■ ずっと、いっしょだよね



 いつも寝ているのはシャニだって言うけど
 よく眠るのは僕だって言うけど
 実は一番眠たいのはオルガだったりする
 そんな夜―――。

「………………オルガ、寝ちゃった?」
「………………ん、寝てるね……」

 オルガはいつも忙しい。誰かに頼られてはあちこち動き回っている。みんなに好かれているから、信頼されているからオルガは大忙し。
 大人達の言う事はちゃんと聞いて、他の子達の面倒もちゃんと見て、
 僕たちの遊びにもいっつも見守ってくれていて

 ―――そんな夜。
 オルガが疲れて眠ってしまうのもおかしくない……。

「クロトは……寝ないの?」
「シャニこそ何で寝ないのさ」

 まだ一日が遊び足りないから瞼が重たくならない。
 昼間いないオルガに遊んでもらおうと、これからの時間が楽しいのに。
 ……その遊んでくれるオルガが眠ってしまっている。

「じゃ、シャニ……何か話、しようか?」

 電気の消した暗い部屋。
 消灯時間はとっくに過ぎていて、オルガだけじゃなく殆どの人間が寝静まっている時間帯。
 外に出て遊ぶのも怒られる、誰かの許可が必要なそんな場所。

 ―――オルガの眠る隣で、こそこそ内緒話をするみたいに僕たちは話し始めた。



「僕たち、ずっと此処にいる訳じゃないんだよね。誰かが引き取ってくれるかもしれないし……自分で行きたい所探すのかもしれないけど」
「…………」
「此処、『孤児院』だから子供が欲しい人がいたら貰って行っていいんだって。そういうお店なんだって言ってた」

「……商品?」
「ん……そういう事かな、僕たちって」
「…………」

「でも、誰かが貰ってくれたら新しいお父さんやお母さんができるし……それ良いよね。僕、今度はお父さんを怒らせないでいられる自信あるよ」
「…………ここより、自由に外に出られるかも……」
「うんっ、外に出るのもシスターに言わなきゃいけないなんてメンドーだし。フツーの学校にも通えるかもしれないよね」
「…………学校…………」
「友達できるかもしれないなー。ここも沢山人いるけどさ、やっぱりフツーの所とは違うし」
「…………」
「絶対外の方が楽しいよ。色んな所連れて行ってくれるかも……」
「…………」

「だから、―――早く……誰かが僕を貰ってくれないかな」



「……でも、誰かがクロトを貰ったら…………ここからいなくなっちゃうよ………………?」
「そんなの……当然だろ? こっから出してくれるんだからっ」

「…………うん」
「変なの。シャニは? どんな人に貰われたい??」
「………………」



 …………。

 ……。



「………………オルガ、とか」



 ……。

 …………。

 ………………。



「………………あ、そっか。それならずっとオルガと一緒だ」
「うん……」
「此処から出たらオルガと……シャニと離ればなれになっちゃうけど……それなら一緒だ」
「……そう」
「オルガ、大人だから僕たちより早く此処出るよねっ」
「……うん」
「ならその時、一緒についていけばいいんだ! オルガに『僕たちをあげる』って言ってさ!!」
「……うん……っ」



「―――じゃあ、早く大きくなってくれないかな」
「……明日、俺の牛乳……オルガにあげる」
「僕もそうしよっと! ……早くオルガと一緒に、色んな所行きたいしね」
「…………俺も……」
「勿論シャニも一緒に決まってるよ。仲間はずれになんかしないから!!」
「………………うん」



 そこで今夜の内緒話はおしまい。
 随分大声でしゃべっちゃったけど、隣で眠るオルガは全然目を覚まさない。それだけ沢山働いて疲れているって事だろうか。やっぱりオルガは大人だ。

 目を瞑り、今度こそ眠りに入る
 一足先に眠りの世界に行ってしまったオルガに抱きついて
 僕たちより大きな手を引いて


 僕たちを連れて行ってくれる手を取って

 ずっと、いっしょだよね
 もう一度、約束しあって―――





 END

 04.2.7