■ It is dear.



 オルガの声って好き、と言った。
 普段なら右から入っても左から出ていくうるさい声。だけど、時々とろけてしまいそうな甘い声で、甘い言葉を言ってくれる。
 それが好きなんだ、……なんてそこまで言えないけど、好きと言った。

「はぁ、……いきなり変な事言うな」
「いきなりじゃないよ。前々から好きだったし!」
「……好きー……」

 うざいうるさい、という声は荒々しくて聞きたくないけど、耳元で囁いてくれる今の声はずっと聞いていたいと思う。
 真面目な話をする時の声。上機嫌の時に唄う鼻歌。
 大好きな事をしてくれるときの声はオルガの一番好きな所だよ、……と正直に言った。

「……」

 て、そんな事いきなり言ったから照れてる。
 真っ正面から誉められると直ぐ赤面する所は、いつもクールを気取っているオルガばかりを見ていると何だか可笑しくて、可愛いと思う。

「んー……じゃあ俺が一番好きなトコは……顔かな……」
「……シャニ、お前な……」

 あ、今度はちょっと傷ついている。
 少し目尻に涙なんて浮かばせちゃって。可愛いな。

 でも可愛いなんて言っているし、シャニも絶賛しているけど、……オルガって本当に外見だけは綺麗だ。
 黙っていれば物凄く美人。顔も声も凄く綺麗で、どの点をとっても格好良くて……僕とシャニとはあんまり年離れていないのに、どうしてこんなにお兄さんぽいのか。
 ……欠点は、上の通りしゃべり出すとうるさい事ぐらいかな。
 声は好きだけど、ずっと綺麗なままでいてほしいからやっぱり喋らないでいて欲しい気もする。
 ……んん、一体どっちがいいんだろう?



「そうだ名・案! 思いついた!! 一日だけずっと喋らないでいろよ! いいアイディアだよね、シャニ!」
「……オルガうざーい…………から」

 オルガはあの乱暴な口調のせいで色々損してるし、それを知るのに丁度良い機会かもしれない。
 なのにオルガは「却下」と即答で答えた。
 実践する前から諦めるなんて駄目だって何度も言われてきただろうに。

「バカ。コレを取ったら俺の意味が無くなるだろ」

 少し怒り……というか拗ねながら、オルガは僕の顔を見て

「俺の声はな、お前らを注意するためにあるんだよ。俺が止めなきゃ誰がお前らの暴走を止めるんだ?」

 そんな、誰も止めろだなんて頼んでいない事を言う。
 自分勝手な解釈だけど、……直ぐに言い返す事ができなかった。



「何それ……オルガ、保護者気取り?」
「保護者気取りじゃなくて保護者だよ。護ってやってるぐらい分かれバカ」

 ……一日十回は聞く「バカ」。
 オルガの口も、声も、オルガ自身も大好き。
 ならこの「バカ」もオルガなんだから、
 本当は好き……………………?



「バカはお前だバーカ!!」
「…………オルガきらーい……」

 なのに僕たちは口揃えてそう叫んだ。





 END

 04.2.20