■ alone
やっぱり自分達は間違った【恋愛】をしているのか。
「はあ……っ」
シャニはベッドのシーツに顔を埋め、呼吸と整え直した。
ひどく荒い呼吸はそう簡単に収まってくれるものじゃない。
シーツに埋もり、衣類は全て脱いで体温を落とそうとしているのに一向に冷める気配がない。
少し、シャニは焦っていた。
「……っぁ……」
指をシーツの中に滑り込ませると指が刺激を与えるよう蠢きだす。
肌にあたる白のシーツはとてもキモチイイ。
オルガは直ぐヤリたがる性格だし、クロトも同じように早くしたがる(クロトの場合早く終わらせたがると言った方が正しいが)から服着たヤることが多かった。
けど、シャニ自身は本当はちゃんとしたベッドで、それに向き合って、目を見てする事が好きだった。
つまり、―――身体の相性はお互いイマイチだった。……本当のところ。
長い髪がぼさぼさになるくらいベッドで暴れまくる。
止まっていると躰に熱が堪って、堪り続けて、最後には爆発してしまいそうな気がするからだ。
苦しい。その苦しさをとるための手段は判っている。
……しゅっ、しゅ……。
「……は、は……」
シーツの擦れた音なのか、その行為自体の音なのか―――。
シャニは蹲りながら熱い息を吐いた。
目を開けて見えるのは自分の散らかった部屋だけ。
足下に散乱するCD。そのケース。ベッドの上にも数枚ばらまかれている。
他の物は殆ど見あたらない。
他の物も無ければ、他の人も居る訳無かった。
「……っ…………あ……」
俯せのまま、右足を上へ持ち上げる。
性感ポイントをより触りやすくするために。
「は……あぁ……っ」
触り立てていると僅かに口が開いて声が洩れた。
口を必死に閉ざそうとする。
だけど誰も聴いてはいない。何処にも人は居ないし、こんな時間外の廊下を歩く連中も居ない。
一人で慰めるのに、どうせなら誰か通らないかと考えるようになった。
誰かが、誰かの声でいたぶってくれてもいいのに、と。
「……」
ベッドの下に落としておいたウォークマンを拾う。
ベッドに入る為に放り投げておいたもので、もしかしたら壊れているかも、と思うほど激しく落としてしまったウォークマンだった。
シャニはいつもの様にイヤホンをはめ、そのまま電源を入れる。
当然のように音楽が流れ出す。シャニ好みの叫びの音がする。
曲が始まって、指も再開した。横向きになって感じる場所を嬲っていく。
それが今日のシャニの夜なのだから。
その夜の姿なのだから。
一緒に寝ている奴はシャニには数人いた。
艦にはまだ寝た事奴も沢山いてする気になれば何人だった構わない。
一人で慰めるなんて自暴自棄になっているシャニには珍しい事だった。
躰を交じる事だけだったらどんな奴だって出来る。
愛なんて無くても抱ける相手は何人か……否、山程いた。
けど、愛があって抱いて抱かれる相手も何人かいた。
その相手は二人。シャニには『愛』を持って【愛せる】人物が二人いた。
シャニはその一人ともう一人が好きで、その一人はシャニともう一人が好きで、そのもう一人はシャニと違う一人の事を愛していた。
ややこしいかもしれないが、とても簡単な事だった。
二人好きな人がいるだけなんだから。
通常の愛を男女の二人とする世の中なのに俺には二人。
生を持つ為に神が用意したのも一人の親ともう一人の親の二人。
二人が通常の【恋人同士】ならばおかしいかもしれない。
……そう、一人を愛すればもう一人は後回しにされるのは仕方ない。
現にシャニは、今後回しにされているのだから。
……しゅっ、しゅっ……。
「はあ……あ……っ」
心地よい、と。つい声が出てしまう。
暫くシャニは自分の男性器を慰めていたが、そのうち手は後ろの方へうつっていった。l
より躰を縮ませ、ベッドの中で足を開く。
腕は下へと伸ばし、指を自分の中に挿れる。最初の頃の恥感は完全に薄れ淫靡な装いを帯びる。
前の方ではぬるり、と刺激していた指が濡れた。
もう既に一人でイってしまったらしい。
性欲の処理なんて一人で可能だ。そんなもの二人でやったって三人でやったってイけるものはイく。
くちゃくちゃとわざと水っぽい音を立たせてみた。
何だか自分淫乱だな、とシャニは嗤いたくなった。
嗤った所で何も起こりはしない。
自覚して、実感したのは妙な気持ち。
―――早く、早く自分を相手にはしてくれないか。
ぐっ……。
自分の体液で濡らした指先を挿入させる。
体制的にも辛いし、自分自身で挿れ込むのは何処か抵抗があった。
指は一本先端が埋まる所で終わる。
でもそれだけじゃ足りない。と目をキツク瞑り、もっと強く指を押し込めた。
感覚は一気に大きな物へ腫れ上がっていく。
「っ、ぁ……」
苦しい。
けどその苦しさが欲しくて自分自身を傷つけていた。
左手で前を、右手で後ろを二カ所同時に刺激していった。
確実に充血していく自分自身。伝わってくる熱さにシャニは失敗したと思った。
熱さを抑えるための行為が、余計欲しがってどうする。
躰全体をまるくして、一点を更に刺激し出す。
目を閉じたまま眉を顰め、その部分を無心に擦り続ける。
「……んー……っ!」
時々痛みも走った。
躰も飛び跳ねるくらいはする。
そうでないと刺激が来なくなってきた。
もっともっと大きなものへ。
痛みが快楽へ変わるのにはより大きなエネルギーが必要なんだと認識する。
だから、俺に必要なのは、
―――彼奴等、の―――……。
切なく、瞼を閉じる。
「っっっっ―――…………」
―――また一人シャニはベッドのシーツに顔を埋め、呼吸を整え直した。
「は……はぁ……はぁ……」
指にこびり付いた自分の半身。自らの口で清め、味わい、また官能を高ぶらせた。
苦い。……美味い訳がない。
でも気が狂ったように二人は「俺のなら」と言う事があった。何を強がりにそんなキモチワルイ事を。
「はぁ……は……」
目を閉じながら、想い続けていたのはただ一つ。
―――彼奴等の事。
渇望。
彼らのが欲しくて欲しくて堪らなかった。
挿れるのも、掛けるのも、ぶつかり合うだけでも、抱き合うだけでも構わないと思った。
とにかく、彼らが欲しい。
禁断衝動は最悪の所まで達したらしい。
どうしようもなく、―――俺は彼らを、好きらしい。
「ぁ……は……はは……」
情けない声がCDとアツっぽい空気だけの部屋に響いた。
その暑さにまたやられそうだった。
「はは……は……」
薬や自由よりも欲しい物を見つけてしまった。
―――あぁ、あの二人、今日俺の部屋来てくれないかなと思う。
出来れば今。この状態で。
彼奴等を思いっ切り楽しませる自信がついたのに―――。
シャニは適当に軍服を羽織り、部屋と飛び出した。
適当に自分を拾ってくれる、そんな人間を捜し求めに―――。
END
03.12.19