■ Do you love me? OxS



「…………オルガ。俺の事好き…………?」

 その質問を聞いたオルガは心底驚いた顔を向けた。
 よく耳を澄まさなければ聞こえなかったかもしれない小さな声で、シャニが珍しい質問をした。
 シャニが口にする事にはいつも驚かされる。……にしても、今の質問には耳を疑う。

「何があったんだ、シャニ…………ヤる前変なモン食べたんじゃないだろうな?」
「…………同じモン食べてるくせに何言ってんだよ…………」

 ……確かに。同じ艦の食堂を利用しているし、それにシャニは間食なんてしないタイプだ。

「じゃあ……打ち所が悪かったのか」
「…………さっきから何言ってるの? 答えてよ…………」

 ずっと変な事を一人口走っているオルガに、口端をつり上げてシャニが擦り寄ってきた。
 まるで猫のように。……クールで、それでいて甘えたがりで。『猫』という言葉はシャニを表すのに最も適した言葉だと思う。
 胸の中にすりすりと入り込んでくるシャニを受け止めながら、……オルガは思い迷っていた。
 シャニは判らない奴だから、どう答えたらいいか悩んでしまう。

(シャニの事だから……ギャグか? フツーに答えたらバカにされるのがオチだよ……な。じゃあ何だ、ココはボケ倒した方がいいのか……?)

「オルガ、超失礼………………」

 口には出していないつもりだったが、何故かシャニに読まれてしまった。
 胸に耳を当てているから、胸の中の気持ちが聞こえてしまったのだろうか。
 相変わらず、―――謎だ。



「………………ふぅん、そうか…………」

 オルガが何も言えず口をつむんでいると、一人シャニは納得したように何かを言った。

「そうか……って何だよ」
「…………もぅ判ったよ、オルガが何も考えてない事ぐらい…………」

 そう言って、シャニはベットから起きあがる。少し火照っている白い、細い身体がスムーズに動き出す。
 ベットから出て、脱ぎ出されたままの衣服を拾い、―――部屋から去っていこうとするなめらかな動きが見えた。

「お、おぃシャニ……!」
「……嫌いなら別に抱いてくれなくても良かったのに……」

 上着だけ羽織って、シャニはよたよた歩き出す。
 長くなりすぎた前髪のせいで見える筈の右目さえも見えなくなっていた。
 それが俯いているからかもしれない。相変わらずの無表情で表情は一切読めなかった。

 でも、幼い声が悲しげに聞こえたのは間違いない。

「待てよ、シャニ……っ!」

 部屋の入り口が開く寸前でシャニの腕を掴み、止める。
 急いで、……何故か無我夢中になって飛び出したものだから、

「……痛ぃ……」

 そうシャニが小さく反論するのも構わず腕を握ってしまった。

「すまん、……別に俺は、…………お前が嫌いとかそういうんじゃなくて…………」



 ―――説明するのも辛かった。
 元からオルガは、どんな事でも自分をアピールする事が苦手だった。自分の力を相手に見せ示す事、自分の気持ちを明かす事、それ故に色々損をしてきた事も沢山あった。
 例えば、―――そう、こんな場面。

「……痛い……んだけど……?」

 オルガに掴まれたままの腕。痣が残るんじゃないかと思うくらい強い力で動きを封じられている。
 ……その力を使ってまで引き留めたかった理由がある。
 オルガは、シャニの頭を無理矢理引き寄せて―――乱暴に唇をに重ねた。

「……」



 立ちながらしていた行為だから当然身体がふらつく。……ふらついたシャニの身体をちゃんと受け止めてベットに戻して、寝かせた。

「……オル……」

 寝かせてから唇を再度落とした。
 シャニが満足してくれるまで、―――自分が満足するまで。
 想いの儘に口づけを続ける。

 途中で、最初の質問の答えを言ってみた。
 目を瞑り人形のように倒れる彼は無反応だった。

 でも、あの悲しそうな声さえなければどう思われようと構わない。



「………………なぁ、今度は俺が質問していいか?」

 翠の柔らかいシャニの髪を掻き分けながら、オルガは瞼に唇と意見を落とす。
 ひくり、とシャニが反応を小さな示した。……まだ死んでいなかった証拠だ。あまり激しく接するとシャニは壊れてしまう癖があるから、優しくシャニの身体には触れる事にはしている。先程腕を強く引き留めてしまった時は何も考えてなかった。―――ただ自分の気持ちをぶつけたいだけだったから。

「俺の事は……好きか?」
「嫌い」

 ―――即答だった。



「………………………………………………………………何で」

 ……あまりの即答っぷりに感心してしまった。一瞬時間が止まった気さえする。



「何となく。……………………そんな事どうでもいいから、もう一回しようよ」

 シャニの口元がうっすらと嗤う。
 不気味そうに見えるものだが、今はすの姿がヤケに愛らしく目に映った。

 ―――本当に、判らない奴は自分自身なのかもしれない。





 END

 オルシャニ編。 03.8.5