■ Mirror
隣で二人がゴソゴソ動いているせいで、目が覚めた。
ぐっすり寝ていたのを起こされて瞼が物凄く重い……。
最近特に忙しい毎日、疲れて一緒に寝る事も出来ずにいた。
……ついにオルガが我慢出来なくなったみたいで珍しく誘ってきて……だから久しぶりにシャニと、オルガと一緒に寝て…………ヤってる間に、僕はいつの間にか眠っちゃったらしい。
となると、二人は今もヤってる最中なのかな……?
「ん、や………………オルガ〜」
「何がヤなんだよクロト……気持ちイイんだろ」
「だって……ずっと同じトコ……うざ………………」
……あぁやっぱり二人まだヤってたんだ……。
でも時間が大分経ってるから第二ラウンドってやつ?
あっちは無理矢理起こされてヤられてる。……シャニの奴、ホントご愁傷様。
それよりオルガ、同じメニューの訓練受けてるっていうのに元気だね………………………………って?
「あ、……は……………………ぅ………………」
「何だ、今日はヤケにガマンしてるな。もっと声出していいんだぞ」
「いつも…………これぐらい…………ぁ……」
シャニは大人しいから僕と違ってノっている時ぐらいしか声はあまりあげない。……いや、僕だってあげたくてあげてるんじゃないんだけど……オルガはいっつもイジワルするからつい。
だから今、オルガに声を出せと言われるのはよくある事。そう言われるのがシャニだったら何もおかしい事は無いと思う。シャニだったら…………………………思うんだけど。
重たい瞼を開いて、隣の現状を確かめる。
ベッドの上、絡み合っている二つの躰。今、オルガに潰されて熱い息を吐いているのは―――
クロト。
「……………………………………えぇぇええぇえええええ!!!?」
「うわっ、何だうっせーよシャニぃ!!」
「シャニ…………は俺…………」
ベッドの隣には、確かにキスしあうオルガが僕が居た―――。
/1
―――まぁまず考えることは、……これは夢なんだろうか。
思い悩んでとにかくオルガの頬をつねってみた。「痛ぇ!!」
……オルガは叫ぶ。痛いと少し涙を浮かばせるぐらい訴えて………………という事はコレは夢じゃない。
他にも、……僕の躰はどくどく鼓動をうっていた。
不可思議な現象が起きて興奮したか、それとも不安になったのか。只単に怖くて脈が速くなったのか。
……理由は解らないし、説明してもこういう事は判らないのがオチだ。
「……あれ、何で俺が目の前にいるんだろ……?」
一人でぶつぶつ解決していると、―――惚けた声で、シャニが首を傾げた。
驚いて叫んでから数分後、……今の今まで自分の躰が僕と入れ替わっていたことに気付かなかったらしい。
―――そう、入れ替わっている。
僕、クロト・ブエルの目の前には―――クロト・ブエルがいる。
そしてシャニがさっき言ったように―――シャニと言うクロトの前には、シャニがいる。
―――【身体】と【心】が別々の状態。
ややこしい話だけど、簡単にはそういう事。
僕がシャニの躰をしているらしく、僕の躰にはシャニがいる。その事実は間違いないらしい。
……いや、間違いない言っても困るんだけどさ……。
「何だよシャニ、後で相手はしてやるからとりあえずクロトをヤらせろ」
「まだお前わかってないんかよ! 僕がクロトだってば!!」
「……俺が、シャニー」
……僕だって普通なら、一言そう言われただけで理解できる程頭良く無い。
オルガは……多分僕より頭いいけど、きっと判らないと思う。
判らないけど、現実はそうなっている。
―――それは本当に。シャニの顔で大声を出してクロトと言い張っていて、クロトの顔で無表情のままシャニと名乗っているのだから。
「……ねぇ、シャニ……なんだよね?」
シャニな僕はクロトなシャニに話しかけた。すると無表情な僕が「そう〜」とのんびりめの声で言った。
……それにしても目の前の僕、すっごく眠たそうな顔してるなぁ……いつも眠たそうなシャニが僕の中に入っているから?
……じゃあ多分、今のシャニの顔は途轍もなくハッキリした顔をしているんだろう。
「……なんで? 寝る前まではちゃんと僕は僕だったのに!? なんで代わってんだよ!?」
「わかんない〜」
「……俺はもっとわからん」
オルガは『理由』が、じゃなく、『何で僕達がそんなコントをしているのか』、……と言った感じだけど。
でも、……ベッドに入った時は何ともなかった。
じゃあ寝たら代わってたってコト?
だから何で!? どーやったら中身だけ代われるんだ!!
……それと、どーやったら僕はクロトに戻れるんだ?
全ては謎で、謎だらけ、…………なのに興味なさそうにしている奴が一人いた。
―――勿論それはオルガ…………。
「なにそんなに落ち着いてんだよ!? 僕達どうすれば……!!」
「いや、どうしろも何も………………」
オルガは涼しい顔つきだった。
こんな緊急事態でも慌てず、シャニになった僕と僕なシャニを代わる代わる見比べている。
……僕の顔のシャニも、凄く落ち着いているけど……って慌ててるの僕だけ?
もしかしてこれって慌てちゃいけない場面なの……?
「お前等、カラダと中身が代わって何が困るコトあんのか?」
「……へ?」
「えー?」
困るコト……そんなのありまくって…………
……って、あれ?
「困るコト……って」
「まさかトイレの時が困るとか言わないよな? 男同士だし、毎日見てるもんだし、……一応今夜だってご対面してる訳だし」
「それ以外にも理由あるだろ!」
「ほぉ、どんな?」
自分が自分でないという違和感。
思うように動かせないでいる慣れの問題。
シャニの身体が悪いという事はない。……確かに中毒症状とかあるけれど、それは僕だってあるコトで……。
身体は鍛え方だって、毎日一緒に訓練している仲だから対して変わらないし。
……身長は憎い程シャニの方が上………………だけど、特別自分のルックスに自信を持っていた訳でもない……。
「……自分である理由は?」
―――もしや、僕達には、無い………………?
「でっ、でもやっぱり自分の身体じゃないと変な感じがするよ!」
「まっ、そーかもしれねぇな」
今だって、―――シャニとオルガがキスしていたのに、外からだと僕とオルガがキスしているみたいだった。
僕は別にいるのに。
別の僕が、ずっと見ていたのに気付いてくれなかった。
―――オルガは。
……僕とオルガがしている姿。
……今までやってきた事だけど、どこか気まずくって恥ずかしかった。
それを、第三者の視点から見るなんて―――?
「……何度もしてるんだからいいじゃねーか」
「し、してるけど……でもやっぱり恥ずかしいんだよ!!」
「シャニ、お前はどう思う?」
「……別に〜」
「シャニは特別! 特殊! 例外!!」
そういう考えの違いも僕とシャニの相違点!
……シャニの事は好きだけど、真の随までしゃぶれる仲じゃないと思った。
だって僕とシャニは、似ても似つかない存在だから。
「別に変わらねーよな。クロ………………じゃなくてシャニ」
「へ……? …………………………ふぁっ」
……一瞬のことだった。
オルガが、クロトにキスをした。
僕じゃなくて、シャニが入ってるクロトにキスを―――
ということはシャニにしているというわけで―――
……もうよく判らない。
オルガは、…………僕の唇にキスをする。
「む、ぁぅ……」
僕が切なげに声をあげた。キスは唇だけじゃなくて……ほっぺや……瞼や……首筋に行き渡る。
……しかもキスするだけじゃなくて舐めたり吸い付いたり沢山して、僕の反応を敏感にさせる。
舐めた時の水の音が、僕と……………………シャニな姿な僕を真っ赤にさせた。
「ぼ、僕に変な事すんなー!」
「うっせーよシャ……………………違った、クロト。大人しく見てろよ」
オルガは僕の注意を無視して、……僕を逃がさないように抱きかけた。
キスをしたり、敏感な所をつついたり。その行為をわざと僕に見せるようにしている―――
「ぅう……っ、くすぐったぃ……」
僕が、……いやこの台詞はシャニが赤くなりながら言った。
「クロトはキスが好きだからな、躰が反応してんだろ」
「……へぇ……クロトってこーゆー所……好きなんだ」
オルガにキスされながらも、……僕は笑う。
でも躰はたとえ僕のものでも、―――その笑顔は僕のものじゃなかった。
顔は全く同じなのに、笑い方はシャニそっくりで―――。
だから、余計にタチが悪い。
「クロトって……ちょっと淫乱?」
「っ!! そそそ、そんな事ないって!!」
「……部外者は黙ってろって」
少し怖い声で、オルガが一言切った。
でも部外者って……今オルガがキスしてんのは僕の躰なのに! 何、勝手にオルガは僕の身体触ってんだよ!
……で、その為されるが儘の僕は、…………うっとりとした顔をしていた。
シャニはすっかり僕の躰で気持ちよくなっちゃったみたいだけど……
「ほら」
「うわっ…………」
オルガは後ろから僕に抱きついて、両足を浮かせてみせた。
無抵抗の儘、腿の部分を持ち上げられる。
まるで花が咲いたように脚を広げられた。
シャニが―――じゃなくて、僕が。
「……っっっ!」
僕自身は何もしていなかった。
部外者は入ってくるなって言うから僕がオルガにヤられてるのを見ているだけだったけど………………これは我慢ならない。
シャニ(僕)は何で黙ってるんだよ!
いつだってシャニは……えっちの時とかノリ気だけど……。
「滅多にこーゆー事してくれなかったなークロトは」
「……これじゃ俺、見られない……」
「じゃあ写真撮っておいてやるよ。後で見ようぜ」
「バッ……!! 何言って……!」
僕が言い終える前に、オルガはまた僕を弄くり回しだした。
その度に僕の顔は―――とても気持ちよさそうなものになる。
僕の身体が感じやすいんじゃなくて、シャニ自身がそうなんじゃないだろうか。
それとも僕も……オルガにされている時……あんな顔するのかな……?
………………そんな事、考えちゃいけない。
「おぃクロト」
オルガは、キスを繰り出してきた僕じゃなく、本当の僕に声を掛ける。
「クロトが、やれよ」
「え……?」
僕の脚を開かせながら、僕を促す。
すっかり出来上がってしまっている僕は、顔を俯かせながら―――次の行為を待っていた。
「クロトの奴……待ってるからさ、なぁクロト?」
その言い方は……どっちがどっちだか判らない。
とにかくオルガは、―――僕に僕を犯せって言ってるみたいだけど。
「ヴァカ! そんな事する訳……!!」
「ね…………………………ちょうだい」
……当然断るつもりでいたのに、僕の口から、撫でるような声が耳に届いた途端、体中が飛び跳ねた。
「……クロト」
僕の口から、僕を誘う言葉が放たれる。一気に身体が成長する感覚。……みんな大きくなっていった。
「……シャニ!」
……僕の何かが切れた時、―――僕が、不適に笑い出した―――。
「ぅぁ……は、ああぁ……ぁああん……」
広げられた躰にシャニのモノを埋め込むと、僕は淫らに喘いだ。
オルガを支えているのは僕の形をしているけど……感じているのはシャニなんだ。けれど一見目に映るものは、僕が僕をやっているのと同じ―――
『クロト』が、二人に覆い重なられて高く悶えている姿しかない。
今の『シャニ』の顔は凄く必死そうなんだろうな……。
「あぁっ……、クロ……ひ……ゃ……ぁっ!」
少しオーバーなんじゃないかってぐらいに、僕は喘ぎ続けていく。
腕で顔を隠さず、……本当に僕に見せつけるような姿を。
僕は……そんな風に泣かないのに……っ!!
「ぁああ……クロ……と……っ!!」
「シャニっ、…………くっ…………!」
……自分の出演している映像を見ているようだ。
しかもそれがとても恥ずかしいもので……見せられているのは罰ゲームのようで……
若しくは其処を地獄と言うのかもしれない。
……中は、天国のように暖かかったけど。
「……ぁ……あ……っ!
「クロト……っ、……俺が……動くから……」
中で留まっていると、途切れそうな僕の声がし、―――自分で動き出した。
「んっ、んぅ……んぁ……っ」
ゆっくりと、僕自身を染みこませるように―――。
「はっ、……はぁ……っ!」
暖かみは熱さに変わっていく間に、おかしさも感じていった。
……そう、おかしい。
自分の犯されている顔があることに、
声も全部受け止めてやっていることに、
……こんな真っ正面でイきそうな時の顔を眺めているということ。
「クロ……あ、あ…………ふあ……!」
……その声によって、何だか余計に、シャニのモノが大きく成長したような…………。
「や、……はぁ……っ、もっと、強く……ぅ……」
「だからっ、……僕は……そんな事…………言わない…………っ!!
そんな恥ずかしい事を言われて、余計に身体が飛び跳ねる。そして―――
「―――シャニっ!」
「は、あ、ああぁあ……っ!!」
―――高鳴る僕の躰。
少し痙攣してみせて、ベッドに沈ませる。
……案外早く、僕の終わりはやってきた。僕と、僕なシャニが果てた。
……シャニな僕も、僕なシャニの上に倒れ込む。息継ぎが間に合わない。
「俺……にヤられるなんて……変なの…………」
倒れ間際、僕なシャニは、シャニの顔を見てそんな事を言う。僕がクロトがヤられる姿を見たとすれば、シャニはその逆を見るのは必須。
「……辛かった……? やっぱり自分の身体じゃないから」
「うん…………でも、クロトの熱さ……………………ちゃんと感じたよ……」
全てが僕の中から吐き出された時、
……そのまま白い息と液と同時に意識は薄れていく―――。
―――目が覚める。今度は朝を感じて躰を起こした。
「……やっぱり疲れている時にするもんじゃないよね……」
なんて独り言も言ったみたりする。―――隣にいる人を見ながらも。
言った瞬間―――声に気付いた。……当然の道理に。
「起きろ! 必・殺!」
確認する為に、叩き起こす。
「んだよ……」
「僕、クロトだよね!?」
「シャニは俺〜」
当然の事を、異常に訊いた。
「………………………………………………………………………………………………………………………………あぁ?」
とぼけた声で一言、……何度も僕達二人を見回す目、そして最期に
「………………………………………………………………………………………………………………………………クロトとシャニだ」
と呟く。
当然過ぎる言葉を、オルガは僕に返した。
―――今度は鏡で確認した。
僕が鏡を覗き込むと、少しクセのついた赤毛が映っていた。そしてノロノロと、少し眠たそうな顔で近寄ってきたのは―――シャニだった。
無事、元の自分に戻れたということ。何の副作用も無く、……何の証拠も無いほど鮮やかに消えていた。消えていないのは、昨日の重ねた身体の記憶のみ―――。
「……何だよ、もう戻ってやがるのか。つまんねぇ」
折角僕がうれしがっていたのに、オルガは心底残念そうに愚痴る。
「あー良かった! 訳分かんなかったけど戻らなかったらどーしよって思ってたんだよーっ」
「写真でもマジで撮っとくべきだったな。……レコーダーも用意するんだった」
「………………なぁ、何がそんなにダメなんだよ?」
「……少し大人っぽいお前が可愛かったからな」
「……………………それって、今の僕が大人じゃないって事!?」
―――そのとーり。
秒も入れずにオルガは答えた。
ので、……とりあえず、早朝から撃滅決定。
/2
何故かその時シャニは唐突に目を覚ました。
「……ん〜?」
目を擦りながら、不自然な身体を起こす。ベッドはいつもの通りぐしゃぐしゃ。定期的にやってくる三人で眠る夜の日。
隣にはオルガが眠っていて、そのオルガに擦り寄って眠っているのは―――シャニ。
「…………あー?」
何で俺がオルガと寝てるんだろ? と首を傾げる。
けれど意外と早い頭は直ぐに理解した。夜の視界に、居るべきもう一人の姿が無かったことに。
……少し自分より小さい手。自分より色の良い肌に、目線に落ちてくる赤毛。寝る前の記憶が正しければ、確か自分は『今シャニが眠っている所』で寝ていた筈。
だからつまり
また入れ替わってんだ、と。
……有り得ない筈の状況に直ぐ理納得してしまった。
「……なんで?」
また入れ替わってしまっている……のは判るが、何故入れ替わってしまったのかはサッパリ判らない。
多分今後も解けない程に、謎に包まれた入れ替わり劇。でも前にオルガに言われた通り、俺とクロトが入れ替わっても何もダメダメな事は無い……。
クロトの身体になっても音楽は聴けるし、食事も出来るしトイレも行ける。オルガは俺じゃなくても、クロトの格好でも十分に愛してくれるし……別にクロトの事は嫌いじゃないし………………十分に、この身体でも遊べる。
―――ゆさゆさ、ゆさゆさ。
クロトに気付かれないよう、オルガの身体を揺さぶる。
「オルガ〜、起きろ〜」
「ぁあ………………何だよクロト………………?」
「俺、クロトじゃない〜」
オルガがそう言うからにはやっぱり自分はクロトなんだろう。俺はシャニだ、と言いながらオルガを起こした。
「オルガー……」
「……シャニ……? 何だ、お前らまた入れ替わって……?」
「遊ぼうー。……今しか出来ない事を、さ」
「なんなんだよコレぇ!!?」
ある日、僕はシャニからある写真を受け取った。
シャニが珍しく笑いかけながら写真をくれたから、わくわくしながら見てみれば……その手渡されたのは、―――僕の写真だった。僕のいっぱい写った写真だった。
「な、……なな……っ!!」
「よく写ってるー」
シャニは、……いつもに無表情ながらもどこか楽しそうな雰囲気で僕の顔を眺めている。多分僕の顔は、この上ない程に真っ赤に染まっているだろう。だって、こんな写真を見せられたら……どんな時だって驚いてしまう。
身の覚えのない、僕が写った写真。
それは…………僕が裸で変な、えっちな恰好していたり。
……妙なオモチャでひとり遊んでいたり……。
……女の子が着るような服ばかり着ていたり…………。
とにかく、恥ずかしい事をしている僕が沢山―――って、僕はこんな事やった事ないのに!!?
「こ、こんなの知らないよ! これ僕じゃない!!」
「…………当たり前じゃん、これ俺だもんー」
「…………え?」
シャニは僕の手の中にあった写真を数枚取って、……その写真を薄い笑いを浮かびながらシャニは見ていた。写っているものを見られたくなくて、また奪い返したけど。
「前、また俺がクロトでクロトが俺になっててー……それで撮っちゃった」
「撮っちゃった…………ってええぇ!?」
いつ、僕とシャニが入れ替わったのか問い質すと、……僕達が一緒に寝た真夜中に数回、入れ替わる事があったらしい。
そして、僕がシャニになって眠っている間……クロトになったシャニはオルガを連れて、こんな写真を撮りに外へ―――……って、何でそんな事淡々と言えるんだよ!!
「だってクロト、いつもこーゆーのしてくれないじゃん……」
「こんな事する方がおかしいんだよ! シャニ、変態!!!」
「でも、変態な事をクロトもしてるな……。ほら、この写真とか特に……」
「あぁあー見るなー!! これは僕じゃないからいいんだよ!!」
……確かに写真に写っているのは、僕だ。
でも本当に僕なのか疑ってしまう程、この写真の僕は……色っぽい。
普段の僕(鏡でしか知らないけどさ)より、……凄く艶やかで……どんな事を話していたのか知らないけど、……とてもキモチ良さそうで……本当に僕なのか悩んでしまうぐらい……。
「でも撮っちゃったから……」
「だ、誰にこれ撮ってもらったんだよ……?」
「オルガ。大丈夫、オルガしか知らないから。…………凄く嬉しそうだったよー」
あのエロオヤジ……。何となく『嬉しそう』な顔というのが頭に浮かぶけど。でも他の人に見られていないだけ良………………くないってば。
「とにかくこれは没収!!」
「えー…………でも沢山焼き回ししてあるもんねー……」
「そ、それも回収!!!」
「俺じゃなくて、オルガが全部持ってるー」
じゃあ、オルガから取り返すしかない。こんな写真持っていられたら、……いつどんな脅迫が来てもおかしくないのだから。
「オールガあぁー!!」
オルガの奴は、(人の気も知らないで)自分の部屋で悠々と読書してやがった。
……しかも、僕の顔を見た途端、にやにや笑い出した! 僕が来る事判って笑ってる!!
「何だよ、クロト?」
「判ってるくせに言うな! 写真! ネガもよこせ!!」
「何のネガだ?」
「とぼけるなよ! お前とシャニが撮った、僕の、…………………………っ」
……えっと。僕の……何て言えばいいんだ?
あの写真、思い出しただけで……顔が熱く…………。
「僕の……シャニが僕の時に撮った……っていう…………変な写真だよ!」
「あぁ、その事か」
オルガは読んでいた本を仕舞った。けど仕舞って、前から僕の顔を見直しただけで、写真を出そうとはしていない。
「いいだろ写真ぐらい。別に某投稿SM雑誌の薔薇部門に五枚は出して賞金○万円貰ってその金で本買うつもりはねーよ」
「思いっきり出す気じゃねーか!! なに入賞狙ってんだよ!!」
「いやだって…………コレなら十分狙えるだろ、入賞」
そう言ってオルガは―――懐から数枚の写真を取り出した。
勿論それは僕が映った写真で……
シャニが見せたやつより、……物凄く過激なやつだった。
過激な恰好で過激なポーズで、目も背けたくなるような写真……。
「あー!! な、な……なんだそれ!!?」
「あー…………それすっごく俺イヤだったのにムリヤリ撮らされたやつー……」
撮られた本人であるシャニも、こればかりはとめそめそ(嘘)泣きをし始めた。……って、シャニが泣いたって意味ないだろ!
僕の身体で何て事してくれるんだ二人は……!!
「撮るんならシャニが自分の身体で撮ればいいだろ! 何で僕なんだよ!!」
「えー……だってそんなの撮るの、恥ずかしいじゃん……?」
……。
……結局は我が身が一番大事か。
「ま、投稿するっていうのは五分の一冗談だが」
「少ないよ冗談率!!」
「フツーにイイ写真だからな。これ使って俺がどう楽しもうと自由だろ」
ぺらぺらと数枚の写真をちらつかせながら、オルガは写真を元に仕舞った。……この時程、此奴の性格が悪いって思った事はない。
「でも、僕が映ってるから……プライバシーの何とかだよ!」
「映ってるのはシャニだろ。全然恥ずかしくない」
「……オルガ、ひどい」
……あ、ついにシャニがオルガを非難し始めてる。いや、お前も十分(僕に対して)酷いんだけどさ……。
「写真なんかより、本当のクロトの方が良いのに……」
「それは……そうだが」
「…………そうだ、これはクロトが悪いんだ」
「は!?」
折角仲間がついたと思ったのに、何で僕が悪人扱いされるんだよ??
「こんな写真より、本物のクロトが良いって……当たり前だし」
「う、うん……ありがとシャニ」
……えと、これは感謝する所……だよね?
「オルガは写真でやった……こーゆーの好きだけど…………クロトはやってくれなかったんだよな……」
「……そうだな」
「え、オルガこんなん好きなの!?」
それこそ変態じゃん……ってくらいの写真なんですけど。
「本当のクロトがしてくれないから……いじけてるんだよ。ね?」
「ね…………って何だよ、シャニ?」
「その写真でやったこと………………全部してくれたらネガ返すってのはどう?」
……。
……えっと、それって……?
「……あぁ、それいいな」
「いいの、それ……?」
「普段お前がやってくれなくてつまらないからやっちまったんだ。……簡単な理由だろ?」
……よく判らないんだけど……この話、解決してくれる事?
「クロト、判ってあげなよ……」
「え? え、何か難しいんだけどっ」
「難しくなんかないよ……オルガは、クロトの事もっと好きになりたいんだって……」
……え? そういう話だったの……??
「オルガは、『クロトもどき』で満足しようとしてたんだよ……? ちゃんとしたクロトがいるのにさ」
……いつも一緒にいるのに、飽きたらず。一緒に寝てるのに、それでもオルガは―――
「………………クロト、偽物に負けるの?」
―――こうなったら、答えてあげるしか。
「………………クロト」
「あぁわかったよ!
こんな写真より僕自身の方が数倍良いに決まってんだろ!!」
……。
…………。
「おー」
「クロトえらいー」
………………良く言った僕!
今のは僕、決まった…………
……と思う、んだけど、………………あれ?
「じゃあ決まり。最初は……お医者さんごっこからやろうか……」
「いや、巫女巫女ナースも捨てがたいだろ。今、衣装出すからな」
「そうだな……緊縛プレイも面白いかも……」
「最初からそれはキツイだろ。シャニだって慣れるのに結構時間掛かっただろ」
……あれ、二人ともー?
「でも、……オルガ優しくやってくれたから……」
「あぁ。辛くするつもりなんてねぇよ―――だから安心しろ、クロト」
にやにやとオルガが笑って何かを探し始めている。
シャニはくすくす笑いながら麻縄を取り出して………………。
―――もしかして僕、トンデモナイ事言っちゃったとか?
「くーろーと〜」
「クロト―――」
オルガ達は見た事も無いような嬉しそうな笑みのまま、僕に近づいてきた。
手には怪しいアイテムと、小さなカメラが………………
だから、……その日から、僕達の悪夢開始。
END
襟様に捧げます、キリバン【3333】で『オルクロ×シャニで精神のみ入れ換えエッチ』でした。 前編04.4.21 後編04.4.26