■ 「 かわいいかわいいクリボックス 」



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 千代女さんの小さな体が、今となってはたった十センチほどの箱に収まっている。

 いかにも宝箱のような箱を開ければ出てくるのは千代女さんの体、の一部。
 綺麗な宝石のような輝く赤い一粒。
 親指の爪の幅よりも小さい、ぷるぷるした艶めかしい物体。
 ベッドみたいにふかふかのクッション材の上に顔を出した、生き物のようなそれは、愛しい女性の急所だ。

 箱の中に納まった千代女さんのクリトリスに、ふーっと息を吹きかける。
 するとビクンと大きく震えた。体の一部がそこしか外に出ていないのに、全身を震わせたのが判る。
 俺には小箱の仕組みを説明できない。でも大雑把に解説するなら、これは千代女さんを封じて千代女さんのためだけの快楽を生み出す装置だった。

 もう一回、ふーっと息を吹きかける。
 ビクンビクンと千代女さんのクリトリスが踊っている。
 このクリボックスという魔術礼装は凄い。
 見た目は十センチぐらいの箱なので、いつでも持ち歩きが自由。
 そしてどこでも箱に入れたサーヴァントを快楽責めにすることができる。全力で、大好きな彼女を気持ち良くさせることができるのだ。
 開発してくれた魔術師に感謝。
 その志に感動して、将来、俺もカルデアを見たら同じものを創る道を目指そうかと思うぐらいだ。


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 現在、俺がいるのはトイレの個室だ。

 今日は朝から面倒見の良いカルデアスタッフ達直々の座学。昼飯を挟んだ後はトレーニングルームで筋トレ。暫く休憩を入れたら、ダヴィンチちゃんと今後のミーティング。
 大好きな千代女さんと一緒にいられない。一日中、大切な職務に縛られっぱなし。これは悲しい。
 そんなときにこのクリボックス。
 トイレに行ける休憩は必ず一時間に一回はある。個室に入って中をチェックだ。
 なお、内部の蓋にはハブラシのような細かい触手が蠢いている。箱の蓋を閉めれば繊毛触手が千代女さんのクリトリスを覆い込む構図だ。
 箱の蓋を開けて俺が息を吹き込まなくても、一時間以上ずっと毛の細かい触手にクシュクシュと弄られている。
 俺の指でなぞっても、弱い動きの電動ハブラシを触ったぐらいにしか感じない。それでも中の千代女さんには途轍もない快楽になっているだろう。
 ……もしや、俺が息を吹きかけに蓋を開けるのは、千代女さんを気持ち良くさせるのを阻害しているのでは?
 そう思ったけど、たまに違う動きを与えてあげた方が気持ち良い筈だ。そう信じて三度目、ふーっと息を吹きかけ……ちょっぴり舌で舐めてみた。
 千代女さんの味だった。

 ペロリ、ペロリ。箱の中で顔を出すクリトリスを三回ほど舐め回してみる。
 ビクビクビクッ。息を吹きかけるよりも激しく躍動した気がした。
 気のせいかもしれない。なにせ、箱の中へ舌を伸ばして舐めている。息を吹きかけるのと違って顔を寄せているため、実際動いているのか目で確かめられないのだ。
 だから、舌の感触で悦んでいるのか嫌がっているのか確かめなきゃいけない。

 正直判らなかった。俺が彼女の急所を舐め慣れていないからだろう。勉強不足でごめんなさい、と心の中で謝りながら、顔を出している小さなクリトリスをペロペロ、ベロベロと舐めた。
 ビクビク、ビク、ビクビク。……やっぱりよく判らない。
 感覚を覚えるまで舐め続けよう、そう思ったけど何分もトイレの個室で籠っている訳にもいかない。
 次の時間は、マシュと夕食を摂りながらのプチミーティングをしようと約束している。舐め続けられたとしても……三分が限界だ。
 唇を剥がして、俺の唾液まみれになってしまったクリボックスの中を覗き込む。
 彼女が纏う巫女服のように、鮮やかな赤に染まったクリトリスがテカテカと輝いていた。
 気持ち良くなってるよな、気持ち良くなっているんでいいんだよな。少しだけ自信がつきながら、俺はようやっとトイレの個室を出た。

 手を洗って改めて蓋を閉じた箱を見る。
 ハッとした。そうだ、音声をオフでなくオンにすれば良かったんだ!

「んはあ? ひぁっ? また? また触手の? 触手の時間? んぁっ? お館様やめぇえ?」

 音声オンにしても、彼女をクリボックスに入れた俺本人の脳内にしか声は響かない。誰にも可愛い声が漏れることはない。
 でもその声を聞きながらトレーニングやミーティングは無理だったので、マナーモードにしていたんだ。マシュに会う食堂までの道で聞くならいいか。

「いやああ? お館様のペロペロがいいいぃ? いっ? あああっ? ひぁ? ひゃいいっ? んくぅああっ? わたしもうぅぅ? コショコショはぁ? くひぃうう? やだあぁ? やだやだああ? いやぁ? いく? いくぅ? もう何百回目のぉぉいいいくぅうううううう?」

 ああ、可愛い。
 千代女さんの「やだ」の言い方、とても可愛い。大好きだ。
 廊下を歩きながら堪能する。使っていたトイレから待ち合わせの食堂までは少し遠かった。暫くの間、可愛すぎる声を目一杯味わえるだろう。

「ふひぃぃぃ? んひぃああ? やだやだってええ? 言ってるぅうう? のにぃい? お館様ぁああぁぁ? もう堪忍してくだぁ? くださぁいい? ああんあぁぁんん? やだぁぁああああ?」

 そういえば、こんなにも彼女の幼い声を聞くのは久々かもしれない。
 というのも、彼女は真名を教えてくれたときから……なんだか大人っぽさが増したからだ。
 幼い容貌に年下の女の子だと思っていた。だけど実は俺よりも年上だった(まあ、サーヴァントはみんな当然年上なんだけど)。
 始めのうちは「パライソちゃん」なんて呼んでいたのに、真の名前を教えてもらえて「千代女さん」と呼ぶようになってから、余計に彼女の大人っぽさが増して……より魅力的な女性だと知った。

「ひふぁぁ? ふあぁ? ぁんんんっ? お館様あああ? 聞いてぇ? おられるぅ? でしょおおおぉんん? コチョコチョぉお? 止めてくだ? くひぅぅううん?」

 真名を告げてくれた彼女は、自分の過去も話してくれるようになった。
 そしてようやっと、彼女自身のことを知ることができて……どんどんと彼女のことを意識し始めた。
 名前を呼ぶだけで好きになるという珍事に、俺は素直に告白した。

 ――俺は、千代女さんのことが好きなんです。

「はひぃいいぃ? すじぁああぁ? クチュクチュウウゥ? コショコショしないでええぇ? ゆるしてえぇあぅうんやめてぇええ?」

 ――マスターとサーヴァントだけでなく、主人と忍でもなく、男と女として付き合ってはくれませんか。

「あふんんん? ひゃいっ? お館様ぁああ? 立香様ぁああぁぁ? またイってぁぁんんあああっ?」

 驚かれて、困られて……断られた。
 赤面していた顔は可愛かったけど、とても大人っぽい表情で……、

「お館様は、サーヴァントというものが判っていないのです」

 真剣に叱られてしまった。

 でもでも、俺の気持ちを判ってほしかった。
 いっぱい、いっぱい、千代女さんのことが好きだと言い張った。
 二週間、必死に訴えた。

 ――貴方の新の名前を呼ぶたびに意識する、考えるだけで胸が熱くて、抱きたくなって、大好きだと叫びたくなる……こんなに人を好きになったのは初めてなんです。

 そう何度も訴えた。
 そうして二週間後――その日も千代女さんと話をしようと、部屋に呼んだとき。

「毎晩貴方様のことを考えました。幸せ者の千代女なりに、とても考えました。どうかお館様のお耳に入れていただきたい言葉がございます」

 彼女はいつも以上に顔を真っ赤にして、涙まで浮かべて、話があると言ってくれた。
 嬉しかった。意を決した表情は、もしかしたら俺の話を真剣に聞いてくれたのではないか。
 そう期待させてくれる、真面目な瞳だった。



「お館様の言葉はとても嬉しゅうございます。ですが、拙者は過去の者。お館様は、マスターは、未来を生きる人間。お判りでしょう、『男と女として付き合いなど不可能』だと」
「うううううぅうぅんんん? ひゃいいいぃ? いやいやいやだああぁ? もうイキたくないんんんんんん? ひぁああたすけてえええぇぇぇ?」



 英霊である彼女と現代に生きる俺が、本当の意味で結ばれることは、難しい。
 だけど難しいからと言って抑えきれるほど、俺は大人しい男じゃなかった。

「立香様ぁあぁ? 立香さまああぁ? おねがいですぅ? 開けてくだひゃいいぃ? またぁ? ふぅうってぇええ? ぺろぺろしてええ? やすませてええぇ? イキしんじゃうぅイキっぱなしいいやああぁぁチュルチュルクリクリ触手でぇえ? またああ? ひゃああいぃ? シュルシュルされるのいやあああぁぁぁ?」
「あ、先輩。ミーティングお疲れ様です。」

 音声をオフにする。
 食堂よりだいぶ前のエリアで、マシュが紙資料を両手に抱えて立っていた。夕食をしながら会議をしようと提案されるぐらいだから軽い内容だと思っていたけど、その資料の束を見ると食事の席には向いていない内容に見える。
 マシュの細腕には似合わない量だ。実際の筋力は比べ物にならなくても、男の俺が持つべきだろう。笑顔で奪い取ってみせる。

「マシュ、なんだか大変なものを持っているね? 電子化してない資料なんてどうしたんだい」
「あ、先輩、すみません。以前先輩が珍しい魔術礼装がないか探していましたよね。日用品とか、娯楽用とかの礼装ですよ」
「ああ、うん。探してたね」
「戦闘に用いられそうなものなら電子データ化されていたのですが、さすがに娯楽向けのものまでは必要無いからって除外されていまして。でもこれだけ発見しましたから先輩にお見せしたかったんです!」
「凄いや、マシュ。よく娯楽向けの魔術グッズの資料なんてカルデアにあったね?」

 マシュが言うには、ドクターは結構こういうのを好いていたらしい。
 そしたらダヴィンチちゃんも面白がって、二人で一時期、外から取り寄せることもあったという。
 ……ドクターがいなくなって数ヶ月。もう懐かしい話ですと、マシュがしんみりと語る。

「前に先輩が発見した『サーヴァントを小型化して保管する箱』についてダヴィンチちゃんとホームズさんに話したんです。二人とも興味深いと言っていましたよ。持ち歩きができるのは画期的だ、似たような物を作れないかって。箱ではなくもっと持ち歩きやすい……例えばトランクサイズとかにする、とか」
「わ、わりとマシュ、色んな人にアレのこと話してるんだね」
「いけませんでしたか?」

 いやなにと、食堂への歩みを先に進める。

 先を歩きながら、ただ、と言葉を続けた。
 わざわざ続けなくてもいいかもしれない会話を、なんとなく。

「俺は、ただ……俺の傍にいつでも好きな人がいて、ずっと声を掛けてくれる……そんな魔法のアイテムはないかなって。そう思って探しただけなんだけど」
「ひゃあああああっ? ひぃぁああ? んひゃああ? いやだいやだあああやだやだイクイクイクりっかさまああああちよめイクウウウウウぅぅぅぅう?」

 例えばこんな風な。

 その言葉が、マシュには俺が今後を危惧して不安がっているものだと感じたようだ。
 もちろんドクターがいなくなり、次々と不穏な特異点が現れ、監査が入ろうとしている今……不安要素は多い。
 けど俺の興味は今後の自分達の処遇ではなく、一人の女性のことばかりだった。

「やめええええ? 出してえええ? ここから出してええええ? ぁああああぅ狂ううううぅ? ちよめ狂ってしまいますううぅううぅりっかさまあああぁぁ?」

 独り占めした声を堪能しながら、そのことを再確認する。

「安心してください、先輩。先輩を護る皆さんは、いつでも先輩の傍にいますよ! 皆さんが先輩を拒むことなんてありませんし」
「いやあ、そうかな、あははは」

 俺の身勝手な欲望を叶えるのを手伝わせるには、申し訳なくなるぐらい……優しい表情で、後輩は頷く。

「どうか自信を持ってください。皆さん、面と向かって言わないだけで……先輩のことを、好きだと思ってくれていると思います」
「あああああ? ああああああん? やだやだやだああああああああ?」

 ……『どうかお館様のお耳に入れていただきたい言葉』だなんてもったいつけて、俺を拒んだ彼女の声。
 いつでも思考のスイッチを入れれば、愛しい女性の喘ぎ声が聞こえてくる。
 出過ぎた真似はしてはならないと、従者としての理性があの言葉を引き出したのだ。
 判っている。判っているとも。千代女さんはとても大人な、魅力的な女性だと。
 でもそんな言葉より……

『私も貴方を、愛しているでござる』

 とかの方が良かったに、決まっている。


「あ、ごめんマシュ。食事の前に手洗いに行ってくるよ。そこのトイレに……」
「はい先輩。では資料は私がお持ちします。先に食堂でお待ちしてますね」

 マシュは知らないだろうけど、数分前に入っていたトイレにまた篭もる。
 個室に入って、小箱を取り出した。蓋を開ければ、触手に散々クチュクチュされていた綺麗な千代女さんの一部が顔を出す。

「ありがとう、千代女さん。俺の名前を何度も呼んでくれて。お礼は面と向かってちゃんと言わなきゃと思って! ……もっといっぱい俺を求めてくれるようになったら嬉しいな」

 そうなるまで、暫くはこのままで。

 ピクンピクンと震える真っ赤な小さい彼女に唇を近付ける。
 今度はふーっと息を吹きかけるのではない。……慈愛のキスだ。
 ビクン! 明らかに先ほどとは違うクリトリスの痙攣を、触れた唇に感じる。

 千代女さんがあの言葉を言ってくれたのは二週間。
 恥ずかしがり屋の彼女が意を決してまた話してくれるのはそれぐらい掛かりそうだ。それでは二週間ほど……このようなキスを続けてみよう。
 今度こそ俺の気持ちが伝わってくれるといいな。

 思いながら、赤い生きた宝石にまた舌を伸ばした。




 END

アサシン・パライソを快楽責めしたい。苦しそうなのは可哀想。あんなにかわいいのだからかわいくとろとろ真っ赤な顔がいい。痛いことはしてほしくない。気持ち良くなってほしい。ずっとずっと気持ちいいままにしていたい。
おやこんなところにクリボックスが。

2018年11月1日