■ MtM feeding
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―――今日のシャニが一段と食事をしない。
元々小食らしいが、用意された食事の三分の一も食べてないのは流石に心配になる。
間食していた訳でもないし、水分もあまり摂っていない。
何故食べないか、お前だって訓練で疲れてるだろ、と訊いてみた。
「食べるのメンドぉ〜」
……シャニらしい返答だ。実にシャニらしい。シャニ以外がこんな台詞言ったら真っ先に殴っているが何故か納得してしまった。
その割には……昼寝をしながら腹の音をならすシャニをよく見る。
空腹にはなるが『食べる』という動作が面倒臭く、結局は食べないになるらしい……て、んなアホな。
「腕動かすのうざい〜」
……何ともシャニらしい。物凄くシャニらしい。そんな理由で飢え死にしていく人間、多分シャニだけだろう。
そんなに疲れているのか……そこまで辛いのか? と一瞬心配になったが、……シャニの様子を見ているうちに、シャニの思惑に気付いた。
―――コイツ、絶対甘えてやがる。
いつも俺が食べろ食べろと面倒をやいているからだろうか。……おそらくシャニは俺に食べさせてもらいたいらしい。
その証拠に、……残った食事の乗ったトレイを俺の方へと寄せている。丁寧にも(こんな時は気が利くんだな……)フォークは俺が持ちやすい様置かれている。
……無言で奨めている。オレに食べさせろと相変わらず愛想の悪い目つきで睨み訊かせている……。
仕方ないな、今日だけだぞ……と甘い俺はシャニを引き寄せて、―――今日だけの、口移しで食べさせた。
「ん……っ」
……あぁ、もうよくあるっていうかお約束? マンネリ? ありきたり? もっと凝れってカンジだけど、それが一番シャニが喜ぶんだ。
「オルガ……もっと」
「ホントに、今日だけだからな。明日からは……」
「わかったから。……ん〜っ」
現にシャニは嫌いな野菜を放り込まれても喜んで口を動かしている。……早く噛み砕いて、次を強請りたいという訳だ。
……俺としてみればこんな食べ方よりも、絶対に自分でフォークを使って口に入れた方が早いと思うのだが。……コイツ、食事と一緒に遊んでやがるな。
「もっともっと〜」
食べてくれるのは嬉しいけど、ちゃんと噛めよ。
……と、近くで同じ様に食事を摂っていたクロトが「ごちそうさま」と言った………………って?
ん、お前いつもの半分の食ってないじゃないか?
クロトはのろのろと時間を掛けても三分の一しか食べないシャニとは正反対で、素早く完食させてゲームしに出ていく奴だ。
……そのクロトが全然食べてないなんて……オカシイな…………?
「クロト、おかし〜……」
なに、シャニ? お菓子がどうした…………あぁクロトに対してオカシイと言ったんだな……シャニに気遣われるなんてまず体験しないぞ。
「クロト、どーした?」
「僕も……シャニと同じ…………食べたくないや……」
……。
「ならさっさとトレイを回収して部屋戻ればいいだろ」
こっちにトレイ寄越すなんて……俺に片付けさせようとするなよ。
シャニといい今日はクロトも文句言い出すなんて……少し心配になってきた。俺は平気だが、一応白衣の連中にちょっと言っておくか。
「っ……!!」
……あ? 何でクロト、そこで怒るんだよ。自分で食ったモンは自分で片付けるのは当たり前だろ……てか昨日までお前ちゃんとしていたじゃないか。そんな事も出来ないくらい今日は怠いのか……? なら仕方な…………
「う゛ぁーか! (ザクッ) オルガのう゛ぁーか!! う゛ぁかう゛ぁかう゛ぁかばかばかぁう゛ぁかー!!!」
クロトはいつものアレを連発しながら、……最初にフォークを俺の額にバトロワのTAKESHIの如く投げ付け泣きながら走っていった……。
……あ、俺の触覚が三本に増えてやがる(笑)。
両端に金の触覚に、真ん中に銀の触覚か…………何か微妙に絵になってるな。(つか触覚言うな)
―――ついでに。
「……オルガのバ〜カ……」
全部食べ終えた(食べさせてやった)シャニが、クロトの真似して一人出ていきやがった。
訳判んねぇけど、結局俺は三人分片付ける羽目になった。
/2
オルガのう゛ぁか。
オルガ滅殺! あとで絶対オルガの撲殺!!
ホンットーに抹殺瞬殺決定だぞう゛ぁかー!!!
何でシャニにはあんな事してくれるのに、僕にはして出来ないんだよ!?
オルガのベッドぐちゃぐちゃにしてやる! ……うらぁー必殺っ!!(どかっ)
僕もシャニと同じようにしたのに……しーたーのーにー!!! なんで!
……なんでだろ。オルガしてくれなかったんだろ……僕とするのそんなにイヤなのかな……。
シャニ、凄く喜んでいたし……邪魔……されたくなかったとか?
オルガも……何だか、幸せそうだったし。
あぁ!? だからなんでだよ!?
……僕だってオルガと……キスしたいのに……。
「……クロト〜?」
部屋に間延びした声が通る。
……シャニだ。食べ終わったのか部屋に戻ってきた。
真っ先に自分のベッド戻って……その下から……常夏専用お菓子袋を取り出した。
「クロト、食べる〜?」
……ん、そういえば今日の食事の半分……残しちゃったんだっけ。シャニはそれを気遣ってくれているんだろう。
コレは偏食の多い僕達が(オルガに隠れて)作っておいたやつ。シャニのベッドの下には他にも異様な物が揃っているからオルガも触ろうとはしないからバレない。(その割に僕のベッドの下は直ぐ覗く。僕にもプライバシーってもんがあるのに!!)でも最近はお菓子も食べなかったから全然手を付けてなかったな……。
実は僕は、……オルガにしてもらいたかったのもあるけれど本当は食欲無い。けど空腹だと動けなくなっちゃうから無理矢理口に食べ物入れてたんだんだ。頑張って食べてたのに……二人が……あんな事……。
あのままトレイ、部屋に持ってくれば良かったな。もうオルガが片付けてるだろうけど……。
……あぁーだからなんでオルガはぁー!!(怒)
「食べない〜?」
どーしよっかなー……と僕が悩んでいると返事も待たないでシャニはポッキーの先を口にくわえ
「ん」
と差し出してきた。
「……」
……あぁアレだ。ポッキーゲーム。
ポッキーの端と端をくわえて、一緒に食べだしていくやつ。一応どっちが多く食べられるかっていうゲームなんだけど……相当なバカップルでもない限りやっている姿を見られない。
……て、それをやろうとしているシャニってやっぱりバカ?
「ん〜」
器用にも口にくわえたポッキーをふりふり揺らしている。誘っている。
……ヤバイ意味でもあるだろうけど、僕にはどうやらシャニは自分がポッキー食べたいから早くしろと言っている……ように見えた。仕方なく僕は突き出された片方の端に口を付けた……
ぼりぼりぼりぼり―――ッ。
「んぐぅっ!?」
「ん〜……」
……それはもう一瞬だった。
僕が口を付けた途端、シャニは超!光速でポッキーを食した。
あっという間に9割は食べられて……唇がついて……さっき、シャニがオルガとやっていたみたいになっている。
「ん……んぅ……っ」
一瞬の出来事で驚きの声でも上げようと思った……けど、シャニが頭の後ろを抑えて僕を逃がさないようにしている。シャニはこういう事になると変に怪力になるから……頭をとられたら絶対に逃げる事なんか出来ない。
「んー!! っ、ぷはーっ! シャニ、早すぎ!!」
こんな所で僕達の中でシャニが一番(能力的に)強いんだなぁ……って思い出させられた。スピードもある力もある……やっぱりシャニは凄い。
「……もう一個食べたいなぁ」
そう言ってシャニは次の1本を口にくわえた。そして「ん」と一声(ホントに一声だよ……)掛けて僕の方に出す。
……さっきのは、90%どころか98%は食われたのに……。
「……シャニ、ポッキーが食べたいんだったら一人で食べていいよ?」
「……だめ〜」
ポッキーを一度戻してシャニが言う。
……こんな事やっていれば、いつかオルガが帰ってくる。シャニに食べさせてやっていたから自分のまでは食べてない、だからまだ帰ってきてないんだ。
オルガがこのゲームやっているのを見たらどう思うだろう? ……どうも思わないかな……?
僕には全く興味無いみたいだから……。
「オルガが帰ってくるまでやる」
「はぁ? ……絶対うるさいと思うよー、変にやきもち焼きだからなーオルガは」
「クロトみたいに?」
……。
あぁそうだろう。シャニとオルガがキスしてて……それ一人見ていて……嫉妬した。
そのせいで食事抜きになったさ。
「今度は俺達がオルガに妬いてやろうよ…………きっとクロトみたいに一人ぼっちになったら口惜しがるから」
……。
僕みたい、っていうの凄く余分。でも口惜しがってどうさせるの……?
「絶対オルガ、してくるから。…………それで今日は寝る」
「……あー成程……」
再びシャニはポッキーの端を加え、僕も応対する。
今度は僕も頑張ったからシャニは8割ぐらいで止めさせられた。
……まだオルガは来ない。あいつ一体ドコ行ってんだ。白衣に連絡とか言ってたけどそんな下らない事に時間潰してるのかな……?
―――僕達が、こんなにも待っているのに。
「ん、ぅう……シャニの唇ってオルガの味するね……」
「……ヤだなぁ。俺、オルガ風味〜?」
でも箱には沢山ポッキーが詰まっている。
あと何十回も、シャニとキスは出来る。
オルガのベッドの上に二人座って、ずっと二人で帰りを待ち続けた―――。
END
04.1.11