■ ユメ



 その日、普段は目を覚まさない時間、何故か目が開いた。

 まだ部屋は真っ暗で見える物は限られている。
 シーツの皺。枕元に置かれた読みかけの本。それと、隣で眠っている二人。
 ……いや、眠っているのは二人ではなかった。一人、目を開けている。

 ―――どうした、クロト? と尋ねた。

 オルガを起こしたのはクロトだった。確かオルガが眠ろうと思った時既にクロトはシャニと眠りに落ちていた。何せオルガが寝かしつけたのだから。
 何が原因で起こしてしまったのか。それとどうして起こしたのか訊く。
 か細い声でクロトは言った。

 ―――凄く怖い夢見た……と。

 そして抱きついてきた。悪戯に襲いかかってきて俺を起こす事はあるが、今のクロトは助けを求めるかのように俺にしがみついてくる。だが俺は『怖い夢を見た』状態の人間を助ける方法を知らない。一体どうすればいいのか。……只、抱き返してあげる今年か出来なかった。

 ―――ドコか判らないけど、暗いところに一人でいた。

 話したくなければ言わなければいいのに、クロトは言った。

 ―――暗くて……この部屋よりもっと暗い場所で、オルガとシャニは何処か遠い所に行っちゃったみたい。

 不吉な夢でも見たんだなとは思っていた。そして思い浮かべていた通りクロトは語る。

 ―――帰ろうと思ったら何処にも家がなくて……そのうち突然苦しくなって、それでも帰ろうとしたのに変な奴等が邪魔してきて。

 ……話しているうちに少し落ち着いてきたのか、震えていた肩は規則正しい呼吸に変わっていく。

 ―――何か怖くなったから……オルガを探しに行くんだけど……。

 オルガの腕を強く握っていた拳も緩んできた。その代わりにオルガが腕を抱いてやる。

 ―――……見つからない。そのまま、ずっと暗い所を走っている…………。



 それが最期の言葉だった。

 眠りに落ちた。まだ起きるのには早すぎる時間だった。隣で寝ているシャニだって熟睡中。直ぐ傍で二人が会話をしていたというのに起きる気配が無い(元々そういう性格というのもあるが)。ともあれ、また眠る事が出来て良かった。これで自分も眠れる……とオルガは思った。

 クロトは時々、不吉な夢を語る。子供ぽくて明るい性格のようなクロトだが少し後ろ向きな考えをする面もある。それがこの夢だ。
 オルガは抱きついている手を放し、再度寝かしつけた。

 此奴にとって、俺がいなくなる事が『恐怖』なのだろうか?

 怖がっているクロトには悪いが、オルガには嬉しかった。
 それだけ自分に頼っていてくれていたんだ、と素直なクロトの口から聞けた。……掴まれた腕は少し痛いが、クロトの気持ちを聞けたのなら安いものだ。

 クロトの言う通りそれは『怖い夢』だった。
 しかし、そんな事は有り得ない。もう何年も続いている事がある。

 ……こうやって、三人で夜を明かした。
 ずっといっしょにいた。これからもいっしょにいる。
 今も現在も抱き合い、お互いを確かめあっている。
 何も心配はいらない。



 ―――そう、心配はいらない。
 俺達は絶対に離ればなれになんかならないから―――。





 END

 そして終末の光を迎える―――。 04.3.19