■ Amusement



 ―――お互いを無視する関係なんて厭だ。
 もっと知ってほしいと泣きつかれて、これは始まった。



 俯いた顔がある。ずっと難しい顔をしているクロトを宥めるように、シャニはクロトの顔を上げさせた。キスしよう、とシャニが言うと、クロトに承諾を得る前に口付ける。最初は二人とも触れただけだったが、次第に舌同士を這わせて、次には唇から離れてお互いしゃぶりついた。舐め合って、落ち着いた所で舌が離れる。赤くなっている頬。熱そうに絡み合う二人を見ていた。



 ―――みんな、冷たいから。
 そう言って誘ってきたのはクロトだった。誰も話しかけてくる奴なんていなかった。誰もかれもが話しかけて来たってとにかくムカツくことばかりだった。良いデータが出ないとか、もっと強化するしかないのか、といった腹の立つ事ばかりだった。



 ―――もっと、近くにいたい。
 誰かに話しかけられる度に腹が立つ。そんなものに気を遣っているのは疲れる。だから一緒の艦に乗っていても、同じ系列のモビルスーツなんか乗っていても、同じ訓練で同じ薬を服用していても、お互いには触れず、ずっと無視していたんだ。誰よりも近い位置にいた奴だった。でも、話しかけるな……と誰かがそうしようと決めた訳ではない。そういう事が、この艦での約束事だった。



 ―――もっと、見ていてほしい。
 言い出したクロトも、自分から彼らに話しかけるような事は滅多に無かった。誰よりも早く一人になって、自分だけの世界へ、ゲームの中へと入り込んでいた。けれど、いつの間にかその関係は終わり、新しい関係が生まれた。
 今、こうして繋がり合う仲、へと―――。



「……もう終わり?」

 シャニに頬を叩かれ、うっとりした目だったクロトは正気に戻る。

「結構早いな……クロトって…………」
「っ、……そ、そんな事ない……っ!!」

 何か屈辱的な事を言われたのは、必死そうにクロトは弁解する。

「シャニの方こそ、もう息上がってるし、そっちの方が疲れてるだろ!」
「そうかな……」

 クロトに反論されてもシャニは気にせず、キレイに流した。瞬間、……シャニの口元が緩んだ。―――何か、面白い事を思い付いた顔だった。

「そうだ。……ねぇ、クロト……今夜は、一人でやってみてよ……?」
「……ぇ……?」
「いつもオルガの手伝ってくれたりしてるだろ……? それ俺にも見せてよ……」
「……っ!!」

 ……手伝っている。手伝わせてるつもりは無かったが、三者として見ているシャニにはクロトが俺にする愛撫がそう見えたらしい。あの不器用さがまた楽しい。

「な、そんなの……!」
「何で? 今更じゃん……?」
「…………あぁ、俺も見ていてやるから」

 今の今まで黙って二人の会話を見ていたが、賛同してシャニと並ぶ。と、クロトは信じられないといった顔のまま睨みつけてきた。
 それは視線だけ。それ以外は何もない。否定も肯定も。
 別に、それを喰らっているだけで一晩を過ごしても構わなかった。クロトがそれを選ぶのなら反論するつもりはない。元々、クロトから誘ってきたんだ。やろうと言い出したのはクロトで、奴が止めようと言うのなら直ぐ止める気でいた。

「……っ」
「出来ない? 出来ないならそう言ってくれればいいけど……」

 そんな事も出来ないの……? と貶すようにシャニが言うと、暫くしてクロトは決心したようにズボンを下ろし……下ろしたが、直ぐに股間のものを隠した。
 今までの行為で何度も見られていたものも、意識すると苦しいものらしい。いきなり『正気』に戻ってきたクロトはただ横を向いているだけだった。

「…………その手もどけて」
「……」

 シャニの言葉に、自分の股間に添えていた手をゆっくり離す。
 まだ幼く小さいモノが顔を出した。
 ―――微かに、上を向いた、クロトのモノが。

「あれ……もう感じてる……とか?」
「……っっ」

 黙ったまま顔を赤くする。
 そして次の先導を待っているようだった。
 クロトは自分からだと何もしない。けれど少し言葉を掛けてやればどんな事だってする。まるで、何処かの人形のようだ。
 やれと言われればやる、そんな命令に忠実な―――



 ……考察はやめよう。今は、クロトが悔しそうに自分を慰める姿と、それを責めるシャニの姿が見ていたい、そう思った。

「さっきキスしただけだよね……なのに……? あ、もしかして俺達が来る前に一人でやってたとか……?」
「そっ、そんな事……っ!」
「じゃあ、見られるだけで感じちゃうってヤツ?」

 意地悪そうに笑うシャニに、わなわなと口を動かしながらも何も言えずにいるクロト。その姿を楽しく見守る事にする。
 シャニは、何もクロトには手を出さないつもりだったらしいが、少しずつ近づいて……クロトの髪を撫で、肩に手を置いた。どうやら至近距離で自慰を見る事にしたらしいが、……それがクロトにとって安心感を抱いたらしい。
 始めは躊躇していた手が、ゆっくりと動き出す。

「ん……んう……っ」

 ゆっくりと触れ、徐々に上下に動かしだす。

「隠してちゃ駄目だよ……前の、オルガにも見せてあげなきゃ……」
「ぁ……はぁあ……っ」

 耳元に呟かれるシャニの声が響いたのか、クロトの手はより一層擦り出した。
 ……前に立って、少しシャニの力を借りて必死に慰めているクロトに、見たコト無い感情を抱いた。


 ―――普段、一人の世界にいち早く入ってしまうゲーム小僧。
 静かな場所に、擦る音だけが鳴る。


 ―――構ってほしいと、……自分を見てほしいと強請ってきた子供。
 しゅっ、と擦る音が聴こえる。あまりに必死にやっている姿に、笑いを堪えるのが苦しかった。



「あ、ぁ……っ、おる、ガ……っ!」

 ……あれを服用しすぎで多重人格になると聞いた事があった。クロトはまさかのそれかもしれない。
 難しい詞を並べて気取っている野郎と、今懸命に、只言われただけの事に必死になって取り組んでいる姿。それを同一視する事は出来なかった。

「ぅん……んあぁっ…………ぁ……」

 下半身だけ晒して、まだ明るい部屋で一人立つ姿に興奮した。
 隣にだらしなくもちゃんと衣服を着込んでいるシャニがいるせいか、クロトの姿は余計非現実感を出していた。
 クロトのは直ぐにさっきよりも大きくなり、そして先からも液体が溢れ出した。ねっとりとした液体を刺激していた手が掬いとり、自身に塗りつける。そして又、刺激を再開させていった。

「凄いな……あっという間におっきくなった」
「ぁ……あ……ぃっっ!」

 シャニに言われたことに反応したのか、先をゆく液体が溢れ出してきた。

「ね、クロト……もっと見せてあげようよ」
「あ、……ぁっ、ぁあ……!!」

 シャニの声がクロトの気分を更に高めさせ、どんどん反応していく。
 既にシャニの支え無しではクロトは立っていない。
 ……もう、クロトはいい様に遊ばれるモノになっていた。

「まだ……出来るだろ? オルガ……ずっと見てるんだから、期待に応えてあげなきゃ……」
「ぁ、んうあぁ……や、だっぁ……」

 厭だと口では嫌がってみせても、クロトの手はシャニの声によって操られているようだった。
 不思議な光景だった。
 口から出ている言葉としている行為が全て違う。快楽に全て身を委ねている。


「ほら、イっちゃえ―――……ッ」
「ん、ぁぅあ……ッッ!!」


 洗脳の声が続く度に、激しく躰が揺れた―――……。


「ぅ、あぁあ―――……ッ!」


 ……飛び出した液体。
 飛び散り、静かな部屋に振り落ちた。
 少しだけ顔に掛かってしまったが、構わず二人の様子を眺めていた。



 ―――無視し合うのは厭だ。
 そう言いながら近づいて来た奴だった。
 どんな事をしてもされても嫌だ嫌だと口で否定しながら受け入れている。

 ―――近くにいたい、見てほしいと縋ってきた。



 考える。
 そんなにも縋ってまでも、この行為を受ける価値なんてあるのだろうか
 それと、クロトはこんな仮初めの行為を受けて嬉しいのか―――



 ―――でも達した答えは
 そんな事はどうでもいいと
 ただ興奮をぶつけたい

 ―――それのみだ。



「―――はぁ、……はあ……っ」

 クロトの足はガクガクで、大きく二度息を吐くとシャニに支えられながら崩れ落ちた。シャニもクロトと同時に崩れる。

「気持ちよかった……? ……オルガに視られて……さ……?」

 気付けば、シャニの息も明かに蒸気していた。クロトと一緒にイってしまった様に、―――まるで二人は一心同体の様に。
 何度もシャニの詞に突かれて、意識を手放しそうになっていた。
 喉が枯れてロクな言葉が出てこないのか、シャニにしがみついては高く泣く。
 だけどその指が震えていてシャニの手も背中も何も掴めていない。
 衝撃が強すぎたのか、身体から心が飛び出しているようだった。
 そんな、全部バラバラになりそうでも、俺の中は構わず走り続ける―――。



「……もう、イイだろ?」
「えっ……、………………ぃ、ぁあっ……ッ!?」

 床に座り込んでいたクロトの脚を拾い上げる。軽い躰は無重力でもないのにあっという間に反転し、どろどろに落ちていた液体は上半身へ逆流する。
 上着が捲れ上がり素肌が外に晒される。体中か、赤く染まっていた。
 クロトを責めながら声を掛けた。最初は優しくしてやっているつもりだったが、どうやらもう一人の俺が堪えきれず早く泣かせてやりたいらしい。慣らす筈の指は更に中へ、ずっと深々と挿り込んでいた。指先が中を掻き回して、さっきよりより苦しそうに泣いていた。

「っ、……いた、いぃ……ッ」

 もうクロトの口からは苦痛の言葉しか出てこない。

「あっう、ん…………っ」

 床に寝かされ、下半身を浮かされ、万歳をするように寝転ぶ。
 仕方なく指を引き抜いてやると、すすり泣きながら俺を睨んだ。
 ちょっと激しく責めすぎたか、あのクロトがヴァカの一言も言わず無言で睨むだけだなんて、
 酷く、

 ―――珍しいと思うだけだった。





 END

 03.12.7