■ はじめての……



「僕、オルガの事大好き!」
「……俺も〜」

 近頃まるで口癖のように二人は言う。
 好きだと言われているのは悪い気はしない。抱きついてきた腕を返してやる事を礼儀としてやっていた。

「ほんとーに大好きだよ? ずっと遊んでたいもんっ」
「……俺も〜」

 大体クロトが先に抱きついてきて髪を撫でてやる。
 雑に掻いてやると笑いながら嫌がる。……本気で嫌がってない。もっとやれと強請ってくる。そうやっていると大人しいシャニもゆっくりやってきて交代する。クロトが飽きるまでシャニは黙って待ってはいるが、本当は早く自分もとウズウズしているようである。

「オルガっ、ずーっと一緒だからねっ」
「……俺も〜」

 長い間同じ部屋で暮らしてきた二人にこれからもと言われても。
 だけど変に応対するとややこしくなるので適当に返事をする。
 俺もだよ、とばかり。
 その答えが一番二人を喜ばせると知っているからそればかり。

「だから僕っ、オルガと結婚したいなぁ」
「……俺も〜」

 ―――それは出来ない。
 ……キッパリと断ったがそれは心の中だけで、ついいつもの癖で頷いてしまった。
 二人は大喜び状態。今から「さっきのは嘘だ」というのは酷だと思うぐらいに。
 確かにお前達は好きだけど結婚とは違うだろと言うべきか。
 若しくはまだ結婚できる年齢じゃないだろと事実に言うべきか。
 それとも二人一緒に結婚出来ないんだぞと冷静に教えるべきか……。

「で、結婚て一体何すればいいの?」

 ……お前ら、それも判らないで言ってたのか。
 シャニを抱きしめてやりながら、後先一切考えていない二人に拍子抜けした。
 毎日、こんな風な会話ばかりだ。



「シャニは知ってる? どうするの?」
「……えと……」
「知らないよね。……ねーオルガー」
「…………知ってる…………」

 大人しいといいよりスリーテンポぐらいズレているシャニに、高い声の言葉をズラズラと並べるクロト。
 対照的な二人の会話に、俺の出番は無い。
 二人とは一緒にいる事は多いと言っても、自分では『共に遊んだ』事は無いと思う。
 正確に言うならば『遊んでやっている』だ。
 傲慢でも無く事実、クロトが持ってきたゲームの人数合わせとして付き合ってやっているか、対戦ゲームの相手がいないからプレイしてやってるかだ。
 ……シャニの場合、蟻の数を数えている時忘れないようにメモっておいてやったり、ハンカチは何回転して落ちるか研究すると(俺の方が背が高いから)落としてやっていたが……………………そんな訳判らない遊びもシャニにとっては『オルガと遊んでいる』事に入るらしい。

 とにかく、二人は子供すぎる。だから話のレベルも違いすぎて、俺は普通に話に加わる事はない。加われば二人が混乱するからだ。

「知ってるの? じゃあどーすればいい?」
「…………ん……指輪…………貰うの。きゅーりょー3ヶ月分の……それで結婚するから…………」
「きゅーりょーって?」
「お小遣いの事だから……3ヶ月分て…………」

 ……300円か。
 二人分で600円。それぐらいなら用意できるな……。
 …………て、何で俺用意しようと思ってるんだ?

 二人の会話を本を読みながら聞いていた。
 ……結婚の話をした時点から本には全然集中していなかったが。

「それに、俺達子供だから……結婚するには……親のしょーだくが必要なんだよ……?」
「しょーだく?」
「…………お母さんがいいよって言わなきゃダメなんだけど……」
「僕たち親いないから出来ないじゃん、それパス!」
「……俺も……」

 ……悲しい事実を軽く流すクロトとシャニ。
 かく言う自分も親はいないんだが。

「でね、……こんいんとどけ出して…………ちゃんといっしょにいるって約束して……」
「それもパス! どーやって手に入るかわかんないしっ」
「……俺も〜……」

 婚姻届か……子供の遊びにくれるような物じゃないしな……。
 いつか使用目的で手に入れてみたいな……。

 ……その時の名前が此奴等かどうか判らないけど。

「式あげて…………きょーかいとか行ってやるの…………そこで、みんなの前でキスするんだよ……」
「そっ、そんな恥ずかしい事できないよ!!」
「……そうかな……ただのキスだよ……?」

 ……考えてみれば結婚式てみんなに見られてのプレイ(違)なんだよな。
 しかし『ただのキス』と割り切れるシャニは一体。
 ……どうやら『ただじゃないキス』を知っているらしい……。

「式は……きれいな服着て……パーティーするんだけど…………他にも旅行とか行ったりするんだって……」
「…………それもダメだよね、僕全然きれいな服とか持ってないし」

 綺麗な服も無理だし、旅行も無理だ。そんな金は無い。
 ……シャニの言った事はみんな却下されていく。

「僕達……やっぱ結婚出来ないの……?」
「……でも、しょーがいぶつがあった方が燃えるって言ってたよ……」

 ……誰が?



 全て案が否定され続けていくのに、二人の顔も暗くなってきている。
 というか何で子供の遊びにリアルティを追求しているんだろうか?

 一緒にいよう、なんて今のままでいいじゃないか。
 朝から晩まで一緒にいる生活。―――いつまで続くか判らないが出来ていると思う。
 『結婚』なんてわざわざ堅苦しい行事に当てはめなくてもいいじゃないか……。

「ねぇ、他にはやる事ないの……?」
「あと、……あと…………結婚して最後に……しょやするの」
「しょや?」
「……一緒に寝るの」

 ……。
 ってオイオイオイ!
 確かに欠かせない(……)イベントだがそこは(年齢的に)飛ばすところだろうが!

「あっ、それだったら毎晩してるね! ……なーんだ僕達もう結婚してたんじゃない?」

 違 う だ ろ !
 毎晩一緒に寝ているのは本当だけど意味が全く違うだろが!!

 ……いや、毎晩一緒で寝ているというのは彼奴等一人で寝るのは怖いとか言って俺のベッドに入ってくるから……仕方なく…………。

「……ちがうよ、しょやはまだしてないよ……」
「え、そうなの? だって一緒に寝てるじゃん僕達……」
「寝るだけじゃなくて、えっちするの。せっくす」

 超 直 球 。
 ……何でそこで正解を言うんだシャニ!
 当たっているけどここでは違うぞ!!

「………………え………………」

 直球だった言葉に流石のクロトも真っ赤になってるぞ……。

「……えっち……って…………僕まだ一回もした事ないからわかんないんだけど…………」
「うん、俺もオルガとはした事ないから一緒だよ……?」
「そうなの? 良かったぁ、僕仲間外れかなって思ったぁ……」

 ……俺もまだした事は無い。
 かといって仲間外れを気にはしないが、……シャニに言われて少しドキドキしてきた。
 ―――て、シャニお前『俺とは』って…………。



「でも………………それだね」

 ……ん?

「僕達……お金無いしお母さんいないし綺麗な服もないけど……」

 ……へ?

「……それは出来るよね」

 ……あ?



「ねぇオルガっ!」

 だきっ。

 ずっと俺を無視してきた(俺は思い切り盗み聞きしていたが)クロトが再度抱きついてくる。
 クロトは俺の胸に鼻を押し付けた。
 そしてゆっくりと丸くて可愛い目が俺の顔を見て…………



「……『しょや』……しよう?」



 …………なんテ、イッテクルヤツガイルカヨ。



「 バ カ か お 前 は ! ! 」

 そんな阿呆の言葉に誘われてヤろうとする奴がいるものか!
 この上ないくらい怒鳴りつけると、……違う方で、服を引っ張ってくる奴がいた。
 もうひとりの強敵……シャニは服の裾を引っ張りながら…………

「……オルガ、……俺達のこと……嫌いなの……?」

 …………涙混じりにが哀願してくる。
 ―――がそんなものに騙されてはいけない。

「好きだって何度も言ってるだろ! でも結婚『ごっこ』でやるもんじゃない! クロト、今やったら一生消えない過ちになるぞ!?」
「な、何で……? 僕ずっとオルガの事好きだよ?」

 これだからガキは……っ。
 いや、これはガキでもおかしい。
 デカくなってから絶対後悔するに決まっているだろ……。

「…………うん、俺も……オルガのことずっと好きだから……」
「オルガ、僕いっっっしょー好きだからっ!」

 また、……二人は抱きついてくる。
 今度は遠慮無しに同時。―――よって俺は倒され押し潰された。

「ど、退けよ! 少しは頭冷やせ……っ」
「部屋戻ろう? 直ぐにしようよっ」
「冷やせって言ってるだろ!! ―――それにクロト!
 初 夜 は 夜 や る か ら 初 夜 な ん だ よ !!」



 ……。
 …………。
 ………………。

「……そっか。じゃあ、夜やろうね!」
「い、いや夜だからいいとかじゃ無くて………………むぐっっっ!!」

 ―――口に何か押し詰められた。
 何か布みたいだが、……どうやらシャニのハンカチらしい。
 黙らせるため、猿轡がわりに口に押し込んだようだ。
 ……呼吸も危うい程、強く喉へ押し込まれ……。

「夜になってからだねっ。早く夜にならないかな〜♪」
「……うん、ならないかな……」

 ―――完全倒れた(倒した)体を引きずりながら、二人は部屋に戻ろうとする。
 オルガ、逃げたら滅殺! とか……呪うよ〜……などと二人は言っていた。



 そんなお昼過ぎの会話。
 タイムリミットは、あと10時間―――?





 END

 04.3.29