■ 「 マスターには秘密で 」



 /1

「マスター、真名を未だ明かさぬ俺をよくここまで信じた。お人好しだねぇ……。しかし無頼にも誇りがある。天に輝く三十六星の一つとして、誠意をもって仕えるとしよう」


 /2

 倉庫の冷たい床にアサシンの体を敷いて、背中を抱いた。乱れた長い黒髪に唇を寄せ、俯せに押し倒したまま下衣へ手を這わせていく。
 動かないままの臀部を撫で上げたら、さすがに嫌悪感を表わす小声が漏れた。それでも彼は戦い慣れた拳闘家だというのに素人のオレを追い払わず、「退いてくれ」としか言わない。
 彼が優しい人間であることは知っている。だからオレはその優しさにつけこんで暴虐に走る。アサシンの下衣を剥ぎ取って全て脱がせてしまった。ここまでされたら『同性の過剰なスキンシップ』で笑うのも難しい。だというのにまだアサシンはオレを強く拒まずにいる。

「じ、冗談は、やめろって……退いてくれ」
「好きでもない男に言い寄られるのは嫌だろう? なら無理矢理オレを弾き飛ばせばいいのに。どうしてしない?」
「そんなことしたら、あんたを怪我させちまう」
「嫌だからって突き飛ばしちゃえばいいんだ。じゃないとこのままオレに抱かれちゃうよ。オレはアサシンを強姦する気でいるから」
「……や、やめろよぉ……」

 尻を露出させられて彼が慌てた。覆い被さっていたオレに目を向ける。
 だからようやく彼が気付く。オレが既に下半身を露出し、性器をイキり立てていることに。
 信じられないものを見たような目で息を呑んでいた。まさか自分がレイプされようとしているなんて思いもよらなかったのか。
 けど何度も忠告をした。陽気な笑みを浮かべるのはここまでだと口にだってしていた。完全な拒絶でないことをいいことに白い肌へ指を這わせていく。
 もう止まらない。止められないぐらい、オレの熱は高まっていた。

 ――だって誰かに奪われるぐらいならオレが。愛しい人に奪われることになったとしても、オレは――。

 我慢の限界はとっくに過ぎている。ずっとアサシンをこの手にしたいと考えていた。
 炎に包まれる街の中で、金色の光を纏って現れたアサシンに恋をしたときからその気持ちに嘘偽りは無い。
 だから本人に本気の拒絶されない限り、オレは止まれない。

「嫌なら殺してでもオレを止めてくれ、アサシン」



 召喚に応じた彼を初めて見たとき、『こんな英雄がいるのか』と心底驚いた。
 一目惚れだった。
 揺蕩う美しい黒髪を好きになった。鮮やかな花々が散った肉体も、舞うように拳を振るう姿も好きになっていった。初めての召喚に応じてくれたサーヴァントに目を奪われ、凛々しさと逞しさに、時に優しく笑顔をくれる彼に心を奪われていく。抗いようがないほど、彼の魅力に虜だった。
 たとえ真名を明かしてくれなくても愛してしまった。
 本当のものなど何一つ貰えなくたって。オレがたとえ彼が心を許した主じゃないとしても。誰よりも彼自身を奪いたいと思えるまでに……愛してしまっている。

「か、勘弁してくれよ」

 アサシンは覆い被さるオレに、困惑の笑みを浮かべながら小声で懇願した。
 倉庫にオレ達二人以外の人影は無い。声を出せば誰かがやって来るかもしれない。そうすれば救われるというのに、そもそも顔面目掛けて拳を突き出すだけでオレは気絶できるというのに……掛ける声は最小限だった。
 オレを傷つけたくないという優しさが突き刺さる。
 なおも善意に甘えて暴走を続けた。身を捩るアサシンの黒髪に何度も口付け、尻を揉み砕いていく。

「はっ、ぁっ……! し、正気か……?」

 しっかりと筋肉のついた肉体だ。柔らかく手に馴染むとは言い難い。
 オレの拙い手つきに愛撫されたって気持ち良くはないだろう。寧ろ好きでもない男に無理に撫でられて、嫌悪感しか生じない筈。
 だけど逃げないアサシンをいいことに、じっくりと掌で肌を撫で回した。
 長い髪を手に取り、指の腹で撫でる。様々な文様が刻まれた肉体を揺さぶっていく。
 ああ、薄暗闇の中でも彼の刺青はよく見えた。なんて綺麗なんだ。こんなに近くで観ることができて嬉しくて堪らない。
 近づきたい、傍で話したい……何度思っても、オレには不可能なことだった。
 だからこの時間が、善意を弄ぶこの陵辱が楽園に思えてきた。

 ふと、背中に彫られた一文字が目に入った。
 忠義を表わす意味の言葉だ。
 彼が掲げた正しき忠義を、今、部外者が崩そうとしている。
 殺されるだろうな。死んだら、もうアサシンを目に映すことができない。
 そう考えただけでも恐怖だったが、同時にゾクゾクした。
 それだけオレが『彼を手にしたかった』ということ。この興奮こそオレからの愛で、欲望の現れとも言えた。

「アサシン。そんなに主人のことが大事?」
「っ……」
「大事か。大事だからオレのこと大切にしてくれているんだね。……本当に抵抗しないんだ。ありがとう、愛してあげる」

 オレの冷めきった言葉にアサシンが頬を引き攣らせる。『拒もう』という意思があるらしい。
 それでも何もしないのは、彼が本当にオレのことを気遣っているから。怪我をさせないように留まってくれているからだ。

 ――マスターの言葉は大事だもの。主人の命令を全うしたい彼としては、オレですら大事なものだもんな――。

 従順なアサシンがより愛おしく思えてしまう。
 いくらオレが覆い被さって蹂躙しているとはいえ、彼とオレの体格差は無い。鍛えている体を見れば誰だって彼の方が力があると判断できる。いつだって立ち上がることはできる彼の哀訴を聞き流し、肩で息する股間に手をこじ入れていった。固める肛孔へ指を突き立てていく。

「ぁっ……ぐっ!?」

 指を事前に唾液でふやかしていた。それでも足りないとは思うが、足りないならまた舐めてやればいい。

「い、いいかげんにっ……」
「いいかげんに? 言っているだけで抵抗しないのは、『もっとして』って意思表示だよ。もっと弄ってほしいって思うけどいいかな?」

 美貌が恥辱から赤く染まりきっていた。
 その間も事が進んでいく。彼は身震いしたまま、冷たい床の上で短く蠢く。オレの陵辱を我慢して受け応えようとしていた。健気だった。

「このままオレはアサシンのお尻におちんちんを挿れるよ。判る? 年下の、力の無いオレにレイプされちゃうんだ、アサシンは。言われなくても判るよね?」
「あ……んんっ……!」
「『あん』? 指でグリグリされているだけなのにアンアン言う訳がないよね? 嫌だから声を上げてるだけなんだよね。なら……ちゃんと逃げないと、ヤっちゃうよ」

 熱い呼吸を繰り出す肩に、そっと口づける。
 肩だけじゃない。黒髪を振って見えた色っぽいうなじや、背中にも唇を落とした。
 もちろん指は既に拡張してある肛孔に突き立てたままだ。オレの人差し指は呆気なくお尻の穴に食べられていく。第一間接、第二間接、根本までズッポリ沈んでいった。
 次は人差し指だけでなく中指もいっしょに沈めていく。突き刺したり抜いたり、また中へ押し込んだり壁面を抉ったりを始める。
 アサシンはオレに孔を可愛がられながら、小さく悲鳴を上げ続けていた。
 そんな切なく可愛らしい声を上げられたら我慢なんて出来る筈が無い。元から辛抱ならなくて事に及んだぐらいだ。
 彼のアナルにオレ自身を宛がうなり、ゆっくりと中へと沈めていく。
 逃れようと身をくねらせていた四つん這いのアサシンだが、結局蹴り飛ばしたり拳で弾き飛ばしたりもせず、オレのモノを受け入れてしまった。

「う、嘘だろぉ……。んっ、ぐ、ふぅっ!?」
「嘘じゃない。アサシンの中……オレのおちんちん、入っていくよ」
「んぐっ……あがっ!?」
「オレの小さくて子供みたいだし、あんまり良くなれないかな。ごめんね。でも……頑張るから。気持ち良くレイプされて」

 残念ながらオレのモノは雄々しいものではない。馬鹿にされても仕方ないぐらい、情けないものかもしれない。
 それでも彼のことを想って充血したそこは、彼の熱を堪能したくて膨れ上がり中へと沈んでいく。少しでも彼が肉欲に塗れるよう、腰をぶつける。
 するとオレの動きを快く応じるように、アサシンの体がオレを咥え込んで離さずにいてくれた。一度オレを受け入れたら、オレが許可を出すまで味わうように絡みついてくるではないか。
 身勝手にも愛情を感じる一幕だった。

「ん。動くよ……アサシン……んぅ」
「……んっ、はあっ……!」
 
 元々そこは性器を受け入れるために作られた器官じゃない。ずぶずぶと沈めるたびに、彼は鈍い悲鳴を上げた。
 顔を冷たい倉庫の床に押し付けたまま、呻くアサシン。掴むものが無い拳をぎゅっと握って、オレの動きに耐えている。
 だらだらと汗を垂らしながら、腰を上げて衝撃から耐えようと目を瞑っている。ただひたすらオレの動きが止まるのを待っていた。 
 そう、ただただこの時間が終わることを待っている。
 自分から逃げず、好きでもないオレの行ないを黙認して、散々な欲望から耐え忍ぼうとしていた。
 反動をつけ、激しく腰を入れ込む。

「ひっ、ぁっ! ふぁっ……んぁあ……!」
「ああ……可愛い声だ! もっと聞きたかったんだ、近くで、アサシンの声……ずっと前から……こんなに近くで!」
「んんぅっ……ぅぅぅっ……壊れ、ぁっ……ひいっ……!」
「そんな声出せるんだ……知らなかった……もっと撮らせて……ほら、もっと良くして、あげる、からっ」
「んっ……!」

 オレの肌と美しい彼の白い肌がぶつかるたび、パンパンと軽い音が立った。
 乾いた音色が余計に彼の羞恥心を掻き立てたのか、両腕で顔を覆い始める。オレが打ち込むたびに上げていた呻き声も、いつしか口を抑えて上げないようにしていた。

「ぐ、んんんっ……ッッ……!」

 どんなに激しいピストンでも耐え、拒絶せず、全てを終わるのを待っていた。
 ふるふると、暴虐が終わるまで耐え続ける彼の背中。頭を覆い、口を抑え、自分の中に閉じこもるような形で身構えている。
 もっと暴れさせたいと思ったが、唐突に射精の衝動に襲われた。不自由な自分に嫌気がさしながら、束ねられた髪を引っ張り頭を上げさせる。
 急に頭を起こされアサシンが「ぎっ」と悲鳴を上げた。抑えつけられていた顔は、快楽に呑まれないよう必死に耐えるもの。彼自身も臨界が迫っていたらしい。隠されていた蕩ける赤面につい興奮してしまう。という訳で単純なオレは、あっという間にアサシンの中で達してしまった。

「アサシン……! アサシンっ、はぁっ、出るぅっ……アサシンの中に出ちゃうぅ!」
「ッ! いっ、いいっ、んんんんっ……!?」

 中に放出していく。お尻で欲望を受け留めるアサシンがビクビクと震え上がっていく。
 一緒に絶頂を迎えるなんてロマンティックなことが叶う訳がなく、不愉快な放出にアサシンは本能的な震えを生じさせていた。

「はっ……はぁっ……ぁぐっ……」

 目には涙を溜めて、耐える。ピクピクと痙攣する彼の方が達したのは、それから暫く経ってからだった。
 快楽をぶつけられ、強引に達せられ、彼自身も興奮を強いられる。さぞ屈辱的だろう。
 これほどの暴虐を受けておきながら、彼はまだオレの腕の下で震えているだけだった。

「アサシン……可愛いな、アサシン。……キスを……」

 顔を向けさせ、口付けようとする。
 すると今までで一番強い力で押し退けられた。最初からその力を使えば強姦されることなどなかったのにと言わんばかりの力で、彼はオレからのキスを拒む。
 震える唇で、一番の力を込めて彼は呟いた。

「マスターには秘密で……。どうか、このことは……何も言わないで……」

 何ともいじらしい言葉を。



 /3

「さて、召喚されたアサシンだ! 真名は内緒ってことでな。なーに、すぐにわかるだろうよ」



 /4

「あっ、藤丸。どこ行ってたの? ねぇ見て! カッコイイでしょ!?」
「うわ、なんだそのスーツ。……り、立香のくせにカッコイイ……」
「でしょー? えへへ、新しい礼装なんだってー。プラチナブランドっていう魔術礼装なんだけど、なんか出来る女になったみたい!」
「出来る女ってやつはそんなこと言わない」
「えへへへ」

 向こう側の廊下からマシュと立香が、仲良く笑いながら歩いてきた。
 明るい髪の少女がダークスーツを身に纏っている。数ヶ月前まで普通の女子高校生だった彼女が着るにはやや不自然な大人びた服装だ。これが先日届いたばかりの新しい礼装だという通達はダ・ヴィンチから受けている。今日はその初お披露目のようだった。

 黒いスーツを着込んだ立香は、雰囲気だけでなく髪型も変えている。普段はサイドポニーでお気に入りのシュシュを着けていることが多いが、あのような幼い髪型で大人っぽくスーツを着こなすのは難しい。
 だから今は高い位置で一つに結んでいる。そうやって『仕事が出来る大人の女』に変身したいようだった。
 実際、この妹は『世界を救うほどの偉業』を既に成しているのだから、何でも出来る女ではあるのだけど。

 何も知らない元気な妹が、オレ達の元へ駆け寄る。
 彼女の標的になったアサシンは、オレの隣に立ちながら一瞬だけ気まずそうに顔を俯かせた。
 が、すぐに普段通りの陽気な笑みをマスターである少女に向ける。立香お気に入りのサーヴァントとして務めは果たさねばと思ったらしく、いつもの笑顔を浮かべていた。

「マスター、随分と雰囲気が違うねぇ。酒でも一緒に飲みたいぐらいだ」
「髪型変えただけでお酒は飲めませんよーだ。……私、似合ってる? 変じゃない? さっき変な顔をしたよね? 本当に変じゃない?」
「全然変じゃないって。可愛すぎて思わず言葉を失っちゃったってやつさ。これでも俺だって男だからねぇ。今更俺をドキドキさせるなんて罪作りな主人だなぁ?」

 少しだけ不安げな表情を浮かべた彼女に、色男にしか許されない微笑みで褒め称える。
 ストレートな賛美に気を良くしたマスターは、少々頬を紅潮して……精一杯笑顔を返した。

「誰でもない――燕青――に言ってもらえると、自信がつくね」

 この場に後輩と兄のオレが居なかったなら。あまりの嬉しさに彼女はアサシンに抱きついていたかもしれない。
 二人はそういう仲だ。それは誰もが知っていた。

「よしマシュ、みんなに見せに行こう!」
「おいおい、明日から新しいグランドオーダーを始めるって話だろ。令呪も使い切って魔力が完全回復してないんだ、マシュだってトレーニングで疲れているだろうし早く寝て万全に……」
「藤丸だって早く寝なよー、オペレーターってお仕事大変なんでしょー。マシュ、眠かったらすぐ言ってね!」
「大丈夫です先輩! ……先輩のお兄さんも、お気遣いありがとうございますっ」

 走って通り過ぎて行く二人。兄貴らしく気を遣う。
 オレの言葉に軽く手を振りながらも、彼女はマシュの手を引っ張って廊下を駆けていく。新しい礼装を大勢のサーヴァント達に見せびらかしたいようだ。大人らしい格好であることを忘れ、年より幼い元気な少女は次の標的を探しに走っていく。
 たった三分の会話だった。その程度、立香という少女にとっては何気ない日常のワンシーンに過ぎない。
 だから……ほんの少しサーヴァントの様子がおかしくても、楽しいことを優先するマスターは何も気付かなかった。

「あ、ロビンフッドとビリーが捕まった。あいつら、どんな風に立香を口説くかな?」
「………………」
「気になるかな、アサシン。あの二人もマスターにご執心のようだし、ライバルだよね。……ん? アサシン? 本当は言いたかった? 『助けて』って?」

 妹と後輩の姿が完全に消えていくのを見届けて、オレはアサシンの腕を掴む。
 そのままずるずるとオレの私室へと連れて行く。足取りは重かったが、大した抵抗も無くアサシンは一スタッフの狭い個室に追いやられた。


 妹の部屋は、サーヴァントを数人呼ぶことができるぐらい広かった。あれはカルデアに欠かすことのできないマスターに与えられた部屋だからだ。
 一方で、ただのスタッフであるオレの個室は寝床しか物が無い狭い部屋。寝るために使う場所だ、そこにアサシンを連れてきたとなったら……ベッドに押し倒すしかすることはない。
 倉庫の床でしたときのように、再度アサシンに覆い被さった。あえなく俯せてしまう。

「マスターに『俺はレイプされました』って言えば……オレから逃げられたんじゃないかなぁ」
「……言えるもんか。俺にだって、誇りはある」
「女の子に『レイプされました』なんて言うのは嫌か。なら、される前に嫌がれば良かったのに」
「あんたは……マスターの、大切な人だろ。傷付けるなんて、そんな……。ぅうっ」

 後ろから体ごと襲い掛かった。
 倉庫の床と同じように、すんすんと剥き出しの肌に鼻を寄せる。アサシンの体からオレの匂いがした。既にオレの汗が染みついている体だと自覚して、より興奮してしまう。

「ほらアサシン、脱いで」
「…………っ……」
「脱がないと、出せないだろ? 自分で脱いで、『産んでみなよ』」
「…………」
「全部産んだら、『さっきオレに抱かれた動画』も消してあげるから。マスターに、見られたくないだろ?」

 オレの声に震える彼。けれどゆっくりと下衣を下ろしていく。
 裸になったアサシンが、いつもオレが眠るベッドの上に四つん這いになった。蛙のように両脚をしっかりと開いていく。

「んん……」

 倉庫で中に出されたそこは漏らすことなく窄まっていた。オレの体液を未だ体に残しているという事実を感じ取って、思わず股間に熱がこもる。
 彼は低く唸った後、腰に力を入れ、ふうふうと呼吸を繰り返し……産卵行為を始める。

「んっ、んぐっ……」
「歩いているとき、つらかった? マスターの前でドキドキした? なあ……」

 唸り声は痛みに耐えるような悲痛なものへと変貌し、ふるふると尻を揺らしながら、少しずつ穴を拡げていく。
 苦しそうな呻きの中、奥へと入れられた物が……案外呆気なく顔を出す。
 全身に刻まれた色鮮やかな刺青。けれどさすがにアナルの周辺までは手が及んでないか……と思いながら眺める。そこが何度もヒクヒクと窄まり、踏ん張って凝縮した後、卵より一回り小さい青い石がころんとアサシンの中から出てきた。

「ぅ……ぐぅ……! ふぅっ……」

 青い石がぽこんとアサシンから吐き出されていく。
 オレの精液でテカテカと濡れたそれは……倉庫の中で保管されていた輝石だ。何十個も貯蓄があるので、二つや三つ消失しても誰も気付かないだろう物体。倉庫でアサシンを犯した後、思わず保管ケースが目に入り、気付いたら彼の中に押し込んでいた物だった。
 なぜそんなことをしたかって、抱くだけで想いが止まらなかったからだ。
 もっと時間を共有したかった。できれば秘密を共に持ちたかった。けど何ができるかって……アサシンが心から誰にも喋りたくないようなことをさせるしか……。そう考えたら、更なる凌辱劇が始まっていた。

「一個しか出てきてないよ。もっといっぱい食べたよね、アサシン?」
「ぁ……はぁっ……ぐぅ……」
「アサシン。全部出さないと苦しいままだよ? じゃないと輝石が無くなったって騒ぎになる。『何に使ったんだ?』って問題になったら、恥をかくのはアサシンだ」

 力んで頭をシーツに埋ずめる彼が、産まれたての小鹿のように足を痙攣させている。
 力強く立ち振る舞う彼らしくない弱々しい姿が、より興奮を誘う。すすり泣く声も、堪らない。
 汗に濡れた黒髪を掻き分けてあげながら、最後まで事が終わるのを待ってあげた。聞いたことのない喘ぎ声を堪能しながら、奥まで押し込められた青い石を産み落とす光景を眺め続ける。

「ああ、綺麗だ。アサシンの出産シーン、きっとみんな見たら同じ感想を抱くと思う。アサシンが大好きなマスターだって……きっと凄いって褒めてくれるよ」
「……み、見るなよぉ……ぅぅう……!」

 刺青が刻まれた肌を優しく撫でて、汗で濡れた体を癒してあげた。
 そのたびにビクンビクンと腰を震わせ反応させている。強い刺激の中、吐き出されていく艶めかしい青い石を手に取っていった。
 熱い息が室内を満たしていく。何の変哲もないオレの空間が妖艶なアサシンの吐息で埋め尽くされていく。更なる凌辱を与えたいと野心が燃え盛っていくのを実感した。

「はっ……ぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁっ……」
「あれ? なんでそんな気持ち良さそうな声出してるんだ? ……オレにレイプされて、こんな物まで突っ込まれて、出すだけで……そんなに感じちゃうものなの?」
「わ、わかんない、なんで……俺……いぃぃっ……!?」

 ぽこん、ぽこん。ぬるり、吐き出していく光景。よくこんなモノをお腹の中に抱えながらマスターと話したもんだと感激するほどだった。変装や演技は得意技だとは聞いていたが、これほどとは。
 発情しきった声がオレの部屋に響く。オレ達だけの空間を満たしていく。秘密の共有。これでもう『彼女に勝てたも同然だ』。
 さて、どうやらアサシンは一番奥に入れられた物がだいぶ良いトコロに当たってしまったらしく……鼻を啜りながらも産卵だけでは終わらなくなってしまった。

「んぁっ!? ……く、くるぅ……何か……来ちゃうぅぅ……っ!」
「ああ、男なのにそんな声を出して。あいつ、どう思うかな」
「ぁぁっ、ら……らめ……ぁぁあ、ぁぁぁぁぁぁっ……!?」

 その発情声は演技には思えなかった。最後の石を排出したとき、トロトロに脳が溶けたように呂律が回らない舌になっていた。
 こんな声、マスターにも、もしかしたら前の主とやらにも聞かせたことはないのでは?
 そう思うと背中に電流が走る。この上ない歓喜の感覚だ。
 掌の上で踊る石を放り、すぐさま新しい秘密を作ろうと画策した。



 /5

 機関に正式なマスターとして呼ばれたオレは、恐ろしい爆発テロで体をふっ飛ばされた。そして唯一の生き残りである妹が、マスターなんて重すぎる役目を押し付けられた。
 彼女は一般人枠として数集めの採用。兄のオレを追いかけて来ただけの素人。魔術の才能はあっても知識は無い、普通の女の子だった。オレの代わりにマスターをやらされているに過ぎない可哀想な子!
 すぐにでも代わってあげたかったが、今となっては交代することも敵わず、オレはモニター越しで妹に声援を送るしかなかった。

 幸い爆発事故で負った怪我は浅く、早々に復帰することができたオレは、マスターになってしまった妹を支えるべくサポートにまわった。
 あのときは、本当に心が痛かった!
 訳も判らず炎の海を駆け回る彼女を見たくなかった。恐ろしい骸骨の化け物に襲われ、泣いている姿なんて見ていられなかった。愛しい人の涙なんて見たくない。すぐに助けてあげたい! けれど、全部見守るしかなかった。
 同じように未知の脅威に耐えるマシュ。無知の恐怖に襲われ、それでも戦わなければならない立香……。
 彼女達を守りたい。その一心で、オレは持てるだけの知識を託した。
 ――このままではいけない。マシュと二人だけではこの先、生きていけない。サーヴァントを召喚するんだ! お前を守ってくれるサーヴァントを!

 そうして炎に包まれる街の中。オレは、いいや彼女は、金色の光を纏ったサーヴァントと出会った。

 長い黒髪を翻しながら踊るように戦う拳闘家。端整な顔立ちに、肉体に刻まれた花々。ここが戦場であることを忘れさせるように美しく彩っていく男。
 オレも英霊召喚なんて目にしたのは初めてで……突如現れた超越的存在に目を奪われてしまった。それはきっと、オレだけじゃない。
 実際にアサシンの乱舞を見ていたマスターも、心惹かれていっただろう。
 モニター越しで見ていたオレですら胸が高鳴ったぐらいだ。すぐ傍で彼に命じることができた彼女は……オレよりも強く彼の虜になったに違いない。



『これ! アサシンが誕生日だからって飴をくれたの!』

 共に歩んでいけば、絆も深くなっていく。
 他のサーヴァント達と違って真名を名乗ろうとしない異端ではあったが、それでも彼女はアサシンを頼っていった。
 名乗らぬ本人ですら「真名を未だ明かさぬ俺を何故ここまで信用する」と困った笑みを浮かべるほどに、彼女と彼の距離は近くなっていった。
 その絆の深さは目に見えて判っていた。モニター越しで二人の様子はいつも眺めていたから。

『ねえ藤丸。ブライカンって何? アサシンに『ブライカンの俺を構うのは良くない』って言われたんだけど……どんなときに使う言葉なの?』

 そうでなくても戦場から帰ってくる彼女は、唯一の肉親であるオレに何でも話す癖があった。
 仲の良い後輩はいる。同じように親しくしてくれるスタッフや、サーヴァントだって何人もいる。けれど、家族であるオレとの絆は段違い。彼女はマスターとしていきなり『期待の中央』に立たされた。誰にも明かせない悩みがあるのも無理はない。
 唯一の家族であるオレは、兄としてどんな言葉も受け入れていた。だからマスターになった彼女が一番気にしていることも、虜になっていることも、把握している。彼女が素直に話すのも悪かった。兄のオレは、彼女を通してあることを知っていく。まるで自分がマスターであるかのように錯覚してしまうまで、知っていく。

『――――アサシンがね。本当の名前を教えてくれたんだ!』


 嬉しいことがあるとオレに伝えてくる妹。
 一スタッフであるオレの狭い部屋に突撃するなり、「一番最初に話そう」と嬉しそうに、真っ赤になりながらも幸せそうな顔で……何度も言葉に躓きながら報告してきた。

 ……どうしても名は名乗りたくないと言っていたアサシンが、『あんただけなら』と耳寄せしてくれたらしい。
 ……ドクター達にすら真名を明かさなかった彼が、『我がマスターよ』と言ってくれたという。
 ……心から拳を捧げることができる主人であるお前だけなら、俺の名前を明かしてもいいって。
 ……そう彼は、立香にだけ本当の名を告げた。

 二人だけの秘密ができて嬉しいんだと、彼女は笑う。
 ようやくマスターとサーヴァントとして到達できたことを、初めての大親友が自分を認めてくれたことが嬉しいんだと……花のように笑っていた。


 ――生まれて初めて、この女が憎いと思ってしまった。


 愛おしいと信じて疑ったことのない妹だった。
 自分を追いかけるように48人目のマスターとして現れて、最初は驚いて怒ったが、そんなにまでしてオレを慕う彼女が大好きだった。
 会議中に居眠りしてオルガマリー所長に叱られている失態を遠くで眺めていたとき、恥ずかしくもあったが、あまりの可愛さにニヤけた口元を隠すことが必死だった。
 爆発に巻き込まれたとき、自分の命より、何よりも妹の無事を案じていたぐらいだ。
 目を覚ましてすぐに彼女の無事をモニター越しで確認できたとき、どれだけ心が救われたことか。

 でもオレだって初めて出会ったサーヴァントは、彼だった。
 オレもあのとき同じように彼に心を奪われて、同じぐらいの月日を過ごした。
 だけどオレはマスターじゃないから彼の隣に立つことができず、主人じゃないから見てもらうこともできず、何かを共有しあうことも、本当の名前すら教えてもらうことができず……。

 大事だった妹が憎悪の対象になってしまう。
 それほどオレは、この男の虜になってしまっていた。



「あんたが……マスターの大事な人だって、知っている……。あんたが大事な家族だって、だから、変なことはしたくないんだ……だからっ……」
「変なことはしたくない。だから、変なことはされてもいい? アサシンって恥ずかしい奴だね」
「んぅっ……やめっ……」
「さっき撮った動画、削除してあげるからさ……。その前にもう一回シようよ。アサシンだって疼いて堪らないんだろ? ここ、モノ欲しそうに見える……」

 アサシンはオレの言葉に目を瞑って頭を振るう。けれど再度汗に濡れた体を弄り回したら、オレみたいに単純に元気になっていった。
 一度刺激された彼を慣らすのは他愛なかったのか。レイプされたら、感じるような体になっちゃったとか。どうだか本人でも判らないらしく、それでも蕩けた目と勃起したモノは隠しようもなく……オレの手を甘んじて受けるようになっていた。
 動揺しつつも拒まないアサシンを仰向けに倒す。みすぼらしく肩で息をする彼は、綺麗な顔のまま、無様な姿へと変貌していった。
 いつ如何なるときだって美しく振舞っていた彼が、オレのベッドの上で……ひいひいと泣いている。オレごときの指に翻弄されていた。その事実に感動しながら、剥き出しの肛孔に先端を押し当てる。

「……あ……ぐっ、ぅぅぅっ……!?」

 倉庫の床と違ってシーツという掴むものがあった。強引に突き上げられながら、アサシンはぎゅうっとシーツで恥じらいを隠そうとする。
 羞恥心で顔を隠したい気持ちは判るが、オレは覆い被さり、アサシンの腕を取る。その美貌をオレへと見せつけるようにして、ズプズプと突き上げる。

「ぁっ、あっ! 中ぁっ……グリッてぇ……ぅぅぅんっ……!」
「さっきのオレの精液が滑ってる。よく漏らさないで廊下を歩けたね。お漏らししながら歩いても良かったのに」
「はぁっ……! んあっ、ぐぅぅう……!」
「にしても、すんなり入るな。ほら、アサシンの中……ズブズブ入っているの、判るよね? ……もしかして立香に掘られていたとか?」

 倉庫のときよりベッドの上は動きやすい。切れ目なく腰を押し込む。
 アサシンの肌という肌に舌を這わせながらも何度も抉り、打ち込んだ。上ずった嬌声は、ベッドのある一室に移ったせいか、留まることを知らない。

「……ま、マスターを、侮辱、するなよぉっ……!」
「あ、ごめん。あいつがそういう趣味が無いことは知っている、ごめんよ。……つまりは、アサシンがちんぽ大好きな体ってことだよね?」
「……はぁっ……んぁっ! んぁあぁぁぁっ……」

 小柄な体が弓なりに仰け反る。逃さない。耳たぶを舐め、舌を耳の中へと忍ばせていった。
 じゅるじゅるとわざと音を立てるように這わせると、よりアサシンの肉体を震わせる。音で全身を犯すように侵食させていく。
 嫌がっても強く抱きしめて、擦りきれるほど打ち込んだ。
 厚い胸板へ指を這わせた。官能でピンッと張った乳首を弄る。その程度で悲鳴を上げるような男ではない。けれど肛門を二度犯され、耳すら陵辱され、愉悦に塗れようとしている。アサシンは些細な刺激ですら喘ぎ声を発するようになっていった。

「いいい……やめっ……だ、だめ……もぅ……ぁぁぁっ……」

 貫かれる快感に我慢していたらしい声を盛大に上げ始める。
 羞恥で顔から火が出そうなぐらい真っ赤になっていたが、声は我慢できないぐらいに盛りきっていた。切れ長な目からは涙が溢れている。
 『愛しい人を泣かせたくない』。そう思ったときもあったが、今はその涙を味わうことができる幸福に酔いしれた。
 かつてオレの中にあった信条も捨てさせるほど、彼を手にすることは何よりも優先される欲望だった。

「ぁぁぁぁ……お尻、お尻……やめ、て、くれよぉ……おかしくなるぅっ……」
「おかしくなってもいいからついて来てくれたんじゃないかな。何度も言っているよね。いつでも、オレは人間で、アサシンはサーヴァントなんだからっ、殴って殺すことぐらい……ねっ!」
「いっ、いいっ!? ぁ、んぁあっ!? ……マスターの、マスターのっ、家族……でき……できなっ、ぁ、ぁぁぁぁん……!」

 ……彼の過去は何一つ教えてもらっていないが、この様子だとどうやらアサシンは絆を第一にする優しい英霊だったようだ。
 大事な主人の肉親であるオレに暴力を働かない。何よりも主人の心を大事にしている。なんて良い英霊なんだろう。一体どんな気高い英雄なんだ……。オレは知らないけど、本当のマスターである彼女なら、もう理解できているのだろうか。
 憎い。
 羨ましい。憎い。どうしてオレはその位置に立てない。どうしてオレは彼の心に踏み込めない。どうして……!
 
「ぁっ! んぁっ! 激しっ、ぁぁっ、許し、んぁああっ……!?」

 むやみやたらに腰を動かす。パンパンと音を立ててアサシンを追い込んでいると……次第に彼からいやらしい腰の動きをしてきた。
 痛めつけられるだけのものより『どうせ抵抗しないなら』と、貪欲な彼自ら快感を求めにきたのだろう。オレが打ち込む動きに合わせて、アサシンが押し付けるように腰を上げ始める。
 一番体が素直になってくる時間だ。何度も何度も突き上げ、抜き差しを行ない、快感の渦に呑まれるしかなくなっていく頃合い。さあ快楽に解放されてしまおう……というとき。
 突如、来訪者を告げる音が鳴り響き、アサシンの絶頂は寸断された。

『藤丸。ちょっといい?』
「うん、何かな立香? こんな遅い時間に。もう寝ろって言っただろ」

 オレはすぐにドアの先の通信音声をオンにする。狭い部屋では、ベッドの脇にインターフォンパネルが設置されている。少し手を伸ばせばいつでも扉の外と交流ができた。
 アサシンには通信を繋ぐという確認すらしなかった。だから彼はオレのモノに突き上げられたままで、固まっている。まさかという信じられないという顔で目を見開いて、パクパクと開口しながら、声を出さないように耐えていた。

『明日から新しい所に行くからさ……ちょっと不安になっちゃって。えっと、声が聞きたかっただけ』
「怖くなっちゃったか。なんだよ、お兄ちゃんと一緒に寝たいのか?」
『も、もうそんな年じゃないもんっ! 声が聞きたかっただけだから! ……部屋、入れてくれる?』
「ちょっと今は無理。全裸なんだ。いくら妹でも見られたくないかな」
『へ?』
「汗をかいた後だからさ。男の裸を見てもいいなら、開けてあげるけど」

 話をしながら、アサシンの奥を……ゆっくりと突く。

「……ぅっ……!?」

 疼くものに堪えきれなくなったアサシンがビクンと体を大きく跳ねらせた。
 構わず、会話を続ける。その間もアサシンはオレのモノを咥え込んで、じくじくと体の奥の唸りに感じきっていく。焦りながらも押し寄せる愉悦に踏ん張り、打ち震えていた。

『あっ、今日もお仕事遅くまで倉庫でしてたもんね。ごめん! じゃあ私も……寝るから。ごめんね』
「ああ、おやすみ。でもその前に、ありきたりな激励でいいならしていいか? 立香ほど凄い奴はいない。立香なら、どんなものだって乗り越えられるよ」
『……うっ』
「そうだろ? お前は世界で一番のマスター様なんだから。きっとみんなもそう思っているに違いない。自信を持てよ。お前のことが大好きなサーヴァントが、お前を悲しませないように精一杯応援してくれる筈だ」

 グリグリとアサシンの中を小突く。荒い吐息が通信の中に混じる。
 だけどアサシンは喉を反らせながらも、確定的な嬌声を上げなかった。壁越しの愛しのマスターに喘ぎ声が聞こえぬよう、必死にわなわなと耐え続けている。
 その懸命さが可愛らしい。オレだけにしか見せない真っ赤な顔に、もっと蕩けさせたくなってしまう。ずんっと強く突き上げた。

『えへへへ……やっぱりお兄ちゃんは私の一番欲しかった言葉をくれるね。嬉しいなぁ。全裸じゃなかったらもっと嬉しかったかも!』
「なんだよそれ、いきなり来たのはお前だろ、オレにだって自由時間はあるんだぞ。……まあ、オレじゃなくても似たような応援はみんなしてくれると思うけどな。例えば……アサシンとか。冬木で出会ったときからの大親友だって言ってたじゃないか」
「ッ! ッッ! ぐ、ぅんっ……!?」
『うん、きっとアサシンも――燕青も――励ましてくれるだろうな。いつも私のこと気遣ってくれる彼なら』

 体は縮み上がり、ぼろぼろと涙を流しながら切ない吐息を零している。ビクビクと震える姿は、さすがにマスターにバレてしまうのではと思うほどの激しさだった。

「ィッ、ぃぃ……ぃ、イク……イクぅっ……!」

 そうしてオレが絶頂へと駆け上がるよりも早く、堪えられなくなったアサシンの性器が爆ぜていた。
 仰向けでオレに犯されていたアサシンが、自分の腹に向かってぴゅっぴゅっと射精してしまっている。
 オレもそろそろ限界だ。普通の声で妹と話すのは正直体力がいる。

「もっと慰めてほしいなら部屋に入れてあげようか?」
『いいよ。早く服を着て』

 そんないつも通りの兄妹の会話を謳歌し、「おやすみ」『おやすみ』と言い合った。
 通信を切る。
 ピッと彼女の声をシャットダウンすると同時に、オレはアサシンの中に放出しようとした。
 けれど、一瞬留まる。
 彼女の声を聞きながら絶頂していたアサシンの顔が、信じられないぐらい幼く怯えきって……愛らしいものへと変貌していることに気付いたからだ。

「ぃっ、ぃぃ……」
「え? ……ああ、お尻を掘られてイっちゃったの……マスターの声を聞きながらイキまくっちゃったこと、そんなにショックだったのかな?」
「ぁっ……んあっ……ぐぅうぅ……」

 気だるい快楽と絶望に浸るアサシンが、顔を覆おうと腕を上げた。その腕をさっきみたいに取って、オレはアサシンの中から性器を抜き取ると、胸の上で馬乗りになった。
 中に出してやろうと思っていた精液を、放出する。
 出すなら奥の奥か、色鮮やかな花々の上に白い雨を垂らしてやろうと思っていた。けれど今は、ぐしゃぐしゃになった綺麗な顔に出してしまいたいと思ってしまった。遮る腕を取り、美貌目掛けて射精する。

「ぁっ……ふぁっ……」
「ふぅっ……。倉庫のときよりイキまくっていたよね。やっぱりマスターが居ると思ったら、感じちゃったのかな。凄く中、ぎゅうって締めつけてきて……最高だった」
「ぁ……ぁぁぁっ、マスター……ますたぁ……ぁ……」

 射精は二度目とあって勢いは無い。だけど都合良くアサシンの鼻や頬に精液が掛かってくれた。
 アサシンは垂れた白い液体を拭うこともしない。自身の絶頂を天を仰いで堪能しているのか、虚ろな目のまま荒い呼吸を繰り返していた。
 気高く美しい姿は何処に行ったやら。オレの精液に濡れるアサシンなんて、マスターは絶対に知らない姿だ。
 たとえ……オレの知らない名や過去を知っていたとしても、これに勝るものはあるまい。

「アサシン……今度こそキスをしていいかな?」

 自分で口にした後、「それってオレの体液とキスする羽目になるな」と思ったが、今度はアサシンに拒まれることはなかった。顔を向けさせ、口付けようとする。
 さっきは強い力で押し退けられたものだが、放心したアサシンは容易に唇を奪われた。ただの強姦ならまだ抵抗されたかもしれない。けど、マスターに声を聞かれたかもしれないという恐怖の後押しが、アサシンの抵抗を完全に奪ってくれたと言える。
 そうだ、そう思うとなんということだろう。一度は憎いと思った女だった。妬ましいとすら思えた妹だった。だけど今は、純粋にありがとうと感謝しなければ!
 明日、見送る際に感謝の言葉を伝えてあげよう。いきなりのことで驚くかもしれないが……思いながら、呆然とシーツに埋もれるアサシンを見下ろす。身勝手な感謝を胸に抱きながら今日という復讐劇を堪能していると、腕の中のアサシンが唇を震わせた。
 何を言ってくれるかと期待すると、もう一度あの言葉を呟く。

「マスターには……秘密で……。どうか、このことは……どうか……」

 何ともいじらしい言葉。
 ここまで快感に溺れさせているというのに、未だに口にするのは主の存在。
 今までなら愛されているマスターに嫉妬するところだった。だが、このときばかりは構わない。「ああ、二人だけの秘密だな!」 オレは自然と笑顔で頷いていた。




 END

強引抱かれる新宿のアサシン。愛しているから無理矢理。感じてしまったら同意だ、レイプじゃない。
2017.5.15