■ スキ



 人を好きになる権利なんてない。



 何度そんな事を言われたか憶えていない。
 耳にして気分が良くなる言葉じゃない。しかし、全くその通りだと思っている。
 こんな身体ではどんな感情を抱いたとしても何も生み出せない、意味がないんだ。相手を幸せにする事も出来なければ、自分も幸せになる事は無い。
 無駄な事は考えないことだ、とも言われた気がする。

 だが、俺には好きな奴等がいる。
 幸せにさせられる資格も無ければ、俺自身が好いて幸せになれる奴等じゃなかった。
 意味の無い事だ。想う時間も、愛する時間も必要ない。

 何も生み出せない事をしてどうするんだ。
 このまま、無意味な事をしていてどうするんだ。
 自らを壊す。無駄な労働力の使いすぎで破滅する。無かった感情が余計に傷ついていく。おかしくなってしまう。



 だけど、―――何もしない方がもっとおかしくなってしまう。



「スキだ」

 と言った。
 スキなんだ、と告白した。相手は何を言っているのか判らないといった表情で見てくる。そして

「何バカな事言ってんだよ」

 と小馬鹿にしながら笑った。前々から好きだったんならもっと優しくしてあげるんじゃないか? とか、お前に言われても嘘に見える、とか散々な事を叩かれた。

 ……ほら、無駄な事だったんだ。
 当然返ってくる言葉にも傷ついてみせて、何の意味もない。慰めで回復するのもない。愛を生み出す事も出来ない。



 いや、生み出した物は沢山ある筈だ。



 相手から狂ったかと心配されるようになった。
 胸の中で渦をかいていたものが無くなってスッキリした。
 解消された悩みはもう思い起こされる事はない。これからは無駄なく時間を過ごす事ができる。
 断られて正解だったんだ。



 ……もし、あの時、両想いなってしまったら、下らない事に時間を費やす羽目になる。



 スキだと確認しあう時間に、
 お互いのスキ度を更新していく時間。
 気遣う時間に、離れる事を意識する時間。

 ……その時間を、俺は全て守ってやる自信がない。
 だから俺は『人を愛する権利』なんて無いんだ。



 気分が晴れやかだ。
 色々な事を貶されて少し腹が立ったがそれ以上に嬉しい事がある。

 もう、彼奴等に構う必要がない。
 それは本当に喜ばしいことで―――

 ……何より
 やっぱり自分は馬鹿なんだ、とやっと判った事が、何よりの誕生だった―――。





 END

 04.2.27