■ 刻をこえて



ずっとあいつを今まで見てきたから

はなれてやっと気が付いた

あいつの笑顔にずいぶん勇気づけられたということを



まだ小さかったあいつが、大きく希望をもって羽ばたいていくのが

兄として嬉しいはずのことなのに

どことなく、悲しくなっていた



周りにとらわれず、自分の自由にすすんでいくのが

とても羨ましかったのかもしれない



「いつか、兄さんみたいに強くなって帰ってくるね」



そう目に涙をこらえて、あいつは言ったな



はなれていく小さな姿をこの目にして

やっとあいつの大切さがわかったんだ



あいつの話す一つ一つの言葉に、一つ一つ救われていたということを



10年経って、お前はどうしてるだろうか

10年間、お前を忘れた日なんてなかったよ



あともうすこしで会える

あともうすこしで、昔のように抱き上げることもできる

あいつはどんなに大きくなってることだろうな

再会の日が、とてもとても待ち遠しかった。



しかし



その日を迎えることもできず



お前はどんなに大きく成長しているだろうか

とても強くなっていて

きっと俺とは比べものにならないくらい、強く成長しているだろう



でも、時々、考えてしまう



いきなり独りぼっちにされて

あいつは悲しんでないだろうか



10年前、あの頃のように

1人で泣いていたり、しないだろうか



今、何もなくなったお前は

笑っているのだろうか、と…………。



お前は、

今、幸せなのか?



俺は、もうお前と会えることはないだろうけど

いつしか、本当の再会ができることがあるなら

あいつが悲しまない日をつくってやりたい

父さんや母さん、大好きな人たちと囲まれて

楽しい刻を、つくってやりたい。



せめて、1日だけでも



帰ってきたお前に、幸せにしてやりたい



してやりたかった



もう、二度と叶わない夢のことだとしても



今俺は、お前の近くにいてやることも

お前を抱きしめることもできない

頭をなでてやることも

悲しみの涙をふいてやることもできない



もう、何もかもがわからなくなってきた。

自分が今、どうしてるのかも

自分自身が、幸せなのかということも



お前が幸せなら



お前が笑っていられるなら



俺は、幸せなのかもしれない…………





END