兄貴。そういう問題じゃなくてさ、サンタさんじゃなくても叶えられるとかそういうことだろ……」


 /4

匠太郎「銀兄さん。って、何か食材の量ヤケに多くないか!?」
銀之助「年末年始は配達業者が来ないですからね、まとめて配達してもらっているのです。まだ片付けが済んでいないので表に出しているだけですよ。仕舞うのに手間がかかってしまっているんです」
匠太郎「そっか。……冬ってこんなに卵、使うんだなぁ」
銀之助「ええ」
匠太郎「冬ってこんなに小麦粉、使うんだなぁ」
銀之助「ええ」
匠太郎「冬ってこんなにチョコレート、使うんだなぁ」
銀之助「ええ」
匠太郎「食卓にチョコレートを出したことなんて無いでしょ?」
銀之助「ええ」
匠太郎「……まぁ、ケーキ作るぐらいは許されるよな」


 /5

銀之助「メニューが増えるても喜ぶ者がいるだけで誰も嫌な顔はしませんしね。それに食事は一本松の唯一の趣味でもありますし。子供達もたまにはご馳走というものも欲しいんでしょう。私もかつては子供だったんです、それぐらいは判ります」
匠太郎「へえ」
銀之助「なんですか、その妙な目つきは」
匠太郎「いやいや、銀兄さんは優しいなと思ってうわああああ!? 今! 包丁! が! 三本飛んできたんだけど!?」
銀之助「ええ、三本飛ばしましたから。何故誰もが判ることを口に出して確認したのです?」
匠太郎「暴力反対を訴えた結果だよ!」
銀之助「おや、拙い日本語しか扱えない弟の心遣いに気付かず包丁を汚してしまうという失態を犯してしまいました。さっさとその包丁三本を洗ってきなさい。不潔です」
匠太郎「兄さんが飛ばしたのに俺が後片付け!? 『優しいな』って言ったのそんなに嫌!? 照れ隠しで俺って殺されそうになったの!?」


 /6

狭山「ふむ、今夜は鶏肉か。……銀之助よ、他意があってのことでないな?」
銀之助「前にこれを出したのは10月でしたが、そのときは特別な事がありましたか。無かったでしょう。二ヶ月後に似たようなメニューが出ても不思議なことはありません。そう、ただそれだけのことです」
松山「まぁまぁ、いいじゃないか料理にイチャもんつけなくても。あっはっは、俺はフライドチキン大歓迎だぞー」


 /7

狭山「この寺でそんなものして何が面白いというんだ。どこぞの誰かの祝い事で楽しいものか?」
大山「サヤ。ああいったイベントものは祝いたいからするもんじゃないだろう。楽しむために楽しむんだ。華やかなパーティーも一度やってみたら盛り上がるよ」
狭山「その宴会準備をするのは誰になる」
大山「……多分、銀之助に話をしたら『一人で準備をします』と言うと思うぞ」
狭山「……これ以上、銀之助に仕事をさせて良いと思うか」
大山「…………思わないな。ああ、普通の夕飯準備の他にプラスアルファなんて作らせたらいけない! ってもうそれっぽいことしてる!? 手遅れか!」


 /8

一本松「…………」
狭山「…………。一本松? 何故、我々を止める?」
一本松「…………」
狭山「貴様は弟を過労死させたいのか?」
一本松「まさか。だがあの程度で銀之助は死ぬような男ではない。奴は好きで料理をしてるんだ。あの無趣味のような男の唯一の趣味を潰すような真似はやめてほしい」
大山「兄っぽいことを言いつつ、その本心は?」
一本松「平日にも関わらずケーキと七面鶏が食せるなんて素晴らしいではないか」
大山「……休日だからってワンホールと丸焼きを食べるのもおかしいと思うんだが」


 /9

狭山「そもそも、ケーキなんぞ焼いても元老達、特に和光様方は手をつけないかと」
銀之助「手をつけないだと? では誰もが惹かれるような金閣寺風に作ってみせましょうッ!」
狭山「ケーキで!?」
大山(……どこから来るんだ、その自信)
狭山「おい銀之助! もう仕事をするな! 一本松! 期待した目をするな! ええい、この隠れくいしんぼうキャラめ!」


 /10

新座(わくわくっ)
霞(わくわくっ)
松山「ケーキとチキンが並ぶだけで子どもには胸が弾むんだな」
銀之助「今夜だからでしょう。食事は気持ちで味わうことが出来るのです。これはその一例に過ぎないでしょう」
松山「うむ、良い言葉だ! おらガキども、おじさんからプレゼントだ! 魚拓だぞー!」
霞「おおっ!」
悟司「おおっ」
圭吾「おお……?」
一同(……子供にやるもんじゃないな……)


 /11

新座「えへっ、志朗お兄ちゃん! 柳翠叔父さんからお人形を貰っちゃったー♪」
志朗「……へ、へぇ」
新座「むぐー、すっごいよーお兄ちゃん。日本人形って僕初めて貰ったよー。ほらほら動くー。目が動くし舌出すしバンザイもするしカクカクカクカク動くー!」


 /12

柳翠「……ふふ、覚えているか、匠太郎。十年前の聖夜祭にて……私の箱に手を掛けたお前は……」
匠太郎「……暗黒歴史をわざわざ思い出させないでください(ガクガクブルブル)」


 /13

新座「僕は優しいから鶴瀬くんのケーキを分けてあげるんだよ! 僕の方がお兄ちゃんだからね! むぐっ、ほらお食べー! 美味しいよー!」
鶴瀬「は、はわぁ。ありがと……でも、そういうの食べちゃいけないって、お母さんが……」
新座「食べられないの? じゃあ仕方ないよね、僕が食べてあげる! 美味しー!」
鶴瀬「…………はわ…………」
圭吾「……新座くん。もうちょっと、お兄ちゃんになろうね」


 /14

鶴瀬「うわあああああぁん」
志朗「どうした鶴瀬くん!?」
圭吾「おい霞! 人のチキンを取ったら駄目だろ! お前もお兄ちゃんになりなさいっ!」
霞「モタモタ食ってるのが悪いんだよっ」
新座「カスミちゃんひどーい(ケーキもぐもぐ)…………あいたっ!」
圭吾「だから新座くんもお兄ちゃんになりなさい。鶴瀬くんをいじめるんじゃないっ!」


 /15

新座「あ……お母さん! お母さんお母さん! お母さんっ! ケーキだよー。一緒に食べよ!」
邑妃「まあ、新座。大きくなったわね、元気にしてた?」
新座「うん! うん! 食べよ! ケーキ作ってもらったの! クリスマスだから! ねえ、あーん!」
邑妃「ありがとうね。あーん」
新座「美味しいねっ!」
邑妃「そうね。滅多にうちでは用意できない物だからね」
新座「うんっ。僕ね、ケーキ大好きなのー!」
邑妃「お母さんの分はいいから新座が十分に味わっておくのよ。じゃあもう行くからね」
新座「甘いの大好きでね! それでね! ――あのね、僕ねっ、大人になったら毎日ケーキ食べるからっ! そういう人になるからねっ! 絶対!」


 /16

志朗「……………………母さん、なんで居たんだ?」
悟司「光緑様がお目覚めになっていたからだろう。あの方は、当主様を支える為の人だからな」
志朗「そっか」
圭吾「はいはい、鶴瀬くん。俺のチキンをあげるから泣きやんでー。……おい兄貴! 俺に全部面倒を任せるな!」
鶴瀬「うわああああああぁぁん」


 /17

光緑「――(もくもくと食事)」
燈雅「……」
光緑「どうした?」
燈雅「いえ」
光緑「そうか(もくもくと食事)」
燈雅(…………いいな、お菓子……)


 /18

犬「きゃんっ! がじがじっ」
新座「ってなことがあったんだよ! お母さんも食べてくれたんだ!」
犬「がじがじがじっ」
新座「むぐっ。お前もお肉のホネいっぱい貰えて良かったねー。美味しい?」
犬「きゃうんっ!」
新座「そうだ、ケーキに使ったチョコレートシロップの余りチューブなんだけど、デザートとして食べたいかなー?」
犬「きゃんきゃんっ!」
新座「うん、じゃあチキンにぶちゅーしてあげるね! ぶちゅ〜っ! ほーら、美味しそうだね〜!」
犬「きゃおーん!」


 /19

光緑「………………ふむ」
松山「ん? 光緑、メシ終わったのか。なら、皿を持って行くぞ。……どうしたんだ?」
光緑「先程、何人かにクリスマスとは何ぞと訊いてみた」
松山「ふんふん、また珍しいことを」
光緑「周りに聞いても知ったかぶりが多くてな。歴史ではなく現実に何をするかを知りたかったのだが」
松山「皆で集まって飯食って酒飲んで互いに持ち寄った物を見せ合うでいいんだよ」
光緑「……それだと、年越しの宴と何が違うのだ?」
松山「うーん、違うんだよな。俺は凄くしたいと思うぞ〜。毎年あってもいいなって思うぞ。あの雰囲気というか、華やかさが良いと言うか〜」
光緑「わざわざ1週間も前から宴会をさせたら、銀之助達が大変だろう。それなら面倒な事などさせない方が……」
松山「……日本人はイベントよりも『その日に誰と過ごす』ってところにこだわるもんなんだよ……感覚で判ってくれよ」


 /20

一本松「美味かったぞ」
銀之助「そうですか。貴方の為に作った甲斐がありましたよ」



 ――1982年12月25日

 【 First /     /     /     /     】




 /21

志朗「旅がしたい」
圭吾「はぁ」
志朗「というわけで、クリスマスイベントとして俺達だけで旅をしようと思います」
悟司「うむ」
志朗「新座と霞は既に了承済です」
霞「旅に行くぞぉーっ!」
新座「わーい、えんそくー!!」


 /22

圭吾「……親父達の許可は?」
志朗「取れると思いますか?」
悟司「まず取れんな。具体的に旅がしたい場所は何処だ?」
志朗「手っ取り早く、遠足が出来そうな裏山まで5人で行ってみようかと思います。裏庭にはあんまり行くなって言われてるじゃないですか。だから」
新座「五人じゃないよー! 五人と一匹で行くのーっ!」
圭吾「犬も連れて行くのか……」
霞「サバイバルには犬が役立つんだぜ!」
悟司「その心は?」
霞「……知らねー!」
圭吾「はぁ、俺達だけで裏山に行くって言ったら怒られるだろうなぁ。絶対親父に怒ってくるだろうなぁ。でも、黙っていけばいっか」
霞「別に圭吾アニキだけついて来なくても良いんだぜー?」
圭吾「行くに決まってんだろ。そんな楽しいこと見逃す訳がない」
悟司「おやつは五百円までだぞ」
新座「はーいっ!!」


 /23

悟司「……新座君、朝の5時なのによく起きられたな」
新座「むぐー、ちょっと眠い……けど、遠足だから! それじゃー、しゅっぱーつ!」
犬「きゃんきゃんきゃん!!」
霞「おい黙れよ! みんなにバレるだろ!!」
志朗「裏山って、近い近いと思っていたけど行ったことなかったですよね。悟司さん達も行ったことは?」
悟司「ないな」
圭吾「同じく」
霞「俺は松山叔父さんと一緒にハイキングに行ったことあるー!」
圭吾「それだって一時間ぐらいで寺に戻ってきたんだろ? 『森は危ない』って大人達はみんな言うからな。ただの森なのになぁ」
霞「熊が出るから危ないんだろ。大丈夫だって、こんな大人数じゃ遭わないって」
新座「えっ、クマさんに会えないの!?」
志朗「残念がるな、新座。会ったら会ったで大変なんだぞ」
犬「きゃんきゃん!」
圭吾「って、おーい霞ー。犬を連れてさっさと遠くに行くんじゃないぞー」
新座「……………………お兄ちゃん。僕、疲れた」
志朗「出発してまだ十分だぞ!?」


 /24

圭吾「ん? まだ朝の五時なのに、採掘所の人達はもう作業してるんだな」
悟司「確かに早いな。工事だし暗くなってからじゃ出来ないから、朝のうちにやっているんだろう」
圭吾「あ、なるほど。照明を点けながらより、朝陽の方が経済的だもんな」
志朗「圭吾さん、悟司さん。あれって何すか?」
圭吾「石を取ってる工事の人達だよ。ほら、この辺って綺麗に崖が出てるだろ? そこから…………」
霞「化石が出んの!?」
新座「むぐっ! それって理科の授業でやったー!」
圭吾「んー、惜しいな。もっとシンプルな物だよ。化石は出たことあるらしいけど……あれは、お家を作るときに使うやつを掘ってるんだよ」
悟司「この辺りの名産にもなっているんだから、後で社会の授業で聞きなさい」
志朗「へえ、初耳」


 /25

霞「おー、志朗兄さんっ。こっからの景色、綺麗ッスねぇ」
志朗「そうだな。写真でも撮るか?」
霞「撮りますー!」
新座「撮るー!」
霞「新座、お前はあっち行ってろ」
新座「なんで!? 僕もお兄ちゃんと一緒なのー!!」
霞「志朗兄さんと俺が一緒に映るんだよ!!」
新座「お兄ちゃんは僕のお兄ちゃんだぞーっ!」
圭吾「はいはい、お前ら。そこに並びなさい。俺のカメラなんだからみんな撮ってあげるよ」


 /26

圭吾「…………おい、霞。お前、今……何食べてる?」
霞「え、ドングリだけど」
圭吾「拾ったもん食べるな!!」
霞「アホ犬はキノコ食ってるのに俺はなんでダメなんだよー!?」
圭吾「アホ犬はアホ犬だからいいんだよ! そして自分をアホ犬と同等に置くんじゃない!」
新座「お兄ちゃん、僕もキノコ食べたい!」
志朗「駄目だ。絶対食うな」


 /27

新座「むぐー。……そろそろクマさんとかシカさんに遭えないかなー?」
志朗「人間相手に野生動物は遭いに来ないからな。それに時期的に冬眠してるだろうし……歌でも唄えば来るんじゃないか?」
新座「そうなんだ。じゃあ…………『あるー日、森の中ー♪』」
志朗「だから熊を呼ぶな!!」

 ――がさっ。

悟司「あ」
新座「わ……わあぁっ! たぬきさんだたぬきさんだたぬきさんだーっ!!」
志朗「あ、ああ……(こっちを見て逃げないのか。……こりゃ熊が来られたらヤバイかも)」
新座「たぬきさんたぬきさん待ってー!!」

 ――がさがさっ。

新座「………………はぁ、疲れた」
志朗「早っ!?」


 /28

犬「きゃんきゃんきゃんきゃん!」
霞「たぬきはっけえええええええええん!! とりゃあああああ!!」
圭吾「ちょっ!? 犬を投げた!?」
たぬき「たぬー!?」
犬「きゃいんっ!」
たぬき「げふっ!? …………むーむーむー!(じたばたじたばた)」
犬「きゃんきゃんきゃん!(ぺろぺろぺろ)」
霞「よしやったアホ犬! お前、やればできるじゃん!!」
志朗「無駄に体力ばかり余ってるからな、あのアホ犬……」
犬「きゃんきゃん!(ぎゅむっ)」
たぬき「むーむーっ!!(じたばたじたばた)」
霞「おおーし、これで一匹目ほかーく!!」
圭吾「一匹目って……まだ何か捕まえる気なのか?」
霞「え。アニキ、たぬき一匹でお腹いっぱいになると思う?」
たぬき「むーむーむー!!(食べないでー!!)」
新座「ええっ、たぬきさん食べちゃうの? 可哀想だよ……」
たぬき「むーむー!(たすけてー!!)」
霞「何言ってんだ、新座。いっつも松山さんが美味いの作ってくれるじゃないか」
新座「あ、そっか!」
たぬき「むぅー!!?」
霞「兄貴。ナイフ持ってきたよな? 貸してー!」
悟司「お前に皮が剥げるか」
霞「松山さんがやってた通りにするから大丈夫! 楽に殺せないかもしれないけど!!」
たぬき「むぅー!!!?」
圭吾「……何故だろう……どこか心が痛む……」
志朗「優しいなぁ、圭吾さんは」
新座「ねーねー。僕、たぬきさんのしっぽもふもふしたーい! していいー?」
たぬき「むーむーむー!! …………ザザザッ!!!」
霞「あーっ!! たぬき逃げやがったー!!」


 /29

霞「ちっくしょー、メシが逃げやがったー。新座のせいだぞー」
新座「し、知らないもーん。カスミちゃんがちゃんと縛っておかないのがいけないんだよー」
悟司「しかしこの場で捌くとなれば少々不衛生だった。食さなくて正解かもしれん。……そろそろ七時か。朝食の時間だ。この辺で食事を取るとするか」
新座「わーい、お弁当ー!!」
悟司「まずシートを敷くんだ。ウェットティッシュ(除菌消毒タイプ)はコレだ。こちらで手を洗ってから食膳するように」
圭吾「確かおにぎり作ってきたのは…」
新座「僕だよ! 僕がみんなの分、ちゃんと作ってきたからー! ほらっ!!」

 (1)チョコレートシロップおにぎり
 (2)チョコレートチップおにぎり
 (3)苺ジャムおにぎり
 (4)まるごと苺入りおにぎり
 (5)生クリームおにぎり

悟司「……」
志朗「……」
圭吾「……」
新座「うああああん! カスミちゃんが殴ったー! うああああぁん!! なんで殴るのー!?」
志朗&圭吾(よくやった、霞!)


 /30

新座「ほ、他のおにぎり? 一応用意してきたけど…」

 (6)焼き肉のタレおにぎり

悟司「……確かに、コレも『甘い』ものだが……」
霞「コレ、フツーにいけますよ?(もぐもぐ)」
志朗「飲み物ぐらいはフツーなんだろうな?」
新座「フツーだよ。おいしーよー」

 (1)ココア
 (2)はちみつレモン
 (3)ミルクセーキ

圭吾「……フツーだな。フツーだが」
霞「握り飯に飲めるか!!」
新座「む、むぐっ! カスミちゃん! 何度も殴らないでー!!」
犬「きゃん!(もぐもぐ)」
新座「ぐすん。……こんなにおいしいのにねぇ、甘いおにぎり……」
犬「きゃん!(じゅるじゅる)」


 /31

霞「…………ハッ!? あ、あんな所に柿がー!!」
悟司「四十七度七メートル四十九センチ」
霞「サンキューアニキ! うらあああぁぁぁぁ!!!」
圭吾「わああ。…………人間、木をあんな軽々簡単に上れるものなんだなぁ」
新座「カスミちゃんスゴーイ!(苺おにぐりもぐもぐ)」
志朗「……(飢えてるんだな、霞の奴)」


 /32

 きゃんきゃんきゃんー!
 すたたたた(木を走る音)
 ぴた。
 ずずずずず(木から落ちる音)
 ……きゅーん……。
霞「アホ犬、後で引っ張ってやるからな!」


 /33

悟司「霞。そう、お前の居る所から右に……そうそう、それから左に三個目の柿がおそらく糖分が高いぞ。よく熟した色をしている」
霞「おぅよ、コレだな! 落とすぞー! 志朗兄さんキャッチしてくださいねー!!」
 ぽいっ。
 ごつっっっ。
新座「……ふぇ……ふぇえええええええええ!」
志朗「い、痛かったな、大丈夫だぞ新座っ……!(よしよし)」
圭吾「(超大声で)……カぁスミぃ!!」
霞「こ、これはワザとじゃない! いつもワザとだけど今のはワザとじゃないいい!!」
悟司「……いつもワザとで、しかも避けられんのか、新座君は」
志朗「ホラ、新座。柿甘いぞー。美味しいぞー」
新座「ぐす……むぐっ(もっきゅもっきゅ)」
圭吾「ちゃんと謝れよ、霞」
霞「……ごめん、新座」
新座「……ぐすっ。カスミちゃんが素直に謝ってるってことは、本当に事故ってことだよね。うん、もう大丈夫だよ」
悟司(……そういう見方なのか)
圭吾「(柿をもぐもぐ)……おお、この柿、ホントに美味いなぁ。自然の味ってやつか?」
志朗「よくやったぞ、霞(よしよし)」
霞「……へへっ(赤面)」
犬「きゅーんきゅーん」
霞「なんだ、アホ犬。木の上に登りたいのか?」
犬「きゅーん!」
霞「よーし、今度はいっしょに登ろうな!」
新座「お兄ちゃん、僕も……」
志朗「あぁ、おぶってやるから。絶対手ぇ離すんじゃないぞ?」


 /34

新座「うわぁ……っ」
霞「すっげぇいい眺めだろぉ!」
圭吾「お、あそこが寺かな。……こうして見ると、あの寺って凄く広い場所なんだな」
悟司「普段過ごしている場所だから判らないものだな。こんな風に見るのは初めてなだけに違った世界のように見える」
圭吾「写真も撮ったし、美味しいものも食べられたし。いいことだらけだな、今日は」
新座「…………お兄ちゃん。僕、木の葉のベッドってやつやってみたい」
志朗「あぁ、埋めてやるぞ」
新座「わぁーい!」
霞「ほら、生き埋め生き埋めー!」
新座「うっ、ううっ、カスミちゃんいたいいたいいたいー!(泣)」
圭吾「さっきの今でイジメるなよ……」


 /35

悟司「ふむ、この葉は実に形が良い……。持ち帰ってファイリングするか」
圭吾「写真はあと十枚ぐらいか。……全部撮っていってやろう。燈雅、喜んでくれるかな……」
霞「あー、さっきのたぬき、どこ行ったかなー!」
新座「あ、あのキノコおいしそー。わんちゃんと同じ色して可愛いね。あっちのブドウも甘いかなぁ?」
志朗「……秋の綺麗な紅葉の中、佇む新座も可愛いなぁ……」


 /36

圭吾「そろそろ正午か。帰る準備するぞ」
新座「えー!? まだ十二時なのにー!?」
悟司「四時間分、歩いたんだぞ。休みながら食べながらとはいえ、四時間かけて寺に戻らなければならない。四時間経ったら十六時だぞ、暗くなるんだぞ。判ってないのか」
霞「もう野宿しちゃえばいいんじゃね?」
圭吾「そう簡単に野宿できればいいんだけどね」
志朗「出来ないかな?」
悟司「それこそ真夜中、真っ暗闇の中で熊に会ったらお前達は対処できるか?」
新座「クマさんとお友達になればいいんだよー!」
圭吾「うんうん、そうだね。熊さんと仲良くなれたらいいねー(棒読み)」
霞「どうせ暗くなるんだったら、とことん夜まで遊ばねー?」
志朗「暗くなったら怖くないか、新座?」
新座「お兄ちゃんがいっしょなら怖くないよっ!」


 /37

圭吾「ほら……やっぱり日が落ちるの早い。もう空がオレンジ色だ。あのとき戻り始めて正解だったよ」
志朗「そうですね。でも……日が落ちる前の山の空っていうのも悪くないな。空が綺麗だ……」
新座「ホントだ、キレイだね……。ねえ圭吾さん、写真撮って!」
圭吾「よし、最後の一枚はみんなで写真撮るか」
霞「さんせーっ!」
悟司「……で、誰が全員集合写真を撮ってくれるんだ」

「あ」


 /38

「しょうがない。俺がやろう」
「全然写真写ってないからダメー!」
「そうだよ、もっと写らないと」
「じゃあ俺かな。元々俺のカメラなんだし」
「兄貴は撮ってばっかりだろ。写ろうぜ」
「きゃんきゃん!」
「アホは黙ってろ」
「んじゃ、俺が撮りますよ。ココ押せばいいんでしょ」
「お兄ちゃんといっしょに写りたいー!」
「じゃあ僕がしましょうか?」
「あ、それじゃあ宜しく」
「はい、みんな笑ってくださいねー。せーのっ」

 ――カシャッ。

「ありがとうー!」
「はい、皆さん真っ暗になる前に帰った方がいいですよー。それではー」

「………誰?」


 /39

「………………ふぅ、人間にバケるのってやっぱ疲れるなぁ」


 /40

志朗「そろそろ真っ暗だな……。流石に誰か探し回ってるかもしれないな」
霞「夕飯の時間だしなー。あー、腹減ったー!」
新座「おにぎりまだあるよ?」
霞「ぜってぇそれは食わねぇ」
悟司「ほら、もうすぐだ。明かりが見えてきた」
志朗「明かりが見えてからがまた遠いんだよな……」

圭吾「ただいま、我が家……」
狭山「 た だ い ま じ ゃ な い だ ろ こ の 馬 鹿 者 ど も が ぁ あ あ あ ! ! ! 」

新座「ひっ」
悟司「……ん(また親父の長説教か)」


 /41

狭山「(前略) 誰にも言わずお前らだけで裏山に行くとは (中略) あそこには野生動物もいて (後略) !!!」
霞「う……っ」
新座「ふぇ……」
圭吾「……」
志朗「すいません……」
悟司「……ん……」
狭山「だいたいお前らは (省略) !!!!」

松山「まぁまぁ、それぐらいにしたらいいんじゃないか、兄貴。みんな反省しているようだし」
狭山「ああんっ!?」
松山「以前、霞を山に連れて行ってやったのは俺だしなぁ。冒険心に火をつけちゃったおじさんのせいだよなー? あっはっは、ちゃんと注意してなかったのもおじさんが悪いんだよ。でもあそこは子供だけじゃ危ないところなんだよ。もう行かないって約束してくれるよな? なっ?」
志朗「……はい」
霞「ひっく……はぁい……いっく」
新座「うええええええん」
犬「くぅーん……」


 /42

 そうしてその夜。
 みんなは泣き終えて。
 ごはんを食べて。
 おなかがいっぱいになって。
 ぐっすりと眠るのでした。
 楽しかった一日はこれでおしまい。
 めでたしめでたし。


 /43

新座「……でねっ。たぬきさんがね、ぴゅーって行ってね、カスミちゃんがばーっとやってね、わんちゃんばんばん行ってね、たぬきさんをね、モギューッってね」
邑妃「はいはい、楽しかったのね。新座は」
新座「うんっ! すっごく楽しかったんだよ、お母さん!」


 /44

霞「…ちっくしょう。オヤジのやつ、タンコブつくりやがってぇ…」

 出来上がった写真を見る。

霞「……へへっ。志朗兄さんといっしょの写真だ……(嬉しそうに)」


 /45

圭吾「この写真よく撮れてるだろ。……でな、この後に霞がそこから沼に落ちて大変な目に遭って」
燈雅「……(ぺらり)」
圭吾「助けるのにも大変だったんだ。あの後、アホ犬も沼に特攻しかけて……」
燈雅「……」
圭吾「…………あ、あんまり面白くないか……?」
燈雅「……いいや。面白いけど」
圭吾「あ……そうだ、柿でも取って来れば良かったんだな。ゴメンな、俺……気がきかなくて」
燈雅「……圭吾は、面白かったか?」
圭吾「ああ、凄くな。……今度はお前もいっしょに行こうな!」
燈雅「……(ぺらり)」


 /46

志朗「おーい、新座。夕食の時間だぞ。厨房に手伝いに行くぞー」
新座「あのね、お兄ちゃん。僕、しばらくお台所に立っちゃダメなの」
志朗「え? どうして」
新座「チョコレートシロップとジャムと生クリームを出しっぱなしにしちゃったから、銀之助さんがカンカンなの。来るな入るな近寄るなって言われちゃったの……」
志朗「……そうか。出しっ放しは駄目だぞ。ちゃんと学ぼうな」
新座「……はーい」
志朗「後片付けが出来るようになりましたって言えば、きっと銀之助さんも許してくれるから」
新座「……はーい!」


 /47

新座「でね! これが新作のマーマレードおにぎりとブルーベリージャムおにぎり! 遠足のときよりもずっとおにぎりっぽくなったよ! 食べなよ、鶴瀬くん!」
鶴瀬「……はわ……」
霞「俺、お前よりお兄ちゃんだからそのおにぎり分けてやんよ」
鶴瀬「…………はわ…………(ぐすっ)」
圭吾「こら、お前ら! 鶴瀬くんイジメはいいかげんヤメなさい!!」


 /48

鶴瀬「なんで……にいざくん、おやまにいったの? みんないっちゃいけないっていってるのに」
新座「冒険だからだよー。冒険っていうのはわざと危ないところに行って未知のアイテムを発掘したり強いモンスターと戦ってレベルアップしてくるんだから、行っちゃいけない場所に行かなきゃだめなんだよー!」
鶴瀬「はわ……それ、いけないことだとおもう……だって、あぶないし……おこられるし……クマにたべられちゃうかもしれないし……カミサマにころされちゃうかもしれないし……たぬきにばかされちゃうかもしれないし」
新座「むぐっ。たぬきさんはいるけど、カミサマっていうのも山にいるんだ?」
鶴瀬「いるよ」
新座「そうなんだ! へー、スゴイね鶴瀬くん! よく知ってるね! スゴーイ!」
鶴瀬「……えへへ」
新座「でも、冒険は楽しいんだよ。すっごく楽しいんだよ? 鶴瀬くんだって楽しいことスキでしょ? したいでしょ!? 行こうよ!」
鶴瀬「……は、はわぁ……」


 /49

狭山「松山。子供達を見張る役職を作るべきか」
松山「あっはっは、そりゃやりすぎだろ。子供を見るお仕事なんて、普通はお父さんとお母さんがやればいいんじゃないか?」
狭山「子供を見張っている時間など俺達には無い。それに、光緑様は今夜から暫くお眠りになる。出来る訳もない。今後あのようなことが起きては……」
松山「兄貴は気にし過ぎだよ。あんだけ兄貴にこっぴどく怒られたんだからあの五人組はもう悪さをしないさ。しようとしたら、悟司や圭吾のような大人しい上の子が止めてくれるさ。黙って出て行くなんてことしないだろ」

柳翠「……その大人しい圭吾が、黙って出て行く……そんな未来があったら面白いなぁ?」
狭山「は?」
松山「あ……あっははは、こらこら柳翠くん、いきなり現れて話を変な方に持っていくなよ〜!」


 /50

燈雅「…………(縁側でぼんやりひなたぼっこ中)」
たぬき「(がさごそっ)……たぬっ」
燈雅「……あ……」
たぬき「……たぬ」
燈雅「…………」
たぬき「…………」
燈雅「……ここ来たの、初めて? ……お菓子、食べるか?」
たぬき「た、たぬ!」
燈雅「……おいで」
たぬき「たぬ〜」

男衾「燈雅様。燈雅様。ああ、こんな所においででしたか、浅黄様がお呼……………………」
たぬき「たぬ」
燈雅「うん、ありがと男衾」
男衾「……………………」
燈雅「ん? 男衾。たぬきさん、触ってみるか?」
男衾「……………………」
たぬき「……………………」
男衾「……………………」
たぬき「……………………」
男衾「……………………」
たぬき「……………………」

柳翠「フッ。人が恋する瞬間を目撃してしまったようだな?」
燈雅「……柳翠様、いきなり現れてなんですか」



 ――2004年12月24日

 【 First /     /     /     /     】




 /51

『メリークリスマース♪』

志朗「昔はクリスマスするのもビクビクしていたっていうのに、今じゃ普通に寺でもパーティーしてるよな」
霞「ケーキの有難みってやつもチビどもは判ってないでしょうね」
新座「だよねー(ぱくぱく)」
霞「……お前は毎日食べてるくせに、何言ってんだか」


 /52

燈雅「よし……これで、と。もう少し大人しくしていてくれよ?」
たぬき「……」
燈雅「おお、出来た。サンタ服、似合ってるぞ。たぬきさん」
サンタたぬき「……たぬ」
燈雅「よし、男衾に見せてやろ……って廊下から血だまりがッ!?」


 /53

梓丸「男衾ちゃん、クリスマスプレゼントは何がいい? たぬき以外で答えなきゃ踏み潰すけど」
男衾「…………」


 /54

男衾「梓丸は何か欲しい物でもあるか」
梓丸「男衾ちゃんが買ってくれるの?」
男衾「出来る範囲で努力しよう」
梓丸「じゃ、新しいバイクが欲しいな。もしくは新築とか」
男衾「……」
梓丸「買わなくてもいいから努力する姿だけ見せてよ」


 /55

燈雅「そういやクリスマスが終わると圭吾の誕生日がすぐ来るんだよな。……何かプレゼント用意した方がいいのかな」
梓丸「(にこにこ)圭吾さんの好きな物をあげれば喜ばれますよ」
燈雅「そうか。……チョコレートケーキでも発注しておくか」


 /56

圭吾「……ふう、こんな日に『仕事』が入るなんて運が無いなぁ。俺達」
ときわ「そうですね」
圭吾「これだと明日のクリスマス本番までに仕事が片付かないなぁ」
ときわ「そんなのいつもの話じゃないですか。逆にこういうイベントの日こそ人々の感情の揺れ動きが激しくなりますからね。異端が生じやすく、忙しくなるものですよ」
圭吾「だよなぁ。……ときわだって誰か好きな人と一緒がいいとか思ってるんだろ?」
ときわ「今は満たされてるからいいです」
圭吾「そうか……。うん?」


 /57

新座「ねえお兄ちゃん。クリスマスプレゼントは何がいい? 『僕』っていう答えは去年聞いたからナシだよ〜」
志朗「なら新座の『一日中ずっといっしょに居てあげる』っていう台詞が欲しいな」


 /58

みずほ「ウマちゃん、クリスマスプレゼントで何か欲しい物ある? サンタさんにお願いしようよっ」
緋馬「じゃあ、メロンパンとヤキソバパン」
みずほ「……サンタをパシリに使うにゃよ」


 /59

藤春「ガキがみんな大きくなっちまって、クリスマスも外出する年齢になったんだなぁ」
緋馬「(炬燵で蜜柑を食べながら)こんな寒いのに外出なんて元気だね」
藤春「……で、緋馬。お前はなんでどこにも行かないんだ?」


 /60

霞「なんだよ、アニキ? どっか行くから俺を呼んだんだよな?」
悟司「クリスマスラーメンを試しに行こうと思ってな」
霞「……どうせそんなことだろうと思った。ああ、俺はついていくだけでいいんだよな?」
悟司「チョコレートラーメンなんてゲテモノを俺が食すと思ったか!?」
霞「俺に食わす気満々かよ!?」


 /61

玉淀「わあ、カスミンのクリスマスプレゼント……チョコレートラーメンだー! すごーい! 嫌がらせだー!」
霞「嫌がらせでもしねーと俺の気分が晴れないんだよ! 巻き込ませろ!」
玉淀「あははは麺にチョコ練り込んであるー! スープがチョコソースー! あははははカスミンチョコくさいー!」
霞「おめーも今から同じにしてやるっ! あのアニキ、散々食べさせておいて自分は食べないとか! 悔しい!」


 /62

ルージィル「――――――――。ご命令は?」


 /63

寄居「え、クリスマスプレゼント? わざわざ? こんな所にまで?」
松山「ああ。あさか君が、ちゃーんと今夜届くようにしてくれたみたいだぞ」
寄居「へえ。そんなに俺に恩を売って何がしたいのかねぇ。惚れてやるしかお礼なんて出来ないぞ」


 /64

依織『学人(まなと)の奴、銀之助のクリスマスケーキの大作に付き合わされているらしーぜ。毎年よくやるねー』
玉淀「あいつは銀之助さんのお気に入りだもんねー。じゃあそっちはでっかいケーキ食べるんだ。いいなー」
依織『いいなーって言うなら一度、寺に帰ってこいよ。カスミンと一緒に』
玉淀「えー。おれ、明日デートだから戻らなーい。大晦日には帰るんだからいいじゃーん。電話じゃわかんないから写メを後で送ってよー」
依織『写メれる大きさだったらなー』
霞(…………何を作るつもりなんだ、銀之助さん……)


 /65

福広「聞いてよ芽衣ぃ、美味しいお酒が手に入ったんだけどさぁ。いっしょに飲んでくれる人なんて優しい子はいないかねぇー?」
芽衣「お前、誘う奴がいないから俺のところに来ただろ。お前も自分なりのクリスマスを謳歌しろ」
福広「あっはぁ、俺と構ってくれる物好きは幼馴染ぐらいしかいないからねぇ! めぼしい恋人様もいらっしゃらないしぃ? まぁまぁ、それなりに良いお酒ですからどうぞどうぞぉ〜」


 /66

月彦「アっちゃん、メリークリスマ……ちょちょちょちょっ! 俺、今、キメ顔でキメ台詞言ってるんだからちゅーはまだ! ちゅーはまだだって! ぱんつ脱ぐのもまだー!」


 /67

シンリン「……あのですね、燈雅様。そんな薄着で居たら風邪を引くことぐらい、そろそろ判ってくださいよ。お強い体でないことぐらい自分で知っているでしょう?」
燈雅「んー……折角のクリスマスに面倒を看てもらっちゃって、すまないなぁ」
シンリン「折角のクリスマスに医者と一緒なんて貴方も嫌でしょう? 梓丸も男衾も心配しますよ」
燈雅「たぬきさんをコーディネートしに外、出たら風邪とか……知れたら、絶対梓丸に怒られる……」
梓丸「もう怒ってますっ!」
燈雅「居たのか、梓丸……。君達も今日ぐらい俺の面倒なんて看ないでクリスマス謳歌すればいいのに」
梓丸「燈雅様と楽しくクリスマス看病を謳歌するからいいんです! 男衾ちゃんもそういう顔してますよ! ほらご覧ください!」
男衾「…………(そういう顔)」
シンリン「子供の頃と違って4人でクリスマスですよ。ほーら、辛い顔しないで。ちゃんと貴方を慰める人がこんなに居るんですよー。なんなら依織も連れてきましょうか。アイツを呼べば一気にうるさくなるから!」
燈雅「……ありがと、みんな」


 /68

 悪魔に父が母が妹が叔母が叔父が彼が彼女が刺される。
 串刺しにされていく人々。大切な家族達。
 炎を灯して彼らを蝋燭に見立てケーキを作っていく。
 全部私の夢だ。


 /69

ブリッド「この国の冬は……身を切るような寒さが無い。雪が……あたたかく感じる。すべてを消してしまう残酷さも無く……皆、雪の到来を喜んでいる……なんか、それがとても……嬉しく思えてくる。何がとは言いにくいんだけど……」
ブリジット「居心地の良い国だ、安心するだろ? 我々の母胎が此処だという証だ。……冬は始祖様が一番愛した季節だからな」


 /70

ブリッド「あはは、何言ってるんだよ……ん? なんだよ、立ち止まって。…………どうしたの、父さん?」




END

本編:  / 

外伝: →外伝05「食事」 →外伝07「召喚」 →外伝08「雑談」