■ 黒契-Unusual3



 風を直に感じる。
 心地よい筈の涼しさが、今だけは異常に不快に思える。
 昇天するまで、この異常さと付き合わなければならないだなんて。
 クロトは赤いタンクトップの裾を少しでも下ろそう引き延ばしながら思った。

 赤い生地が伸びるのがみっともないとかは考えずに、ただ下のモノを隠す事だけに神経を削る。
 服に限界があるのは知っている。それと同じように、自分の我慢にも限度があった。

「……変態。いいかげん返せよ……」
「いやだ」

 限界に達し、爆発したクロトは叫んだが、シャニは軽く絶叫をかわす。
 手にしていたクロトのズボンを、近くにいたオルガに向かって投げ渡した。

「……オルガ、捨てといて」
「置いとくだけじゃダメか?」
「別にいいよ……どうせ俺のじゃないし」

 シャニも腕を通していた大きめな軍服を脱ぎ、それもオルガに手渡した。
 オルガはこんな場所でも構わず衣服を脱いでいくシャニの姿を呆れたように見つめる。投げ出された服を貴重に受け取って、……廊下の隅に落とした。
 そして、自分の上着のポケットの中を探る。
 中からある器具を、シャニに与えた。

「うわぁ……よくこんなの手に入れたね……」
「使えると思ってな。…………隠れて取り寄せるの、大変だったんだぞ」
「…………でも、『ココ』で使っちゃバレバレだね」
「そうだな」

 二人は上を向き、笑いあった。
 苦労して手に入れたという玩具をシャニに渡したオルガは、クロトの下着とシャニの上着を抱えたまま腕組みをするような体勢で壁に寄りかかった。
 狭い通路で、三人は間隔良く密集する。
 クロトは、黙ってその場に立っていた。黙っているだけ、体は揺らし震えていても文句は少ない。もう諦めてしまってもいた。
 比較的、その空間は穏やかな空気だった。だが静かなその空間だった其処は、シャニの提案によって壊されることになる。

「どうクロト。外でヤるのも面白いだろ……?」
「……別に」

 ―――いつもと違った場所でするのは、気分が変わって良いものだ。シャニはそう想い、個人の部屋で籠もってするのではなく、……風の通る廊下にて、クロトに襲いかかった。
 大体心変わりでするのなら室外がいいのだろうが、外に行くにも許可が必要なので仕方なく、『少し人の通りそうな屋内』でする事になる。
 決まったのは数分前、本当に気紛れの心により。

「……二人とも、馬鹿だろ。そっちだってヤってる所見られるんだぞ。……こんな場所でヤったらさ……」
「もうみんなバレてるよ。俺達は『仲間同士で舐めあっている』ようなキモイ奴等だってさ……」

 ……だから、どんな所でどんな行為をしたとしてもマイナスになる面は何一つとない。
 その主張は正当なのか、呆れて聞くクロトにも判らなかった。
 行為自体は慣れているものの、現在はクロトに承諾は得ず気紛れで襲い、ズボンと下着を奪取するまで至ったシャニ。
 己の主張だって、時と場合で変わりそうなシャニに、正しい答えを聞き出せる訳がなかった。

 だから、今はその場の状況に応えるしかない―――。

「クロト、……後ろ向いて」

 シャニはオルガから受け取った卵状の玩具を舐めた。ぺろぺろと舐め上げ続け……舌を離した時には、ピンクの器具が白く光っている。キャンディを味わうような仕草にも、繋がったケーブルに残虐性を含んでいた。その光景に身震いする。

 クロトは、強くシャニを睨みヴァカやら滅殺やら呟いた後、廊下の壁に両手をついた。
 逃れられない事は知っているし、今逃げた所で辿り着く場所は同じ。常に『仲間』扱いされる二人から離れられる事は出来ない。
 その二人がいる限り、無理矢理にでも行為の時は訪れるのだから、クロトは大人になってそれを受け入れるしかなかった。
 納得したくはないがそれも仕方無いこと。
 黙って目を閉じ息を止め、一秒でも早く時間が経つのを願う事がクロトの出来る事だった。

 背を向けるクロトに近寄り、剥き出しの下半身に手を這わせる。ペタペタと訓練で締まった体を触り、普段通り感触を暫し楽しむ。
 そしてニヤリと笑うと、窄まった出口に指を立てていった。

「……ぅっ……」

 最初の一言、クロトが唸ると指の速度が速くなる。
 ほんの先端、爪の部分だけを強引にねじ込むまで辿り、上へ下へ動かし出す。

「すっかりクロトのココ……広くなったね」
「毎日慣らしてるからな。……何も付けてなくても挿りそうだ」

 クロトが汚れ一つ無い壁に体重を掛けている間、二人は出口を眺めながら談笑し合っていた。
 クロトからは話に加わらない。……加われる筈がなかった。呼吸を止め挿入を今だと待っている中、楽しそうな会話にまぜてもらう気にはならない。
 今は只、この強引な時間の流れを受け止めつつ、そして無視し続けなければならない。
 思い切りオルガと笑い合ったシャニは、自分の指でクロトを戯んだ後、小さなボールを宛った。

「ん……っ」

 ぐっ、と宛われる異物。
 既にクロトは蕾に挿入された経験はしてきた。オルガのものだったりシャニのものだったり、時には自分の指を入れられる状況になった時もあったが、自分から望んでした事は無かった。
 今現在もそう。シャニかオルガが誘ってこない限り、クロトは性的な戯れをする事はない。

「ん……くぅ……っ」

 押し込まれる物に、無意識に体は追い返す力が高まる。
 だがシャニの力の方が勝ち、中へ押し込まれていった。穴が広がる。前よりも更に、苦痛を和らげる為に体が操作されていく。ボールから生えたピンクのケーブルが、まるで尾のようにクロトと繋がっていた。

「凄い……いつもより大きいやつだったのに、直ぐ入っちゃった……」
「好きなんだろ、コレが。……もっと入れてみるか」

 首を震う。口は、開ければ良さそうな喘ぎが出てしまうので極力情事中は開かないようにしていた。だからロクに返事も出来ないが、他の器官を使って感情を伝える事は出来る。
 首を横に振ってみたが、体全身が動いてしまい、突き出した臀部も震えるようになった。
 それは、声を出すよりも更に感じているようにも見えただろう。

「ほら、クロトの奴、気持ちいいらしいぞ」
「ふーん……じゃあ、もっと感じさせてあげる」

 シャニは小さな臀部をさらりとなで上げると、ケーブルで繋いだ先にあるスイッチに手を出した。
 途端、クロトの中から音色が発せられた。
 機械音独特の、無機質な音色が。

「ぅ、んぅー……っ!」

 壁に寄りかかり、力を入れ追い返そうとしても暴れ出した器具は奥で震えるだけで何も変わらない。
 左右激しい振動を繰り返し、その悪魔な動きはクロトの閉じられた唇をこじ開けていった。

「んぅ、う……ぁ……あ……っ」

 クロトを支えていた二本の脚が崩れていくのは、スイッチを入れて数秒後の事だった。
 崩れ落ち、腰を下ろしても振動を止める事はなく、座ったままのクロトをゆっくりと犯していく。

「あ、あっ、ぁ……ぅ……っ」

 時間を掛けていくうちに、クロトの体勢は最初からどんどんかけ離れていった。
 始めのうちは誇りを持ち受け入れながらもまだ嫌がり強さを備えていた姿も、今では淫らな振動に耐えきれず、本能に従って前をも自分で弄くりながら後ろの刺激を求め悶える姿が目立つ。

「こんな所で寝っ転がるなよ」

 オルガがそう忠告しても、数分を超える刺激を受けたクロトはきかなかった。跪き、上半身を倒させて土下座している様な体勢なクロトを蹴るように声を掛ける。
 何も耳を貸さなくなったクロトを見て、シャニはスイッチを切った。
 反応の良いクロトは、入れる瞬間よりもスイッチを消された方が高く体を跳ねらせた。
 体の中に微かに残る振動を味わった後、次第に顔を上げる。……その瞳には潤みが走っていた。体を支えていた理性の両腕は、自身を慰める道具になっていた。
 この間、実に5分。
 オルガとクロトを「変態」と罵ってから5分でクロトは欲に堕ちた。
 思わず、計画した側の方が引いてしまうほど早い。

「なぁ、クロト……」
「……?」
「一人だけイってないで、俺のも慰めてくれねぇか?」

 見ていただけのオルガはベルトを外し、下着ごと軍服のズボンを下ろす。蹲っていたクロトの前で見せつけるように脱がすと、……この呪文により頭がおかしくなってしまったクロトが飛びついた。
 あまりの拍子に誘ったオルガは冷や汗をかいた。

「んうぅ……はぅん……っ」
「ッ…………おぃ、歯あてってるじゃねーか……」

 食らいつくクロトの髪を撫でながら、反応の良すぎるクロトに怖れを為していた。
 いつの間にかシャニはまたスイッチをONにする。クロトが反応すると同時に、オルガも衝撃を受けていた。
 後ろでは機械的な快楽を受け、前は片手で雑だが自分を弄り、口ではオルガを不器用に愛でる……。
 ある通路の出来事にしては刺激的すぎる情景だった。

 びくんっ。
 オルガのものが跳ねる。
 びゅく、びゅく。
 放たれた精がクロトの口を犯し、顔を彩っていった。

「ん、……ぅ…………」

 目の前で、顔の上へと放たれた精液を潤んだ瞳でクロトは眺めていた。
 汚い、……クロトらしい口調でそう呟きながら。

「……もう少し、イってみる?」
「ん……っ」

 シャニが一言、零すとクロトは自分から四つん這いになり腰をあげた。
 繋がっていたケーブルのスイッチをシャニに持たせて、振動のレベルを調節される。

「いくつがいい……? 強いの、弱いの……」

 腰を上げるだけのクロトに、シャニは優しく問いかける。
 睨んで、滅殺と呟いたあとのクロトだったが、……強いの……と言ってシャニに体を委ねた。
 シャニもクロトに言われた通り、スイッチを動かす。
 ヴー、と低いモーター音が、空気の中を走っていった。

「は……ぁん……ぅ……っ」

 強い振動を、自分から求めたクロトは、腰を高く突き上げて一人で振り始めていた。
 命令したのは最初の「腕をつけ」だけ。後は全てクロト一人が考えた事。
 例えシャニやオルガが考え無理に誘った劇だとしても、一番に盛り上がり楽しむのはクロトだった。
 きっとどんな時でも当てはまる。
 首謀だった二人が拍子抜けしてしまう程、クロトはその劇に乗っていった。

「ぁ……強……すぎ……ぃ、もっ……弱、く……」
「クロトが欲しがったんだから、最後までそれでイって……」

 一人で乗ってしまったのだから、一人でイってもらう。
 それもまた当然の事。
 通路でじゃれ合い、そのまま絶頂を迎えるだなんて異常だろうがこの三人では当然の事だ。

「ん、んぅ…………ぁあ……ッ!」

 ギリギリの所までクロトは快楽を粘り、――最高の状態で頂点に達した。
 ぴくんっ、と跳ねる小さな体。
 昇天し、我慢していた余韻をゆっくりとクロトは一人味わっていった。

 それでも振動はまだ続く。
 余韻を楽しむ所ではなく、……続きが来るのを待ち望んでいるように、クロトは爆発を待っていた。

「―――シャニ、二つあるんだからお前もしろよ」

 その姿を射精した後ずっと眺めていたオルガが、提案する。

「……別に、俺は……」
「遠慮するな。怖いなら俺が入れてやる」
「…………でもココじゃ……」

 その言葉に、オルガは上を見上げた。

「バレてんだからいいだろ? どうせ『彼奴等は異常だ』って思われてんだから、な…………」

 シャニは、オルガに向けていた視線を外す。
 通路というその空間に残されたものはクロトだけ。
 しゃがみ込み、顔をオルガの精で彩ったクロトを見て、更に視線を上へと向ける。

 この空間にあるのは、非現実的に性交し合う三人の異常者。
 当然在る、部屋と部屋とを繋ぐ道。
 それと天井にある、…………。

 似合わず、シャニは赤面する。

「……ほんとに、俺達異常だね」

 シャニは小さく呟き、自分の官能を引き出す支度を始めた。





 END

 遊月兎様からキリバン【11111】のリクエスト小説『オルガ&シャニ×クロトで、無理やり強姦ネタ+小道具』でした。 04.7.6