■ Neglect



 ぶ……ん。
 低い音が一面に響き渡る。
 震えているのは、オルガの手の中の小型の玩具。試しにと動作確認をする。
 細かい動きをするそれをじっと眺めていると、シャニがまるで『そんなものばかり見るな』と擦り寄ってきた。夢見がちな事を付け足せば、『そんなものばかり見てないで、俺を見ろ』……と言った所だろう。擦り寄ってきたシャニがそんな台詞を言う筈が無かったが。
 オルガは、噂には聞いていたが初めて見るそれを、一人遊ぶ。
 シャニは、つまんないと思いながら構ってくれないオルガに、一人抱きついていた。

「『こんな物』が、気持ち良いんか?」
「知らない……」

 笑いながら尋ねるオルガを、シャニは興味無さげに答える。
 シャニはオルガがどうやってそんな物を手に入れたのかは知らない。買ったのか譲って貰ったのか、まさかと思うが自分で作ったのかもしれない。……いや、そんなまさかだが。
 どうやって手に入れたのかは判らないが、どうして手に入れたのかは何となく見当はついていた。
 欲しかったのだろう。
 そして試してみたかったのだろう。
 こんな、手の中で踊る機械如きが身体を支配出来るのかと。

「なぁシャニ」
「イヤだ……」
「ほら、下脱げよ」

 擦り寄ってきて、尚かつ逃げようとしたシャニを素早く捕まえる。
 ジタバタ暴れるシャニを座っていたベッドに抑え付けて、ベルトを緩めた。
 シャニの顔に焦りの色がじわじわと滲み出してくる。

「イーヤーだー……っ」
「気持ち良いっていう噂だし。悪くないだろ」
「……でもヤだ……」

 いくら暴れてもオルガは笑ったままシャニを捕らえるだけ。
 何発か、シャニの本気で端正な顔を殴りつけてみたが、それでもオルガの馬鹿力は怯む事が無かった。
 オルガは低い振動音を立てているものを、自ら剥いた所に寄せていく。
 ジーンズと下着を剥がれ、何も隠すものが無くなったシャニのものに震える玩具をぴたりと付けた。

「っ、は…………っ!」
「お、……やっぱり気持ち良いんだな?」

 一番低い位置の振動にも関わらず、シャニは瞬間震えを感じさせられただけで色艶やかな声を上げた。
 だがそれも一瞬だけ、元々ローターと呼ばれる成人用の玩具は男性器で楽しむ物ではない筈。……そういうのは別の物であるようだが、オルガはシャニを仰向けで倒させると脚を高く上げ、……ゆっくりと広げさせた。

「ぁ……っ、オルガ……」
「尻の穴の方に入れてやるよ、ちゃんと脚上げておけよ」

 上から見下ろすオルガの顔は、まだ笑い続けていた。
 シャニは時々その不適な笑みを見ながら複雑な想いをし、脚を開いていった。
 シャニが深呼吸し、息を整えたのを見ると、玩具を近づけていく。
 モーター音が近付く度に幼めなシャニの顔も震え、それがまたオルガを興奮させていった。

「まさかシャニ、怖いんじゃないだろうな?」
「…………うざ…………」

 貶すように、若しくは励ます勢いで訊いてみたが、お決まりのフレーズが出たのでオルガは肌へ玩具を這わせた。

「……っ!」

 ぴくんっ。
 シャニの身体が跳ねると同時に、一気に紅く染まっていく。
 シャニの熱い所に寄ると更に、熱が高まっていった。必死に……恐怖……に耐えるシャニを見て、オルガは中へ押し込んだ。

「…………ふ、ぁあ……っ!」

 シャニが高く鳴いた。衝撃に耐えられず、上げていた脚が元の位置に戻った。だが、既に埋め込んだので閉じてももう支障がない。ローターは、シャニの中で低い唸り声を上げていた。

「あ、……あぁ……っ」
「どうだ? ……気持ち良いか?」

 低い振動に声を上げるシャニに、オルガは尋ねた。
 シャニは呼吸を直す為にわざと息を止め、オルガの方を向いた。シャニの紫の目が潤んでいる。それがまるで、誰かに抱かれている時の潤いと同じものだった。
 ゆっくりと、着実に責め立てるものに、シャニは口を塞ぎ殺し始めた。
 『こんな物』に快楽を与えられている自分を恥ずかしんでか。

 オルガは外に出ている線の先のリモコンを手に取った。そしてヴォリュームを最大にまわす。

「………………んあ……っ!」

 準備の言葉も寄越さないで、オルガは最高速度に設定した。
 びくんっ。
 シャニの身体が又大きく跳ね出した。
 こんな事をしてしまってシャニは壊れないだろうか、そんな心配もしながらもオルガは、機械に喘ぐシャニ見たさの好奇心でスイッチを回した。

「ふ……ん……あ……ぅ…………っ」

 シャニも官能速度を最大にしながらベッドに爪を立てていた。
 身体の中から掻き乱されているのに自分から力を発散出来ない所に不満を感じているのか、シャニの細い指はギリギリと憎しみを込めるようにシーツに食い込まされていた。
 しかも、苦痛に耐える顔と同じに目をきつく結び、泣き喚きそうな顔をしている。今にも歯軋りをしそうな雰囲気もする。

「う、……ん……ぅ……うううぅうっ!!」

 びくっ、びく。
 とシャニは背中を大きく仰け反らした。
 膨れ上がった官能値が、あともう少しで限界まで達する所らしい。
 瞬間、オルガは電源を落とした。
 シャニが先にいってしまう前に……。

「は……あ……オ、ルガぁ?」

 シャニはオルガに普段無い表情を見せた。
 助かった……というものより、何故止めたという怒りの感情が籠もったものだった。
 いくところでいかせない。
 オルガの見たかったものは、『こんな物』が効くか否かであって、他はオマケのようなものだった。
 それに、……いきたい、と願う時の顔が見たい……という心の現れからもあった。

「…………オルガ…………」

 乱れた呼吸を少しずつ直しながらシャニはオルガの名前を呼んでいく。
 だがそれだけでは反応してやらなかった。
 オルガは知らん顔で、シャニの中から抜き出された玩具を眺めるだけだった。

「……オルガ……」

 艶やかになった玩具。
 シャニの体液で濡れたそれを眺めていると、シャニ自身がが奪い取った。
 取って、……今度は自分で中に入れて楽しむかと思いきや、シャニはベッドの下へと投げ捨てる。

「おいバカ、何だよ…………!」
「オルガ……っ!」

 投げ捨てた後は、震える腰を求める目に見せつけながら抱きついた。
 抱きついて、あとは短い会話も必要なかった。

 びく、びくり。

 ……捨てられた玩具は、シャニに落とされたショックでかスイッチが入ってしまっている。
 音が一面に響き渡っていた。
 相手のいない玩具はひとり、虚しく音を響き渡らせる。

 それを止める間もなく二人は長い時間絡み合い始めていた。





 END

 04.6.11