■ 嫉妬
恐ろしい尋問が始まった。
初めのうちは強気だったクロトの目にも涙が溢れ出し、口からは熱い息を必死に吐き出す。
いくら助けを求めても空回りするばかりだった。両腕はパイプベッドの頭にくくりつけられ、脚は拡げられた状態で縛られ固定されている。
クロトの中央には人を快楽に堕とす為の器具が挿れ込まれていた。器具が波打つ度に甲高い声を上げるが、人が通る時間帯なら兎も角真夜中も過ぎた頃にクロトの一人部屋に訪れる者はまず居ない。
拘束を解いてくれるのはそれをした本人に頼まなければならなかった。
「ぁ……や……め……シャニっ……」
「――」
脚の間に入ってクロトを弄んでいたのはシャニだった。クロトの反応一つ一つを観察しながらシャニは器具のスイッチを入れていく。
カチ、と軽い音がすれば目を見開きながらクロトが痛みに叫ぶ。
「ひ、ぃぁあッ!」
叫び声を操りながらシャニは何も言わず器具に命令を下す。
クロトはボロボロと涙を零しながらその痛みを訴えたがシャニの顔色は一向に変わらなかった。
少しでもシャニが笑えば意図が理解るかもしれないが、無表情のままクロトの泣きやまぬ姿を見つめ続けるだけだった。
「ぁ、あ、ぁあ、あ!」
快楽を生み出す為の器具はクロトには傷みしか生じず、激しい拷問を受けた時のような言葉にならない声を漏らしていった。
クロトの手首には幾重にも結ばれた紐が自由を奪い、腰を振るにも固定された足首のロープのせいで身動きが出来ない。
唯一元気に動く事が出来た頭も、長時間による拷問で大人しくなってきた。
目は涙に溺れて何も見えていない。何かが見えた所でそれは自分の哀れな姿だった。
その上目の前には、まだ一つも汚れていないシャニがいる。
同じ空間に生きながら大きな差にまた強いショックを受けるものだった。
「――」
カチカチ、とスイッチを切る音と共に、シャニは一切纏われていないクロトの股間をまさぐった。
「ぃ……っ!?」
綺麗なシャニの白い指が、クロト自身を先へと追いつめていく。
根本からゆっくりと五本の指が暖め、既に何度もいってしまっているクロトを更に追い詰めていった。
「しゃ……に……何で、こんな……っ」
優しい愛撫でも、さっきまでの激しさのせいでクロトはシャニの動きに怯えた。
無表情のまま、器具を操りボロボロになる所まで堕とされた。
その姿を見て淫乱だと貶す事も、いい様だと罵る事も無い。表情を変えずに犯していく姿に、まるで人形に犯されている様だった。
「は……ぁ……っ、シャニ……っ」
ゆっくりと上り詰めていたシャニの指が先端を弄くりだし、むず痒い感覚を覚えた。
親指と人差し指の二つが、噛みつくようにクロト自身に絡む。
「ひ……っ! やめ……っ!」
本当に噛みついているのか、今度は前から鋭い痛みが走った。指はより固くしていく度に上へと移動させていく。同時に、後ろからも再度電流が通った様な衝撃を受けた。
「あっ、あ、あぁあああ!」
絶叫を上げクロトの躰が激しく震える。
片手だけでいかされながら、シャニは器具のスイッチを一気に最大限に切り替えた。
「あ、ああああぁ、は、ぁっ! シャニっ! ぁ、は、ぼく……っ!」
振動が大きすぎた器具は内部で暴れながらクロトを壊していった。
口からは奇声と涎が、目からは枯れない涙が溢れ出していく。シャニの操る一瞬の衝撃に、クロトは意識無く精を放った。
「――ぁ」
「く、んあぁ……シャニい……っ!」
クロト自身に手を掛けていた白い指がまた白く染まっていく。
その瞬間に一言だけシャニは詞を発し、クロトから手を引く。
だがそれも又瞬間の事、クロトが嗚咽を繰り返しながら掲げられた手を見ている。手は直ぐに愛撫に戻り、痛めつける行為は再開した。
「――」
片手でクロトを弄びながら、スイッチを捨てる。シャニはゆっくりとクロトの性器に顔を近づけていき―――生暖かい舌を巻き付けた。
「んっ?! あっ……ぁ!」
身を捩らせて滑り込んでくる刺激に耐えた。
が、脚は広げられたまま顔を埋められても完全にシャニを追い払う事は出来ない。
縛られた腕を解こうと何度も引き千切ろうと試みるが手首に血が滲むだけ。
そんな事をしている間にもシャニの舌は白く細い指と同じ敏感な場所を的確に襲っていった。
「ぁ、ああ……いやだ……シャニ……、シャニ……ッ!」
いくら名前を呼び続けていてもシャニはクロトに振り向く事は無かった。
放ったばかりの先端を味わうように温厚に舐め上げていく。片手は放たれた精を塗り付けるように扱いていく。
「はっ、……あっ、……んあ……っ!」
泣きすぎて酸素が入ってこないのか、大きく口を開いてもクロトの呼吸は定まらない。
ゆっくりと、又激しく舐めつけられる舌がクロトの苦痛に加速をかけていた。
だけどシャニの舌は気持ちよすぎて震えてしまう。泣き叫んで詫びていたのも忘れてしまう程、クロトは更に高い声を上げた。
「ぃあ……っ! ……ん……えっ……シャニ……っ?」
クロトは違う感覚に目が覚めた。今までは苦痛続きで逆に悪夢を見ていた様で、急に感覚が無くなった事に違和感を感じた。シャニが、ずっと取ってくれと懇願していたのを聞き入れ、奥まで挿入されていた器具を抜き取ったのだ。
「……ぅ……」
突然引っこ抜かれて、クロトの躰は不自然な揺れを生じていた。
腿は過敏に震え、汗が男では無い筈の愛液を演出している。実際には天然の潤滑液など無いのだから、あるとしたら血液なのだが、クロトの中央は哀願している様だった。
「――」
暫くシャニは熱い呼吸を繰り返しながらも脚を拓いているクロトを見物していたが、今までいたぶられていた場所に指を挿れる。
「っ……!」
再びクロトの顔が恐怖の色に染まった。止まりかけていた涙が再度潤う。
シャニの指は左右に分かれ、入り口を広げてみせた。
少し大きめの器具が入っていたおかげで通常より広く指が行き来する。口での愛撫を行いながら、指は何度もクロトの中に入り込みこねくり回した。
「あっ、あぅ……う……!」
「――っ」
静かに、又涼しげにしていたシャニも、クロトの様子に冷静ではいられなくなっていた。泣き声に興奮する。元々ヒトを責め立てる事が好きなシャニは、良い様に泣き喚くクロトを見ているだけで絶頂に立ってしまう事もあった。
自分の焦りを噛み殺しながら、中を貪る。
「う、うぁ……んっ…………お……る……っ!」
クロトは感覚全てをシャニに制御させられている。前までは好きな人に大切に扱われたところも、今はシャニに無感情に遊ばれていた。
突き刺された指に躰を強ばせるがそれが余計痛みを呼ぶ。
それでも痛覚を緩和させる方法は見当たらず、出来るのは現れない助けを呼ぶ事だった。
「オ……ル……ぁ、……んっ、あぁあッ!!」
一際高い嬌声が上がった。微かに、ある言葉がクロトの口から洩れだした。
「――……」
「おる……が……ぁ……ぼく、こんなの……ッ」
気が狂ってしまいそうな責めにクロトの意識は朦朧となっていた。いつ手放してもおかしくはない。
しかしシャニの指が意識を手放す事を許さずにいた。
「―――クロト」
シャニは舌をクロトから離し遅れた返事をする。指はクロトの中に留めたまま言葉を放った。
クロトにはこの地獄の中、初めて聴くシャニの声だった。
「ぃ、……な、に……シャ…………っ」
やっと反応してくれたとクロトは有りっ丈の力を込めてシャニを見つめた。最後の懇願として曖昧なシャニの影を探す。半開きの瞼にはハッキリとシャニの姿は映っていなかった。
「これからどうして欲しい……? 俺のもいいけど、もう一回おもちゃで遊ぼっか……? 待っていてくれるならオルガ呼んできてあげてもいいよ……」
「そ……っ、そんなの……っ、やめ……!」
やめろ、と叫ぶ前にシャニはクロトに口付け言葉を塞いだ。
重ねた唇からはクロト自身の味がする。生臭さと苦さにクロトは顰め頭を激しく振りたくる。
シャニの顔は目の前に位置し、涙に濡れた眼でも表情が判る程だった。
無感情だと思っていたその表情は、口元だけが歪んでいた。
「そっか。こんな姿見られたら嫌われちゃうもんな……あはは……オルガだったら逆に喜ばれるかもしれないよ……?」
口元にしても声にしてもシャニは何処をとっても嗤っていた。
無感情なのは紫に輝く目だけだが、その一点だけでもクロトの恐怖心を煽った。
「あ……クロトってオルガに好かれたいんだっけ……? 手伝ってやろうか……今から俺、誰か連れてくるから」
シャニは乗り掛かっていたベッドから離れ、部屋の入り口へと向かう。
ドアが開き、暗かった部屋に外の明かりが入ってくる。
ボロボロにいたぶられたクロトとは比較にならない程シャニは平然とした格好だった。軽くオルガを言いくるめて部屋に呼び寄せる事も直ぐに出来る。
しかし黙ってその姿を見送る程クロトは無抵抗では無かった。泣き疲れた声も止まっていた言葉も一斉に飛び出す。縛られた状態で置いていかれるのも引き留めた理由でもあるが、こんな姿を誰かに見られる事だけはしたくなかった。
それが、一番好いている人なら尚更。
「………………じゃあ、俺の質問に素直に答えて。答えに詰まったら誰か呼んできてやるから」
不適に嗤って見せたが、クロトには外の逆光でよく見えなかった。
たとえ夜でも誰かが廊下を彷徨く事はある。シャニもそれを知っている筈なのに、扉を開けたまま恐ろしい尋問が始まった―――。
「ねぇクロト。オルガとどれくらいやったの? クロトから誘ったの? 何て言ったらオルガの奴抱いてくれたの? 沢山キスしてもらったんだろ? どんな所にしてもらった? 何回イかせてもらった? こんなおもちゃより断然オルガの方がキモチイイんだろ? 痛くなかった? 凄く良かった? 好きって言ってくれた? 俺なんかより好き? 俺も好きなのに一人だけイイ想いしやがってズルイと思わない? オルガも俺に内緒にするなんてズルイよな―――…………?」
END
04.1.25