■ interlude



 ―――とにかく頭が痛かった。頭も落ち着いてなければまともに躰が動けるわけがなく、ただ存在しているだけの空間。それが特別厭だというワケではなかったが、余った時間を趣味の時間に費やせないのが気に入らなかった。

「はぁ……っ」

 クロトは苦しげにため息をつく。『苦しげ』ではなく、実際重い息に潰されそうで苦しくて。退屈を紛らわせるため、無理に追っていた電子信号も今の状態では全然楽しくない。逆に脳に負担が掛かって気持ち悪かった。
 他の二人はどうだというと、一人はいつも通りアイマスク付きで眠っていて、一人はいつも通り壁に寄りかかって読書をしていた。読書していた方の一人はおそらく座りたくてももう一人にソファを占領されて座れずにいたんだろう。
 携帯ゲームの電源を落とす。長時間ゲームをするのは慣れているが、今日は調子が悪かったのかヤケに目が痛い。目を休めるために一人占領していたソファの上で転がり、目を瞑る。しばし瞑想―――。



 ―――と、不意に唇に柔らかい物が重なった。
 驚いて目を開けると、……それは急に。オルガの目が正面にぶつかっていた。

「何、してんだよ」
「……」



 オルガがさっきまで読んでいた本は、床に捨てられている。捨てて、クロトが倒れた所に覆い被さったようだ。彼もソファで休みたかったのか。にしてはこの体勢は少しキツイ。……いつの間にか抱き寄せられていた。更に進むと、ソファに沈んでしまって、……そのままされるがままになっていた。抵抗する気はない。寝転んだ状態でキスしあって、お互いの体に顔を埋めあう。

「クロト……」

 紡んでいた口元が突然耳元で開く。長い沈黙の中、久しぶりに聞いたオルガの自分の名を呼ぶ声に、熱くなった。首にオルガの息が掛かる。そこだけをずっと弄られていたみたいに首筋が火照る。オルガの行為を受け止めるべく、クロトは背中に腕を回す。そのクロトの動きを肯定と受け取り、オルガは改めてクロトの躰を触った。

「……はっ…………」

 シャツの裾から手が差しこまれた。一瞬肌が震えた。指が少しずつ胸を沿い上がっていく。

「ひゃっ……」

 息が辛くなって口を開くと、オルガが口付けをして来た。

「ん……」

 挿し込まれた舌。クロト自身も自然に舌を絡ませようとする。

「んっ……っく…………」

 音の出そうな程強い口づけに、またクロトは熱くなっていた。自分のしている事に自覚して、絡まりを止めさせようとするが、相手の方の舌が止まらない。長く激しい口づけに、頭がぼんやりしてきた。
 だが、突然その行為を止まる。


「シャニ、起きてるんだろ」


 オルガが、寝そべっているもう一つのソファに語りかけた。
 しばし、沈黙。
 それを護り続けるように、もう一つのソファが静かに動いた。アイマスクも音がしないように取る。

「……ぁっ」

 更にクロトは熱を感じた。オルガの行為に応えて生じた熱とは違うものだった。シャニに聞こえないように声を我慢していた筈なのに、元から聞かれていたとは。
 妙に恥ずかしくなって、つい照れ隠しにオルガの胸へと逃げる。

「……何?」

 シャニを起こした(元から起きていたのだから適切な言い方ではないが)オルガに、眉を歪めて応える。
 だが、その口元も同じように歪んでいたように見えた。

「聞き耳立ててないで、まざるか?」
「なっ……」

 思わずクロトの躰が強張った。
 だが、考える時間も無くシャニは『それもいい』と小さく呟くと、―――オルガ達の方に近寄って、唇をクロトの頬へと落とした。

「ん……っ」

 頬から続いて、さっきまでオルガがいた唇に続く。

「てめ……いつから聞いてたんだよ……っ」
「最初から。そんな近い距離でヤってんだから判って当然だと思うけど」

 シャニは薄く笑って、クロトの背後の方に周る。背後から感じるシャニの息にゾクゾクした。腰に添えられているのはシャニの手。オルガが体勢を入れ替えてきて、クロトは広くないソファの上に押し倒され天井を仰いた。



 腰を抱えられる。力は殆ど残っていなかった。自由にオルガが脚を割り、服を剥がれる。そして脚の付け根の部分を口づけられた。

「なっ、……んつートコ舐めてんだよっ!」

 二人に躰を預けたクロトでもまだ口だけは言い返す力があった。二人がかりで動きを封じられても、意志まで封印する事は出来ない。

「うるせぇな……何かくわえてるか」

 ……だが、道具を使えば直ぐに封じ込める事が出来る。それぐらいクロトにも判っているが、文句を言っておかないと為らない。

「んっ……?」

 生温かいもの包まれ無意識に声を上げてしまう。直ぐに顔を掴まれ再度舌を入れられる。距離が近すぎて焦点が合いにくいが、今舌を絡めているのは、片目の瞳だった。

「ん……ふっ…………」

 クロトは同時に舌で刺激され、声が洩れた。シャニはオルガほどではないが熱い舌を絡ませてくる。同時に下のオルガも何度も敏感な所を刺激していき、くぐもった声が思わず漏れてしまう。

「んぁっ…………」

 口づけていたシャニの唇から逃げ、浅く激しい呼吸を繰り返す。さっきキスをしていたシャニと至近距離で目が合った。ニヤリと笑われ、耳元に唇を寄せられ、軽く噛まれた。
 ぼーっとしている。シャニがベルトに手をかけズボンを脱いで行く姿にも違和感を抱かなくなっていた。目の前に差し出され、当然の事のようにシャニ自身に手を伸ばし、貰った快感を彼ににもあげたくて、口に含む。
 その後どうしたらいいか判らないが、舌で先端を感じ、キスと同じように動かしてみた。
 完全に麻痺した意識の中、下の方で指を入れられても、当たり前のように受けとめている。今は快楽を相手に伝えたくて舌を懸命に動かす。

「ん……!!」

 後ろからの衝撃に声が飛び出す。指で充分慣らされてから、オルガが入ってきた。慣れていて予感はしていたが入ってきたのに痛覚が働く。体が強張り、否定した。

「……クロト、力を抜け……」
「あっ……くぁっ……」

 オルガが奥を突く。思わず涙が出そうだったが、既に流れていて何だと思う。他にどう痛みから逃れようかと考えたが、次の瞬間には快楽を求めていた自分に気付く。激しく興奮している。時々漏れるオルガの声も、抱きしめられた体温も。

「ぁ……ん…………んん……」

 上下して、力が強く走った。強い快感に呆気なく達してしまった。案外あっさりした終わり方だった。だけど体に籠もった熱は当分取り除けない。

「クロト……」

 どちらか名前を呼ばれてもクロトはまだ、しばらくソファに顔を突っ伏していた。息だけに集中する。が、直ぐにオルガが起き上がり、だらしなく開けていた口の奥まで入れてきた。

「んあっ……」

 頭を強く掴まれ引寄せられる。乱暴な扱いに頭にくるが、自動的に、さっきまでと同じように舌を動かした。さっきのシャニが感じたように。
 それと、オルガが上にきたということは、シャニが下の位置に入りこんでくるという事である。

「っつ……!」

 再び突き入れられる。一度受け入れていた所でも痛みは走った。でも先ほどより衝撃無くクロトの体はそれを飲みこむ。シャニはクロトの背中に口づけ、汗を舐め取る。擽ったくて声が漏れ出す。さらに笑われるのだった。身も世もない声を上げながら目を瞑り、ただ快感に耐えるように身を二人に任せる。

「っ…………あぁっ!!」

 ひときわ大きな声を上げ、身体を震わせた。
 何度も身体の奥深くに熱い物を叩き付けられ、クロトは一瞬だけ真っ白になった意識が急速に薄れていくのを感じた―――。



 ―――見上げた天井は、今朝起きた所と同じベットだった。

「ん…………」

 目を覚まし、上半身だけ躰を起こす。何故か裸でシーツにくるまっていた。服は自分の部屋の一部に放り出されていた。
 もうあれから何時間経っているのか判らないが、さっき……ヤっていた部屋とは違う。どうにかして二人がクロトの部屋まで連れてきてくれたのだろう。

「……って、うわっ!!」

 部屋を見渡してため息をついた所で、大声をあげる。
 間近で、クロトを見ている…………シャニの存在に気付き、慌てた。

「お、オハヨ」
「……おはよ…………」

 隠れるそぶりもなく、ベットの隣の椅子にシャニは腰掛けていた。超至近距離。最初目覚めた時に気付かなかったのがおかしいくらい傍にシャニがいた。……シャニの返事は寝惚けているのだか地なんだか判らない。
 しかし、……どれくらい時間が経ったのかは判らないが、二人とあんな事をした。それがなんだか、すごく照れる。
 そして何をしたのか克明に思い出し、また慌てるのだった。
 体中がカーッと熱くなり、額に変な汗が出てきた。

「……どうしたの……?」

 突然シーツを引っ張り上げ被りシャニの目から隠れるようにした。理由などない。あるとしたら『顔も見せられないくらい顔が赤いから』ぐらいか。

「どうもない! …………どっか行けよ、お前」

 頭まで全てシーツの中に潜り込む。バカにしたようなため息がシーツ越しに聞こえて、何だか苛立った。
 そして、シーツとまとめて強く、抱きしめられる。

「おぃ、シャニ……!」

 悪ふざけに頭にきた。抱きしめられて藻掻いて逃げる。その際に顔を隠していたシーツをとられた。
 ……抱きしめてくれたのは残念、もう一人の方だった。



「オ、オルガ……」
「今、何時だと思ってる」



 突然、そんな事を聞いてくる。聞かれたので反射的に時計を見る。と、……これからが夜、という時間帯だった。

「まだ寝るのには早いだろ。……もう一回やろうぜ」



 ―――何だか呆れた。
 倒れた自分を看病して部屋にいてくれたのかと思いきや、もう一回ヤりたくて待ってただけなんて。
 一瞬でも感心してしまったのを激しく後悔する。

「……じゃあ……今度は俺が下でやろうか……?」
「は……シャニ本気か?」
「おぅ、それいいな。じゃ、さっさと始めようぜ」

 まさか、……シャニの口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。
 でも、クロトはそれ以上何も言わなかった。肯定も否定もなく。

 その後「クロトの見てたら、良さげに見えてきた」と繋がった。クロトはシャニの性格を考え直そう。
 そんな事を考えながら、ただ誘われた通り躰が動いていた―――。





 END
 03.7.15