■ your heart 2



 オルガ、貴男にも特っ別に! きっちょーなコレを差し上げる事にしました!

 いりません。

 どんな動物でも喋りたい! そんな人間の身勝手な欲求を存分に叶えた魔の道具!!僕が特別に開発部に作らせた傑作―――『シャゥニンガル』です!!

 いらん言っとるだろが。人の話聞けや。

 遠慮しなくていいんですよ、優しいですねオルガは。これを付けていればシャニの全てが判ってしまうというアイテムなのです。いいでしょう、欲しいでしょう、羨ましいでしょう〜〜っ!

 どうせ裏があるんだろ。何、考えてるんだこいつ。

 オルガにコレをプレゼントします。大切に扱って下さいね!

 まぁ……面白そうだし、貰くぜ。しかし、何でこんな変なオモチャ、俺なんかに……?

 ……………………………………………………………………………………怖くて眠れないんですよ、コレ持ってると……。

 ……はぃ?



 道端で、行き倒れのように昼寝をしているシャニを発見。発見して3秒。保護者の義務を発動させる。

「おいシャニ、起きろ」
「……」

 最初は落ち着いたまま、大人しく。
 この程度ではシャニが起きないという事は百も承知。しかし最初から怒鳴るのでは俺の性格を疑われるかもしれない。5秒経過、次のミッションに移す。

「シャニ……俺だ。こんな所で寝るな……部屋に戻るぞ」
「……」

 反応無し。ただのしかばねのようだと言う程に返事がない。
 熟睡モードに入ってはいないようなので、声は聞こえているらしい。つまり、シャニは立派なシカト行為を遂行中だ。……人が任務だと思ってやっている事を、よく無視して出来るものだ……。

 と、思った時、おっさんの下らない話を思い出した。
 ……機械を見る。
 魔の道具、『シャニの全てが判ってしまう』という、MS開発部が特別に制作した謎の物体。
 ……しかし、そこから何を得るという事も無かった。
 付けていても何の反応も無く、光りもしないし騒ぎ立てもしない。
 欠陥品……。
 おっさんのやつ、ゴミを押し付けただけか……。
 使えない上司に新たな殺意を燃やしながら、道端で眠るシャニを揺さぶった。

「…………うざ」

 ―――鵜坐。(訳→うざ)

 ……………………ッッ!?

 シャニが、一言……お得意の言葉を発した時、
 ……謎の音が頭に響いた。
 驚きにシャニから離した手を、……もう一度触れさせる。

「シャニ……歩けないなら俺が抱い…………」
「うざーい……」

 ―――卯挫娃鋳。(→うざーい)

「ぎゃあああぁぁああ!!!?」
「んー…………オルガー?」

 奇声を上げる俺に、流石のシャニも首を傾げている。
 しかし、今の俺には……シャニを気遣う事さえ出来ない。
 それ程までの驚愕。
 この世のものとは思えない神秘に出逢ってしまった感覚。
 そして恐怖。

 あれが、シャニの心だって言うのか……!?

「な、なぁシャニ……」
「……?」

 何故俺が怯えているのか判らない……といった顔をしている。
 おっさんから貰った機械をしている俺にしか、シャニの謎の声は聞こえない。
 なら、……この貴重な体験を生かし…………、
 勇気を出して……シャニの心を探る。

「俺の事、どう思う……?」
「……」

 ……唐突過ぎたか。
 シャニはボーッと俺の顔を見て、…………その心を暴く。

 ―――須吾駒須紀迩希摩柘手瑠。何鋳津手琉野涼平。(→すごくすきにきまつてる。なにいつてるのオルガ)

 ……。
 ……判らない。

 この世のものとは思えない音が、耳の奥へと響いている。
 昔の人がグレイ風な宇宙人と話を再現した時、こんな効果音を使ったのではないだろうか謎の声。
 声と言っていいのか判らないが、会話を保つ物なのだから正解だろう。

 しかし、最後に聞き覚えのある名前が…………。

「じゃ、じゃあ……クロトの事は……?」
「……うざ……」

 ―――醍梳器堕世……? 々蛇予涼平途……(→だいすきだよ……? おなじだよオルガと……)

 ……。
 さっぱりわからん。

「おっさんの事は?」
「……うーざーいー」

 ―――妥柘手、牡都惨山車禰。(→だって、おっさんだしね)

「か、艦長の事は!?」
「……オルガー、何でこんな事聞くのー?」
「あ、……すまん。質問ばかりして……」

 おっさん……アンタの言いたかった事判った気がする……。
 こんな恐ろしいインカム……折角作ったって、付けていたくないよな……。

「………………オルガぁ〜」

 シャニが甘い声で俺の名前を呼ぶ。
 ……だっこ。
 そう訴えるガキのような目をした。

「……部屋、戻ってくれますよね……?」
「……んー、敬語うざーい……」

 シャニを抱き上げて、黙って部屋まで送る。
 だっこはだっこでも、……いつもの姫抱きで持ち上げる。
 誰かに見られたとしても「まぁシャニだし」で済まされるから、一般的に「恥ずかしい」事でも平気になっていた。

 お姫様だっこで部屋まで行く間。
 延々と、……あの声は俺の中へ流れていた……。

 ―――琶亞已……騨柘仔ー。(→わーい……だっこー)

 ―――軽々餅揚手屡ー。男模倶那威涼平ー?(→かるがるもちあげてるー。重くないオルガー?)

 ―――卯運……涼平廼鵜弟……旗裳血慰夷……(→ううん……オルガのうで……キモチイイ)

 ―――音夢汰玖奈津手机詫ー。…………厨逗豆(→ねむたくなってきたー。…………ZZZ)



 ……意味不明な音を聞きつつ、部屋に行く。
 辿り着いた時には、……シャニは抱き上げられたまま眠っていた。
 ……機械を取る。
 役に立たない玩具を放り投げ、シャニをベッドに落とした。

「……少しは、コイツの事……判ると思ったんだけどな……」

 宇宙の何かと交信するような声では何も判らない。
 しかし、……ひとつだけ、解る言葉があった。



 ―――雫蔚諏軌、駄譽…………(だいすき、だよ…………)



 暖かいこのキモチだけは、確かに俺へ伝わっていた。





 END

 台詞を反転すればシャニの本性が見られます。……幼すぎますかシャニタン……。 04.11.30