■ Examined type



 ベットの上で寝返りをうつ事も許されなかった。手首に巻かれた鎖のせいで頭の上は真っ赤だった。
 シャニはシーツを噛み締めて声を封いだ。一体どれくらい、痛めつけられているのか、永遠の考えながらシーツを引きちぎるぐらい噛み続ける。時間なんてもの気にしている余裕なんて無かった。次から次へと異物が身体の中へ侵入してくる。それがとにかく痛いから神経全て其処に集めて緩和させなきゃいけない。
 休む事など許されない。苦しい想いはしたくない。一睡も出来ない。出来る訳がない。
 逃げ出したい。愛の有る行為が欲しい。
 そんな事も想っていられなかった。
 噛み続けたシーツから鉄の味がした。シーツから血が出る筈がなく……それが自分の物だと気付く。あぁ今コレが始まって何時間経ったのかな、と考え、いいかげん終わってくれないかなと考えた。

「んっ、んん…………んぅぁ……っ」

 またキた。暖かみのない物が、身体の中に侵入してきたらしい。新しい『味』の衝撃で声が一段と洩れた。
 挿ってきたのは、人工物。只の玩具。そんなもので愛が感じられる訳がなく、痛みに耐えるしかなかった。濡れないからと流し込められた液体も実際には痛みを緩和させるものなのにシャニには痛みにしか感じられなかった。
 ……それより、鎖で縛ってる辺りからして愛なんて来る訳ないけど。

「ぃっ!? ……ぁ、いぁ…………あ……」
「やっと声、出してくれるようになりましたね」

 ……背後から、嬉しそうな声がした。少ししかまわらない首をまわすと、その声の主が見えた。
 嬉しそうな口元が見える。楽しそうな目が見える。
 自分でそれなりなモノを持っているくせに、変な玩具でいつも相手をからかっているのが見える。

「声、思う存分出して下さいよ。その可愛い声、ずっと聴いていたいんですから」

 台本に書かれていた台詞のように、すらすらと口から言葉が出てくる。只、人が傷つく所を見ていたいだけだろうに。
 その声の主は……、反応が悪いからと変な玩具を持ち出して試してきた。その度に、―――傷じゃないけど身体が痛んでいく。全然悪い所なんてないのに、薬を使われ逆に病んでいった。

「ひ……ひ、ぃ……あ……?」

 まだ続くのか、と絶望して情けない声を挙げていると、予想に反して主は腕の腕輪を外してくれた。鎖の拘束が解かれる。でも自由になる事はなかった。
 縛られた痕が空気に触れスースーして、身体が妙に疼いていた。中途半端な自由に困惑する。

「もう僕は手が疲れましてね、続きは彼らに任せようと想ったんですよ。……それじゃあ、後の世話宜しくお願いしますね」

 にっこり胡散臭い笑顔を残して、アズラエルは部屋を出ていった。躰自身が崩れていきそうな人間がいるのに、彼のシーツには皺一つ無かった。住む次元が違う、一言で表すのにも違い過ぎる気がした。
 疲れたならもう終わらせてくれればいいのに。そんな叫びは形に成る事は無かった。
 シャニは真っ白だった意識を戻して、少しずつ言葉を絞り出すしながらよろよろと近づいた。この部屋がどんな所で、自分を虐めていたのは誰だったかやっと認識出来た。……起きあがった時に、同じ境遇にいたらしい二人の姿が見えた。ずっと同じ時を過ごした二人。既に薬を与えられたからか呼吸は落ち着いているようだった。シャニは安心する。
 ……只、視線が痛かった。同じ時間をずっと過ごしていたということは、……シャニが無惨に玩具に犯される姿をずっと見ていたという事で。

「シャニ……平気……?」

 アズラエルが消えた後、クロトが心配そうにシャニに近寄り、血に汚れた手首を優しく撫でた。まだ人を気遣えるクロトだが、クロトも『きちんと』お仕置きはされていた。躰はボロボロだろう。それでもシャニを子供を宥めるように抱き締めた。
 シャニには抱き返す力も無かった。首に廻された腕は適度な暖かさで心地いいけど、自分の体温を分け与える余裕が無かった。クロトに為される儘にされる。
 でも嬉しかった。クロトの腕の中にいて、シャニは少し口元を歪めた。
 何度も、『あの時、舌噛まなくて本当に良かった』と思って口元を歪めた。



 ……一体、コレは何時から始まったんだろう。
 アズラエルに玩具で遊ばれる日々。……否、玩具として遊ばれる日々。時々、何人か呼ばれては(大体は一人だけど今日みたいに三人一緒の時もある)好き勝手やっていく。上下関係はいつの間にか出来ていた。それを覆す事が出来る日は、多分来ない。

「……シャニ……」

 もう一人の心配性のオルガが、シャニのキスをする。涙が流れた痕がある塩っぽい頬だったが―――優しいキスの仕方に、甘さを感じた。
 さっきまで地獄の責めを強いられていたというのに、ほんの一瞬のキスで、あんな辛い事がが忘れられるだなんて―――。
 『ほんの一瞬』のキスは直ぐ終わる。離れていくオルガの顔を、シャニは重い腕を持ち上げて引き留めた。

「…………するんだろ…………?」

 強請る。『ほんの一瞬』であんなに心が安らぐのなら、ずっと永遠としていれば全てが忘れられる。何もかも楽になる。……そんな風に捉えた。

「『後の世話』……するんだろ…………さっさと終わらせてよ……」

 まだアズラエルはシャニを痛めつけようとしていた。その役を二人に譲ったのだ。でも二人はそんな事をするつもりは言われた時から無かった。アズラエルが消えたらしたすらシャニを慰める―――泣かれても拒絶されても慰めてやる、二人は心の中で了承していた。

「やんねぇよ。もう苦しいの厭だろ……?」
「……命令違反ー……」
「今に限った事じゃないだろ」



 ……一体、コレはどうして始まったんだろう。
 問いかけて、無くしていた記憶を掘り起こす。意外と簡単に答えは出てきた。―――命令違反、だったなと。

「まだ、躰……熱い」
「水でも被ってればいいだろ」
「もっと、……暖めてもいいよ」

 仮にも此処は軍だからお上のお言葉は絶対。出来る限り、……否、命に代えても守ってみろという教えがある。今回三人に命じられたものは、酷く曖昧なものだった。
 『負けてはいけません』
 あまりに広すぎる命令に最初は戸惑った。戦いで負けたら死だって判っているけど、エネルギーが切れても負けか、敵を全滅させる事が出来なくても負けか。……その命令を違反する度に、『お仕置き』と言われる彼の遊びが始まる。
 嗚呼、アズラエルにとっては『軍の命令』とかそんなものどうでもいいのか。用は、遊び道具を創る言葉が欲しかっただけなんだから。

「シャニ……今じゃなくても……」
「今がいい……熱くて死にそう……」
「それでもっと暖めてくれって? 何か矛盾してないかソレ……」
「してない……躰、どくどくイってる。あそこも……何かぬるぬるしてるし……キモチワルイ…………」

 だからシて。
 ―――壊れているのが、ハッキリと判る言葉だった。



 オルガは『命令通り』、シャニを再度引き寄せた。大人しいシャニの身体を更に押さえつけると、……前からクロトがシャニの唇を塞いだ。少し苦しそうな声を挙げてシャニは目を閉じ、クロトの口づけに受け応えた。暫くは穏やかに、優しく柔らかくその口づけを楽しんでいたが、敏感な突起にオルガの指が届いた瞬間、シャニの総身がビクッに硬直した。
 先程まで無造作にいたぶられていた場所を、今度は仲間に優しく揉みしだかれている。クロトはシャニの唇を舐めまわして吸い寄せ、「成る可く、気持ちよくするから」と言って放した。
 やがてシャニは鼻から熱い息をこぼし始め、抵抗力を緩めた。それでも鋭い目つきで睨んでくるが、構わずオルガは少々乱暴に、四つん這いにさせた。

「ちょっと我慢してろよ……」
「ッ……!」

 微かに身体が強張る。前の行為とは比べ物にならないくらい優しく、下半身の方を揉みしだいてやる。そしてオルガが何本か指を突き立てると。、指の腹の部分でこねくりまわした。

「ぁ…………痛………………っ」

 ……拒否の言葉が繋がらなった。自分の情けない声が聴きたくないらしく、口をつぼめてしまっている。激しく抵抗はしなかった。
 オルガは捨てられた玩具を拾い上げると、舌で先端を濡らして、自分の指が数本入っていたシャニの口にズブズブと入れていく。

「いっ……ぃあ…………!」

 数分前まで集中的に弄られていた痛みが再来する。オルガは根本を動かして、中で曲げたり、出し入れをしたりすると、シャニ我慢出来なくなったのか甘い声を発してきた。

「や…………ぁっ、くぅ……っ!」

 腰をくねらせてきた所で、出し入れの速度を上げる。結構細身の玩具はするするとシャニの中へと吸い込まれていく。もう一本…………同じ大きさの同じ玩具をクロトに拾わせると、今度はクロトがシャニの下の口に玩具を突き立てた。

「ぁ、あぁあ……ッ!」

 二人は交互に撫でるように動かし出した。シャニの顔には苦悶と快楽を受け入れる表情と、涙らしきものが零れる。躰が本当に切れそうになる感覚がする。本当はもう切れていてだから通りが良くなっているのかもしれない。それでも二人は何も抵抗もなく、玩具出し入れを受け止めていた。

「はぁ……んん……っあ…………ぁァ……!」

 より激しくシャニの身体が弾けた。姿勢は完全に崩れ、息も絶え絶えの状態で呼吸を整えた。オルガは細身の一本を引き抜く。
 …………と、シャニの身体と玩具との間に生暖かい糸で繋がっていた。

「はぁ……っ、あ……」
「もう、イっちゃった?」
「っ……」

 クロトの無邪気な質問にシャニは顔を赤くして俯いてしまった。シャニの身体を荒っぽく息を吐くと、玩具を捨てて、呼吸も儘ならない口にクロトが口づけた。

「オルガ……コレ何?」

 クロトが無邪気に、不思議な物を取り出す。

「さぁな…………今使ってるコレの小さいヤツだろ?」

 コレ、とアクセントを付けてオルガは勢い良くバイブをシャニから引き抜いた。

「は、ぁっ! ……はぁ……ぁはあ…………」

 突然の動きで悲鳴を挙げる。色々な体液を流し垂らしていた。

「シャニ…………これ使ってもいい……?」

 下品な道具を目の前に突き付けられて、シャニは顔を背けた。クロトの手の中で踊っているのは、小さなカプセル状の物だった。端にはコードが付けられていて、その先にはスイッチが付けられている。クロトがスイッチを入れると、新たな機械音が部屋に響いた。
 カチリ、とスイッチを入れると静かで暗い部屋に、微かな機械音が流れ響く。異様な空気しか漂っていなかった。

「ぁ……っ、やぁ……も、ぅ……」

 機械音は、一人の身体の中から発している。
 人を酔わせるために創られた玩具

「や……だ……ぁ……オルガぁ……」

 名を呼ぶ。まだ幼い声が部屋に響く。その玩具を操縦している。
 また腕には新たな拘束がされる。ベルトなので傷口を全て塞ぎ、出血を止めていた。傷口は、新たに遊ばれる痛さのせいで全く痛んでいない。神経は全て下半身だけに集中している。
 痛みを少しでも和らげようと腰を動かそうとするが、今度は丁寧に足まで結んでくれたから巧く動く事が出来なかった。動けないと判っていたが、少しでも、と芋虫のようにもぞもぞと蠢いた。同じように、玩具もリズムに合わせて蠢く。
 開かれた脚の中にオルガは入って、ずっとシャニの中に玩具を挿れこんでいた。中へ中へと入っていくドリルのような玩具ではなかったから身体と玩具二つ一緒に動くと直ぐ外れてしまうから。出てこないようにずっと入れ込んでいた。しかしオルガ自身はその玩具を動かさない。その機会が覚えている通りに動く。
 シャニが自分で動くのは、逃げる為ではなく、単調で詰まらない動きが気に入らないからだろうか。
 オルガは拘束もされていない。自分の意志で、自分の身体を動かしている。変な物を飲まされた記憶は、山ほどあるけれど。

「凄……これ、嫌かな……シャニ?」

 いくつもあるカプセルをシャニの目の前でぶら下げる。自由な動きが出来ないシャニはうっすらと目の前でぶら下げられた物を見つめた。

「……ッ……」

 クロトは電源を最大にして、最大で動くローターを、……シャニの腹部に押しつけた。新たな異物にシャニは身体を震わす。どんなに震わせてもベルトは外れる事はない。徐々にそのローターを上の敏感な所に持っていった。

「ぁ……あっ……」

 シャニの口から声が洩れだした。ローターを押しつける度に、シャニは艶っぽい吐息をつく。こねくり回すと、元から上がっていた乳首が更に張りつめていった。

「ぅ……クロぉ……っ、あ、あぁあ―――ッ!」

 その度にシャニは喘いだ。しばらく上の方を弄んで、ローターを離し電源を落とした。
 シャニはとろん、とした目で振動が止んでいくローターを見つめる。

「ちょっと……痛かったよね、ごめん……今だけ我慢して………………」

 バイブで散々掻き回した所にローターを押し当てた。簡単に小さなカプセルはシャニの身体の中へ沈んでいく。異物感に身体が騒ぐ。奥へと捻り込んだ。その度に悲痛な叫びがあがるが、誰もその行為をヤメさせようとする者はいなかった。
 さっきまでバイブで弄られた所。濡れない其処のために媚薬もローションも使ってある。それだけではまだ足りないだろうに、シャニの中はくちゅっ、と女性的な水っぽいいやらしい音がした。
 オルガはシャニの腰を上げさせ、指を捻り込む。つぷりと指が沈み、長い指で乱暴に愛撫した。

「んぁ……っ!」
「スゴイな……2個も入ったよ……わかる、シャニ?」

 横で挿入部を見ていたクロトが、感心、とまるで喜んでいるような話をする。その間もシャニの肩は小刻みに震えていた。
 身体の中だけじゃない。両乳首に1つずつと、使われていない男性器に1個。

「っ……っ!」
「さっきのに堪えられたんなら大丈夫だって。…………失神するかもしれないから気を付けろよ」

 どう気を付ければいいのか、言われたシャニも言ったオルガも判らなかった。カチり、とスイッチを入れる。

「……っ、ぁ、ぁあぁあ―――っっ!」

 シャニの身体が仰げ反る。がくがくと身体が震えさせて泣け叫んだ。

「はぁっ……うあ……ぁあぁ……!」
「シャニ……っ!」

 クロトはベットに押しつけるように、シャニの躰を支えた。二人の意思関係無く玩具は動き出し、シャニの意思関係無くシャニの躰が動く。上に取り付けられた物は暴れたせいで簡単に落ちた。だが『中に』入れ込まれたものはそう簡単には取れない。いくら暴れてもスイッチを切って出して貰わない限り叫びは止まらなかった。
 シャニの躰に、短くて細い尻尾が生えているように見える。

「ぁ……いた……や……あ……っっ!!」

 求めながらも悶え苦しむシャニを見て、オルガは居たたまれなくなった。玩具如きに弄ばれる姿。―――自身をぶつけたいと想った。

「あっ、ぁ! ……は……はぁ……っ」

 シャニの絶頂は呆気なく迎えられた。ゆっくりオルガは電源を落としていく。肩で息をしているシャニから、尻尾を取り出す。中がズレたのが痛いのかシャニが思いきり眉を顰めた。快楽なんて無いみたいに。……只、痛めつけられてるみたいに。

 ……一体、どうしてこんな事をし始めてるのだろう。
 クロトが一つずつシャニの汗を指で舐めとっていく。そんなクロトの表情は、さっきのシャニのイキっぷりを見てオルガと同じ興奮しているように見えた。……シャニの躰を思って行動に出ていないだけだろう。

「満足した?」

 とシャニに、満足していなそうなクロトが問う。
 シャニの答えは、


「玩具じゃ全然感じないんだな」


 ……首を横に振った。主語が抜けてる言葉を吐きながら。



 完全に自分の呼吸が戻ってきた頃、―――シャニは目を開けた。隣には満足出来たらしい二人の姿がある。視界に二人の姿が映った途端、謝罪の言葉を述べた。
 やりたくもないのにごめん、とか。俺なんかじゃロクに満足出来ないだろう、とか。
 決して口には出さないが、シャニは何度も二人に謝っていた。口に出して行動で示した方が罪を償うのにはあっているらしいがシャニは一度もした事が無かった。……そんなんじゃ許さない、そう言われるのが怖いのもあるのかもしれない。ただ声を出す事が面倒なだけかもしれない。……とにかく、シャニは横たわるどちらかの躰にしがみついて、何度も謝罪を続けた。

 ―――最初に去っていった、あの影が還ってくるまで。





 END

 03.11.7