■ シャニといっしょ
「……シャニ。おぃ……」
足下で転がっているシャニに呼びかけてみる。
が、それくらいでは起きる気配は全く無い。猫のように体を丸くして眠っている。
その寝ている場所は、ベッドの下だった。
隣にベッドがあるにも関わらず、オルガが寝そべって本を読んでいたベッドの下でシャニは眠りに落ちていた。
『構えー』などと言っていたのにはオルガも気づいていた。だがタイミング良く、……シャニにとっては運悪く、読んでいた小説のクライマックスだったのだ。そう簡単に目を休ませる事が出来ず、半分シャニの声を無視してオルガは読み耽っていた。
その結果が、ベッドの足下で蹲っている。
オルガは溜息をついて、シャニの背中をつついてみた。
しかしそんな事でシャニの眠りが終わる訳がなく……。
「おぃ起きろシャニ! お前、いつでも寝るのは構わないがちゃんとベッドで寝ろって何度も言ってるだろ……!」
何度も、そう何度も言っているのにシャニはオルガの傍を離れようとしなかった。
―――其処が一番居心地が良いのだと、素直じゃないシャニが名言していた。
シャニにいくら叱咤したとしても、シャニは傍にいる。
「……はぁ」
ベッドの足に眠るシャニの体を避けながら立ち上がった。
もうシャニの傍にオルガが居ない。そんな事に睡眠中のシャニが気づかず眠っている。
このまま何処か別の場所に行ってもいい、このまま捨ててしまえともオルガは思っていた。
……そんな事を一瞬でも考えてしまい、虚しくなる。
―――シャニを置いて、立ち去るという事を。
「……はっ、出来る訳ないだろ」
オルガは、シャニの体を抱き上げた。
相変わらず軽い。そして細い。
抱き上げて少しシャニが唸ったが、目は開けるまでに至らなかった。
その代わり掠れた声で
「……オルガ……」
シャニは呟き、オルガの胸に抱きついた。
「……」
シャニは目覚めていない。目を覚まさないよう気遣って優しく抱いてやったのだ。
「オル……ガぁ……」
それにシャニは安眠タイプだ。決まった時間寝るまで目が覚めない。
先までオルガが寝そべっていたベッドにシャニを寝かしつける。
……と、ぎゅっとシャニはオルガの服を掴んだ。
「―――安心しろ。そう簡単に俺はお前らを見捨てたりしないから―――」
そう言い、抱きしめてやった。
何度言った言葉だろうか。
シャニだけでなく、もう一人の手間のかかる弟にも何度も言い聞かせてやった言葉だ。
彼らには飽きてしまった言葉かもしれないが、放つ本人はその言葉を言う度に意味を確かめてしまう。
その言葉を確かめる為に、シャニは眠ったのだろうか?
そんな事まで考えられる頭はないと思うが、
「だからシャニ、……安心して眠っていいんだぞ」
眠り続ける彼の唇に、詞を残した。
「……うん……」
起きていないのにシャニが嬉しそうに微笑んだ気がした。
END
04.2.4