■ your heart



 クロト、貴男に特っ別に! きっちょーなコレを差し上げます!

 ……はぁ、何……ですか。これ? 

 どんな動物でも喋りたい! そんな人間の身勝手な欲求を存分に叶えた魔の道具!! 僕が特別に開発部に作らせた傑作―――『オルガンガル』です!!

 ガンガル? また、オルガが好きそうなの……。

 そんなパチモン知りません。流石のオタクオルガでも偽物は駄目でしょう。これを付けていればオルガの全てが判ってしまうというアイテムなのです。いいでしょう、欲しいでしょう、羨ましいでしょう〜〜っ!

 うん、面白そうだけど……(そんなもんよりゲーム買う金の方が……)。

 そう思って、クロトにコレはプレゼントします。大切に扱って下さいね。

 ども……貰っていいなら貰うけど。でも何でこんなスゴイの、僕に?

 ……………………辛いんですよ、コレ持ってると。

 ……うん?



 おっさんから貰ってから適当に言いくるめて金をたっくさん奪った。
 僕の分だけじゃなく、シャニのCD代とオルガの本代も入ってるからだろうけど、……何だか今日のおっさん優しすぎるような気が……。
 うぅ、寒気もいきなり来たよ…………。

「あ、オルガ……」

 窓際に、オルガを発見。
 口をへの字にして、本を膝の上に乗せて遠い空を見ている。
 何、黄昏てるんだか……自分に酔ってんのか判らないけど、その姿はお世辞無しでカッコイイと思う……。
 ……おっさんに呼ばれ、話を(一方的に)されてから数時間、やっと解放されたせいかオルガの顔を見る事が久しぶりな気もしてくる。
 毎日顔を合わせているのに、無意識にカッコつけちゃってるオルガは遠い人のようにも思えた……。

「オルガーっ!」
「………………」

 涼しい緑色の目が、僕の方を向く。その時……

 ―――くそっ、今日も可愛いなぁ……。

「…………え?」

 ……どこかから変な声がした。

「何だ?」
「え、………………オルガ……?」
「何だよ。……呼んだからには理由があるんだろ」

 ―――可愛い……けど、今日は寝癖が立ってるな。

「っ!」

 ……声がする。
 周りを見渡しても、僕の見える範囲にはオルガ以外は誰もいない。
 それに、……聞こえてくるのはオルガの声だ。
 目の前にオルガがいるのに、目の前ではない何処かから……声が聞こえる。

 ―――右の方…………俺が朝、注意してやらなかったからか?

 その声は、……どこからだ?
 耳を澄まして、もう一つの声を探る。

 ―――ちゃんと直せよそれくらい……鏡ぐらい見ろよ。ったく、ホントに俺がいなきゃダメな奴だよな……。

 …………いくら黙っても判らない。
 とりあえずその声に注意された通り、……頭を掻いた。

 ―――ん、気付いたのか?

 声は、……言いたかった事が完結して安心しきった色に変わった。

「……オルガ……?」
「何だ」
「ううん、何でも……無いんだけど……」
「用が無いんだったら呼ぶな、バカ」

 ―――別にいいけどな……お前の声を聴いてるだけで……。

「……」
「……おぃ?」

 ―――なんで黙るんだ?

「クロト、どうしたんだ……?」

 ―――コイツ……いつもはバカって言ったら怒るだろ…………あの顔もバカっぽくて可愛いんだけどな……まぁクロトだし。

「……オル……っ」
「まさか、熱でもあるじゃないのか?」

 オルガの手が、僕の額へ伸びてくる。
 冷たい指が額に触れ、……直接オルガ自身を感じ取る。
 いきなり出た手に驚いて身を強張らせると……。

 ―――怯えんなよ……取って食おうって訳じゃないだろ。そんな時もあるけどな!

「熱は……無いみたいだが」
「お、オルガ……?」

 ―――くぅーキタっっ!!
 ―――今のはキタぞ! キューンとキタ!!
 ―――何で首傾げて見上げてんだよコイツ! 誘ってんのか? マジで可愛いなクロトおおお!

 ……。
 い、いきなり性格……変わったような……。
 でも、声は変わっても目の前の顔は涼しいまま……。

 ―――何か言いたいのか……口、モゴモゴしやがって。
 ―――いつも大口開けてるくせに、乙女やってる時はいじけて可愛いんだよな〜。
 ―――畜生、…………今すぐ犯してぇ!!

「な……ッ、何でそーなんだよ!」
「…………?」

 何となく、……この声が誰の物か気付いている。
 ……これは、オルガの心だ。
 オルガがどう思っているのか判ってしまう機能。
 『オルガの全てが判る』。
 『翻訳機』。
 おっさんが開発部に作らせたというもの。
 でも、こんなに凄い物なのに何でおっさんは手放したりしたんだろ……。

「…………調子悪いんだな。部屋に行くか」
「え、そんな事な……」
「何言ってんだ。今日のお前はおかしい。……連れて行ってやるよ」

 ―――連れて行ってやっても……寝かせるもんか。

 心なしか、無表情のオルガの顔が、……ニヤリと笑った気がする。
 そして、唐突に持ち上げられた。

「なっ、何すんだよ!」
「うるせぇ、じっとしてやがれ」

 軽々肩で持ち上げられ、部屋に運ばれる。
 その間も声はちゃんと聞こえてくる……。

 ―――いつも思うが……軽いな。
 ―――抱きやすいのにはこの上なしだが、平気なのか体は……。

 息切れも無く僕を持ち上げ運ぶ姿に悶々とした声は似合わない。
 こんな時、どういう風に考えているかなんて、思った事も無かったから……。

 ―――あぁ、この感触……最高だ。

 ……って、変な事考えてるし!!!

 ―――特にこの……………………ケツが。
 ―――触ってやるか。

「……ふ、ぁんっ!!」

 こ、コイツ! 「やるか」の「る」の時点で触りやがった!
 しかも、……ねっとりと。丹精な手つきで。

「吠えるな。…………喚くのは部屋に入ってからにしておけ」

 ―――そんな声、誰にも聞かせるなよ。

「お前が言わせてるんだろ!!!」
「……やっぱりお前、今日おかしくないか?」

 現実と深層の声が同時に聞こえるせいか、どちらが本音で嘘なのか判別出来ない。
 けれど、間違いないのは『どちらもオルガだ』ということだけなんだ―――。

 ベッドに下ろされる。もう一度体温で熱を測られる……。『無いな』と、判ってるくせに何度も熱を確認する為に額に触る。きっと熱なんかより、……僕にベタベタ触りたいだけだろ……。

 ―――さて、どう襲おうか。

 ……襲う!?
 あまりに淡々とした声色とのギャップに驚いて顔を見合わせると、……全く表情は崩さないでいた。
 外側のオルガは、只つまらなそうに部屋の物を眺めているだけ。
 それなのに内側は……、

 ―――とりあえず……乗っかかるか。普通に。
 ―――いや、酔わせるのもいいな……薬だとか言って。
 ―――そうだな、寝ている間にイタズラするのも……。
 ―――シャニを呼んでくるか? ……でも探しに行くのも面倒だし……。
 ―――決めた、ここはオーソドックスに。

「クロト」

 ……オーソドックスに?

「クロト、やらないか?」
「そこまで悩んでそれかよ!!!」

 ……無表情に、唐突に変な事を言い出すオルガ。
 普段、突発的に「しよう」って言うのには、……恥ずかしかったけど……今日は違う。……オルガの奴、いつもこんな事思ってたのか……!?

「この、ムッツリスケベ……!」
「ああ? ……お前、熱なんて無いんだろ」

 ―――判ってるんだぜ、俺は。

っ て、お前が勝手に熱って思いこんでるだけだろ!

 ―――さて、今日はどうするかな……。
 ―――後ろからたっぷり挿れてやるのもいいが……今日のクロトは可愛いからな……。

「……う……」

 か、可愛いカワイイ連呼するな!
 いつも、……僕の事なんか考えていなそうな顔しているのに……。
 天然で、変態なのかもしれない。

 ―――しかしだな、イった顔も見たいし……やはりシンプルに正常位か?
 ―――確か、あそこの引き出しに………………シャニが買ったグッズが。
 ―――アレ使うのもいいし……アレも、アレも……。

 グッズ!?
 『シャニが』という所から、…………間違いなく『危ないモノ』である事は解った。

「オルガ……、どうでもいいから早く決めてよ」
「ん、そうだな。…………お前から急かすなんて珍しいな」
「…………別に。いつまでもオルガが迷ってるからだよ……」

 ―――迷ってる……? 迷ってるのか、俺。

 ……どう聞いたって迷ってるだろ……。
 いつまでも何をするか悩んでいる。……けど、今まで文句が言えなかったのは、僕に余裕が無かったからかもしれない。

 ―――そうだな、今日は、…………普通で…………。

 普通。
 そう……心の中でオルガは言って…………キスをした。

「んっ」

 ……場所はベッドの上。
 僕が下で、オルガが上に乗ってキスを落としてくる。

「っ、……ふ……」

 ゆっくりと味わうのがオルガのやり方だ。僕は遅い事が嫌いなのにそのやり方をするオルガ。……嫌いじゃないけど、じっくりしてくるのは結構恥ずかしくて……。

 ―――可愛い。

「っ!」

 口をお互い閉ざされている今、言われる筈の無いフレーズに赤面する。
 オルガはキスの間も涼しい顔つきをしているのに……、もう一人のオルガがまた僕の事カワイイだなんて言って、調子を狂わす。

「ふ、ぅ…………ん」

 ―――可愛い…………可愛い……すっごく可愛い……。

「はっ、……う……ぁ、は……」

 ―――可愛い……クロト……何でこんなに可愛いんだよ、いつもいつも……!!

 何でって、知らないよそんな事……!
 何も言わないでやるから何考えてるか判らなかったけど、……コレはコレで変な気分がする……。
 だっていつものオルガが僕に声を掛けるのは……

「クロト、………………凄ぇ良い声出してる」

 みたいな、一言だけだ。
 いつもより倍、オルガの声を聴いている。
 本当のオルガの声じゃないけど……オルガの気持ちを僕は内緒で聴いてしまっている……。

「ねぇ、オルガも…………本当の気持ち、聞かせてよ……」
「本当の……?」

 僕の言った言葉が判らなかったらしい。けど一瞬固まったが次の瞬間に理解したのか、

 ―――そんな、恥ずかしい事出来るか……。

 なんて、苦笑いしながら言った。

「いいだろ、僕にこんな事させてるのにさ!?」
「だ、けどな。…………ん……」

 自分は恥ずかしいから嫌。こっちはもっと恥ずかしいっていうのに
 どうしよう……とか、オルガが悩み始めていた。

 ―――本当の……って……。
 ―――……。
 ―――もう……ツッコみてぇ……。

 必死そうな顔で何を……と思ったら、そんな悩みのようだ。
 緊張し始めたオルガは、一度離した唇同士を再会させてもう再度緩和させる。
 ……照れ隠しのような、無理矢理のキスだった。

 ―――……まだ……慣らしてもいないのに……。
 ―――クロトが、予定外の事を言うからだな……このやろう……。
 ―――……俺、こんなに弱かったか? コイツに……。
 ―――弱い…………のはよく判ってる…………けどな。

 ―――自分が、好きな相手の事ぐらい……。

「……オル……」

 ……自分の顔が赤くなっていくのが判った。
 ……オルガは、好き、だなんて決まり切った言葉を安易に使わない。
 それなのに心の中では、……数え切れないぐらいその言葉を連発させている……。

 僕の中に入ってくるだけの数の大半がそれだった。

 …………思う。
 何で、言ってる事と想ってる事が逆なのかな……って。

 ―――でも……いきなりやったらキツイだろ!
 ―――苦しめるのは………………嫌だ。
 ―――我慢しろっ、俺!

 ―――クロトの…………為にも……。
 ―――そんな事をして……

 ―――お前の苦しそうな顔を見るのは嫌だ……。

 ―――…………。

「……」

 その、気持ちの波に。
 …………なんて焦れったい。
 なんて勇気の無い男だ。

 僕の為の心遣いが痛いぐらいに伝わり、あまりの重さに目眩がした。

「オルガ……直ぐ、ヤりたいんだろ…………?」
「……そんなに、俺は盛ってない」
「嘘つけ。会った途端ヤリてぇとか思ってるくせにっ」
「……何で判る」
「認めるなよ…………ヤりたいのかヤりたくないのかどっちなんだよっ」
「……クロト……どーしたんだ……?」

 最初はヤリてぇとか思ってたくせに。
 けど、口ではそんな風に言わなかった。
 今度はヤリたいって言って、本心ではしたくない。

「どっちなんだよ、ハッキリしろよ!!」
「……」

 ―――……。

 大声で問い質すと、
 どっちの声も…………聞こえなくなった。

「俺は……」

 ―――俺は……。

 同時に話し出す。
 同時に僕の元に届く声……。

 『俺は』。

 けど、………………答えはやって来ないまま終わる。



「………………あれ?」

 いつの間にかもう一つの声が聞こえなくなっていた。
 理由は簡単、―――身ぐるみを剥がされたから。
 服も下着も全部取られ、……勿論あの機械も外された。
 だから、あっちの声を聞こえずに終わる。

「オルガ……?」
「―――――――――」

 もう一つの声も終えると、
 …………何も変わらぬいつもと同じで抱き合った。





 END

 04.11.30