■ Are you baby?



「ふぅー……」

 今日もまた良い一日だった。
 と言ってもあまり毎日の生活スタイルは変わっていない。
 決められた時間決められた訓練を行い、休憩時には本を読むなりゲームをするなり音楽を聴くなり、そして最後は寝る。そんな一日だ。
 が、「最後の」時間が俺にとっては至福の時だ。
 毎晩の様にクロトとシャニがベッドに入り込んで来てはじゃれ合う。下らない事を話し合ったり遊びで殴りあったり。時には抱き合ったりもする。……大体俺は二人の姿を眺めるぐらいだが、する時は俺がいないと始まらない。
 する気はなくても、二人で甘えてきてそのまま頂いてしまう事が殆どなのだが……。

「ん〜、眠……」

 今夜は十二分に満足したのか、幸せそうな笑みを浮かべながらクロトはベッドの中に潜り込んだ。

「今日も俺のベッドで寝るのか……? たまには自分の所で寝ろよ」
「嫌だねー。戻るのメンドーだもん」

 我儘言ってクロトは一人で……いや、後からシャニも入れてベッドを占領し、意地悪い表情で見た。
 ―――俺は入ってくるな、と言いたげに。

「……」

 勿論それが冗談で言っているということは俺は百と承知だが。



「……じゃあな、お前らガキ同士で寝ろよ」

 いつまで経ってもクロトはガキっぽい。……そして、俺はそんな悪巧みに怒る程莫迦じゃない。
 軽くクロトの考えを流して、隣の、相当使っていないシャニのベッドに移動した。
 その距離約2メートル。
 少し手を伸ばせば届く距離だった。

「お、オルガ……っ!」

 なのにクロトは本当に省かれたと思ったのか、悪戯顔を吹き飛ばして俺の腕を止めた。
 ベッドから這い出て、物凄い剣幕で手を引こうとする。

「何でだよっ、一緒に寝るんだろ今日は!」
「今日は、じゃないくて今日も、だろが。……たく、ガキどころじゃないな、赤ん坊かお前は」

 何か自分の悪い所があると吠えて、時には泣いて。
 自分の気に入った物を離さない所。赤ん坊そのままだ。
 外見的にもクロトはチビで赤毛で、癖っ毛な所もマヨネーズ等の某天使人形を思い出す。



「クロト、赤ちゃん……?」

 クロトが起きあがっている中、ベッドに取り残されたシャニが尋ねてきた。

「そっ。永遠に赤ん坊だなクロトは」
「違うー! そんなんだったらオルガもそうだろ! 同い年なんだからー!」

 ……もう考え方がまるっきり違う。
 冷静になれば少しは大人として扱ってやってもいいのに挑発に乗ってしまう所なんか本物のガキだ。



「……クロト、赤ちゃん……」
「シャニ、違うってば!」

 クロト=赤、というフレーズが気に入ったのか、ずっとシャニはそれを口ずさんでいる。勿論そんな事をしていればクロトの怒りが頂点に達する筈なのだが……。

「クロト、いいこ」

 なでなで。

「……ぇ?」
「……」

 なでなで、と。
 マジな顔でされ、言葉を無くしてしまっている。



 なでなで。

「……あ……ぁ、シャニ…………?」

 なでなで。

「……ん、なんか…………」

 なでなで。

「…………くー…………」
「……」



 シャニのスローテンポの撫で方をじっと見ていたクロトは眠りに落ちていった。
 多分、シャニだから出来る事なのだろう。奇跡の手だ。

 ん な ア ホ な 。

 ―――どういう仕組みなんだ、お前の手。





 END

(見てると眠くなる……シャニはそんな人。だからんなアホな) 04.2.5