■ あの髪のおはなし



 ある日、金髪のアンドラス少尉に会った。
 ……しかし本当に彼だろうか?
 肩ぐらいまであるロングヘアー、目は完全に隠れるぐらい前髪は長くて、それでいて金色……。
 少し背格好は小柄だが、一般人なら見惚れてしまう程整った面立ちをしている。この艦ではそんな人物はいなかった筈だが……。

「……ぁあ? オバサン、俺だよ俺」

 美しい顔をわざと下品に歪めるような視線と口調。私をオバサンなどと言うのは、アズラエル理事をオッサンと呼ぶあの三人しかいない。
 しかしアンドラス少尉はそんな事も言わず去っていくのだが、……この金髪の青年は……。
 ……サブナック少尉か。

「随分雰囲気が違うな。……今の髪型の方が年相応に見えて良いと思うぞ」
「あーそうですか。……前髪がうざくて読書するのに邪魔なんだよ」

 なら切ればいい、とは成らないらしい。過ごしやすさよりも外見を気にするのは良い事なのかは判らないがそこまで強制する力は私にはない。

「……オバサンではなく艦長と呼べ」

 そういう事が命令できても、彼なりの美意識を忠告するまでには至らない。度がいきすぎていれば別問題だが。

「どうした、整髪料が切れたのか。それぐらいなら資材庫の者に請求すれば良い」
「どうせ軍が配布するモンなんて、臭いヤツしか貰いないだろ……」

 ……確かに。髪を洗うだけの洗液も普通の女性が好むような香りは一切無い。しかし大抵軍にいる人間に普通の女性は求められないだろうし、そんな考えは軍に入る時から捨てるべきだ。……そこをまだ捨てきってないのは困った事だ。

「今まで君は自分の好きな物を使っていたのか? てっきり配布された整髪料を使っていると思ったが……」
「あー……昨夜までは。けどそれ、どうも使えなくなったんで、な……」
「……?」



「…………オルガ、髪くさ〜い」
「オルガー! いいかげん変えろって言ってるだろ!? 鼻痛いんだよ、そのムース!」
「馬鹿か、軍でテキトーに配られるモンがそんな良い訳ないだろっ! 我慢しろ!!」
「オルガが付けなきゃいいんじゃん……」
「そうだよ! オルガ、悪・臭!!」
「金は本に使いたいから別の所に回したくないんだよ、それぐらい我慢しろっ1」
「……それじゃあ、オルガ寄るな〜」
「そうだね、そのクサイの変えてくれるまで僕達オルガとは寝ないから! キスもしてあげないよーだっ!!」
(どうせお前らの方が根を上げるクセに……!)
「オルガ、きら〜い……」
「オルガ、嫌・悪!!」
「……」



 ……あの日から、度々配られた整髪料を流しに捨てているサブナック少尉の姿を目撃する。

(て、何で俺が折れてるんだよ……)

 見ると触覚(……)を作りたい誘惑に負けてしまうらしい。何とかこらえる為に目の前にある薬品は全て捨てるよう努力をしている。……どこか、努力している場所を間違えていると思うが。

 その頃からサブナック少尉の艦内の人気は前々より上がっていた。
 『金髪碧眼長髪の色白な青年』がいると、大西洋連合では新たなアイドルの出現と皆目を輝かせている。同時に女性の黄色い声がサブナック少尉を取り囲むようになった。

 ……しかしそうなって数週間後、サブナック少尉は元の触覚有りのオールバックに戻った。
 そして彼の周りには、SPの様に彼を付きまとう二人の少年の姿があった。





 END

(ナタルさん視点。オルガは髪をほどくとシャニぐらい長髪と思う。そして人気が出てしまい、焼き餅焼きのシャニクロは元に戻れと泣きついたとか。……「オルガは僕達のモノなんだよ!」「誰だよー、俺のオルガをとる奴は〜」……だとか) 04.1.29