■ TIGHTROPE



 ふわりふわり。
 風の為す儘に漂う姿は、まるで蝶が舞うようだ。
 あちらこちらと宙に舞う宇宙空間にを飛ぶ蝶。……だとしても大きすぎる。
 無重力の海に、シャニは流されていく。

 くらりくらり。
 頭を不安定に振りながら泳いでいた。

 ……いたたまれなくなり、シャニの腕を掴んだ。
 力無く宙に舞っていた腕は、直ぐに捕獲出来る。捕まった体は、力が全く無い。髪はいつもの事だが無造作に漂い、表情を隠したり暴いたりを繰り返している。
 ……揺れるシャニの体を抑え込んだ。抑え込んでも反抗する気配も無く、地表に落ち抱きしめてやっても、オルガの中に収まったまま。
 落ちた瞬間……ふわり、とシャニの長い髪が舞う。
 ―――金の瞳が、潤んでいる様に見えた。

「うー……」
「シャニ、どうしたんだ?」

 答えず、シャニはオルガの首元へ顔を埋める。
 どくん―――。
 一瞬、オルガの鼓動が高鳴ったのにシャニは気付いただろうか。シャニがオルガに体重を明け渡し、暑い息が掛かる度に……オルガは正気を奪われていく気がした。額が素肌に当たる。息が熱く思える。

 はぁ、はぁ。
 小さな息切れをしていた。

「オマエ―――風邪でもひいたのか?」
「……」

 額に口付ける。普段からに比べれば、やはり熱い。
 その行為が気に入らなかったのか、シャニは初めて抵抗する。力の無かった体が別れる。
 それでも……フラフラと、無重力の海へ漂い、
 ふわりふわり。
 見ている側が不安になるような泳ぎで、シャニは離れていった…………。



 ―――それから数時間後、倒れているシャニが発見される。
 否、倒れているという表現は可笑しい。シャニは宙に浮いていた。それを発見した者は…………宇宙艦にも川があるのかと思ったらしい。土左衛門を発見した気分を味わった、と言う。
 ―――あのまま俺に捕まっておけば良いものを。オルガは説教しに、シャニの元へと向かう―――。



 ベッドに眠るシャニを見る。説教しに来たが、シャニは既に眠りの世界へ旅立った後だった。
 白い服に包まれたシャニの姿。無機質なベッドに寝かされたシャニの躰……。眠るシャニに、顔を覆うように白い手ぬぐいを置いてみたかった。そうすれば立派な死体のできあがりだ。……そんなギャグ、誰が笑ってくれるなそうだけれども。

 心臓に悪すぎて遠慮したいぐらい冗談。
 ……だが、眠っているこの姿が、死人にも見えた。コイツは……生きてる時も、起きている時も死人のようなんだが。

 何を思って宙に浮いているのか、いつもどんな事を感じ生きているのか。彼の意識が生か死か、どちらに在るのか全くわからない―――そんな奴だ。
 ベッドに近寄り、額に手を当てた。微熱程度だろう。思ったより熱くなかった。それでも、視覚的にはシャニは冷たくなった死体に見えるのだから不思議だ…………。

「……………………寝てんなら、起こす事もないな」
「―――寝てないよ―――」

 ……ぎゅっ。
 突然、シャニの手が動いた。



 …………オルガは、相当の事が無い限り驚きでの悲鳴なんてあげない。只、この時ばかりは情けない声を上げてしまった。一気に血の気が引いていく、有り得ぬモノを見てしまった様な―――。

 ……意外性を求めるなら、シャニの傍にいれば飽きない事だろう。
 ……俺だったらいたくない、心臓に悪すぎて遠慮したいぐらいだ……。

「何…………用は?」
「い、イヤ、……何でもない」

 ベッドの中に収まっていた腕が、ぎゅっ……と軍服の裾を掴んでいた。
 その手はきつく。そのまま地獄まで引きずられそうな程、強く……。
 払おうとしても、離れないぐらいに、しっかりと。

「あの時、気分が悪いなら言えば誰か呼んでやったんだぞ。……発見が早ければ多少は症状軽く済んだらしいな」

 『発見が早ければ』……という言い回しが、本当に遺体確認の様で恐ろしい。シャニはそれを聞いて、無表情だった顔を少し歪め、「……うざ……」と呟く。
 この時期に風邪なんてその通り。本当に迷惑だ。宇宙に上がったのは、出撃する為。体調管理を怠ったからでその使命が免除される事はないだろう。好きで風邪になったのではないと思う。……少し不憫にも思えた。

 しかし苦しがっていたあの時に比べ、今は症状は軽そうだった。顔を真っ赤にして魘されてもいないようだし、息切れも咳も鼻も出ない。それでも眠っているのは、万が一に備えてだからだろう。そんなにコイツは悪くない。心配する必要も無い程に。
 …………だから、コイツを甘やかす事は許されない。

「……おい、離せ」
「……」

 いつの間にかシャニは眠っていた。今の今まで何の用だと会話をしていたのに、目を瞑り大人しくしている。
 ついでに手はまだ離さない。こういうのを死後硬直と言うのだろうか。もう一度振り払おうと再挑戦してみるが…………離れなかった。

 ぶんぶん、と手で追い払ってみる。―――離れない。
 掴んでいる腕を叩く。殴る。―――離れない。
 大声で話せと怒鳴る。―――離さない。
 指を一本一本解いていく。―――解いたと思ったらまた掴む。

「って、オマエ起きてるだろ!!」

 どんなに叫ぼうが喚こうが、シャニはの手は外れなかった。意識的なのか無意識なのか判らない。……どっちにしろ迷惑だ。

「シャニ! 離せって言ってるだろ!! シャニ!!」
「…………うざーい…………」
「そう思うなら離せ! もう来ねぇから!!」

 それから数分、格闘し続けた。が、結果は得られず。
 仕方なくオルガは近くに眠るベッドに座り、丁度携帯していた本を開く。シャニの腕が緩むのを待つしか道はないようだった―――。



 ―――時々、小説の段落ごとにシャニの表情を伺った。
 シャニは大人しく眠っている。耳を澄ませば聞こえる寝息。しかし神経を研ぎ澄ませなければ聞こえない吐息。……いびきを一つもかかないシャニは、生き物に見えなかった。
 例えるなら人形。率直に言うと死体。もしくはオルガ限定の手枷。ずっと、此処に繋ぎ止めておく鎖。

 ……とにかく迷惑だ。怒鳴ればうざいと一切りするが、いなくなればうざくないというのにどうして気付かないのだろう?

 ―――俺を繋ぎ止めておく理由など、無いだろうに。
 面倒に、そう思った。

「シャニー! 風邪引いたって本当っ!?」

 息苦しかった空間にいきなり突入。
 大声でシャニを叩き起こしたのは、手にはゲームの暇つぶしに来たクロトだった。

「あ、オルガが看病してたんだ」
「……んな訳ねーだろ」
「じゃあ何でいるのさ」

 ……さぁ、と言うしかない。
 あれから随分時間が経ったが、シャニの手は一向に緩まなかった。少しぐらいそのタイミングがあってもいいのに、オルガの軍服をずっと掴んだまま離さないでいる。―――理由も無く、固執し続けている。

「多分、俺に感染したいんだろ。風邪は他人に感染すのが一番だって言うからな」
「ヴァーカ。オルガに一緒にいてほしいんじゃないのー?」

 それはないとハッキリ言った。感染す以外だったら、バランスの悪い抱き枕代わりだろう―――。

「水とか飲ませた? シャニ、病人なんだからやってあげないと」
「いや、何にも」
「水分とらせなきゃ駄目だって! 風邪の時は汗いっぱいかくんだから拭いてあげなきゃいけないんだろっ」
「……俺がか?」
「オルガだから出来るんだろ」

 無茶苦茶な理由で、仕事を押し付ける。もしやクロトは白衣の回し者だろうか、とも思えてくるぐらいしつこく……。

「あぁ、じゃあ水持ってきてやるよ。………………だからシャニ。離せ」
「……」

 それでもシャニは離さない。
 クロトの大声で目を覚ましただろうに、……目もうっすら開いているのに離れなかった。
 軍服に、皺が残る程、強く掴んだまま。―――オルガを、離さないでいる。

「…………クロト、頼む」
「えー!? 何で僕がー」
「オマエが水飲ませろって言ったんだろ! 飲ませてやるから取って来い!」

 渋々クロトは部屋を出ていく。水を用意する、飲ませてやる……本当に看病しているようだった。
 ……こんなにも近くにいて何もしないのは気分が悪い。シャニを看病するのはついでだ。そう思うしかなかった。

「シャニ……服脱げよ。汗拭いてやるかな」
「……」
「……一人で脱げねぇんかよっ。風邪だからって甘ったれてんじゃねーよ!」

 何もしないシャニの服を、無理矢理剥がす。その間もシャニは無反応だった。
 微かに瞳が動く。息が時々肌に当たる。
 ……それだけが、シャニが生きている証にしか見えなかった。

「ん……っ」

 拭き方が荒かったのか、時々声を漏らす。それも仕方ない。……寝ている躰を無理に洗っているのだから。本人の意思も全く無視して……。

「痛いんだったら立てよ。その方が拭きやすいだろ」

 言われて、暫く経ってから……シャニは自ら身を起こした。既に吹き終わってからと遅めに。
 ―――はぁ、結局俺……シャニの世話してるんだな。
 シャニが甘えているのもあるが、……自分が甘過ぎなのに頭痛がした。風邪はまだ感染してないだろうが、確実に……別の痛みがオルガの身体を走っている。そして時々……、

「……ぁ、は……っ」

 ……等という、シャニの口から出る短い小節に、くらりと目眩を覚える。思わず顔が赤くなってしまうような声。
 ……病み上がりの時は色気づいたように見え、……時に襲いたくなるものだが、そんな事をするのは、自分から風邪にしてくれと言っているようなもの。逆に、無理をさせたら相手を酷くさせるかもしれない。
 こんな時に欲情してしまう。馬鹿な事判っている……判っているのだが。

「……ぅ……?」
「……ッ!」

 ……よくよく今の状況を見てみれば、ベッドのシャニを脱がし、自分から喘がせているようなものだった。
 目を背かせる。見ていたくなかった。

 ―――理性が切れそうだ。

 少し頬を赤くして、……何があったのかと見上げる視線。
 直視していられなかった。近くにいれば何かが切れる、だから部屋から去ろうと―――しても、シャニの腕はまだ服に繋がったままだ。
 繋がったまま、看病をしていた。通りで身体が重かった筈だ…………。

「……あぁくそっ!!」

 どんなに騒いでも、シャニは離さない。離してくれない。ずっと腕を繋いでいた。
 遠くに行かせないよう、繋ぎ止めていた。

 …………一体、何をそんなに固執しているのだろう。
 苦く、そう思った。




 気怠く眠る躰。

 蝶はすっかり落ちてした儘、漂う事も羽ばたこうともしない。
 少し辛そうにじっと目を閉じている。人の袖を掴んだまま。……そんな格好が始まって、もう半日近くなった。

「……シャニ、離せ」
「……」

 何度目の忠告なのか数えていない。数えられない程言ったのは確かだが。聞こえないのか聞く気もないのか、シャニは黙ったままだった。
 時々目を開け、視線同士があう事もあったが会話にまでは発展しない。シャニはずっと、願いを拒否し続けている。
 辛そうな息を吐きながら、自分勝手に頑固戦い続けた。……我慢している事にも気付かず、自分勝手に……。

「……シャニ!」
「……?」

 最期に名を叫ぶ。何の反応も無いと確かめた後―――ついに、痺れをきらしたオルガは行動に出た。
 力づくでシャニの腕を振り払い逃げ出す―――のが、一番の解決法だったが、それもしないで、……逆にシャニのベッドへと乗り込んだ。

 ―――自分を手元に置いておくというのは、どうされても良いという事。そう受け取ってシャニに触る。

「………………」

 シャニはその姿も黙って見ているだけだった。
 汗を拭く時と同じように、服を剥ぐ。気遣いの色は全く無く、只オルガがしたいように脱がされる。それでも、……拒否するのもうざいと思っているのか、シャニは何も言わずにいた。

「…………嫌なら嫌って言えよ。無理はさせないから……」
「……」

 いきなり始めても、声だけは申し訳なさそうなものだった。だが全て脱がし終えてからそんな事を言う頃には、シャニはもう息を整え直して受け入れる準備をしていた。
 仰向けに眠るシャニの上に、体中を固定するように乗る。これでシャニはもうベッドから起きあがれない。足に座り逃れられないようにした。……拘束する気は全く無いが。

 頭上から押しつける様に口付ける。一度強く、激しく唇を奪ってから、口元は下へと下っていった。頬を舐め、舌で味わう。次には顎、そして鎖骨へと流れた。
 どくん。
 首もとに到達した時、心臓が波打つ音を肌で感じた。
 上を向いてみれば、シャニは瞼をぐっときつく結んでいた。……それでも辛い、またうざいとも言わないのを見ると、拒んでいるようではないらしい。
 構わず先にいく。一度洗われた躰に口付けを落としていく。血流も判る程の敏感な場所も丁寧に舐め上げ、全てその色に染めていく様に。……声が堪えきれなくなる様に、丁寧に……。

「…………ヘンな事する…………」
「ん?」
「……ヤるんだったら…………さっさと突っ込めばいいじゃん……」
「病人に無理はさせられないだろ」
「……舐めてばっかで………………汚い」
「へぇ、お前俺の事気遣ってくれてるのか?」
「…………俺が、汚くなる……」
「……あぁそう」

 この日、数回と出来なかったシャニとの会話をした。
 ずっと人の話を聞いていなかったのは、死んでいたからじゃない。息があるのだから当然の事だが、やはり返事が無ければ不安になる。
 発見から一日。拘束から半日経った今、ようやくシャニが其処に居るという事を認識できた。
 今までは本当に、シャニの腕が『鎖』だった。無機質に人を捕らえさせておくための道具としか―――。

 胸の飾りに達した。膨らんでいないそこを、赤ん坊のようにしゃぶりつく。明らかにシャニは怪訝そうな顔をした。黙っていた両手を貪っている頭に掛ける。追い払おうとはしないが、先よりは嫌がっている。

「ぅ……っ、……」

 声が出始めた頃から、下半身に手を及ぼしている。そちらの方も官能の効果が出てきたのか、風邪だと判った時に比べて数倍、赤くなっているように見えた。
 シャニの身体は全て洗浄済み……のつもりだったが、下半身までは手をつけていなかった。
 下着を全部払って、次に備える。

「そこは……っ、…………」
「そんなに俺が汚いか? ちゃんと綺麗なやつで拭いてやるよ」

 身体を拭いていた濡れタオルを新しく絞り、シャニのを優しく包み込む。そのまま上下させた。優しくしてやっているから何もダメージは無い。だからシャニは余計断らない儘でいる。……それだけでは本当に只の看病だ。そんなのつまらない、と……ゆっくりと着実にシャニを感じさせる。オルガの狙いだった。

「洗ってやってるんだぞ。少しは感謝しろよ」
「は、っ……」

 暫くは間接的な責めも良かったが、長くはしている側も続かなかった。タオル越しでは楽しくない、と、何度も揉みしだいていたシャニのものに口付けた。

「っ……!」
「ちゃんと、洗ってあげなきゃな……」

 そのまま銜える。口一杯にしゃぶり、舐め疲れて枯れてきた口内を限界まで溺れさせた。
 シャニは起きあがれないまま、腕だけ頭に乗せてくる。だが離すのではなく、……もっと強くと強請る様に頭を引きつけようとしていた。
 寄せようとする力も微弱なものだったが、シャニの気持ちに応えるよう、自らの頭を上下させる。

「っ……ぁ……ぃ……ッ」

 ごく普通の、身体が病られているとは感じさせない普段の声を上げる。直ぐに先走りの苦いものを感じた。
 喉の奥で感じる味に痛くも無いのに涙が浮かぶ。

「オルガぁ……俺、出そう…………っ」

 時々、脈合っては小さな喘ぎを出しているのが判る。そろそろ限界が近い。だけど構わずシャニを責め立てた。
 頂点に近くなったシャニを導く為、口全体で包み込むと吸い付けながらまた首を振った。大きく膨れ上がっていく。…………最高に感じていた。
 口内に、シャニを導く。

「は、ぁあ……っ!」

 どくんっ……と叩き付ける様に放出される。吐き出されたものを喉を奮わせて飲み込んだが間に合わず、唇から零れていった。

「ん……んく………………っ」

 折角出してやったのに、零してしまった。口からシャニの足に零れ、白く彩る。

「は……っ…………、また汚しちゃったな……」
「オル、……ッ!」

 腿に零れ落ちた水滴を、首もとや胸と同じ様に舐め取った。上での反応と同じように高く跳ねて反応する。
 普段より強く反応を見せるのは気のせいだろうか。一通り綺麗にし終えたオルガは身体を持ち上げ、シャニと顔を合わせた。

「全部綺麗になったな?」
「……や、っ……」

 久しぶりに目と目が合う。が、シャニは顔を両腕で隠した。何を恥ずかしがっているのか、口をもごもごさせている。恥だらけの自分ばかりでは気まずいので何かしら言いたいらしい。……何も思い浮かばず、ぐっと堪えているだけだが。

「じゃあ今度は…………後ろの方かな」
「…………俺……風邪なのに……」

 言われてやっと思い出す。シャニは風邪だから寝ていた事に、無言で看病を任せたから無防備な格好で眠っていた事。
 今やっている事は、健康な人間も気分を害す事。病人がやる様な事ではない。
 だが、責任は『欲情させた人間を手元に置かせた』シャニにある。そんな乱暴で身勝手な理由を押し付け、オルガはシャニの淫態を眺めていた。

「…………余計、ひどく……なる……」
「あぁ、そうだったな。―――じゃあこの辺で止めるか?」

 穴だらけの会話をしながら、シャニを俯せにさせた。命じていないのに勝手に四つん這いになっているのは、―――まだ続行しろという事だ。
 今度は自分で導こうと腰を上げている。顔はベッドに埋もれさせ、表情を見せないようにしながら……

「…………したい…………」

 続きを、強請ってきた。
 自分の矛盾点も問わず。



「ぅっ、……んうぅぅぅ…………っ!」

 腰を上げるシャニに、自身を埋め込んでいった。後ろから抱きかかえるように覆い重なると、火照ったシャニの体温を直接感じる。その熱を奪おうと……早く俺に感染してみろとシャニを抱いた。

「んあっ、あ……んあぁあ……っっ!」

 枕に顔を突っ伏して我慢させていた声も、段々と漏れだしてきた。普段と何ら変わらぬシャニが乱れる姿がある。
 表情は後ろ向きなので読みとる事が出来ないが、きっと気持ち良さそうな顔をしているだろう。オルガには声がいつもより数倍喜んでいるように聞こえた。
 感覚が敏感になっている時は余計に感じやすいのか。そんな事を考えながら、オルガは前で反り立つシャニのものを掴んだ。

「ひっ、……オルっ…………が……っ!」
「またイきたいか?」

 返事は無い、けど気持ちはいっしょな筈。
 オルガは運動を早めると、シャニのものを解放した。より良く、シャニが楽になるよう前も後ろも刺激してやる。
 先に攻めてしまったが、今度は共にいけるよう見計らって―――

「ん……っ!」
「ぅ、……んぁあ―――……っ!」

 綺麗にした筈の躰に、精を放出する―――。



 ……今度は同時に果てた。
 だがシャニの方が体力の消耗は激しかった。体調が万全じゃなかったのもあるだろう……。身体を離すと、ベッドに力無く倒れ込んだ。唾液や精液だけでなく、一度拭き取ったシャニの裸体が、汗で着飾っている。

「ん、ん…………ぅ……」

 ぼさぼさに頭を振りたくったせいで髪は乱れている。
 寝転んで見えたうなじも光輝いていた。
 少しは……汗もかけただろう。また拭き取らなくてはならない……と、倒れるシャニの背中に、数度目の口付けを繰り返した―――。




「―――クロト……、お前、帰ってくるの遅かったじゃないか」

 それから、……水を取りに行っただけのクロトが帰ってきたのは数時間後。情事も忘れてしまう程時間が経ってからだった。

「ヴァ〜カ。シャニ達の為に外で待ってやってたんだよ! 少しは僕に感謝してよ!」
「あ? あぁそうか………………ありがとな」
「うんっ。……………………って! 何フツーに感謝してんのさ! キモチ悪っ!!」

 感謝してやっているのにクロトは吐き気を催したような仕草までする。一人部屋に入って来ただけなのに、一気に空気が明るくなる。もとい、騒がしくなる。
 そんな中もシャニは目を瞑り、眠っていた。…………運動後の一休み、のような顔つきで。

「なぁシャニ。もうオルガとイヤだろ? 風邪引いてるっていうのにあんなヒドイ事してきてさ」
「……」
「寝てるんだ、起こすな」
「ったく、オルガのせいだよ! シャニと遊ぼうと思ってたのに! ……やられる側の事、少しは考えてほしいよなっ。オルガ最・低!」

 ……最低。
 シャニが口を尖らせながら見ていたのは、それが言いたくてだったのだろう。ずっと何か言いたげにしていたのも、きっと……。

「だからっ、オルガ! 僕とゲームしよ? シャニといっぱい遊んだだろ?」
「……遊んだ……まぁ、遊んだな………………そうしようか」
「決・定!」

 あれを遊びと一緒くたにしていいのかどうか知らないが、眠るだけのシャニを見るのももう飽きた。自分としてみれば読書をしたいのだが、この状況から逃れられるのならゲームでも構わない。だから了承する。
 が、………………。

 クロトが『決・定!』と叫んだ瞬間、
 物凄い速度で腕が襲いかかってきた。

「―――シャニ?」
「……」

 いいかげん離せよ。
 ……その言葉が最初に出てからもうすぐ2日目。

 こっそり出ていけば逃れられたものか。
 目に見えて出ていくのが判ったから押しとどめたのか。



 腕がまた鎖となった。
 其処に留めて置く為のきつく固いものに―――。





 END

 キリバン【7000】リク、道草わんこ様から「オルシャニ・病気シャニ・看病」でした。  04.6.5