■ Abuse poisoning



 初めて会ったのは、上司越しの待合室。
 堅苦しい軍人しかいないと思っていた其処に、似つかない小柄な影が隠れていた。

 ―――この子達が貴男の仲間ですよ。

 確かにアズラエルはそう言った。
 が、オルガにはその部屋に言われた仲間は見当たらなかった。
 いくら探し回っても、目にその姿は映らなかった。

 其処に想像した仲間はおらず。
 在たのは、―――二人の少女だけだったのだから。



 /1

 化け物に性別は関係無いと言った所か。

「ガキで生意気で女のくせに、何で俺より………………」

 認めたくなかった力の差にオルガは苛立つ。
 初めて試したMS訓練では大敗、二度目気を引き詰めて行った訓練で一勝二敗。三度目でやっと引き分けにまで持ち越せた。
 遠距離型VSと近距離型そして両立のどれが一対一の勝負で劣るかといったら、オルガの遠距離型だ。一般的にそうであっても、自分を許せずにいた。

 何故という理由は、……ガキで生意気で女だからだ。
 これでもトップの成績で選ばれた男としてのプレイドに、傷をつけられている。
 尚かつ、

「いいかげん実力の差だって気付けよ、ヴァ〜カ」
「……根に持つ男、うざい……」

 生身を目の前にして、そんな言葉まで投げつけられている。
 許せなかった。



 クロトは、既にノーマルスーツから連合の軍服に着替えていた。
 まだ幼い顔と身体は中世的で、口調も男っぽく荒いものから時々性別を間違えてしまう。だが目に優しい春色のその服は、どんなに男らしくもクロトが女である事を知らせてくれた。
 ……自分はこんな少女に負けた。
 オルガは躰の奥深くに刺さった棘を抜けずにいる。

 目の前にいる、……こんな見た目も中身も幼なげな少女は、黒い機体に乗れば性格が変わり激しく乗り回すのだ。
 軍人ではない、異様さ。

 隔夕オルガも正規の軍人ではない。士官学校に出る余裕など無かった。だが頭と腕っ節だけは自信があった。コーディネーター並の力は連合軍の研究によってもたらされたものだが、道端に転がっているような有り触れたどんな人間よりも強い…………筈だった。

「オルガは無駄に撃ちすぎなんだよ。もうちょっとちゃんと撃ちなよ」
「……うるせーよ」

 引き分けとは言え、まだ連勝中のクロトは生意気な顔を寄せてきた。自分の勝利を自慢するクロトに、腹が立ってくる。色気も何も無い顔を寄せられてもどこも嬉しくなかった。
 女としても使い物にならない程、幼い。
 どんな手段を使ってこんな場所に潜り込んできたのか、……興味がある訳ではないが、ふとオルガは思った。

「早く僕に勝ってみなよ。まっ、一生ムリだと思うけどねー。あ、もしかしてあの結果、レディファーストのつもり? そうじゃなかったら負けるなんて格好悪いもんねっ」
「………………お前な!!」

 本気でかかった記録を貶され、声を上げる。
 何を思ってか近づいてきた首を片手で掴んだ。
 一瞬、クロトの顔が苦痛で歪む。…………が直ぐ戻った。

「……なに。何のつもり?」

 戻してからクロトは顔色を一切変えず、無感情にオルガの行為を尋ねた。
 逆に、恰好のつかないオルガの行為にあざ笑うような視線をも送る。
 実力で勝てないのだから卑怯な手を使う……そういう風に思われてもおかしくない図だった。
 オルガは、力を入れずクロトの華奢な首を締めようとする。

「俺は……『本気』でお前らに負けたんだよっ!」
「…………あーあ。自分で負け認めてるの? ちょっとは強がってみたらどーなんだよ。格好悪いなぁ」
「お前らは俺より強い。強い奴が勝つのは当たり前だろ。………………・ステージが俺より上だしな。それにハンデがあって当然だ」
「………………ハンデ、だって?」



 ……崩れかけたクロトの顔がまた元に戻る。
 恐怖心を煽らない丸い瞳で睨みつけ、全身の毛を逆立てるように肩を上げる。
 言葉で責めてた側の、形勢逆転。
 クロトは、高い声を上げた。

「何がハンデなんだよ……! これは、僕の強さだよっ。負けたからってそんな所にケチ付けないでくれる!?」
「ハッっ……。お前なんか薬の力無しじゃタダの女だろ。MSを奪われたら何にも出来ないくせに強がるなよ」
「そんなの……お前だって同じだろ! お前は機体奪われて何が出来るんだよ!」
「白兵戦の知識はそれなりに、……当然だろ? お前の方がヤバイんじゃないか?」
「そ、そんな事…………!」

 例えばの訓練。
 もし機体が落とされ、運悪く爆発せず機体を回収される。大体のGXシリーズには自爆機能がついているがそれも押せない程に傷ついていたら。
 捕虜。
 通常の兵士であればそれになれば済むのかもしれない。だがクロトは……オルガもシャニも、『機密兵器』だ。外部にブーステッドマンというデータが洩れるのは困る。
 その為の逃亡術。
 それは、MS搭乗訓練をする前に学んでいる筈だろう。
 …………なのに。

「いいかげん、この状況から脱出してみろよ」
「……っ……!」



 クロトの首を掴んだ手の力は、強めても弱めてもいない。
 既に1分近く経っているというのに、クロトはまだ何も出来ずにいる。
 締められた腕から解放されたいと、細い指が解こうと懸命に動かしている。
 だが、クロトは非力すぎて指を解く事が出来ずにいた。

「は……っ、もう……っ、退けよ……!」

 きつくは首を絞めてはいない。多少苦しいだろうが、酸欠で力が出ない程にはならない力だ。
 それなのにクロトは苦しげに小さな声を上げ、オルガの責めから逃れようとする。

 だが、……1分半をきったその時オルガは壁に首を投げつけた。



「ぁ……っ!」

 頭から壁へぶつかり、ゆっくりと倒れていくクロト。思った以上に軽く、壁に吹き飛ばされる。
 打ち所が悪かったのか、酷く蒸せ込んでいた。

「くそ……、オルガのバカ……!」

 呼吸を整えているが、もうクロトの躰は崩れかけている。
 色気も無く、そんなものを考えた事のないようで、―――脚はみっともなく開かれていた。

「……」
「痛……、こ、このやろぉ……!!」

 誘っているのなら、もっと良い表情をしている筈だ。
 一体、クロトはこの軍に来て何ヶ月目なんだろうか。制服のスカートを履き慣れていないようだった。
 下着が露わになっても気にしないのか、気付いてないのか。
 無防備な曲線に、オルガは手を這わせた。

「っ、……!? な……」
「お前、やっぱり軍人じゃないんだな?」

 何処かで聞いた話を思い出した。
 ケースが少ない女性の軍人は、尋問の時、肉体的な苦痛より性的な拷問を受ける場合の方が多い。
 体外はそれを受ける前に女性の精神の方がまいってしまう。
 だから、口を割らぬよう、精神ショックを少なくするよう十二分に『開発』しておく必要があるという。
 軍隊物の官能小説でありがちな設定だが、どうやら嘘ではないらしい。
 ……因みに、オルガの聞いた話は『本人談』だった。

「ほらよ、逃げてみろよ。バカやっても俺みたいに負け犬に弱音見せるんじゃねーぞ」
「え…………ひ、ゃ……っぁあっ!」

 首の次は太股。
 その次は……膨らみの足らない胸へと手は移行する。
 揉める程の大きさはクロトにはない。仕方なくオルガは赤のタンクトップを胸の位置まで捲り上げた―――。



「っ、あ…………オルガ……ッ!」
「……ん?」

 ……クロトの躰が下着も付けられない程、幼すぎるものだと言うことに絶句した。
 足りない、なんてレベルではなかった。……この年で女装趣味の男子、本気でそうなのかと思ってしまうぐらいだった。
 確認にとオルガはめくられたスカートの中に手を入れる。
 ……勿論、男性器など無かった。

「や……やめろ、変態……! バカ……!」

 タンクトップもスカートも裏返され、クロトは暴れているが片手で制止出来る程だった。
 オルガは、小さな胸の膨らみに唇を落とす。
 落とすだけでなく、舐めてもみた。
 片手だけ入り込んだスカートの中で、下着越しに愛撫を始める。

「やぁっ……、変なとこっ……触るなぁ……!」

 ……つん、と汗臭さを感じる。
 考えてみれば訓練が終わって、急いで制服に着替えただけだった。クロトは敗者を貶しに来たあと、シャワールームに行くつもりだったのかもしれない。
 それなのに馬鹿な喧嘩をして、馬鹿な事に付き合わされて…………クロトが少し不憫に思えてきた。
 だがその程度で解放させてやるほど、機嫌は修まっていない。
 オルガは構わず、舌で転がす動きと、片手だけの愛撫を繰り返した。



「ん……。結構、ヘコむな……」
「そ、そん……な……っ」

 突然、軽く下着越しに触ってきた指が奥まで行けるようになった。
 指を離すと、……直に触れている訳ではないのにしっとり水気を含んでいる。
 それが汗なのか愛液なのかはまだ判らなかった。

「一気にくちゃくちゃになったな……そんなに気持ち良かったか?」
「い、いいわけ……ない!!」

 もう一度オルガは指を戻すと、…………今度はクロトの中央へと指を運んだ。
 一枚の布越しに、クロトがどくどくと波打っているのを感じた。
 敢えて直接には触らず、焦らす事にする。

「ひぁ……あ……ん、おる…………ぁ……ッ!」

 ……今度は穴の方ではなく、上の……小さな飾りへと指を運ぶ。

「は、……はああん……っ!」
「ッ……」

 下着があるのではよく位置が判らなかったが手探りで性感ポイントを探し当てた。途端、大きな声を上げる。
 何度も人差し指を押し付けた。

「ん、あ…………んぅぁ……ッ!!」

 ……その度に出す高い声に酔いしれた。
 気が付けば、クロトはもう激しく抵抗する気配も無く、首を横に振りながらも指を導いているようにも見えた。

 クロトの躰は床に転がったまま、脚をM字に開いている。
 勿論中央では左手で脚を開かしているオルガの存在があったが、本当に嫌がる様子はない。
 この姿はもう、受け入れているものだった。

 ―――お前、ヤってほしいのか?

 一言、聞けばきっと、、…………クロトは我に戻り、また激しい抵抗で逃げ出すかもしれない。
 そう思い、オルガはその事に関して口を噤んだ。



 /2

 落とし物を回収に。
 シャニはそんな理由で部屋にやって来た。

「…………」

 読めない表情のまま、ベッドに倒れているクロトを見るシャニ。
 無表情な目がクロトの躰を全て見終える仕草。
 オルガはどんな姿も見逃さず、シャニだけを捉えていた。

 クロトとは比べものにならない程、見惚れてしまうクールな目つき。
 春色の軍服の下には、豊満な肉体。本人の気怠い性格故に磨かれていないが、それなりに着飾れば見張る美しさがある。

「……オルガ、最低?」

 整った顔立ちから、ぽつりと呟く小さな声。勿論オルガ宛の言葉だった。
 ベッドの上に眠る……というより、『置かれた』クロトを見ての率直な感想だろう。

「コイツが挑発してきたんだよ」
「でも挑発乗っちゃう方が悪いんだよ……?」
「知ってる。……別に被害者ぶるつもりはない」

 加害者は間違いなくオルガ。
 姦通は未遂だが、クロトが性的な絶頂は迎えてしまったのだから罪にとらわれるのかもしれない。
 ……裁く法なんて、三人の居る世には無かったが。



 ―――クロトは急な愛撫に一人だけイってしまった。
 あのまま昇天した。オルガが我に返った時にはぐったり死体が転がる始末。
 とりあえずと、オルガは自分の部屋にクロトを連れてきた。
 ……そしてシャニが回収にと、今に至る。



 いくらクロトが小さいとはいえ、抱き上げて自分の部屋に連れ出すのには少々視線が痛かった。
 それよりも、……クロトだけがイってしまって、それから何も出来ずにいる事が腹立たしいとも思っていた。多少退屈さも感じている。
 その靄付いた感情を解消したいとも感じていた。

 ……シャニを観察する。シャニは同室者のクロトを回収する為にやって来たが、部屋に来ても何もしないでいた。
 クロトが起きていれば引っ張って帰るのだろうが、眠ってしまっているクロトを見てその気を無くしたようだった。
 構わず、オルガはシャニを観察する。

 ……片目を隠した碧の長髪は、濡れていた。
 クロトとは違い、訓練後汗を流したらしい。
 遠く離れて立っているのに、風に乗ってシャンプーの香りが鼻を擽った。
 心地よさを憶える香りに、滅入っていた気が回復する。
 そのうち、上機嫌になり、

「………………あ……っ」
「―――シャニ」

 意識する間に、シャニを抱き寄せていた。



 ―――背中から抱き寄せ、長い髪が流れる首元に唇を寄せる。
 濡れた髪に口付けながら細い首へと渡っていった。

「……オルガ」

 名前を呼ぶ。それはシャニなりの拒否の仕方だった。ヤメロという意味も含んでいる一言だが、オルガは構わずシャニの躰に手を伸ばす。
 大きな胸を掴むとシャニの鼓動が手から伝わった。
 一言だけ嫌がったシャニだが、時間が経つうちにオルガの動きと共に声を上げるようになった。
 柔らかい身体を味わいながら、オルガはシャニの破れたジーンズに指を入れる。悪戯ぽく擽りシャニを刺激させてみた。

「……クロト、いるんだよね……」

 独り言の様にシャニは言った。きっとその言葉も『いるんだからヤメロ』に繋がるものだろうが、オルガは動きを止めない。
 口付けながらの静かな行為。クロトで同じ事をしてもこんな順調には進まないだろう。
 暫くシャニの素肌で遊んだあと、ジーンズのファスナーに手をかける。
 シャニの敏感な所を弄くり回したい。
 悪戯では片付けられない感情が湧く。
 だが背後からの手探りでファスナーを下ろせなかった。
 苛立ち、胸に当たっている片手に力が入ってしまう……。

「……それぐらい俺が……」

 また一言。
 短いその一言に、長い意味が込められていた。
 オルガは手を離すと、ゆっくりとシャニの身体が遠ざかって行った。
 その距離は手を伸ばせば届く距離。だが走り出せばそのまま見送る距離でもあった。

 シャニは向かい合うとオルガの目の前でジーンズを脱ぎ出す。
 続いて、蒼い上着も落とすように脱ぎ去った。

 ……その姿に、オルガは目眩がした。
 部屋にやって来て、クロトを見た無表情な少女。
 それだけでも彼女は綺麗だと思っていたのに、……何も纏わぬ姿はより一層少女の華麗さを強調した。

 下着さえも身に着けず、生まれたままの形に呆然と見惚れる。
 美しい曲線に褒め立てる言葉も出なかった。

 …………全く、数分前のガキ相手に喜んだ自分を悔いる。



「……あ、今クロトの事、貶しただろ……」

 口に出したつもりは無かったが、恐ろしい勘でシャニが突っ込んでくる。
 無神経なくせに、反応だけは一段と良い。それは女の勘だけでなく、……興奮の感度も言える事だった。

 もう一度、シャニの身体を引き寄せ、今度は表面から口付けた。
 表から胸に口付ければ、顔も身体も赤くなるのが直ぐに判る。
 服を脱ぎ去ったら恥ずかしさが湧いてきたのか。
 ……否、そうではなく、最初から照れていたが後ろからだったからオルガが気付かなかっただけだった。
 シャニは、オルガがする行為一つ一つに過敏に反応していた……。

「……ね、キスだけじゃ……」

 ……相変わらずの一言だけの台詞。
 この状況で何が言いたいのかは判る。口付けだけの行為の中、赤く染まりながら強請ってくるのだから、やるべき事は一つしかない。
 オルガも準備を始める。引き続きの興奮に、下半身に神経が集まってきていた。

「って、しまった。ゴム無ぇ……」

 この機会、計画を練れるものではない事に、オルガは現実に戻された。
 オルガの短い一言だったが、興ざめするだけの威力を持っていた。
 折角のいいムードも崩壊していく気も……

「赤ちゃん……いいな」

 ……しないでもない、と。



「は……?」
「オルガのなら…………いいかも……ね」

 ……くすりとシャニは静かに笑った。
 冗談だろうが、本当ならば冗談では済まされない台詞を言いながら。

 その言葉に萎えた気分は元通りになる。否、更に上へ向かい出した。



 会話は恐ろしく少ない。行為もシンプルで要点だけを捉えたようなものだった。
 それなのに、互いに笑いあえる。
 重ねるだけだなんて冷めた関係かもしれない。

 だが、……一生を捧げたいと思う程に充実したものだった。

「……俺ばっかりズルイよね」
「……何が、だ?」
「オルガがだよ。…………クロトにも分けてあげなきゃ……」



 囁くだけの少女の言葉に、オルガは一つ一つ翻弄され従う。

 二人は、オルガのベッドで眠るもう一人の少女に視線を向けた。



 /3

 微睡むクロトに突然口付ける。
 シャニは上から覆い被さると、クロトの寝返り一切を塞いだ。呼吸さえも止める勢いで、柔らかい少女の唇に吸い付く。
 暫し濃厚な口付けを一方的に楽しんでいれば当然の事の様にクロトは苦しがり始めた。それでも構わずシャニはクロトにしがみつく。
 ごそごそとクロトの腕が動き出す。それでもシャニは退かない。
 くしゃくしゃになるまでシャニは攻める。クロトを最大限に追い込むまで。

 果てから見ているオルガには、シャニが殺人を犯してしまいそうな勢いに不安を感じていた。
 勿論シャニがクロトを戦場以外で殺す筈も無いし、今からあれをして楽しもうと言った矢先に殺す訳も無い。
 今のシャニの体勢はいつだってクロトの首を絞める事も出来るから十分に可能だが、口付けで窒息死だなんて。
 …………それは、薬中で死ぬよりも格好悪い。



「ッ……ぁ、は…………っ、シャニっ、ばか……っ!!」
「んー……?」

 完全に覚醒したクロトが、シャニの身体をはね除けた。
 やっと離れた身体。オルガが見えなかったクロトの表情がよく見えた。
 涙目。
 紅い顔。
 乱れた服装。
 薄く見える女性的な雫。
 小さな口から零れるシャニの味……。

 クロトの何もかもが官能的に見えた。



「シャ……シャニ? …………何で、ハダカ……」
「ん……? あ、これ…………今オルガとやってたから」
「や……っ?」

 馬乗りになって目覚めさせた時計は、全裸の女性。
 クロトの赤面は、先ほどの激しい行為もあるが何も身に纏わぬシャニの姿にも興奮しているようだった。
 同性同士とは言え、目の前に何も着ていない人間がいたら驚くものだ。
 そんな女性が目の前で自分を殺しかけていて

「クロトも、しよ?」
「なっ、……!」

 ……という妙なる誘いを、無理矢理してくる。
 それでまだ驚かない人間はまずいない。



「や、やめっ…………シャニっ……!」
「ほら……ちゃんと、見せて……」

 シャニはクロトの赤いタンクトップを胸の位置まで捲り上げた。
 クロトを部屋に連れてくる前に同じ様な事をしたが、その時の動揺の仕方が違っていた。どちらも激しく抵抗しているのには変わりないが、今シャニとやっている方ではまるでじゃれ合っているように力が無い。何だか拒んでいるようにも見づらかった。
 でもイヤだと、やめろと拒否する言葉を並べている。どう叫んでもシャニによってあっという間に脱がされたが。

「なんで……こんな……ッ」
「クロトのおっぱい…………かわいい」
「っ!」

 シャニが笑いながら言うと、その腕で表れた胸を愛おしげに揉みだした。
 それほどの大きさは無かったがシャニは押し寄せるようにクロトを刺激させる。
 何とかして隠そうとするクロトの腕を、シャニは片手で防ぐ。
 シャニだから油断しているのか、シャニだから許しているのか、……クロトはベッドの上で万歳のポーズをし、胸を露出させていた。

「はなせ……離せよ、シャニぃっ!」
「ダメだよ。オルガにも見て貰わなきゃ。…………オルガ、どう?」
「あ、ぁ…………あー見るなぁ…………っ!!」

 シャニに誘われ、オルガは離れていたベッドに近づく。
 シャニに組み敷かれているクロトは恥ずかしさのせいか奇妙な叫び声を上げていた。……どう聞いてもオルガには嬉しそうには聞こえなかった。

 だが、胸の飾りはハッキリと立っている。
 直ぐにでも吸い付けそうな程、高く山になっている。
 ……どんなに巫山戯た状況でも躰は正直という事だ。 

「……見るって言ってもな、そんなにないじゃねぇか。…………シャニと違って」

 クロトとベッドの上で格闘する度に震えるシャニのものを見る。
 同じ身体に魅力を感じるとしたら、クロトよりシャニの方が強い。オルガは正気に答えた。

「……オルガ。そういう考え、うざい」
「すまんな。あくまで俺の趣味だ。……クロトは、どんなのでも可愛いと思うぞ」
「ばっ…………ッ!!」

 貶す言葉を十分に含む、驚きの声。
 止まるはずのない短い台詞を堰き止めたのは、クロトを操っているシャニだった。
 クロトは目を強く瞑り、ある感覚に耐えている。
 敏感な動きに、息を殺して堪えていた。

「クロトには、もっと見る所あるよね………………ココ、とか」
「……………………ぁ……っ」

 シャニが再度、同じ場所をつつくとクロトが切なげな声を出した。
 シャニの細い指は、上着の上はスカートを捲り、下着の中に指を入れていた。
 そしてその指は、下着の中の次に、クロトの中へ…………。

「やぁっ、そっ、んなとこ……っ!」
「クロトのココ、凄く良さそうだから……直ぐに触りたくて…………」

 シャニは悪魔的な笑みを浮かべながら、ねっとりと熱いそこに指を這わせる。
 既に其処は濡れるようにと何度を調教されたように進化している。
 普通の身体では尋常ではない熱さ。
 だが戸惑いは無く、シャニはクロトを掻き回す。

「い……っ、は、ぁ………………っ!」
「ん……ねぇクロト……、何でもうこんなにとろとろなんだろ……?」
「しら……ないよ……っ!」

 …………それは先の時間、オルガがイかせたから。
 身体の火照りがまだ引いて無くてもおかしくない。シャニも状況は読めているだろうに、ワザとクロトに問いかけた。
 シャニは、邪魔にしていたクロトを下着を完全に脱ぎ捨てる。
 晒された性器。
 まだ幼く見えるそれ。
 触れるだけで終わってしまったものの前にシャニは脚を開かせ入り込んだ。

「あ、沢山……使われてるからヌルヌルなんだね」
「……え……?」

 シャニの言葉に、顔を引きつらせる。
 怒りの表れか。恐怖、懇願……思いつくもの全てに当てはまるそんな表情。
 シャニはクロトのを見つめながら、一つの推測を出した。

「クロトって反応いいからさ……やっぱりよく使ってるんでしょ? 直ぐに濡れたしさ……」
「ち、違……!」
「仕方ないよね、こういう所にいるんだもん…………ねぇ、今までどんな奴の銜えてきたの……?」
「違う……っ!! 僕、一度も……っ、してない……っ!」
「……嘘だぁ」
「嘘じゃないっ!」



 必死の形相で、だけど情けない恰好でクロトは叫ぶ。
 そんな姿をシャニはロクに見ず……只、ふーん、と軽く流した。
 シャニがやりたい事は、クロトを泣かせる事ではない。

「でも、初めてでもないみたいだけど? どういう事なのかな……ひとりでやってるとかじゃないよね……?」
「……」

 シャニは、顔を少しずつクロトの性器へ近づけていった。何もされていないが、クロトの身体は少しずつ反応していく。
 視姦……。
 クロトは脚を広げられたまま、頬を染めるだけだった。見られているのに心が怯え、別の感情を灯させていく。

「だって……オルガ、見て。クロトのココ、凄いよ…………」

 嘲笑う。……そのシャニの姿は様になっている。
 恐ろしさも感じるシャニの口調に、―――ついにクロトは声をあげた。

「……ひとり………………」
「うん?」
「……ひとりでやってるから…………こんなくちゃくちゃなんだよ……っ!」

 ……途端。
 見ているだけではなく、シャニはついに手を付けた。
 柔らかい膨らみに指を添え、優しく広げていく。

「へぇ、……どんな風にやってるの?」
「ゃ……っ、そんなの……言いたくない……っ」
「知りたいな……。どうすれば『こんなの』になるのか……ね?」
「い、あ…………ッ」

 クロトの言葉通りだとしたら、シャニの指は初めての異物感になっただろう。
 シャニは表面に触れただけでそれ以上の事はしなかった。
 ……が、次の段階を踏むのも時間の問題だ。

「ふぅ……ん……ぅ……っ」

 表面だけの指の往復が始まる。
 くすぐったい感覚にクロトは身を捩らせた。
 滑らせ、弾く、その繰り返しを何度も行えば、クロトは泣いて喜んで見せた。

「どんな風にしてるの?」
「指…………ちょっとだけ……挿れる……だけだよ……」
「指だけ? 他には?」
「他に何があるんだよ……っ!」

 ……言い出せばきりの無い話だが、クロトは真剣にそう叫んだ。
 それ以外の物は無いと信じているのだろうか。

「じゃあ……どんな時やってるの……?」
「……あッ!?」

 二つの指が割れ目を広げていく。
 外気に触れるせいでクロトの中に妙な感覚が生まれてきた。
 腕を押さえ込もうとするが思うように身体が動かずにいる。
 クロトは、問いかけに答えるしかなかった。

「薬とか……貰った時、…………ムカついてる時とか……気持ち悪い時……とか……っ」
「ひとりでするとキモチイイんだ?」
「うん…………ぁっ!」

 クロトの身体がビクリと跳ねる。
 生暖かい感触に包まれた。頭が真っ白にさせられる程強い力をぶつけられる。
 ……シャニは舌で、クロト自身を転がし始めた。

「ぁ、あ、あ……うぁ…………っ」

 言葉になっていない叫び声を上げる。
 快楽もまだ生まれていない喘ぎ声を必死に零す。
 熱い中央に舌を滑らせ、クロトを強く激しく責め立てた。
 愛液が、滲み出してくる。

 ―――まるで脅しているようだ。
 刃物を突き立てて、強制的に吐かされているようで。
 コレが愛あってやっている行為だと、誰が納得できよう。

「シャニ……っ、ヘン……だよ……そんな、とこ……きたな……い……!」
「そんなキタナイとこ、いつも触ってるんだよね? ……どんな事考えながらやってるの?」
「……う、……うぅあ……っ」

 くちゅ、と水が跳ねる音が響く。
 感じる場所を吸い立てる。
 痺れを感じ痛みを伴っても、肝心な快楽はまだやってこない。
 苦痛に声を上げるしかクロトの身体にはなかった。

 楽になる為に。
 クロトは追いつめられ、素直に、従順になるしかなかった。

「………………オルガ……っ!」



 じわり、と滲み出すクロトの雫。
 正直に答えたせいか、シャニの刺激も一瞬だけだが止まる。
 それを拍子に呼吸の糸口が見つかり、声を出す。

「オルガの事だよっ……、……いっつもムカつくもん……僕に文句ばっかり言う……し………………っ!」

 ……再度、シャニは舌を押し付ける。
 と、クロトは比例して熱く燃え上がった。

「は……ぁ……オルガと、喧嘩……っ、して……ムカムカしてると……」

 数分前、唇に落としたキスのように、それよりも激しくシャニは口付けた。
 刺激は強まる。切り刻まれるような熱い電撃がクロトに伝わっていった。

「ぁあ……っ! 気持、ち悪いから……っ、変な感じがするから…………その後は、そのままベッドに行って…………!」

 シャニの長い髪が、クロトの下半身に絡みついていった。
 舌だけの行為も、もう限界が近い。クロトの声は一段と上擦っている。身体全体を奮わせて刺激を求めさせたせいか、シャニの顔はクロトの愛液で濡れていた。

「行って……行って、……オルガの事考えながら……、すんだよ…………っ!」



 ―――シャニは口付けを止める。

「………………何か飽きた」
「…………え?」

 いつもの、気怠そうなノリでシャニは言う。
 クロトは今まで苦痛を押し付けてきた恐怖に顔を向ける。……何事も無かったかのように涼しい目つき。自分だけが一人調子に乗っていたのではないかと不安になってくる程、クールな目をしていた。

「別に俺がやっても…………オルガがやってあげなきゃ意味ないじゃん」
「え…………ぇ?」
「クロト。オルガの事考えながらひとりでするのも大変だろ……? だから今度は、オルガの事考えているだけでいいから」
「……シャニ……何言って……?」
「えっちなコトは、全部オルガがやってくれるから……」



 理解しないクロトの身体に近寄り、シャニと位置を交代した。

「ぁ…………オルガっ!?」
「……」

 やっとシャニの言った事が判ったのか、クロトは元通り叫び出す。
 それももう遅い。
 さっきまで同性同士のクンニリングスを見せつけられて性衝動を止められるほど、オルガは出来た人間ではなかった。

「あ、オルガ……オ、ルガ、………………んぁっっっ!」

 ぐいっ、と挿入する指。
 挿れらた太い指に、クロトは息を殺して耐える。
 既にシャニの唾液で濡らされた所だからか、特に苦痛の色は見えない。
 だが初めて受け入れる本当の異物に安心した空気は漂っていなかった。
 下着越しの愛撫以来、……初めてのことだった。
 今にもイってしまいそうな、とろけそうな顔をしている。

「……すげぇ。本当にアツイな……お前の中」
「はぁ……っ!」

 ゆっくりと、着実に指はクロトの中に入っていく。
 どんどんと感触は鈍く強くなっていく。
 沈んでいく指先を見て、オルガは微笑んだ。

 途中、一本の指は引き返すと、とろりと濡れた指が顔を出す。
 ……白く、光る指。
 ……これは、クロト自身の光。
 クロトが濡らした指だ。

「オルガ……2本、入るかな?」
「ぇ…………んぅっ……!?」
「入れなきゃだろ。……もっとデカイの入るんだからな」

 そうオルガは呟くように言うと、今度は2本の指を同時にクロトへ沈めていく。
 苦痛の色は倍になり、助けを呼ぶ声もするようになる。

「いた……ぃ……オルガぁ…………やめ……」

 途中、動きを止め、中で指を擦らせる。
 水っぽい音は鳴りやまない。くちゃくちゃと気持ちよい音を奏でていた。
 ついにクロトの目にも涙が零れ、頬を光らせていく。

「ばか……、い……やぁ……おる…………ば……か……っ」



 馬鹿。
 何度も叫ぶ声の中、唯一聞き取れる単語があった。
 最低。
 最初にシャニに言われた言葉の意味が含まれた用語。
 それでも、拒絶されていると何度判っていても

 止められる事は無く、
 壊れかけた少女の身体に、構わず刃物を突き立てていった。



 /4

 抵抗は少ない。
 普段交わしていた情けない口喧嘩もこの場では何も発揮しない。

 プライドを傷つけられた、その仕返しの劇は性衝動で幕を下ろそうとしている。

 今度は指ではなく、オルガは自分自身をあてがった。先端が、シャニにたっぷりと濡らされたクロトの下の口に包まれる。ぬるり、と潤いのある其処に突き立てようとした時、クロトは自分の顔を腕で覆った。息を止め、結合の瞬間を覚悟する。

「力抜けよ、入らねぇだろ」
「入れなくていいよそんなトコ……ッ!」
「えぇー……このまま止めてたらクロト、つらいよ……?」

 仰向けで倒され覚悟を決めた腕を、シャニが解いた。
 あのままではクロトの絶頂の瞬間が見られない、とオルガは思ったが、伝える前に自分からそうした。同じ事を考えていたらしい。
 今のシャニは、自分の快楽よりもクロトの身体の方を優先している。
 ……それは、クロトの為というのではなく、只自分が楽しいからと感じているだけだろう。
 一切口に出してはいないが、快楽主義のシャニならそう思うだろう。オルガはそう読みとった。

「やだ……っ、シャニ、見るなよ……っ!」
「やだ。……俺、クロトがイっちゃうところ見たいから」

 涙ながらに訴えるのに反し、シャニは笑いながらオルガを先へと促す。
 顔を隠す事を禁じられた手は、自動的に秘部へと移っていった。
 だがそれも直ぐ傍で構えるオルガによって弾かれる。
 クロトの手は行く場所が見当たらないまま、真横のシーツを握り締める形になった。

「ほら、楽になって………………」
「ん、……ぁあ…………っ!」

 クロトが力を抜いたのとは逆に、オルガは力を入れ中へと落としていく。
 ねっとりとしたクロトの中でオルガのものは熱を蓄えていった。
 一度中央に導き出したクロトは、同じ様に暑く熱い吐息を零す。

「はぁっ、……ひ、あ……っ!」

 熱のあるクロトの息に興奮を感じる。構わずオルガは奥深くまで挿入した。
 オルガも根本まで急激に熱が押し寄せてくる。手放せる物なら一瞬で終わってしまいそうな程、強い。

「はぁ、ぅ、ぁあ……っ!」
「入っちゃった……オルガの、全部……」

 まだ女性としての行為は早すぎたのか、予想以上に締め付けが強い。幼い中は熱く滑潤液も豊富だが、表情からは苦痛しか生み出していない。
 舐めるように首元に鼻を寄せれば、甘酸っぱい香りが漂っている。それがクロトの香りなんだろう。
 クロトの香りは、部屋全体を満たしていた。
 息、髪の毛、全てが、官能的な香りによって彩っていた。
 クロト自身が官能的だというのだろうか。

「あ……ぁあっ、ふぁ……ん……っ!」
「んッ…………」

 オルガが激しく腰を付ける。
 入り口から奥の方まで擦りつければクロトは女性の用に声を上げた。
 朱色に染まった身体皮膚、肌達が跳ね、刺激が空気を通して伝わる。
 締め付ける力は更に強くなり、下腹部を動かし始めた。
 すっかりクロトの入り口はオルガの分だけ大きくなっている。オルガのものを受け入れるものだけになっているようだった。

「…………ねぇ、キモチイイだろ……?」
「んぁ、……は……あ!」

 オルガが責め立てている間、シャニも動揺に上からクロトを追撃していた。
 クロトが瞬間でも意識を飛ばさないと、見張る様にシャニが声を掛ける。常にシャニに見張られ、それがイくにもイけない原因になっているようだ。
 完全に感情が高ぶり、我を忘れる時まで達する事が出来ない。オルガが肉体的に突く以上のダメージになっていた。

「オルガ、もっと動いてみて」
「え、…………ヤ、だ……っ!」
「ヤだじゃないよ。……オルガもクロトもどっちも気持ちよくなれるよ、きっと」
「…………あぁ、そうだな……っ」

 ぐっ、と力を入れる。
 シャニの声を拍子にオルガは腰のピストン運動を再開した。

「ヒあ……あぁ……っ!」

 クロトは握り締めるシーツはより皺を作り、快感を殺すような表情を作る。
 何度か振り上げた時には、瞳は完全に潤み、弱々しい目で天井を見つめていた。

「あ……ぁん……っ」

 やがて拒否する声も聞こえなくなる。
 同じペースで攻められるのに合わせるように呼吸をし、全てを受け入れるようになった。

「最高だな、クロトの中……」

 小刻みに腰を突き上げる。
 クロトの呼吸が速くなり、更に震え始める。

「ほら、そろそろイッてみろよ。………………シャニ、もう虐めんなよ?」
「うん…………俺も、もうクロトがイくの……見たいな」

 官能に埋もれそうなクロトは、短く高い声を漏らすのみになってきた。
 快感を爆発させる。舌と指に散々愛撫され、濃厚に責められたおかげで身体が感じた衝撃のトータルは凄まじいものだった。

「ココとか……真っ赤になって、かわいい……」
「ぅあ……ッ!?」

 シャニは、結合部分の上で愛らしく染まっている宝石に指を這わせる。
 その器官はクロトには敏感過ぎて、痙攣を始め涙がボロボロ零れ始めた。
 クロトの中の感触を最大限に楽しみ、そして……

「あっ、もう……やめぇ……っ!!」
「あぁ、これで最期だ……!」

 ……オルガは胸の中に顔を埋め、抱きしめながら叫んだ。
 途端、振動が始まる。
 どくんっ、と中に大量の精液が飛び出した。

「いあ、……ぁあ……や…………ぁ……!」

 クロトは力無く叫ぶ。
 飛び出した瞬間は喉を逸らせ、目を大きく見開き、オルガの頭を抱え込んだ。
 小刻みに震わせている腰は絶叫の証だ。
 オルガは身体を離し、崩れていく体を見つめていた。
 初めての絶叫を迎え全身を縮めて酸素を求めるクロトがいる。
 離れた結合部分から、白いシーツに同じ色の液を垂らした。



「おいしかった……? オルガの……」
「……はぁ……ぁ……」
「俺、クロトの顔見てるだけでイっちゃったよ……」

 シャニは小悪魔的な笑みを浮かびながら、淫らに眠るクロトを見る。
 気を失いつつあるクロトの指を持つと、その指を自身の性器へと誘導させた。
 感想を言わなかったが、静かにくちゅりと水の音が立ったのがオルガにも届いた。

「オルガの、沢山貰っちゃったね……」
「…………ぁ……」
「これでもう、他人なんかじゃないね。もしかしたら…………お父さんになっちゃうかも?」

 くすくす、とシャニの微笑みかける。が、クロトはその笑みには応えなかった。

 ――今は、意識が朦朧とし手放しかけているからだろうが、そうでなければクロトはどう応えるだろうか。

 その質問の重さが、ゲーム感覚の行為のせいで軽く風に流されてしまいそうだった。
 クロトは体に吐き出された精液も拭き取らずに目を閉じてしまう。
 しかし、瞳に唇どちらも潤ませたクロトは、今まで一度も感じた事のない美しさを持っている。

 感心する。
 数分の間に成長したクロトに、その姿にしてしまったシャニとオルガ自身に。

 同時に後悔もする。
 ずっとガキと貶してきた者を、無理矢理犯す。しかも最終的には肯定したような形だったが、二人の力で抑え付けての行為。その罪悪感……。



「落ち込む事ないよ…………こうしたいって、クロトも思ってたんだから」

 ――その想いを読むかのように、クロトの髪を弄くりながらシャニは語る。

「オルガだって最初から判ってたんだろ……?」

 シャニが誘う前にも強姦紛いの事をしたのだから、全て人のせいにもできない。
 全部、自分が大人げなくブチ切れての事。

「………………クロトが始めから、『ヤってほしい』って顔してた事か?」

 ……抱いてしまってから我に戻るという、それこそ最低な形で終末を迎える。



「男の尊厳、ちゃんと示せた?」

 否、是は間違いなく、新たな少女の関係との幕開けに違いなかったが。





 END

 1/04.6.14 2/04.6.22 3/04.7.1 4/04.7.5